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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 喜多規子 × 初夏の撮影

写真・文:喜多規子/編集:合同会社PCT

喜多規子の初夏の風景撮影に挑戦しよう

初夏。風はまだ少し冷たく、草木はまぶしいほどの緑をまといはじめます。季節のはじまりは、光や空気感がもっとも美しく感じられる瞬間でもあります。そんな初夏の風景を写真に収めるためにはどうしたらいいのか。本記事では、写真家・喜多規子がとらえる初夏の風景作品とともに、その撮影のポイントをわかりやすくお届けします。

喜多 規子 (きた のりこ)
(公社)⽇本写真家協会会員。(公社)⽇本写真協会会員。写真家、前川彰⼀⽒に師事。⽇本国内の⾃然⾵景をテーマに光・⾊・フォルムを⾒つめ表現する。アマチュア時代、多数のカメラ誌の⽉例コンテストにてグランプリや年度賞を受賞後、フリーとして活動。写真集に『MOMENT』(⽂⼀総合出版)、『FORME』(⾵景写真出版)、『桜 ー刹那と 永遠ー』(⽇本写真企画)がある。

はじめに

初夏は暦の上では、一般的に5月初旬から6月初旬までをさします。日本は南北に長く、標高の高い山など場所によっては異なりますが、新緑が美しく、シャクナゲやミツバツツジ、レンゲツツジなどの初夏のお花が咲き誇り、1年の中でも一番爽やかで良い季節です。ぜひカメラを持ってお出かけしましょう。

まずは新緑についてです。すでに平地では新緑が始まり、徐々に緑が濃くなっていますが、高原など標高の高い場所や豪雪地帯に行くと、ちょうど新緑のベストシーズンです。ただ新緑は、紅葉と違って緑のグラデーションなので、湖や滝や渓谷といった水辺の風景と組み合わせたり、初夏の花と絡めて表現すると楽しむことができます。これから挙げる7つのシーンを参考に新緑撮影に挑戦してみてください。

新緑をクローズアップでねらう

まずは身近な場所で芽吹いたばかりの葉を望遠レンズやマクロレンズを使ってクローズアップでねらってみましょう。ポイントは枝ぶりの良い葉を柔らかい光で使って透過光で写すことで、芽吹いたばかりの産毛や葉脈が美しく描写されます。また雨あがりの水滴や朝露をとらえるのも素敵です。その際には被写体の背景処理に注意し、絞りはなるべく開けて、背景をボカしたり、木漏れ日を玉ボケにして、シンプルにまとめるのがコツです。また露出は明るめに設定することで柔らかく優しい作品に仕上げることができます。わざわざ遠くへ行かなくても身近な場所で新緑撮影を楽しむことができます。

大小2枚のもみじの葉が重なっていたので、望遠レンズで影絵のようなイメージでとらえました。絞りは開放側より少し絞ることで玉ボケの大きさや被写界深度を調整しました。

【撮影データ】OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED40-150mm F2.8 PRO・絞りF4・1/250秒・ISO400・WB:晴天

水辺の風景と新緑を撮る

お気に入りの湖や沼・滝や渓谷も新緑の時期に訪れると、また違った表情を見ることができます。新緑のグリーンと水の風景によってマイナスイオンが感じられ、爽やかに表現できます。また滝の流れでは、高速シャッターでとらえて飛沫を止めたり、逆にNDフィルターを使って、スローシャッターで絹のような流れで描写することで、新緑を引き立てることもできます。その場合、風がない朝や夕方の時間帯に撮影することで、新緑の被写体ブレを防ぐことができます。

福島県裏磐梯にある小野川不動滝。滝にかかる新緑にピントを入れて、C-PLフィルターで葉のテカリなどを調整し、カメラ内のライブND機能を使ってスローシャッターで撮影しました。

【撮影データ】OM SYSTEM OM-1 Mark II・M.ZUIKO DIGITAL ED12-40mm F2.8 PRO II・絞りF5.6・1.6秒・ISO200・WB:晴天

