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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! キヤノンEOS R50 V×荻窪 圭

写真・文:荻窪 圭/編集:合同会社PCT

本格的な動画撮影が可能なEOS R入門機

動画仕様のEOS Rシリーズ入門機「EOS R50 V」が登場しました。今回は荻窪圭さんに動画、静止画ともに作例を交えて解説いただきました。動画だけでなく、静止画にも有用なEOS R50 V。導入の参考にしてください。

荻窪 圭 (おぎくぼ・けい)
老舗のデジタル系フリーライター。1995年発売のカシオQV-10からデジタルカメラの記事を手がけ、各メディアでカメラやスマートフォンのカメラレビューやコラム、猫写真の連載などを執筆するほか、古地図趣味と写真をからめた歴史散歩本も執筆。最新刊『古地図と地形図で発見!江戸・東京の<はじまり>を歩く』(山川出版社)絶賛発売中。

はじめに

EOS Rシリーズ初の「EVF非搭載機」が発売されました。その名も「EOS R50 V」。EOS R50は既存のエントリー向けモデルで、個人的には「EOS Kiss」シリーズの後継機とみています。コンパクトで扱いやすくて性能もしっかりしているモデル。

それに「V」をつけたのがEOS R50 V。「Video」の「V」、あるいは「Vlog」の「V」といっていいでしょう。

動画優先仕様モデルということです。動画仕様と言うことでデザインも一新です。エントリーモデルでは当たり前だった内蔵ストロボもありません。

極めつけは軍艦部の撮影モードダイヤル。見ての通り、8つあるポジションのうち、スチル用はひとつだけ。すべてそこにまとめられ、他は動画用のポジションなのです。

EOS R50 Vの撮影モードダイヤル。動画仕様モデルであることが一目瞭然です。

ずいぶんと思い切った仕様にしてきました。
シャッターボタンに赤い円が描かれているのも特徴ですね。もちろん写真撮影時は半押しにも対応してますが、基本的には録画ボタン、というわけです。

前面にもボタンがありますが、こちらはRECと書かれており、動画専用。写真撮影時は押しても何も起きません。

前面にも録画ボタンを搭載。

ここまで「動画仕様である」と徹底されると感心します。
でも、ちょっと使ってみて思いました。

EOS R50 Vは確かにカジュアルに動画を撮り、簡単な編集をして公開したり、ライブ配信向きのデザインになっていますが、気軽に扱えるイマドキのスナップ用スチルカメラとしても優秀なんじゃないかと。

コンセプトは動画カメラですが、中身はEOS R50の発展系ですからスチルカメラとしての機能も可不足なくしっかり搭載しており、けっこう快適に使えたのです。

そこで、前半はカジュアルな動画カメラとして、後半はスナップスチルカメラとして使ってみたいと思います。

本格的な動画を撮りたい人に最適の入門機かも

「RF-S 14-30 IS STM PZ」を装着したEOS R50 V。往年のEOS M6を思い出すデザイン。

今回はEOS R50 Vの基本となるレンズキットを使って撮影しました。キットレンズは「RF-S 14-30 IS STM PZ」です。
35mm判換算で22.4-48mmという広角系の電動ズームレンズ。

写真用の標準ズームとしては広角寄りですが、電子式手ブレ補正を使うと画角が狭くなることや、Vlog用だと自撮りが多くなるので、RFレンズ初の動画用電動ズームレンズとしては非常に良いところをついてます。

同時に手持ちで動画を撮影するには欠かせない「トライポッドグリップ」(HG-100TBR)も使用しました。

着脱式リモコンを内蔵したトライポッドグリップ(HG-100TBR)。テーブル三脚としても使える。

これはグリップ部分を開いてテーブル三脚としても使えますし、そのとき、リモコン部を外すことで、手元での操作もできます。リモコンにズームボタンがありますが、電動ズームレンズならそれを活かせます。

テーブル三脚やグリップであるし、リモコン部分を外してBluetoothリモコンとしても使える。

では実際に動画を撮ってみます。グリップは他のEOSと同様それほど深くありませんが、重いレンズを振り回したりしないのならほどよい凹凸です。握り具合がほどよいのはさすがキヤノン。

