カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 宇佐見 健× 航空写真の撮り方
写真・文:宇佐見 健/編集:合同会社PCT
「自衛隊航空機でヒコーキ写真にチャレンジしよう」
今回は航空写真の撮り方を、自衛隊の航空機を例に、写真家 宇佐見 健さんに解説いただきました。撮影できる機会の紹介から、撮影時に気をつけたいポイント、撮影時のカメラ設定まで、たくさんの作例とともにお届けします。ぜひ参考にしていただき、撮影に出掛けましょう。

- 宇佐見 健(うさみ・けん)
- フリーランスフォトグラファー、日大芸術学部写真学科卒。JSPA会員。2010年よりカメラグランプリ外部選考員。航空祭は2013年から新製品機材のレビュー記事やガイドムックの作例撮影に行くようになり、三沢、松島、小松、百里、入間、静浜、浜松、岐阜、三保、築城、新田原の各基地は遠征済み。好きな機体はF-15。
目次
はじめに
航空機は人気の高い被写体テーマの一つですが、近年は小型軽量化されて扱いやすい望遠レンズも種類が増え、カメラボディのAF機能にも被写体認識「航空機」が搭載されるなど誰でも撮影を手軽に楽しめるようになりました。
民間の大型旅客機から自衛隊が運用する戦闘機や輸送機など種類は様々です。この記事は人気のアクロバット飛行チームブルーインパルスのほか、戦闘機や偵察機など、航空自衛隊の機体の撮影を始めるにあたり知っておきたい知識などを航空祭や基地周辺で撮影した作例とともにご紹介します。
いつ、どこで撮れる?
自衛隊機の飛行シーンを撮影できるのは、滑走路のある自衛隊基地周辺です。基地だけの施設もありますが、民間の飛行場(地方空港)と併設で管制や滑走路を共用している基地も多いです。飛行場の施設の展望エリアで撮影できる場合もありますし、飛行場そばに見晴らしの良い公園や展望広場などが設けられているはずです。それ以外は交通を妨げたり人に迷惑をかけることの無い場所を探しましょう。
自衛隊は旅客機のように定刻の発着をしているわけではないので、いつでも撮れるという保証はありません。ようはタイミング次第なのですが撮影できるチャンスをあげてみましょう
・年に一回基地で開催される航空祭(日曜・祝日などに開催)

航空祭は航空自衛隊の基地が一般に公開されるお祭りです。基地内に入場でき、観覧エリアなど通常よりも近い距離から撮影可能です。プログラムの一環として所属部隊の使用する航空機が行うデモンストレーション(展示飛行)が最大の見どころ。中でも精鋭パイロット達で組織されたアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」は航空祭の花形であり航空祭プログラムのハイライトです。しかし毎年同じ基地の航空祭に参加しているわけではありません。航空自衛隊のホームページでは各地の基地が行う航空祭の日程やブルーインパルスの参加の有無などを知ることができます。
航空自衛隊ホームページ→ https://www.mod.go.jp/asdf/
「展示飛行とは?」
航空機が実際に飛行する姿を披露することで、機体の運動性能の一部を紹介するために、急上昇や急旋回などの飛行姿勢を実演披露する「機動飛行」と、単体もしくは複数の機体が編隊を組んで飛行する「航過飛行」の2つに分けられます。簡単に言うと、機動飛行は激しい飛び方、航過飛行は目の前をゆったりと通過していくような飛行です。
特に戦闘機の機動飛行は高速飛行や激しい機動によるエンジン音も含めて迫力シーンの連続で、航空祭以外では撮影できる機会はありません。一部の航空祭は隣接する在日米軍基地と合同で開催されるものもあり、米軍機による機動飛行は特にその激しさも、多くの航空機撮影ファンを魅了しています。

SONY α9・SIGMA 150-600mm F5-6.3DG OS HSM Contemporary・1/2500秒・絞りF9・ISO640
6機編隊で鳳凰を模したフェニッス隊形を保ち、スモークを引きながら大きく横方向へ回転する展示課目「フェニックスループ」。写真は背面で宙返りをしているタイミングを真上方向にカメラを構えて撮影しています。

