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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 赤城耕一が深掘りする、M型ライカの最新現行機「ライカM11-P」

写真・文:赤城耕一/編集:合同会社PCT

第五席 筆者が選んだのはシルバーの「ライカM11-P」です

ライカの不定期連載の第5弾。前回に引き続き写真家の赤城耕一さんにライカの歴史を紐解きながら、ご自身の体験をもとに熱くお話いただきます。今回はM型の現行最近機種の、ライカM11-Pを取り上げます。

赤城耕一(あかぎ・こういち)
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアル、コマーシャルで活動。またカメラ・写真雑誌、WEBマガジンで写真のHOW TOからメカニズム論評、カメラ、レンズのレビューで撮影、執筆を行うほか、写真ワークショップ、芸術系大学で教鞭をとる。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。著書に『赤城写真機診療所MarkⅡ』(玄光社)、『フィルムカメラ放蕩記』(ホビージャパン)など多数。

はじめに

今回はフィルムライカの話はお休みして、 M型ライカの最新現行機種であるライカM11-Pの話をしようと思います。
じつは筆者としてはかなり思い切った決断をもって、M11-Pにお越しいただきました。昨年末のことです。

新型のズミルックスM50mm F1.4 ASPH.を装着してみました。鏡胴は太めですが、バランスの取れたデザインで好感触でありますよ。


M型ライカはおおよそですが、2年毎にマイナーチェンジが行われ、軍艦部にLeicaロゴがエングレーブされ、前面の赤バッジが外され、そこに大きなマイナスネジでバッジのあった箇所を埋めたモデルになることがお約束です。これ、ほとんどM9時代からルーティーン化しています。Pはすなわち「Professional」の意味とされていますがさほど強い意味でもないと思います。

ブラックよりもシルバークロームのライカのほうが好きになってきた

ノーマルのモデルでも、十分に高価ですから、十分にプロフェッショナルモデルだと思うのですが、あえてPのついたライカでは「赤バッジ」を外すことで、撮影時に目立たないようにするということなのでしょうか。これ、あまり説得力はないかと思いますし一部の人が赤バッジつきのモデルを愛していることも確かです。

筆記体のLeicaロゴがエングレーブされている。「WETZLAR GERMANY」も、もはやあたりまえの表記となりました。旧来のライカファンはとても喜んでいるようです。これほど生産国、会社所在地に対して熱い思いの多い人がいるブランドもないわけです。


このルーティーンなモデルチェンジを繰り返すライカ社の真意はよくわからないまま今日に至るわけですが、わずかな容姿の違いで、ライカマニアたちは大騒ぎしてしまいます。これはM型ライカならではではないでしょうか。もちろんわずかな容姿の変化でも、こうしてお話のネタにもできるというわけです。

ちなみに、筆者は個人的にはライカに貼られた赤バッジが苦手でありまして、やむをえず赤バッジのついたライカを入手してしまった時は、バッジのところにパーマセルテープを貼るなどして目立たないように対処しておりました。逆に見せびらかすことができないからつまらないという人もいるかもしれませんが、なになに、昔と異なりレンジファインダーカメラは目立つ存在なんじゃないかと思います。どうでもいいことですけど。

M11とM11-Pともにブラックのみトップカバーはアルミ製で、軽量化が計られています。

シルバーボディは伝統素材ともいえる真鍮の外装を使用していますが重量は当然重くなります。筆者が選んだのはシルバーです。


ライカM11-Pにフォクトレンダーアポランター50mm F2を装着。まず佇まいがいいですよね。もちろん、組み合わせとしては、純正のアポ・ズミクロン50mmF2がいいのでしょうが、予算がつきません。このレンズも驚くべき精緻な描写をしますからM11-Pのポテンシャルを引き出すことができます。


あれほど重たいカメラはダメだと日々騒いでいるくせに、これはなぜでしょうか。シルバーの仕上げというか、どうも齢を重ねて、還暦を過ぎたあたりから、ブラックよりもシルバークロームのライカのほうが好きになってきたからであります。シルバー世代だからでしょうか。なんだかブラックは陰気な面もありますから明るく生きていこうということもあるかもしれません。これも説得力ないですね。

M11からベースプレートが省略された

M11とM11-Pの仕様の違いは背面LCDがサファイアガラス製になり、擦り傷に強くなったこと、内蔵メモリーが64GBから256GBに増量したことです。

M11-Pの背面です。とてもシンプルなボタン、ダイヤルのレイアウトです。機能的にももちろんシンプルですが、多機能の国産ミラーレス機とは反対の方向性ですね。


SDカード使用時もバックアップで内蔵メモリーに同時書き込みが可能です。このためシングルスロットであることの不安は解消され、ダブルスロットでなければ安心して使うことができないと大騒ぎするウルサ型のライカディープユーザーに配慮していますね。もちろん内蔵メモリー内に記録された画像を一括でSDカードにコピーすることもできます。

