カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 夜景写真家 岩崎拓哉 × 工場夜景の撮影テクニック
写真・文:岩崎拓哉/編集:合同会社PCT
工場夜景の撮影に挑戦しよう!
今回は、夜景撮影を専門に工場夜景の撮影にも力を入れている写真家 岩崎拓哉さんに、工場夜景の基本から、工場夜景撮影のためのカメラ設定、おさえておくべきポイントなど、作例を交えて解説頂きました。本記事をぜひ参考に、工場夜景撮影を手軽に楽しんでみましょう。

- 岩崎拓哉(いわさき・たくや)
- 1980年大阪府生まれ。横浜市在住。2003年に「兵庫県・摩耶山」「長崎県・稲佐山」の夜景に感動し、日本全国2,600ヶ所以上の夜景スポットを撮影する。20年以上に渡って「夜景INFO」等のウェブサイトを運営しながら、ライトアップや工場等の夜景名所を巡っている。著書に「プロが教える夜景写真 撮影スポット&テクニック(日経ナショナルジオグラフィック社)」「夕景・夜景撮影の教科書(技術評論社)」等がある。
- https://www.nightview.info/
目次
はじめに
夜景撮影の被写体には、パノラマ、ライトアップ、イルミネーションなど幅広いジャンルがあり、中でも工場夜景は根強い人気があるジャンルと言えます。工場夜景はライトアップやイルミネーションのような意図的に見せる人工景観と違って、見せるための明かりではないのに美しさを感じる偶然性や、日常生活では目にかかれない非日常性に魅了される方も多いようです。
多くの工場夜景スポットは観光地ではないため、アクセスはハードルが高い印象があり、撮影の難易度も高いように思われますが、本記事でカメラの設定など基本やコツをわかりやすくお届けしますのでご安心下さい。
工場夜景のキホン①気象条件
一般的に夜景撮影は気象条件が重視され、特に夜景ジャンルの代表格とも言えるパノラマは非常にシビアな気象条件が求められます。そのため、きれいな夜景を撮るためには、雨量が少なく、空気が澄んでいる秋から冬の季節が最適です。また、日没が早い時期ほど夜時間が長くなるため、光量が落ちる深夜までにたっぷりの撮影時間が確保できます。
一方で工場夜景の場合は、ビルや住宅地と違って、保安上の明かりであることから、深夜になっても明かりが落ちません。また、近距離で撮影できる場所が多く、気象条件の影響はわずかです。そのため、工場夜景だけを撮影する場合は、季節や時間帯を問わず、年間を通じて撮影を楽しめるのも魅力です。

12月の気温と湿度が低く、空気が澄み渡った時期に撮影。遠くの工場や市街地の明かりがくっきり写っており、富士山も美しく見えている。例年、この時期は自然と工場のコラボレーションが楽しめる貴重な時期でもある。(ふじのくに田子の浦みなと公園/静岡県富士市)
【撮影データ】
CANON EOS R6・RF24-105mm F4L IS USM・40mmで撮影・マニュアル・絞りF11・13秒・ISO400

8月に川崎臨海部で撮影。歩道から被写体となる化学工場までの距離はわずか数十メートル。工場付近で撮影できる場所であれば、空気の澄み具合や雲模様の影響は少なく、大雨や強風さえ避ければ、オールシーズン撮影を楽しめる。(千鳥町 日本合成樹脂前/神奈川県川崎市)
【撮影データ】
CANON EOS R6・RF24-105mm F4L IS USM・27mmで撮影・マニュアル・絞りF8・8秒・ISO400
工場夜景のキホン②工場夜景の見えるエリアと被写体探し
工場夜景を撮りに行きたくても、どのエリアに工場夜景スポットがあるか、悩む人も多いと思います。
最も手軽な工場夜景スポットの探し方は、全国の工場夜景都市が加盟している「工場夜景INFO(URL https://kojoyakei.info/)」を参考にすることです。工場夜景の加盟都市がオフィシャルに情報を発信しており、北海道から九州までエリア別に工場夜景スポットが写真と地図で紹介されています。
また、上記サイト以外にもインターネット上で工場夜景スポットを紹介しているウェブサイトがあり、宮城県石巻市、福島県いわき市、茨城県神栖市、兵庫県姫路市、愛媛県今治市等にも工場夜景の名所があります。そのため、近隣のエリアで工場夜景スポットを探すのであれば、「◯◯市 工場夜景」などで検索すると良いでしょう。
また、工場は全国各地にありますが、工業都市ごとに工場の種類が異なり、どの都市でも美しい工場夜景が楽しめるとは限りません。そのため、製油所や化学工場、製鉄所等がある工業都市を中心に情報収集をすると良いでしょう。

