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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 鹿野貴司×神社仏閣の撮影の仕方

写真・文:鹿野貴司/編集:合同会社PCT

神社やお寺の撮影をひと工夫して楽しもう!

神社やお寺を旅行の目的地として選ぶ方も多いのではないでしょうか。足を運ぶと撮影を楽しみたくなり、たくさん撮影するけれど成果が得られなかったりもするかと思います。今回は写真家の鹿野貴司さんに、神社仏閣を撮影する際のアドバイスを紹介いただきました。

鹿野貴司(TAKASHI SHIKANO)or(しかの・たかし)
1974年東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、さまざまな職業を経て写真家に。広告や雑誌などを手掛けるかたわら、スナップやドキュメンタリーの作品を精力的に発表している。近年の写真展に「煩悩の欠片を燃やして菩提の山へ走れ」(ナインギャラリー)、 「この雨が地維より湧くとき」(ソニーイメージングギャラリー)など。昨年9月には『いい写真を撮る100の方法』(玄光社)を出版。日本写真家協会会員。
Instagram:@shikanotakashi
X:@shikanotakashi

はじめに

僕は寺院からの依頼による撮影を多く手掛けている。また取材で各地の神社を撮影した経験もある。お寺や神社には時折奇抜な建物もあったりするが、伝統的な様式というものがあり、誰もがそれをイメージしやすい。ゆえに写真で表現しても、既視感があったり、型にはまったものになりやすい。

それを脱皮するポイントは構図と露出だ。構図の話は作例とともに解説するが、その基本となるのはレンズワーク。超広角から望遠、マクロまで、使おうと思えばあらゆるレンズに出番がある。ただ個人的には高倍率ズームと明るい標準レンズの2本があれば、ほとんどの場面に対応できると思う。さらに余裕があれば3本目は超広角レンズを選択。これでスケールの大きな建物や狭い場所も撮ることができる。

露出に関しては光に包まれたような状況をのぞけば、おおむねマイナス方向へ補正しよう。寺社の建築物は赤や黒に塗られていたり、あるいは木の壁や瓦屋根が歴史や荘厳さを感じさせる。それらはカメラ任せで撮影すると、やや明るめに再現されて“軽く”見えてしまうのだ。それをベースに、お寺や神社を撮るうえでのさまざまなポイントをお伝えしていこう。

僕がプライベートでお寺か神社を撮りに行くとしたら、機材はこんな組み合わせだろうか。ソニーα7R IVとタムロン28-300mmF4-7.1 Di III VS VXDは、この記事のために今回撮り下ろした作例で使用。そこにシグマ20mmF2 DG DN|Contemporaryと、50mmF1.2 DG DN|Art。さらにスーパーサブとしてリコーGR IIIxがあれば完璧だ。

全体像よりもクローズアップを

ソニーα7R IV・ タムロン28-300mmF4-7.1 Di III VS VXD・絞りF11・1/125秒・ISO400

たとえばお堂や門などを撮るとき、全体をフレームに収めると空や周囲も広く写り込む。その結果、写したかった対象が小さくなってしまったり、印象が弱くなりがちだ。説明のための写真を撮るわけではないので、思い切って一部をクローズアップしてみるのもいい。ちなみに焦点距離は上から31mm、44mm、105mm。倍率が高めの標準ズームや高倍率ズームがあると、このような画角変化も自在だ。

構図を切り詰めて主題を浮き立たせる

ソニーα7R IV・ タムロン28-300mmF4-7.1 Di III VS VXD・絞りF11・1/640秒・ISO6400

これもフレーミングを切り詰めた一例。見せたかったのは門の向こうの石段とそこを登っていく人物だ。焦点距離は左が144mm、右が203mm。情緒があるので門構え全体を写し込むのもいいが、周囲を切ったほうがシンプルかつシャープに見えると思う。

