カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! フォトグラファー 河田一規×ハッセルブラッドX2D II 100C
写真・文:河田一規/編集:合同会社PCT
前モデルから着実に進化したX2D II 100Cを実写レビュー!
X2D 100Cの後継機X2D II 100Cが登場しました。X2D 100C登場時もレビューいただいた河田一規さんに、前モデルから進化したポイントや魅力、またX2D II 100Cと合わせて登場したレンズ、XCD 2.8-4/35-100Eの描写力まで、深掘りレビューいただきました。
- 河田一規 (かわだかずのり)
- 1961年神奈川県横浜市生まれ。小学3年生の頃、父親の二眼レフを持ち出して町内を撮り歩き写真に開眼。10年間の会社勤めの後、写真家・齋藤康一氏に師事。4年間の助手生活を経てフリーに。 雑誌等の人物撮影、カメラ雑誌での新機種インプレッション記事やハウツー記事の執筆、JCIIデジタル教室の講師などを担当。カメラはフィルム、デジタル、iPhoneを分け隔てなく愛用。
目次
はじめに
ハッセルブラッドからX2D 100Cのバリエーションモデル(X2D 100Cも併売されるので「バリエーション」としましたが、実質的には後継モデル)としてX2D II 100Cが登場しました。
ここでは新しいX2D II 100Cが、X2D 100Cからどのように進化しているのかを中心にレビューします。前モデルX2D 100Cのレビュー、及びXシリーズ全般のモデル変遷、ハッセルブラッド社についてはこちらに詳しく記していますのでご参考下さい。
X2D 100Cからの変更点は
X2D 100CからX2D II 100Cへの主な変更点は下記の通りです。
・より軽量化されたボディ
・液晶モニターの可動範囲向上
・AF測距点を動かすジョイスティックが追加
・AF性能の向上
・手ブレ補正機能の向上
・広いダイナミックレンジを活かしたHDR画像の生成
それぞれについて、詳しくレビューしていきましょう。
スリムな形状はそのまま、より軽量化されたボディ
まずは外観とデザインについて。ひと目見て気がつくのはX2D 100Cがブラックカラーだったのに対し、X2D II 100Cはグレーカラーになっていることでしょう。好みは人それぞれですが、Appleでいうところのスペースグレーに近い濃いめのグレーなので、比較的万人受けするカラーだと思います。「カメラのボディカラーはブラック以外は絶対認めない」という人でなければ、問題なく受け入れられるでしょうし、ブラックよりもこちらの方がいいという意見も多そうです。表面はセミマットな質感で高級感も充分感じられます。
デザインはX2D 100Cとほぼ同じで、中判デジタル機とは思えない薄型形状は健在。ハッセルXシリーズはレンズ側にシャッターがあるため、カメラボディ内にフォーカルプレンシャッター用のスペースが必要ないことが、ボディを薄型にできた最大の要因です。また、X2D 100C以降は動画機能を廃した静止画専用機になっており、動画撮影時に大きな問題となる放熱性に対する対策を過度に行わなくてよいこともボディの薄型化に貢献していると思います。
重さについてはバッテリー込みで840gと、同895gだったX2D 100Cより55gも軽くなっています。カメラ設計者の間では30gのパーツでも「大モノ」と呼ばれているくらいで、マイナス55gというのは同一サイズのカメラとしてはかなりの軽量化と言えます。
ボディカラーは濃いめのグレー。セミマットな質感で価格に応じた高級感を備えています。
バッテリーはX2D 100Cと同じく7.27V、3400mAhのリチウムイオン。レバー操作でバッテリー交換は非常に迅速に行えます。
記録メディアはCFexpressのType-Bですが、X2D 100Cと同じくボディ内に1TBの超大容量SSDを搭載していますのでカードを使わない運用も現実的です。もちろん、内蔵SSDにRAWを、CFexpressカードにHEIFやJPEGを書き分ける運用も可能です。
各所の改良で向上した操作性
操作性については、液晶モニターのヒンジ機構が全面的に見直され、X2D 100Cの最大70度からX2D II 100Cでは90度まで可動範囲が向上。カメラをウエストレベルに構えた時に、液晶モニターを完全に上方へ向けることが可能になった他、下方へ最大42.7度のチルトも可能になり、カメラを頭上に掲げたときの視認性も確保しています。ここは大きな改良ポイントと言えるでしょう。