工場夜景の王様とも言える製油所。製油所が近くで見られるエリアは全国でも限られ、他の工場を圧倒するほどの迫力と光量がある。写真の工場は「茨城のシンデレラ城」とも称されている。(鹿島石油 東門前付近/茨城県神栖市)
【撮影データ】
CANON EOS R6・RF24-105mm F4L IS USM・40mmで撮影・マニュアル・絞りF11・8秒・ISO400
工場夜景のキホン③アクセス方法
工場夜景スポットは、一部の展望施設や公園を除き、観光地のように整備されていないため、付近に自販機やベンチ、トイレなどの整備が不十分であったり、公共交通機関でのアクセスが難しい場所が大多数を占めます。そのため、車での移動が基本となり、免許や車を持たない人の訪問はハードルが上がります。
ただし、川崎市や四日市市のように一部の都市では路線バスでアクセスできるエリアもあるため、時刻表で夜間もバスが運行していることを確認の上、公共交通機関をうまく活用して訪問するのも良いでしょう。

工場夜景都市として最も高い知名度を持つ川崎臨海部では、複数の事業者による路線バスが運行しており、自家用車やタクシーを使わずとも、公共交通機関だけで手軽に工場夜景スポットへアクセスできる。川崎市で最も有名な千鳥町は、工場前の歩道にバス停があるほどアクセスが優れる。
カメラの設定
工場夜景の撮影において、一般的な夜景撮影とカメラの設定の違いは大差がありませんが、基本的には三脚の利用を推奨します。最近のカメラは手ぶれ補正機能が優れていて、特に5軸手ぶれ補正を搭載したカメラであれば、数秒単位で手持ち撮影ができる場合もありますが、工場夜景は望遠ズームレンズを使う機会も多く、なるべく低感度で絞ってシャープに写すのであれば、三脚を用いた長時間露光撮影に軍配が上がります。そのため、長時間露光に適したある程度安定感のある三脚でカメラを固定し、マニュアル露出や絞り優先モードで、先にISO感度と絞りを決めた上で、被写体の明るさに合わせたシャッター速度や露出の設定を行うと良いでしょう。
逆に手持ちで撮影をする場合は、絞りは開放寄りでISO感度を可能な限り高く設定し、シャッター速度を短くして撮影する必要があります。とはいえ、撮影の度に画像を拡大して手ぶれの有無を確認するなど、手間も発生するため、まずは三脚を使った撮影で経験を積むのがおすすめです。
三脚等で固定 | 手持ち | |
---|---|---|
シャッター速度 | 2~30秒 | 1/30~1秒 |
絞り(F値) | F8~11 | F1.4~5.6 |
ISO感度 | 100~800 | 800~25600 |
手ぶれ補正 | OFF | ON(5軸手ぶれ補正推奨) |
セルフタイマー | 2秒前後(リモートレリーズでも可) | 無し |
※いずれも設定値は目安

カメラを三脚に固定して、シャッターを切る場合、シャッターボタンを押した時の振動がカメラに伝わって、ぶれの原因になってしまう。リモートレリーズを使うか、セルフタイマー(2秒程度)を設定して、ぶれを防ぎたい。
作例紹介
カメラの設定の基本を学んだ後は、まずは公園や歩道等から工場夜景撮影を楽しんでみましょう。カメラを三脚に固定し、広角レンズで工場の全体を写したり、望遠レンズで工場の一部を切り取るような構図も試してみて下さい。また、工場のプラントの見え方は立ち位置を変えるだけでも変化があるので、安全面に注意しながら、撮影位置を移動させながら撮影を楽しむと良いでしょう。また、うっかり私有地に入ったりしないよう、周囲の注意書きや看板などにも気を配ることもお忘れなく。

石巻市の工場夜景と言えば、日本製紙石巻工場が有名で、震災からわずか半年で工場を再開させたことで知られ、復興の象徴とも言える工場である。歩道からは少し離れた場所にあるが、暖色系の明かりが特徴的で、温かみだけでなく、力強さや逞しさも感じさせてくれる。工場の全景も迫力があるが、作例のように望遠ズームレンズで、工場の一部を切り取る構図も面白い。水蒸気を滑らかに写すなら、なるべくシャッターを長めに空けると良いだろう。(日本製紙石巻工場/宮城県石巻市)
【撮影データ】
CANON EOS R6・RF100-400mm F5.6-8 IS USM・123mmで撮影・マニュアル・絞りF9・8秒・ISO400

日本製紙石巻工場の奥には白色系に光輝く発電所があり、知る人ぞ知る穴場スポット。発電所とは距離が近く、標準ズームレンズでも迫力ある写真が撮れる。作例は工場を広範囲に写しているが、70~100mm前後の焦点距離であれば、画面いっぱいに工場を写せるだろう。切り取るポイントが多くて、ついつい長居したくなる場所である。(日本製紙 雲雀野発電所/宮城県石巻市)
【撮影データ】
CANON EOS R6・RF24-105mm F4L IS USM・43mmで撮影・マニュアル・絞りF9・2.5秒・ISO400

