カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! サトウヒトミ×ライカM EV1
写真・文:サトウヒトミ/編集:合同会社PCT
M型ライカの伝統に、電子ファインダーという新しい視界
レンジファインダーが象徴だったM型ライカに、電子ビューファインダーを搭載した「ライカM EV1」が登場した。今回、ライカM10、Q-Pとデジタルライカを使い続けてきた写真家・サトウヒトミが、東京の街から尾道の旅までの実写を通して、その操作性や手応えをレビューする。
- サトウヒトミ
- お茶の水女子大学舞踊教育学科卒業後、日本航空国際線 客室乗務員として勤務。 東京ビジュアルアーツで写真を学ぶ。2018年、ZOOMS JAPAN パブリック賞受賞。主な個展に「Layered NY」(2017年、ソニーイメージングギャラリー)、「Lady,Lady,Lady」(2019年、ソニーイメージン グギャラリー 、ライカストア横浜、福岡) 、「mosaic of feelings」(2019年、ライカカフェプラハ)、「over the window」(2023年、キャノンギャラリー銀座、大阪 )、「mirage」(2024年、Jam Photo Gallery)「Madoleine」(2025年、KKAG)作品集に『イグアナと家族とひだまりと』(日本カメラ社) 、『over the window』(PURPLE) がある。
はじめに
遡ること8年前の夏。不意に出会ったライカ M10シルバークロームに目が釘付けになった日に「今でしょ」という囁きが聞こえ(たような気がして)、first Leica購入となりました。
さて、えいやっと手にしたものの、当初はレンジファインダーの感覚がうまく掴めずに、四苦八苦。大変なものを手にしてしまった…と戸惑いつつも、使い込むにつれ、シンプルで、身体と一体感のある感じが何とも癖になり、撮って良し、眺めて良しのライカの魅力にぞっこん惚れ込んだのでした。
その翌年のこと、またしても出会ってしまったのが、ライカ Q-P。(ライカストアに行くのは気をつけねばです笑)マットなブラックのボディに、トップカバーに書かれた筆記体のロゴ。美しい。そしてマクロモードもついた電子ビューファインダーで、レンズはズミルックスF1.7/28mm ASPH. さくさくと撮影するためには、あなたが必要!ということで、即決。
そして、2025年。ライカ100周年のこの年に、満を持して登場したという、電子ビューファインダー搭載のM型「ライカM EV1」に、心がざわつきました。ざわついています! これはもう、M型とQ型の良いとこ取りではないの?と、興味津々で、撮影に臨みました。
「使いやすいかも」。ライカM EV1の実感
ライカ M EV1にズミクロンM f2/50mmを装着。
まず目につくのは、正面にレンジファインダーのガラス窓がないこと。すっきりと、潔い心意気が感じられます。二重像でのピント合わせではないM型ライカは果たしてどうだろうか、撮影に挑む気持ちが高鳴ります。
まずは、ライカM EV1と共にTOKYOランデブーということで、「秋」をつかまえに街へ繰り出しました。そう思って歩いていると、東京の街は本当に樹々が多いのを感じます。色づいたり花が咲いたりしてようやく、ああ、君はここに居たのね、と愛おしくなり、ひとりごちながら歩く姿は、少々怪しげかもしれませんが、カメラを持ったら何も怖くなくなるのが不思議です。
M型ライカの醍醐味である、レンズ選びは、その日の気分や場所をイメージしながらセレクトしてその画角の目で過ごす、というのがストリートスナップの際の、私なりの決めごとですがライカM EV1を持った感触や、ファインダーを覗いている時、画角が違うにも関わらず、ライカQ-Pと錯覚して、いざ撮ろうという時に、「あっピントピント」と慌ててリングを回すこともしばしば。これはM型なのだ、と気持ちを切り替えつつも、だんだんと慣れるに従い、「おっ、これは使いやすいかも」と、調子づいてきました。
薄曇りの日に一瞬さした光。まるで美しい旋律が奏でられたかのような絶妙な瞬間に感謝しつつ。ピントの位置は十字のマークを背面液晶でタッチして、狙いを定めるという方法で、まずはスタート。
ライカM EV1・アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF4・1/1250秒・ISO64・WB:昼光
動きのあるものにピントを即座に合わせるにはM型はEVFといえども難しいと感じる。しっかりと銀杏にピントを合わせていると、タイミング良く自転車が通過。ナイス!