APS-Cサイズのセンサーに対してRFマウントの径が大きいのでサイズ感がわかりづらいのですが、ボディはそこまで小さくはなく扱いやすい印象です。

小柄な女性の手でEOS R50 Vを構えたところ

シャッターボタン回りにズームレバーが置かれているのが動画仕様らしいところで電動ズームレンズではそのままズーミングに使えますし、再生時の拡大/縮小にも使えます。

1と書かれたファンクションボタンはデフォルトでライブ配信用ですが、ライブ配信をしないなら任意の機能に割り当てるのがいいでしょう。

軍艦部。電源スイッチが後ろ電子ダイヤルの位置にあるので右手でオンオフしやすくてよい。

様々な撮影モードを試しつつ、EOS R50 Vのメインターゲットと思われるカジュアルなVlog撮りをイメージして、人物を撮影してみました。

おまかせオートからレビュー用動画まで人物撮影してまとめてみた

簡単に作例動画で使用した機能の寸評を。

撮影モード「A+」はほぼ完全にカメラにおまかせ。撮れる絵も、非常にイマドキのビデオっぽい画で、スマートフォンの動画から移行しても、背景のボケ具合や階調の豊かさ意外は違和感をあまり感じないと思います。

電子式手ブレ補正には強弱の2段階ありますが、歩きながら、あるいは動きながら撮った場合、いくらかブレを感じます。きちんと構えて歩きながら正面を撮るならかなりおさえてくれますが、今回のように隣を歩く人を撮りながら、となると、激しく動きながら撮ることを前提にしたアクションカメラやアウトドアカメラには劣ります。動きながら撮るには別途ジンバルとマイクを用意した方がいいでしょう。

手持ちで撮る時はグリップを使うと持ちやすくて安定する。

このあたりはどこまで本格的な撮影をするか、にかかってきます。機材を揃えればそろえるほどセットが大きく重くなり、コストもかかりますから。

Vlog用らしく、美肌動画やレビュー動画機能も持っています。
レビュー用動画は、人物より手前にモノがあったらそちらにフォーカスを合わせにいくもの。カメラに向かって商品の説明をするときに使うものですね。

レビュー用動画を撮影中

EOS R50 Vの背面はキヤノンのエントリーモデルらしい構成ですが、新しいのは「COLOR」ボタン。好みの画作りで撮りたいという昨今のトレンドにあってます。

EOS R50 Vの背面

背面のモニタの横にはCOLORボタンがあり、これを押すとピクチャースタイル(これはEOSでお馴染みのもの)、カラーフィルター、そしてカスタムピクチャーの3つから選べます。

注目は「カラーフィルター」。14種類のフィルターから選べます。撮りたいシーンに合った色合いで撮影したいときに便利。
それぞれに英語で名前が付いており、リアルタイムでモニタで確認できますので、それを頼りにあれこれ試してみました。

14種類のフィルターが用意されている

風景メインか、人物メインか、ハイキー気味にとるかレトロ風味に撮るか、などで使い分けるとよさそうです。

もうひとつ、ユニークなVlog向け動画撮影機能ががあります。「縦位置動画」です。
グリップ部に三脚穴があり、縦位置での撮影が容易になっているのです。
縦位置にすると画面も縦位置仕様に。縦位置ショート動画を撮りたい人に朗報です。

グリップ部の三脚穴を使えば、縦位置のまま三脚に固定できる。雲台を90度傾ける必要が無い

人物動画ばかりでも偏るので、もう一本、風景やスナップメインのものを。すべて手持ちでの撮影ですが、2番目の橋の上から撮った列車の映像は手を橋の欄干に置き、手ブレ補正を「自動水平補正」にすることでぴたっと止めてます。ただ自動水平補正をオンにすると手ブレ補正が弱くなりますので、そこは残念な点かも。

鉄道、風景、猫などの短いクリップを一本の動画にしてみた。

動画に関していえば、長い歴史を持つ「EOSムービー」の蓄積があるだけあり、クオリティは高く安心して使えます。構図の変化による露出の修正も、動画中のAFも滑らかな対応をしてくれます。本格的な動画への第一歩としては最高の出来でしょう。