筆者には前機種M11に少々不満はありました。外観上ではまずベースプレート(底蓋)が省略されてしまったことです。M11-Pも同じ仕様ですね。


ベースプレートが省略されているので、バッテリーの形状が工夫され、蓋代わりになっています。M11と共通です。バッテリー容量が大きく、ビソフレックスでの使用やライブビュー撮影でも安心感があります。


初のデジタルライカだったM8からギミックと言われようともベースプレートは採用されてM10-Pまで続いてきました。これはもう面倒と言われつつも様式美に近いようなところがあったわけです。

これによってフィルムを交換する時のように、ベースプレートを外し、メモリーカードを挿入、あるいは交換するという儀式めいた行為が失われてしまったわけです。

先にギミックと申し上げたとおり、ベースプレート方式を採用したことに必要性はありません。

逆にメモリーカードを挿入する際にベースプレートをどこに置くか、あるいは収納するのか、というフィルムライカからの伝統ともいえるかなり大きな問題はデジタルMになっても続いていました。ベースプレートをどうするかは人それぞれですが、筆者はシャツのポケットに入れます。これはYouTubeで見た、米国人写真家のゲリー・ウィノグランドの真似です。

それにしても、なぜ裏蓋の蝶番式にせず、ずっとベースプレート方式でやってきたのでしょうか。ライカ創成期からの謎とされるベースプレート取り外しと収納問題をここまで引っ張ってきたライカ社も頑なですよね。

これらのことを総合すると、ライカを使用する実用派の写真表現者はM11からベースプレートが省略されたことを歓迎しているのかもしれません。実際に意見を聞くなどして確かめたことはないのですが、実用派ほど、こういう改良点に文句を言う人は少ないのです。

電源ON時に生じる微細なタイムラグ

M11-PのキーデバイスはM11と同じ6,000万画素のフルサイズCMOSセンサー。記録サイズを約6,000万画素/約3,600万画素 / 約1,800万画素の3通りから選べる「トリプルレゾリューションテクノロジー」を採用しています。さらにWi-Fi/Bluetoothと、USB Type-Cを装備しました。このあたり、ライカQ3や、先日発売されたライカSL3と似ています。今回のすべての作例は6,000万画素で撮影しています。高画素機は緻密な描写性よりも後処理でのトリミングに余裕があってよいという考え方に共感しています。

ライカM10から採用されたISO感度ダイヤル。ライカM3、M2のフィルム巻き戻しノブのギミックのデザインですよね。ISO感度オートの「A」や、メニュー画面からのISO感度設定のため「M」ポジションを備えています。


M11から測光は像面を測光する方式に変更されたので、電源スイッチを入れるとメカシャッターが開いて、測光を開始します。

方式としては問題はないのですが、電源スイッチを入れると、“コトリ” と小さな音がして、測光を開始するため、ここにタイムラグが生じてしまうのは使い始めのころ少々気になりました。これまでのM型ライカにはない挙動だったからです。

これを嫌い、M11から前機種のM10やM10-Pを戻した知人がいるのですが、実際に撮影を可能にするまで一拍置いたような感じもあるので、撮影者個人の生理的な問題に加えて、速写性を重要視する人には少々違和感があるのかもしれません。最も電源を入れなくても撮影を可能としたフィルムライカにはどうあろうが叶わないはずなので、一連の挙動は撮影者側としても理解しておく必要があります。

筆者もスナップはよく撮影していますからタイムラグは気になるほうですが、ことM11-Pに関しては、たしかに使い始めた当初はあれっと思ったこともありましたが、しばらくするうちに受け入れることができました。やはり慣れの問題は大きいのではないかと思います。


いつもはDNG(RAW)設定のみの撮影ですが、なぜか間違えてJPEG設定になっておりました。いわゆる撮って出しのままですが、優れた画質です。本音ではそれでも少々調整したいですけど(笑)

【撮影データ】ライカM11-P・ズミクロンM35mm F2 ASPH. ・絞りF11・AE・ISO400・AWB


ライカM11-Pの実際の使い心地

露出の精度は筆者の認識ではM10系のカメラよりも向上している印象です。やはりセンサーでの測光のためでしょうか。

メカシャッターのほかに電子シャッターに切り替えれば無音撮影も可能です。ただし、電子シャッターはローリングシャッター現象による像の歪みが大きく、コツが必要ですし、撮影条件やモチーフによって、電子シャッターによる撮影は向き不向きがあるので、使用にあたっては十分に注意した方がいいでしょう。

M11-Pの実際の使い心地はどんなものでしょうか。これは前機種のM11と変わるところはほとんどありません。

よい街角に遭遇しました。しばらく眺めていたのですが、通りかかった女性をいれてシャッターを切ってみましたが、起動時のタイムラグを想定すれば、問題なく撮影できます。シャドーの再現もちょうどいいですね。