比較対象を入れてスケール感を

ソニーα7R IV・ タムロン28-300mmF4-7.1 Di III VS VXD(52mmで撮影)・絞りF11・1/250秒・ISO500

建物のスケール感を表現するのに最適なのが人物だ。比較対象として写すと、規模が伝わりやすい。コツは位置や写る人物の服装も考え、小さくても目立つように写すこと。

色に着目して画面を構成する

上/リコーGR III・絞りF2.8・1/500秒・ISO200
中/キヤノンEOS 5D Mark III・EF40mmF2.8 STM・絞りF2.8・1/400秒・ISO100
下/ニコンZ 9・ニッコールZ 24-70mmF4S(68mmで撮影)・絞りF5.6・1/100秒・ISO100

お寺も神社も、彩色といえばほとんどが赤。ゆえに赤と対照的だったり、あるいは赤を背景として構成するのもひとつのテクニック。上の写真は静かな境内をどう切り取るか考えていたら、たまたま青いコートを着た人物が現れた。

一方、中の写真は偶然行事に遭遇したときのスナップ。鮮やかな赤が目に飛び込んできたので、なるべく赤が画面を占めるよう、近寄って構図を切り詰めた。手前の傘を持った男性の白い装束が、赤の引き立て役になっている。

下の写真は赤を背景にしたスナップ。なお赤はモノクロとの親和性も高く、浅草寺の赤い壁を背景にした、鬼海弘雄氏のポートレート作品をご存知の方も多いと思う。濃度にもよるがモノクロで赤はおおむねグレーに再現される。

神様の通り道を塞がない

上/ソニーα7R IV・ タムロン28-300mmF4-7.1 Di III VS VXD(135mmで撮影)・絞りF8・1/200秒・ISO100
下/ペンタックスK-3 Mark III・HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW(19mm/フルサイズ29mm相当で撮影)・絞りF3.2・1/125秒・ISO200

日本のお寺や神社に限らず、宗教施設というのは見事なシンメトリー(左右対称)で構成されていることが多く、中央でカメラを構えてそのように切り取りたくなる。しかし神社においては、鳥居と本殿を結ぶ境内の中心線は神様の通り道とされている。明確に撮影を禁じられているケースは少ないと思うが、神社のポスターを見ると一見シンメトリーでも、わずかに角度をずらしていることが多い。撮影は常に被写体へのリスペクトがあってのもの。少し意識しておくといいと思う。

なおお寺ではそのような考え方はないようだが、お堂の前では中央(=本尊の真正面)で参拝する方が多い。くれぐれも邪魔にならないよう気をつけよう。

太陽を“飾り”として生かしてみる

上/ソニーα7R III・ バリオテッサーT* FE24-70mmF4 ZA OSS(70mmで撮影)・絞りF8・1/4000秒・ISO100
下/ペンタックスK-3 Mark III・HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW(43mm/フルサイズ66mm相当で撮影)・絞りF5.6・1/1250秒・ISO200

逆光で建物が影になってしまうときは、太陽を建物の縁と重ね合わせ、キラッと光るポイントを狙ってみよう。かつてのレンズであればゴーストやフレアが発生しやすい状況だが、最近のレンズはゴーストが出にくく、思いのままに太陽を配することができる。また一眼レフのファインダーは太陽の光が目にダメージを与えかねないが、ライブビューやミラーレスではその心配がない。ただし長時間太陽にカメラを向けていると、センサーに悪影響を及ぼすので注意しよう。

伸びる影をデザインチックに

キヤノンEOS 5D MarkIV・EF16-35mmF4L IS USM(16mmで撮影)・絞りF8・1/100秒・ISO100

お寺や神社は都市部でも敷地が広く、おおむね日当たりがよい。そのため太陽が傾く夕方はドラマチックな写真が撮れることが多い。長く伸びた影は、広角レンズがあるとおもしろいと思う。また影を引き締めるために、露出補正はマイナス方向に振るのがセオリーだ。

あえて構図を崩すことで動きをつくる

ソニーα7R IV・ タムロン70-180mmF4-7.1 Di III VS VXD(112mmで撮影)・1/250秒・絞りF2.8・ISO2500

人が行き交う場面をスナップ的に撮影しても、いまひとつハマりにくいのもお寺や神社での撮影あるある。それは建物の存在感が勝ってしまい、よかれと思って配した人物が邪魔になっているからだ。そういうときは水平を傾けるなど、構図を崩してみるのもいい。建物の存在感が薄まり、相対的に写真に動きが生まれてくる。

