カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 保井崇志 × 富士フイルム GFX100RF 実写レビュー
写真・文:保井崇志/編集:合同会社PCT
シリーズ初のレンズ一体型ラージフォーマットセンサー搭載機
ラージフォーマットセンサー搭載のデジタルカメラGFXシリーズに、レンズ一体型モデル「GFX100RF」が登場しました。中判センサーの高画素と、レンズ固定式とした軽量化を両立した「GFX100RF」の魅力を、本機を愛用する写真家 保井崇志さんに解説いただきました。

- 保井崇志(やすい・たかし)
- 1980年大阪生まれ。2010年に趣味で写真を始め、運送会社で働きながら独学で撮影技術を習得。Instagram黎明期から国内外の企業とSNS上でコラボレーションし、2015年にフリーランスのフォトグラファーとして活動を開始。2023年に写真集「PERSONAL WORK」を自社から刊行。日常の機微や日本の伝統美を、陰影を生かした独自の視点で捉える。
目次
「軽い」中判カメラとの出会い
GFX100RFが自宅に届き、箱から取り出し持ち上げた瞬間に笑ってしまいました。とにかく軽い。さっそく付属のストラップを装着して首からぶら下げてみましたが、全く負担を感じません。長年愛用してきた富士フイルムのX100シリーズがGFXバージョンになって目の前に現れた、そういった感覚でした。

2011年に発売された X-M1 を皮切りに、14年間富士フイルムの X シリーズを愛用してきました。旅、風景、ポートレートと幅広く撮影してきましたが、近年自身初の写真集を刊行したことで「やはり自分が撮りたいのはストリート、日常のスナップだ」と再確認します。
そこへ登場したのが今回のGFX100RF。長年スナップを撮り続けてきた筆者にとって、見逃すことの出来ないカメラだったのです。1億画素を超えるセンサーを内蔵しながら、日常スナップに気軽に連れ出せるボディサイズ。まずはそこに魅力を感じて購入することにしました。
操作する楽しさ
アルミの削り出しが美しいカメラの天面には、おなじみの露出補正ダイヤルとシャッタースピード / 感度ダイヤルが並んでいます。露出に関する操作が物理ダイヤルとして可視化されていることに富士フイルムの美学を感じます。

さっそく手にしたその日に撮影に出かけました。まずはファインダー(EVF)をのぞいてみます。背面のフォーカスレバーが、ファインダーをのぞきながら操作できる位置として完璧です。
そして新しいダイヤルやレバーの存在。まずは話題の「アスペクト比切換ダイヤル」。軍艦部のアスペクト比ダイヤルを回すことで、画面の形が「3:2」「16:9」「1:1」などに切り替わります。

カメラ背面上部に配置されたアスペクト比切換ダイヤル
たとえば横長の「65:24」にすると、目の前の風景が映画のワンシーンのように感じられます。これによって一気に切り取りの発想が広がります。
カメラ前面にあるコントロールレバーでサラウンドビューに切り替えることで、必要に応じてフレーム外の情報を覗き見できます。この一連の操作がとても新鮮。
さらに同じくカメラ前面に配置されたデジタルテレコン切換レバーを操作することで、その選択肢はさらに広がります。固定レンズは28mm(35mm判換算)ですが、デジタルテレコン切換レバーを倒すと35mm、50mm、70mm(いずれも35mm判換算) 相当に切り替えられます。

向かって右がコントロールレバーで、内蔵NDフィルターもここで有効にできます。左にあるのがデジタルテレコン切換レバー。グリップを握りながら直感的に操作できる優れたUI。
JPEGは自動リサイズ、RAWは1億200万画素を活かしたクロップなので「デジタルズーム=画質劣化」という先入観は当てはまりません。こう書くとズームレンズのようだと思えるかもしれませんが、レバーで画角が切り替わるという体験は、より「切り取る」感覚が強くなります。

アスペクト比切換と、デジタルテレコン切換レバーを使用して撮影した写真。
富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF5.6・1/200秒・ISO800・WBオート・フィルムシミュレーション:CLASSIC CHROME

上の写真をLightroomで読み込んで「切り抜きと角度補正」を表示した画面。RAWデータには撮影時のクロップ情報が反映されています。
これらの操作を通じて、写真は「何を見てどう切り取るか」という営みだなと再確認させられました。構図を決めるというワンアクションが、これほど高揚感をもたらすとは。写真を撮り始めた頃の、カメラを通して世界が変わって見える感覚を思い出しながらシャッターを切っていました。

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF8・1/320秒・ISO100・WBオート・フィルムシミュレーション:CLASSIC CHROME

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF4・1/500秒・ISO400・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF5.6・1/1000秒・ISO100・WBオート・フィルムシミュレーション:ACROS

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF4・1/1000秒・ISO125・WBオート・フィルムシミュレーション:CLASSIC CHROME

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF4・1/160秒・ISO200・WBオート・フィルムシミュレーション:CLASSIC CHROME