ライカM EV1・アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF6.8・1/125秒・ISO25・WB:オート
金色の絨毯の代々木公園でのひと時。天使かと思われる愛らしい女の子がぱたぱたと走り回る姿を追いかけずにはいられず、お母様にお声がけして、撮らせていただく。この日は、広角の目でのひとコマ。
ライカM EV1・ズミクロンM f2/28mm ASPH.・絞りF6.8・1/160秒・ISO250・WB:昼光
ふらりと立ち寄った古本屋から見えた無造作に生けられた花。はっとするほど美しく、こんな風に自然体でいたいものだと思いながら「夢のうた」という本を買う。絞り開放で、しっかりとピントを確認。
ライカM EV1・アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF2・1/160秒・ISO160・–1EV補正・WB:昼光
ライカM EV1・アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF5.6・1/160秒・ISO1000・–1EV補正・WB:オート
日比谷界隈は再開発の工事現場の囲いがアートで彩られている。素晴らしい試みだ。どの街もだが、今は海外からの人々が溢れていて、ここは日本?と思うこともしばしば。
ライカM EV1・アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF5.6・1/160秒・ISO800・–1EV補正・WB:オート
ストリートスナップは、何といっても街と人の絶妙な出会いであり、昨今、撮影を躊躇することも大いにあるが、コロナ禍で街に人がいなくなった頃を思うと人が溢れて活気ある「今」を、どんどん撮っていきたいと思っている。
これは便利!ライカM EV1の近接撮影
ひと息ついたところで、カフェタイム。ここで発揮されるのは、近接撮影での威力。アポズミクロンは30cmまで近寄れるレンズにも関わらず、70cm以上近づいたところから背面液晶か、あるいはビゾフレックス(EVF)を使わないとピントが合わないのが、これまでのM型カメラの悩ましいところでしたが、ライカM EV1ではその必要もなく、ファインダーを覗いたままピントが合わせられることに感動。近接撮影をするには最適なカメラなのです。
ライカM EV1・アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF2.8・1/160秒・ISO640・+0.33EV補正・WB:オート
大好きなベトナムコーヒーの湯気で出来た水滴とやんわり、外の紅葉が映り込んだアルミのトレイ。これも秋ならではの景色。
ライカM EV1・アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF2.8・1/160秒・ISO64・WB:オート
美しい夕日の逆光の中で輝くシダはまるでクリスマスツリーのよう。ぎりぎりまで近寄り、ピント合わせは拡大表示を使いつつ。フレーミングは、ファインダーで覗いたままなので、絵作りがしやすい。
ライカM EV1のピント合わせ
さてここで、カメラの背面を見てみましょう。
背面は、ファインダー部の形状以外はライカM11と同じです。
うれしいのは、視度補正機能が充実していて、-4~+2dpがカバーされているので眼鏡を使わずとも調整出来ること。特に、ピントが合わせにくくなって…という光学ファインダーでの目の問題を抱えている方には、少なからず、この調整機能も合わせて、かなりストレス軽減になるのではないかと思います。
ピントを合わせる際、私はフォーカスピーキングを使うと、かえってピントが合わせにくいと感じるのでピーキングはオフにして、拡大表示、フォーカスアシストをいろいろと試してみました。拡大率が大きいと、全体像を見失ってフレーミングがうまくできなかったりで、研究の余地ありと感じましたが、正解はないように思うので、自由にカスタマイズして、自分に合ったものを探してみると良いと思います。
旅には欠かせない一台
ライカM EV1を持った瞬間から、旅に出たい!と思いました。何といっても、M型カメラにしては軽いのです。旅先では知らぬ間に歩き通して、気づいたらどっと疲れているということがあるので、なるべくストレスのかからないカメラを持っていたいと思う昨今。向かった先は、初めての尾道。階段と坂道の街へ。
ライカM EV1が、「きっとここでは大活躍するはず」と思い立ち、行って参りました。
ライカM EV1・ズミクロンM f2/50mm・絞りF9.5・1/200秒・ISO1600・WB:昼光
The 尾道。まさにこれこれ、ここが撮りたかった場所。大林宣彦監督の尾道三部作ではロケ地としてこのあたりが使われていたと思われる。息を切らしてまずは100段上り、さらに坂道は続く。小雨が降って石畳が一層美しい。カメラの存在を忘れるほど、軽快に動けるので、まだまだ登れそう。
ライカM EV1・ズミクロンM f2/50mm・絞りF6.8・1/250秒・ISO1600・+3EV補正・WB:オート
さらに頂上付近の通称ぽんぽん岩という大きな岩場を目指したところ、すっかり辺りは晴れ渡り、なんと、瀬戸の花嫁に出会う。許可をいただき、撮影できたことに感謝。おめでとうございます!
ライカM EV1・ズミクロンM f2/50mm・絞りF5.6・1/180秒・ISO1600・−0.33EV補正・WB:オート
瀬戸は日暮て夕波小波~♪ということで、向こう岸へ帰って行く自転車の学生や仕事を終えた人々を乗せて行き来する船を見送り、尾道の旅も終盤。足腰の疲労感はあるものの、肩にかかる重さを意識せずに過ごせたことに今さらながら気づく。
ライカM EV1・アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF2.8・1/20秒・ISO3200・−0.67EV補正・WB:オート
暮れなずむ瀬戸内海を眺めながら、かつて村上水軍が行き来した頃などに思いを馳せる。感動と感謝の旅の締めくくりのブルーアワーを、ライカM EV1はしっかりキャッチ。
まとめ
初め戸惑ったのが嘘のように、あっという間に体に馴染み、撮った画像は、想像以上の情感が溢れ、やはりこれはM型ライカなのだと実感しました。
起動がやや遅めなのも、速写をするためのカメラではない、と気持ちを切り替えるには、ちょうど良い「間」のように感じ、しっかり見て狙って撮る、という基本的な姿勢を崩さずにいられるのがライカM EV1を持つ意味であるように思いました。歴史と伝統を損なわず、最新技術を搭載したカメラ。ライカ100周年の節目に、ライカM EV1が登場した理由を、感じずにはいられません。
今回のカメラ・レンズ
ライカ M EV1
◉発売=2025年11月1日 ◉メーカー希望小売価格=1,397,000円(税込)(実売:1,327,150円税込)
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アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.
◉発売=2021年4月24日 ◉メーカー希望小売価格=1,463,000円(税込)(実売:1,389,850円税込)
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ズミクロンM f2/28mm ASPH.
◉発売=2023年12月1日 ◉メーカー希望小売価格=924,000円(税込)(実売:877,800円税込)
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ズミクロンM f2/50mm
◉発売=2016年2月18日 ◉メーカー希望小売価格=484,000円(実売:459,800円税込)
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