明るいレンズや径の小さいレンズが役に立つ

上/ソニーα7R II・ FE85mmF1.4 GM・絞りF1.4・1/400秒・ISO100
中/ソニーα7R II・ FE50mmF1.8・絞りF2.8・1/60秒・ISO1600
下/富士フイルムX100F・絞りF2・1/150秒・ISO400

明るい標準~中望遠レンズがあると、印象的であったり、象徴的な光景をかっこよく切り取ることができる。また日没後の境内を手持ちで撮る場合にも、そのようなレンズが一本あると心強い。

また前玉の径が小さいレンズ固定式のコンパクトカメラや、比較的リーズナブルな交換レンズも、金網越しに撮るときに有効だ。僕も寺院での仕事には必ずコンパクトカメラを持参する。そこにあるものが動かせず、何かの隙間越しに撮らねばならないことが多いためだ。

まさに早起きは三文の徳

ソニーα7 II・ バリオテッサーT* FE24-70mmF4 ZA OSS(25mmで撮影)・絞りF8・1/125秒・ISO100

旅先では早起きすると散歩がてら寺社を撮りに行くことが多い。早朝から開いているというのもあるが、写真にも写る朝の空気感がハマりやすいのだ。夜露で濡れた石畳などは定番のモチーフだ。

雨の日だからこそ撮れる情景を狙う

リコーGR IIIx・絞りF4・1/100秒・ISO1250

旅先で雨に降られると、どうしても気分が落ち込んでしまう。そんなときこそ神社やお寺に向かってみよう。雨ならではのしっとりとした、あるいは幽幻な風景を撮ることができる。

ポイントはホワイトバランスを青みの強い方向へ設定すること。僕は雨の場合、マニュアルで4000Kに設定するか、プリセットの蛍光灯を選ぶことが多い。それから露出差で空が飛びやすくなるので、構図を工夫してなるべくそうした部分を作らないようにしている。この写真でも手前の木をシルエットにしてシャドウ部分を増やし、相対的に奥の建物を引き立たせている。

桜や紅葉を主題の引き立て役に

上/キヤノンEOS 5D MarkIV・シグマ50mmF1.4 DG HSM|Art・絞りF1.4・1/1000秒・ISO100
下/ソニーα7R IV・ シグマ24mmF2 DG DN|Contemporary・絞りF2・1/2500秒・ISO100

お寺や神社といえば、季節の草花、とくに桜と紅葉は定番のモチーフだ。それ自体を写すのもいいが、僕は積極的に前ボケとして生かしている。桜や紅葉越しに見えるお堂にピントを合わせ、心地よい立体感や奥行き感を作るのだ。

まとめ

アマチュアの方の多くは、寺社をおそらく風景的なモチーフとして捉えていると思うが、そもそもは信仰の対象である宗教施設。地域の人たちの心の拠り所であったり、貴重な文化財という側面もあったりする。くれぐれも礼節を欠くことなく、撮らせていただいているという気持ちでレンズを向けてほしいと思う(当然撮影禁止と掲示されたところでは、それを守っていただきたい)。

また合掌や礼拝はもちろんのこと、建物や植物の維持には相当なコストもかかっており、感謝の気持ちとしてお賽銭を置いていくのもいい。寺社にとってプラスになるだけでなく、いい行いをしたことでポジティブな気持ちが生まれ、その後の撮影にも好影響を与えるはずだ。

今回のカメラ・レンズ

タムロン28-300mmF4-7.1 Di III VS VXD
◉発売日=2024年8月29日 ◉メーカー希望小売価格=165,000円(実売105,750円税込)

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ニコンZ 9
◉発売日=2021年12月24日 ◉メーカー希望小売価格=オープン(実売694,980円税込)

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ニッコールZ 24-70mmF4S
◉発売日=2018年9月28日 ◉メーカー希望小売価格=オープン(実売121,275円税込)

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