動画撮影時は撮影中であることがわかるよう、タリーランプが点灯するのですが、それが正面からでも上からでもわかる位置に設置されているのは好感が持てます。

動画撮影時のタリーランプが角におかれているので、正面からでも横からでも上からでも確認できる。これはよい

ただ、動画をメインで撮る時はバッテリーの持ちと温度上昇に注意したいところです。特に今回は灼熱の酷暑下でしたのでつらい環境でありました。

実はスチル用としても使いやすいことに気づきました

写真撮影時。ファインダーがない分コンパクトで扱いやすい面も

EOS R50 VはEOS R50と同様、APS-Cサイズの約2420万画素CMOSセンサーを搭載。ボディー内手ブレ補正はなし(これはEOS R50も同様)。動画仕様機ですが電子先幕のメカシャッターも備えています。シャッタースピードはメカシャッター時で最速1/4000秒、電子シャッター時で1/8000秒。

連写は電子シャッター時で最高約秒15コマと、エントリー機としては申し分ありません。

「動画のためのミラーレス」とキャッチコピーがついていますが、なんのなんの、EOS Rシリーズ唯一のファインダーレス軽量コンパクトミラーレスとしてもなかなか良いのです。

そもそも、初期のミラーレス一眼はEVFを持たずにカジュアルに撮れるレンズ交換式カメラとしてヒットしましたし、ファインダーがあっても背面モニタのみで撮る人が増えている昨今、ファインダーレスはボディがコンパクトになるメリットの方が大きいかもしれません。
撮影モードダイヤルに写真用のポジションがひとつしかない点も、タッチパネルが解決してくれます。
親指をすっと伸ばして左上をタップすれば撮影モードはすぐ切り換えられます。

全撮影モードが一覧されるので、ダイヤルより瞬時に切り換えられるかも

22.4mm相当スタートという広角系ズームも町のスナップを撮るのにいい感じです。広角端と望遠端でスナップを。
ピクチャースタイルはオートのままざっくりと撮ってみました。

青空に赤と白のクレーンはよく映えるので広角端で狙ってみました。色の強調をしすぎず、キヤノンらしい写りです
キヤノンEOS R50 V・RF-S 14-30 IS STM PZ・14mm(35mm判換算22.4mm)で撮影・絞りF5.0・1/800秒・ISO100

原宿の竹下通りにてスナップを。「おまかせオート」で気軽に撮ったらF10まで絞られてしまっていました。ハイコントラストな構図だったがイメージ通りの階調が出てくれました。
キヤノンEOS R50 V・RF-S 14-30 IS STM PZ・30mm(35mm判換算48mm相当)で撮影・絞りF10・1/250秒・ISO100

オートモードでポートレート。強い陽射しが当たっていたが白トビもせず良い感じに仕上がってます。
キヤノンEOS R50 V・RF-S 14-30 IS STM PZ・30mm(35mm判換算48mm相当)で撮影・絞りF6.3・1/640秒・ISO100

オートもマニュアルも美肌撮影も全部がフラットに並びますから、普段は使わない美肌モードなどもつい使ってみたくなるのは不思議です。

美肌ポートレートモードで明るい室内でのスナップ
キヤノンEOS R50 V・RF-S 14-30 IS STM PZ・25mm(35mm判換算40mm相当)で撮影・F5.6・1/80秒・ISO100

細かな撮影のセッティングもタッチパネルを使えばストレスなく操作できます。

写真用のボタンやダイヤルは少なくてもタッチパネル操作が充実しているのでさほどストレスは感じない。たいていここの操作と電子ダイヤルでいける

これ、意外に使い勝手が悪くないのですよね。
カメラを向け、ちょっとセッティングを変えたいと思ったら左右の親指でぱぱっと操作できるのもけっこう快適です。
シャッタースピード優先にし、フォーカシングはサーボAF+動物優先AFを使って子猫の撮影。モニタを開くと猫目線での撮影もできます。

元気な子猫がいたのでサーボAFを駆使してすばやい動きを追いながら撮影。躍動感のある作品に仕上がりました。
キヤノンEOS R50 V・RF-S 14-30 IS STM PZ・25mm(35mm判換算40mm相当)で撮影・絞りF6.3・1/640秒・ISO3200