【撮影データ】ライカM11-P・ズマリットM 35mm F2.5・絞りF8・AE・ISO400・AWB

高画素機には高性能レンズの組み合わせが理想ではあります。すみずみまでギンギンの画質です。すべての被写体に合うとまではいいませんが、都市風景などではよい感じです。

【撮影データ】ライカM11-P・フォクトレンダー アポランター50mm F2 Aspherical VM・ 絞りF10・AE・ ISO400・AWB

中華レンズを使用してみました。以前某誌での記事を担当してハマってしまいました。性能面はツッコミどころありませんし、外装の仕上げも素晴らしいですね。ライカユーザーの方も硬直した先入観を捨ててサードパーティのレンズに目を向けると世界が広がるかも。

【撮影データ】ライカM11-P・TT Artisan 28mm F5.6・絞りF11・1/1000秒・ ISO400・AWB

加齢のためか最近、道にある道祖神やお地蔵さんに出会うと気になって撮影してしまいます。記録というわけではなくて、先人が彫った顔を撮影して後でゆっくりと観察してみたいわけです。

【撮影データ】ライカM11-P・フォクトレンダー アポランター50mm F2 Aspherical VM・絞りF8 ・1/1000秒・ISO400・AWB

もちろんデザインの違いで気分は上がるということは当然ありますし、筆者もこれは重要なことであると考えています。ただM10系ユーザーは併用するとタイムラグが気になりますかねえ。このあたりは慎重に考えてゆく必要はあります。

なおビゾフレックス2も同時に使い始めました。前機種より少し大型化したものの、表示画像は見やすく、レンジファインダー連動範囲外の至近距離で撮影するとき、コサイン誤差が気になる大口径レンズを使用する場合、距離計の基線長が不安になる長焦点レンズを使用する時などは、たいへん重宝します。装着した姿は美しくはないのですが、これはやむをえないところです。

ビゾフレックス2(着脱式EVF)をM11-Pに装着してみます。切った羊羹を頭に載せたような感じで美観を損ねますが、大口径レンズや長焦点レンズ使用時に確実なフォーカシングを行いたい場合には必然的なアイテムであると考えています。


ビゾフレックスはチルトできますのでローアングル撮影も楽々と行うことができます。最近のライカ純正レンズは距離計連動範囲を超えて近距離撮影できるようになっているものも多いのですが、この場合も重宝しますね。


画像の真正性を証明することが可能な世界初のカメラ

おそらく今後はM11やM11-Pをベースにした限定モデルや記念モデルが続々と出てくるでしょうから、ライカがどのような方向で思いもよらぬ趣味性を打ち出してくるのか楽しみです。もちろん実用派である筆者には、記念モデルはさらなる高価になるはずですから関係のない世界ではあるのですが。意外とベースプレートもどきのものが復活したりして…。これはわかりません。

M11-Pは撮影者、撮影日、機種、編集の有無の履歴を記録する「Leica Content Credentials」を搭載した世界初のデジタルカメラということで画像の真正性を証明することが可能な世界初のカメラでもあります。このことを強く打ち出しているのは、AI時代のアナログな操作方法を可能にしたライカのあり方を示そうとしているのかもしれません。

高価なライカだからデラックスな被写体を相手に撮らねばならないという法律はなく。被写体が下町の古い家屋であっても、少しでも気になればシャッターを切ります。

【撮影データ】ライカM11-P・ズマリットM 35mm F2.5・絞りF8 ・AE・ISO400・AWB

配達。条件反射的におにいさんが自転車でこちらにやってきたということでシャッターを切りました。いつも35mmレンズでは2-3mくらいのところに距離はセットしてあります。あとからみると、画面各所の「緑色」が効いています。

【撮影データ】ライカM11-P・ズマリットM 35mm F2.5・絞りF8 ・AE・ISO400・AWB

大口径レンズなので確実な合焦を狙うこととコサイン誤差の影響を減らすためビゾフレックス2を使用しEVFでフォーカシングしました。M型ライカなのにEVFでフォーカスすることに抵抗がある人もいるらしいのですが、被写体が中央になくてもフォーカシングできますし、大口径レンズや長焦点レンズのポテンシャルを引き出したい場合は積極的に使いたいアイテムです。筆者はM型ライカをハイブリッドカメラと考えています。

【撮影データ】ライカM11-P・ノクティルックス50mm F1・絞りF2 ・AE・ISO400・AWB(モデル:ひぃな)

今回使用したカメラ、フィルム

LEICA(ライカ)M11-P
◉発売=2023年10月28日 ◉価格=1,400,300円(税込)
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LEICA(ライカ)ライカ ズミルックスM f1.4/35mm ASPH. ブラック (現行品)
◉発売=2022年9月30日 ◉価格=877,800円(税込)
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LEICA(ライカ)ズマリット M 35mm F2.5
◉発売=2007年 ◉価格=生産終了品