操作性についてのもうひとつの大きな改良点はAF測距フレームを動かすためのジョイスティックが新設されたこと。従来モデルのX2D 100Cでは液晶モニターをタッチパッド的に使うことで測距点移動が可能でしたが、グローブをしていると使えない等の難点もありました。しかしX2D II 100Cでは新設されたジョイスティックにより、より直感的かつダイレクト感のある測距点移動が可能になりました。設置スペースがやや右手側に寄りすぎていて、操作する親指が窮屈な感はありますが、とても便利になったと思います。
液晶モニターは90度のチルトが可能になり、ウエストレベル時やレンズを完全に上へ向けた撮影が行いやすくなりました。
グリップと液晶モニター間にジョイスティックが新設され、AF測距点移動が直感的に行えます。もちろん、再生時には画面送りなどにも使える他、センタープッシュも可能で、好きな機能を割り当てできます。
確実に向上したAF性能
以前、X2D 100Cをレビューしたときに「現在のミラーレス機においてはどちらかというと遅い方」と書いたAF速度ですが、X2D II 100Cでは大幅に改良されて「現在のミラーレス機として標準的な速度」と言えるくらい良くなりました。従来から実現していたコントラストAFや像面位相差AFに加え、LiDARセンサーをAFに使うことでAF性能を向上させたということですが、LiDARセンサーはスマートフォンのAFセンサーとしてよく使われる一方、ミラーレスカメラへの実装はこれまであまり例がないと思います。ハッセルブラッドの親会社であるDJIはドローンでLiDARセンサーを多用しており、LiDARセンサーに対する知見が他社よりもあると思われ、それが今回のX2D II 100Cでの採用に繋がったのでしょう。
また、従来のX2D 100CはAF-S(いわゆるシングルAF)のみでしたが、X2D II 100CはついにAF-C(コンティニュアスAF)が可能になり、動く被写体にピントを連続的に合わせ続けることが可能になりました。
AF性能に関しては前述したとおり、X2D 100Cより合焦速度が向上しており、その差は誰でも確実に実感できるレベルです。迷ったあげく合焦不能になることもほぼなく、多くの被写体で充分満足できるAFと感じました。かなり暗いシーンの特定被写体でちょっと合いづらいことはありましたが、それはレアケースで、ほとんどのシーン、被写体で満足できるAF性能です。
光を受けて青く反射しているところが色温度センサーでその左隣の四角がLiDARセンサーになります。具体的にどのようにAF動作に活用しているかは不明ですが、他のミラーレスカメラにはない取り組みが興味深いです。
X2D 100Cであった「AF待ち」はなくなり、カメラを構えてから撮影完了までがスピーディに。何でもさっと撮れるので、ちょっとイイなと思ったものは躊躇せずに撮っていました。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・100mm・絞りF4・1/160秒・ISO800
従来のX2D 100Cの美点だったAF精度の高さはちゃんと継承しており、合焦マークが出ていたのにピンボケだったことは1回もありませんでした。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・70mm・絞りF4・1/80秒・ISO1600
AF的には意外と難しいシーンですが、問題なく正確に合焦しました。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・100mm・絞りF4・1/25秒・ISO800
新設されたジョイスティックは直感的に使えるのでやはり便利です。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・35mm・絞りF8・1/60秒・ISO800
より強力になった手ブレ補正機能
従来のX2D 100Cでは5軸7段の効果だったセンサーシフト式の手ブレ補正機能。それでも充分な効果を実感していましたが、X2D II 100Cでは5軸10段に効果が大幅アップ。中判カメラ、しかも1億画素の高解像度機とあって、本来は手ブレには特別注意を払う必要がありますが、そうした強迫観念を忘れてしまうほど手ブレ補正の効果は抜群でした。
実際にシャッター速度1秒とか2秒といった数秒レベルでも広角なら手ブレせずに撮れてしまうほど高性能で、構え方にもよりますが1/3秒くらいならほぼ手ブレしないレベルなのは驚異的です。このあたりも常に揺れているドローンでのノウハウを持つDJIならではの技術投入があるのかもしれません。