特長のある木の新緑をねらう

まっすぐなブナやシラカバなどの木々が整列した新緑の森を見上げ、爽やかに見せるのも素敵な表現ですが、一方で特長のある木の新緑をねらうのも魅力的です。超広角レンズや広角レンズを使って、木の幹に近づきながらレンズを上に向けることでダイナミックに表現できます。曲線美の美しい木やカツラの木や奇形ブナなどを見つけたら、どんな光でどの位置から撮影したら、その樹形の特長が出せるかをよく観察することも大切です。

1本のブナの木ですが、3本に幹が分かれていて特長的です。16mm(35mm判換算)側でかなりローアングルになりながら下から上へ向けて撮影しました。また明るめの露出にすることで幹のディテールも描写できました。

【撮影データ】OM SYSTEM OM-1 Mark II・M.ZUIKO DIGITAL ED8-25mm F4.0 PRO・絞りF5.6・1/2.5秒・ISO800・WB:晴天

初夏の花と新緑を組み合わせる

新緑は緑のグラデーションですので、そこに初夏の花が脇役として加わることで、色合いが引き立ちます。下の作例ではワタスゲの撮影に訪れたところ、まだ葉を開いたばかりのシダの新緑が綺麗だったので主役にし、ワタスゲを脇役に散りばめて撮影しました。新緑の時期は様々な初夏の花が咲き誇るので、新緑と初夏の花を組み合わせて撮影することでさらに新緑の魅力がさらにアップします。

福島県南会津町の駒止湿原で撮影。超広角レンズでシダの群生にできるだけ近寄ってダイナミックに捉え、奥に僅かに撓んだ霧も覗かせることで、朝の爽やかな空気感を表現しました。

【撮影データ】OLYMPUS O-MD E-M1 Mark III・M.ZUIKO DIGITAL ED7-14mm F2.8 PRO・絞りF5.6・1/80秒・ISO200・WB:晴天

異なる季節感と新緑

豪雪地帯では、雪解けが遅い年にはこの時期にもまだ残雪が残っていて、ブナの新緑と同時に楽しむことができます。また、ブナの根元を中心に残雪が丸く溶ける「根開け」が見られるのも特長です。さらに小雨が降ると霧が出やすく、幻想的な新緑の森を表現することができます。また霧に朝日が差し込むブナ林では、運が良いと光芒も見られることができ魅力的です。

新潟県十日町市の大厳寺高原のブナ林で、小雨降る中、霧が入ったブナの森を幻想的に捉えることができました。ブナの根開けのバランスと木と木が重なりに注意しながら撮影しました。

【撮影データ】OM SYSTEM OM-1 Mark II・M.ZUIKO DIGITAL ED12-100mm F4.0 IS PRO・絞りF5.6・1/15秒・ISO400・WB:晴天

インパクトのある場所の新緑を撮影する

下の作例のように、秋田県仙北市に位置する秋扇湖はダム湖となっており、ヤナギの水没林の新緑が楽しめます。玉川温泉からの酸性の成分が含まれた水が流れてきているため、ダム湖の水面の色がコバルトブルーに見えます。さらにC-PLフィルターを使って水面の反射を調整することで、水面と新緑の色をより鮮やかに引き立てることができます。またダム湖では、冷え込んだ朝には水面から気嵐が上がり、雨上がりには霧が発生するところもあり、幻想的な情景をとらえることができます。風がある時には水面の揺らぎを生かし、風がない時には映り込みを狙うのも良いです。

秋扇湖の橋から俯瞰して撮影しました。C-PLフィルターは最大限に効かせて、その後少し戻して反射を調整しました。また風があったので高速シャッターで揺らぎを止めています。

【撮影データ】OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED12-40mm F2.8 PRO II・絞り F5.6・1/500秒・ISO400・WB:晴天

新緑の反射を表現する

新緑撮影は木々や若葉そのものを被写体として表現することがほとんどですが、時には水面や濡れた岩などに映り込んだ新緑の色を間接的に表現することもできます。少し応用になりますが、日陰の川や渓谷の水面には、対岸の光が差し込んだ新緑が映り込みやすいです。また濡れた岩には宝石のようにグリーンに輝きます。目線の位置よりは少しローアングルで観察することで見るけることができますので探してみてください。

濡れた岩場とその窪みに流れる水に新緑の反射が映り込んでいました。そこにひと休みしている落ち葉をポイントにスローシャッターで表現することで、とろけるような緑映の水の表情も描写できました。