さらに新たに搭載されたCOLORボタンを使って色合いを変えつつスナップを撮ってみました。
まずは銀座四丁目の有名な路地を覗く天使像。カラーフィルターはTasty Warm。銅の色をちょっと強調したかったのです。

天使像をローアングルで撮りたいと思い、しゃがんでモニタを開き、下から狙ってみました。こういうカットをさっと撮れる街スナップ機といえます。カラーフィルターはTasty Warm
キヤノンEOS R50 V・RF-S 14-30 IS STM PZ・14mm(35mm判換算22.4mm)で撮影・絞りF4.0・1/320秒・+0.3EV補正・ISO100

同じく銀座をぶらぶらしながら、老舗の箸店まえに飾られていた猫の像をStory Teal & Orangeで。

裏通りで見かけた首元が印象的な古い招き猫っぽい像。妙に長い首と目元が良い。通りの古い雰囲気を出そうとカラーフィルターをかけてみました
キヤノンEOS R50 V・RF-S 14-30 IS STM PZ・30mm(35mm判換算48mm相当)で撮影・絞りF6.3・ 1/160秒・+0.33EV補正・ISO100

続いて、Sepiatoneで2枚。

歩道に落ちた白鳥の影をセピア調で
キヤノンEOS R50 V・RF-S 14-30 IS STM PZ・30mm(35mm判換算48mm相当)で撮影・絞りF6.3・1/320秒・ISO100

ガード下の古い飲み屋街。外は昼間だがガード下は夜に向けて熟睡中。その侘びた感じを出すべくSepiaに。モノクロームではなくほんのりと色が残っているのがミソ
キヤノンEOS R50 V・RF-S 14-30 IS STM PZ・14mm(35mm判換算22.4mm)で撮影・絞りF4.0・1/320秒・+0.3EV補正・ISO100

屋上庭園から交差点を見下ろしたとき、真夏の暑さを表現したいなと思ったので、全体に寒色系にしてくれるStory Blueを選んでみました。似た感じのフィルターにClear Light Blueもありますが、あちらは少し青みが強くですぎたのでこちらを採用です。

屋上から日傘が溢れる交差点を見下ろしつつ、ちょっとハイキー気味の青が欲しかったのでStory Blue
キヤノンEOS R50 V・RF-S 14-30 IS STM PZ・14mm(35mm判換算22.4mm)で撮影・絞りF6.3・1/400秒・ISO100

背面の液晶モニタは晴天下の撮影では外光に負けてしまって見づらくなるのが難点ですが、EOS R50 Vは「一時的に輝度を最高に上げる」機能を持っており、それをどこかのボタンに割り当ててやれば必要な時だけ明るくてできて大変便利です。
最後はモノクロで。
うちの黒猫があくびをしながら大きく伸びた瞬間です。良いタイミングで撮れたので最後の1枚に。

大あくびをしながら伸びているうちの黒猫をピクチャースタイルのモノクロで
キヤノンEOS R50 V・RF-S 14-30 IS STM PZ・14mm(35mm判換算22.4mm)で撮影・絞りF4.0・1/80秒・ISO640

「まとめ」動画も静止画も快適に使える入門機だった

EOS R50 Vは動画のためのミラーレス一眼として登場しました。確かに動画撮影向きの操作系になってますし、動画撮影の機能も充実しています。キヤノンもとうとうVlog向けの動画カメラに本腰を入れてきた、と感じさせます。

でも、そのおかげか、携帯性が高くてシンプルで使いやすいスナップ向きカメラでもあったのです。約370g(CIPAガイドラインによる計測)という軽さや、上面がフラットなボディによる携帯性、手を出しやすい価格もあいまって、「動画用カメラと思って使ってみたら、予想外にスナップ向きスチルカメラとしても快適だった」というのが正直なところ。さすがに望遠レンズを振り回すには向きませんが、スチルも背面の液晶モニタで撮る、というのならどちらも快適に使える入門機として秀逸ではないかと思います。

モデル:長谷川未紗

今回使用したカメラ

EOS R50 V (レンズ・グリップセット)
◉発売日=2025年5月30日 ◉価格=オープン(実売:137,560円税込)

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