広角域、遠景の1/8秒はかなり安全圏。歩く人を明確に流せるのでスナップしやすい。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・38mm・絞りF3.2・1/8秒・ISO100
船は揺れているのであまりスローだと動体ブレしてしまう。何度か試し撮りを行い、船が止まり、なおかつ水面に表情が出るシャッター速度0.3秒で撮影しました。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・35mm・絞りF3.2・0.3秒・ISO400
相当暗くてもこのカメラなら手持ち撮影でどんどん撮れてしまうのは痛快です。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・100mm・絞りF5.6・0.4秒・ISO200
幅広いダイナミックレンジを活かした高画質
X2D II 100Cから備わった機能にHDR画像の生成があります。よくある複数枚の画像を連写→合成して生成するものではなく、ダイナミックレンジの広さを活かし、1枚画像がHDRを生成します。画像を閲覧するモニターの種類が限られるため、ここではあえてX2D II 100CのHDR画像を掲載しませんが、輝度差が大きいシーンなどでは効果絶大ですし、今後も期待されるソリューションなのは間違いない反面、現時点では再生するモニターやOS、ソフト等が限定的であり、誰にでも活用できるというものではありません。ただ、もともとダイナミックレンジが広いということはHDRではない通常撮影にも多大な恩恵があります。たとえばハイライト部の階調を残すためにあえてアンダー気味で撮影し、後処理でシャドー部を持ち上げる際など、このダイナミックレンジの広さは大きなメリットになります。
解像度についてはX2D 100Cと同じく1億画素ですが、この解像度の高さは特に遠景撮影時には効果絶大で、素晴らしい精密描写を得られます。どこまで画素数が必要かは写真の使い方にもよりますが、1億画素もあると相当に思い切ったトリミングにも耐えられます。
照明部分のオレンジ色の階調を残すため、ハイライト基準の露出で撮影。かなりアンダーになったが、後処理でこれだけシャドー部を持ち上げても階調に破綻がないのは素晴らしい。
ハッセルブラッドX2DII 100C·XCD 2.8-4/35-100E·35mm·絞りF5.6·1/60秒·ISO50
ちょっとHDRぽい仕上げですが、通常のRAW現像です。もともとのダイナミックレンジが広大なので、露出オーバーさえ避ければハイライトとシャドーの階調は自由自在です。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・42mm・絞りF4.5・1/20秒・ISO1600
ハイライトの粘りというか、ハイライトからハイエストに至る階調がちゃんとあるのはもちろんですが、X2D II 100Cではそれに加えてシャドー側のデリケートな階調がきっちり再現されるので、暗所側に表情を付けられるのが強みかなと思いました。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・60mm・絞りF4・1/100秒・ISO200
普通なら自販機の明かりだけが目立ち、シャドー部は潰れがちになりそうなシチュエーションですが、X2D II 100Cはシャドー部のディテール再現が抜群にいいのでそうはなりません。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・50mm・絞りF5.6・1/40秒・ISO400
よく見ると、HOTELの「O」の字のところに作業している人が写っているのですが、等倍で見て、ものすごくシャープで写っていることに驚きました。さすがは1億画素。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・100mm・絞りF8・1/800秒・ISO50
スナップ撮影においても1億画素の圧倒的な解像感は圧巻ですが、それに加えてシャドーからハイライトまでまったく破綻しない階調性能。ここまでハイレベルに解像と階調を両立できるのは中判カメラだからこそでしょう。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・100mm・絞りF5.6・1/20秒・ISO3200
タワーの鉄骨が怖いくらい緻密に描写されています。ISO6400の高感度手持ち撮影とは思えない高解像度です。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・65mm・絞りF5.6・1/20秒・ISO6400