【撮影データ】OLYMPUS O-MD E-M1 Mark III・M.ZUIKO DIGITAL ED12-100mm F4.0 IS PRO・絞りF8・1/2秒・ISO80・WB:晴天

初夏の花を撮る

次に初夏の花についてです。初夏にはミツバツツジ・シャクナゲ・クリンソウ・ヤマツツジ・レンゲツツジ・シロヤシオ・ワタスゲなどたくさんの種類のお花が咲き誇ります。どこでどの時期に咲くか情報収集しながら初夏の花の撮影に臨みましょう。また同じお花でも天候(晴れ・曇り・雨)や時間帯・レンズワーク(超広角・広角・望遠・マクロ)によってバリエーション豊かに撮影することができます。

長野県松本市に位置する鉢伏山では6月中旬ごろレンゲツツジを楽しむことができます。手前のレンゲツツジと空と太陽の露出を合わせるためにGNDフィルターを使って仕上げました。

【撮影データ】キヤノンEOS 5DsR・EF24-105mm F4L IS II USM・絞り F5.6・1/25秒・ISO800・WB:太陽光

長野県松本市に位置する美ヶ原高原でも6月中旬ごろレンゲツツジを楽しむことができます。早朝、小雨降る中ホワイトバランスは太陽光で撮影することで、霧がブルートーンに染まり幻想的でした。

【撮影データ】OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED12-40mm F2.8 PRO II・絞り F5.6・1/2.5秒・ISO400・WB:晴天

長野県塩尻市に位置する高ボッチ高原で撮影。レンゲツツジの花がシダの新緑に包まれ、ブーケのようなイメージで、超広角レンズで俯瞰して捉えました。

【撮影データ】OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED8-25mm F4.0 PRO・絞りF5.6・1/160秒・ISO400・WB:晴天

栃木県の日光では初夏になるとツツジ系の花が咲き誇ります。ミツバツツジ、シロヤシオ、ヤマツツジなど…2023年はシロヤシオが当たり年で、新緑と絡めて柔らかい光で撮影しました。

【撮影データ】富士フイルムGFX100S・GF32-64mm F4 R LM WR・絞りF16 1/60秒 ISO400・WB:晴れ

森に広がる山野草であるクリンソウは、湿地帯に自生するサクラソウの一種で、5月初旬から6月にかけて楽しめます。朝日が差し込むと朝露がキラキラと輝きました。

【撮影データ】OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED12-40mm F2.8 PRO II・絞りF 5.6・1/20秒・ISO400・WB:晴天

まとめ

今回は初夏の風景撮影ということで、まずは新緑をシーンごとに①〜⑦まで挙げてみましたが、この7つのシーンを参考にしていただき新緑写真のバリエーションを増やしてみてください。また初夏の花は開花情報などの情報収集をした上で、ぜひチャレンジしてみてください。まだ早朝と日中の寒暖差が激しいので、防寒対策も忘れずにしっかり撮影準備をして臨むと良いでしょう。

機材について

◉カメラ:OM SYSTEM OM-1 Mark II/富士フイルム GFX100SII

・OM-1 Mark II は、コンパクトなボディで機動力を生かした表現にも最適です。
・GFX100S IIは、有効画素数約1億200万画素の圧倒的な描写力が魅力的です。

◉フィルター:
100mm K-Seriesドロップイン Natural CPL(H&Y Filters)、100mm K-SeriesフィルターホルダーMarkⅢ(H&Y Filters)、100x150mm K-SeriesハードGND(H&Y Filters)

CPLなど丸型のドロップインフィルターは上から滑り込ませるだけ、度合いの回転調節もスムーズ。NDフィルターやGND(ハーフND)フィルターはマグネットで着脱、さらにGNDフィルターは軽くスライドすれば位置調節ができます。

◉カメラバック・三脚:
サミットクリエイティブ テンジン45L ジップ バックパック(カメラバック)、レオフォトLS-324CKN(三脚)・LH-40(雲台)

カメラバッグはリュクタイプで45Lでカメラ機材の他、防寒着なども収納可能。
三脚は長伸が1695mmあり、脚が32mmの4段のコンパクト。また防水ロックナットを採用しているので、渓谷や海岸の撮影にも安心して使えます。