東京都内でも貴重な工場夜景名所が奥多摩駅から徒歩15分圏にある。石灰石の工場を少し離れた距離から見渡せる。製油所や化学工場に比べると光量が少ないため、少しでも空に明るみのある日没後のトワイライトタイムの撮影がおすすめ。工場とは距離があるため、望遠ズームレンズの使用もおすすめ。(奥多摩工業 氷川工場/東京都奥多摩町)
【撮影データ】
CANON EOS R6・RF100-400mm F5.6-8 IS USM・149mmで撮影・マニュアル・絞りF8 ・13秒・ISO400

浮島町は川崎市内でも大規模な製油所を有する地区で、道路から製油所が見渡せる。工場との距離が近いため、標準ズームレンズでも迫力ある写真が撮れる。作例はあえて、広角ズームレンズで、トラックの光跡を入れて撮影した。工場だけでなく、車両の光跡をアクセントに入れるシチュエーションも表現力を向上させてくれる。(ENEOS 川崎製油所/神奈川県川崎市)
【撮影データ】
CANON EOS R6・RF14-35mm F4L IS USM・21mmで撮影・絞り優先・絞りF8・4秒・ISO400

川崎臨海部はもちろん全国的にも有名な工場夜景スポット。化学工場だけでなく、貨物路線の線路を一緒に写せる珍しいロケーション。線路を入れた構図はもちろん、標準ズームレンズや望遠ズームレンズで工場だけを写す構図もおすすめ。プラントが数多くあり、立ち位置によって、工場の見え方も大きく変わってくるのが面白い。(日本触媒 千鳥工場/神奈川県川崎市)
【撮影データ】
CANON EOS R6・RF24-105mm F4L IS USM・24mmで撮影・絞り優先・絞りF8・3.2秒・ISO400

兵庫県の工場夜景と言えば、尼崎や姫路のイメージが強いが、高砂や加古川にも工場夜景名所がある。火力発電所のプラントを間近に見渡せるポイントがあり、鉄塔を入れて全景を縦構図で撮影したり、手前の独特の形状をしたプラントを画面全体に写す構図もおすすめ。(高砂火力発電所/兵庫県高砂市)
【撮影データ】
CANON EOS R6・RF14-35mm F4L IS USM・20mmで撮影・マニュアル・絞りF11・10秒・ISO400

海を挟んで両側に工場が見渡せる公園で、西側は「神戸製鋼 加古川製鉄所」や「関西熱化学 加古川工場」方面が見渡せ、東側は「住友金属鉱山 播磨事業所」が見渡せる。方向によって工場の景観や表情も異なり、望遠ズームレンズで切り取る位置を考えながら撮影を存分に楽しめる。(別府みなと緑地/兵庫県加古川市)
【撮影データ】
CANON EOS R6・RF100-400mm F5.6-8 IS USM・200mmで撮影・マニュアル・4秒・絞りF9 ・ISO400

四国の中でも高知県や徳島県は工場夜景の見える場所が限られるが、高知市内にはセメント工場をちょうど良い距離感で見渡せる場所がある。海を挟んで工場を見渡すロケーションのため、長時間露光で水面に反射する工場の明かりを一緒に写す構図もおすすめ。(太平洋セメント/高知県高知市)
【撮影データ】
CANON EOS R6・RF24-105mm F4L IS USM・56mmで撮影・マニュアル・絞りF8・13秒・ISO400
機材について

●カメラ:CANON EOS R6
●レンズ:CANON RF14-35mm F4L IS USM / CANON RF24-105mm F4L IS USM / CANON RF100-400mm F5.6-8 IS USM
夜景撮影のメイン機であるEOS R6は、フルサイズセンサーを搭載しながら約2010万画素と控えめなため、高感度撮影においてもノイズが少なく、三脚が使えないシーンでも高画質でクリアな画質が期待できる。ボディ内に強力な5軸手ぶれ補正もあり、手持ち撮影でも力を発揮する。 交換レンズは広角・標準・望遠ズームレンズの3本体制であり、F値の小ささよりも、コンパクトさや機動性を重視している。工場夜景撮影においては、RF24-105mmとRF100-400mmの使用頻度が高い。

●三脚:Velbon Geo Carmagne N645Ⅲ
望遠ズームレンズにも対応した中型カーボン4段三脚。雲台を合わせて2kgと軽量で、EVを含め約1690mmの高さがあり、よほど大きなフェンスのある場所で無い限り、オールマイティに活用できる。
まとめ
今回の記事では、工場夜景のキホンからカメラの設定に始まり、作例紹介として10点ほど挙げてみました。まずはカメラ1台と標準&望遠ズームレンズと三脚、LEDライトや反射タスキなどの安全装備を持参の上、定番の工場夜景スポットから訪問してみて下さい。いきなり工場夜景スポットに行くのが不安であれば、日中にロケハンをしたり、グループでの訪問がおすすめです。また、旅行会社などが主催する工場夜景撮影ツアーに参加して、撮影技術を学んだり、工場夜景スポットの場所を教わるのも良いでしょう。
工場夜景撮影のハードルは高いイメージがありますが、この記事を読んで頂いて、少しでも手軽に工場夜景を楽しんで頂ければ幸いです。