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF4・1/200秒・ISO40・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF5.6・1/125秒・ISO100・WBオート・フィルムシミュレーション:CLASSIC CHROME
手ブレ補正非搭載の影響とISO感度性能
富士フイルムのXシリーズを愛用してきた筆者ですが、実をいうとGFXを使用するのは初めてです。そのため、手ブレ補正非搭載であることが、高画素のGFX100RFにおいてどれくらいの影響があるか全く想像がつきませんでした。
それも数日使った段階で、杞憂だったことに気づきます。GFX100RFはX100VIと同じレンズシャッター機構を搭載しているため、シャッター幕の振動がなくブレが抑えられます。
静音かつ振動のないシャッターのため、シャッタースピードを遅くしても、意図しない限り手ブレの写真が量産されるといったことはありません。筆者の場合は基本的にシャッタースピードを 1/125 以下にすることはなく、その結果として手ブレの写真は一枚もありませんでした。
そもそも、シャッタースピードを遅くする動機としてISOを低く抑えることがあるかと思いますが、GFX100RFのセンサーのISO感度性能は素晴らしく、高ISOであっても色の深さや忠実度は犠牲になっていないと感じました。最高でISO4000まであげましたが、粒子感も美しいので、むしろ積極的にISOを上げようと思ってしまうくらいです。

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF4・1/125秒・ISO4000・WBオート・フィルムシミュレーション:REALA ACE

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF4・1/125秒・ISO2000・WBオート・フィルムシミュレーション:ACROS
フィルムシミュレーションについて
フィルムシミュレーションがあるから富士フイルムを使用しているという方も多いのではないでしょうか。普段はRAW現像を前提としている筆者も、その出発点としての撮って出しの色味には、やはりこだわりがあります。
すでにこれまでの作例で多様なフィルムシミュレーションを使用していることに気づかれたかと思います。基本的によく使用するのが「PRO Neg. Std」と「CLASSIC CHROME」、曇天の日には「PROVIA」、冬の落ち着いた風景には「REALA ACE」といった風に、天気や季節によって使い分けています。もちろんモノクロの「ACROS」も。

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF4・1/125秒・ISO200・WBオート・フィルムシミュレーション:PRO Neg. Std

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF4・1/500秒・ISO125・WBオート・フィルムシミュレーション:ACROS

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF4・1/125秒・ISO160・WBオート・フィルムシミュレーション:ETERNA

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF8・1/160秒・ISO320・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA
X100シリーズになかった機能として、GFX100RFではレンズのコントロールリング(フォーカスリング)に、フィルムシミュレーション切り替えを登録することが可能です(MFモードではフォーカスリングの役割に切り替わります)。
コントロールリングを回すことで、瞬時にモノクロの世界に没入することが出来る。こういった操作感もまたGFX100RFへの信頼が増す要因となっています。

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF7.1・1/320秒・ISO200・WBオート・フィルムシミュレーション:ACROS
写真においてのセレクトの重要性
実写データを Lightroom で開くと、パソコンの液晶越しでも空気の粒のようなものを感じます。1億2百万画素の情報量は桁違いで、広いダイナミックレンジは写真編集においてまさに無双といった印象。トーンカーブを少し持ち上げただけでシャドウが柔らかく起き上がります。

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF4・1/125秒・ISO40・WBオート・フィルムシミュレーション:PRO Neg. Std
露出の操作が間に合わずに撮り損じたと思った写真も、後から救い上げることが出来る。「撮っておいてよかった」と思える写真が確実に増えました。
GFX100RFのRAWデータは 1 枚約 200MBと大きめですが、それは「丁寧にシャッターを切ろう」という意識にもつながります。
そもそも重要なシーンは縦横2カットでおさえることが多いものです。筆者のもうひとつのメインカメラLeica M11の場合、DNGが1枚約70 MBなので、縦横撮れば140 MB。そう考えると、クロップ前提で1カットで済むGFX100RFが、特別重いわけではないと考えることもできます。
とはいえ、毎日何百枚も撮影して残しておくことはパソコンの容量やバックアップの面でも現実的ではありません。撮った後のセレクト作業で「本当に残すカット」を意識的に選別するようになりました。
考えてみれば写真を撮るという行為そのものも、広大な世界から何をどう切り取るか ”セレクト” する行為です。撮った後のセレクト作業に真剣に取り組むことで、撮る段階での ”セレクト” もまた、研ぎ澄まされてゆくのではないでしょうか。

富士フイルムGFX100RF・35mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF8・1/500秒・ISO40・WBオート・フィルムシミュレーション:ACROS
まとめ
GFX100RFは、ラージフォーマットの圧倒的な画質とスナップ機の手軽さを両立し、豊富なダイヤルとレバーによって、写真を撮ることの楽しさを純粋に追求できるカメラです。
この記事と作例を通じて、レンズ固定式デジタル中判という全く新しい製品カテゴリーにワクワクする気持ちを感じとっていただけたら嬉しいです。