待望の大口径標準ズーム、XCD 2.8-4/35-100E
ハッセルブラッドXシリーズ用の大口径標準ズームとして、新たに登場したXCD 2.8-4/35-100Eについてもふれておきましょう。
従来からあるXCD 3.5-4.5/35-70に比べて望遠側が延長され、さらに大口径化されているにも関わらず、19%も軽量化され、長さも10%短くなっています。とはいえ、そこは中判カメラ用の大口径ズーム、重量は894gと絶対的には軽くありませんが、不思議なことにX2D II 100Cと組み合わせて使ってみると、そこまで重さを感じません。これはX2D II 100Cのグリップ長に余裕があり、小指まで使ってしっかりとカメラを握り込めるからだと思います。グリップ長が短いカメラに重いレンズを付けると、実際以上に重く感じるのとは逆の体感です。
描写性能は抜群で、広角端から望遠端まで、どの焦点距離で使っても画面中央と周辺部の画質差が少なく、ズーム全域で解像性能が常に一定なのが素晴らしいです。ボケ味もよく配慮されているようで、二線ボケ等の気になるアウトフォーカス描写もありません。画角は35mm判換算だと28-76mm相当となり、スナップはもちろん、ポートレートや風景、都市景観など、広いジャンルで使いやすい高性能レンズだと思います。
新登場のXCD 2.8-4/35-100Eは、35mm判換算だと28-76mm相当となる大口径標準ズーム。フードは金属製の花型形状です。
フォーカスリング、ズームリング、コントロールリングには連続した「H」パターンの滑り止めがあります。コントロールリングにはシャッター速度、絞り、ISO、露出補正、もしくは被写体スイッチを割り当て可能です。
ズーム繰り出しによる全長変化はこんな感じです。レンズ鏡胴はアルミ鍛造製で剛性感があります。
894gという重さは決して軽くはありませんが、中判用の大口径ズームとしてはかなり軽量な方です。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・65mm・絞りF11・1/125秒・ISO200
レンズ構成は13群16枚で3枚の非球面レンズと5枚のEDレンズを使用しており、その描写は高解像、高コントラストで見事です。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・35mm・絞りF8・1/60秒・ISO50
解像感は充分で1億画素のX2D II 100Cでも余裕があります。将来的にさらに高画素のボディが登場しても対応できそうです。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・100mm・絞りF11・1/1000秒・ISO800
広角端でも画面中央から周辺部まで均質な画質を実現しています。
/ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・35mm・絞りF8・1/200秒・ISO800
内蔵のレンズシャッターは最高1/4000秒から最長68分まで対応します。作動音はレンズシャッターとしては大きめに感じましたが、絶対的には静かです。
ハッセルブラッドX2DII 100C・XCD 2.8-4/35-100E・75mm・絞りF5.6・1/30秒・ISO3200
まとめ
今回のX2D 100CからX2D II 100Cへのモデルチェンジは変化量が少ないと評する方も多いですが、個人的には結構大きく変わったと感じました。特にAFについては格段にスピードアップして合焦不能になる確率も極めて低くなっています。X2D 100Cの時はAF特性に対する理解がある程度必要で、だからこそ使いこなしている感を得られましたが、X2D II 100Cはもっと普通というか、AFに関しては特に何も考えなくても問題なく働いてくれます。そこをどう考えるかで評価は変わってくるでしょう。特にX2D 100Cオーナーは買い換えるかどうか悩み所です。ただ、これから購入するのなら、買うべきは確実にX2D II 100Cでしょう。なぜならAF速度云々は別にして、併売されるX2D 100CよりもX2D II 100Cの方がメーカー希望価格比で11万円も安いからです。モデルチェンジすればほぼ確実に高くなるのが普通の今、全方位的に性能アップしているのに価格の10%近く安くなるのは希有です。このことにハッセルブラッドの、そしてDJIの本気度の高さが伺えると思います。