NIKON D850・AF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VR・1/1600秒・絞りF11・ISO400・AWB
飛行しながら戦闘機に燃料補給が可能な空中給油機。デモンストレーションなので実際に給油は行っていませんが航空祭でなければ撮ることはできないシーンです。左翼側にいたF-15戦闘機が離脱のために機体を傾けたタイミングを撮影。
・航空祭の前日予行
航空祭の前日には予行が行われます。リハーサルではあっても、基地の周辺住民や隊員の家族などの招待日を兼ねることが多く、本番とほぼ同じプログラム内容で実施されます。招待客以外は基地内に入場はできませんが、基地周辺のビュースポットから展示飛行を撮影できます。二日間連続で基地に行くことができるなら、本番は中と外の全く違ったアングルでの撮影にするか、予行撮影の結果を確認した上で再度同じ場所で撮影するかを選択できるということ。本番より前日のほうが天気が良かった・・・ということもたまにあります。

SONY α9・SIGMA 150-600mm F5-6.3DG OS HSM Contemporary・1/2500秒・絞りF9・ISO640
予行でも機動飛行の迫力は本番と同じ。ベイパーは高速飛行する機体の翼端などに発生する白い筋状の飛行機雲のこと。特に戦闘機の機動飛行で出たり消えたりを繰り返す現象のため多くのカメラマンは盛大なベイパーの瞬間を連写で狙います。写真の機体は米軍のF-16。
・基地で日常行われる訓練飛行
平日でも訓練飛行が行われていれば基地周辺の撮影スポットで離着陸シーンなどを撮影できます。タッチアンドゴーを繰り返す訓練なら撮影チャンスは多くなりますが、実戦的な訓練は基地から空域で行われるため、離陸シーンを撮影したあと、帰投・着陸シーン撮影のまでの待ち時間が数十分に及ぶことも。
※自衛隊も部署によりますが各基地も週末はほとんどが定休日です。

SONY α9・SIGMA 150-600mm F5-6.3DG OS HSM Contemporary・1/1600秒・F11・ISO640
基地周辺での撮影では機体主体だけでなく季節感を伝える撮り方もしておくと良いです。10月初旬のススキを前景にとりいれてみました

NIKON Z7・AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR・FTZ・1/1600秒・F6.3秒・+0,7EV・ISO720・AWB
写真は着陸間際のF-2戦闘機。滑走路をどちらの向きで運用するかは風向き次第で決まります。一日に何回も変更されることがありますが、平日は周辺道路の渋滞も少なく移動しながらの撮影が容易な車が断然有利です。

SONY α9・SIGMA 150-600mm F5-6.3DG OS HSM Contemporary・1/1000秒・F11・ISO1250
訓練を終え誘導路を通りエプロンへ戻るF-2戦闘機。フェンス越しに手を振る見学者にパイロットが応えてくれています。

SONY α9・SIGMA 150-600mm F5-6.3DG OS HSM C・1/100秒・絞りF6.3・ISO12800
夜間訓練では撮影条件は厳しくなりますが、普段と全く異なるテイストの写真が撮れるチャンス。シャッター速度を遅く設定して流し撮りなどに挑戦するのも良いでしょう。
ブルーインパルスが所属する松島基地の公式サイトでは翌週の基地上空訓練の予定を確認できます。航空祭さながらの展示飛行が繰り広げられることも多いので平日でもカメラを構えたファンが基地周辺でシャッターチャンスを狙っています。常連さんから撮影ポイントなどの情報を得られることも。

NIKON Z7・AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR・FTZ・1/2000秒・絞りF11・-0.7EV・ISO720・AWB
基地上空の訓練を撮影。これだけ見たら本番、予行、訓練なのか見分けがつきませんね。訓練では本来より少ない機数で飛ぶことも多いので、普段の訓練飛行で6機揃いが撮れたらとてもラッキーと思ってよいです。
・記念行事や国際的なイベントでの展示飛行を撮影する
ブルーインパルスの年間スケジュールには「市政●●周年」など自治体の記念式典やお祭りでの展示飛行も多数予定されています。カーレースではF-2戦闘機がサーキット上空を航過飛行するオープニングアクトが行われることも。イベント告知をチェックするなど常に情報収集につとめましょう。ほとんどの場合で航空祭と同様に本番前日に予行が行われることが多いです。

RICOH GR III・1/1000秒・絞りF5.6・-0,7EV・ISO100・AWB
東京オリンピックの開会式で都心上空を飛行したブルーインパルス。新宿で都庁舎と絡めて撮影。広角の構図だけが狙いだったのでコンパクトなGR III一台のみで臨みました。
カメラとレンズの準備。機体を大きく得るには望遠レンズ
自衛隊の機体は大きさも様々ですが乗員1~2名の戦闘機や練習機の単体を大きく写したい場合には300ミリ程度では物足りなく思うことが多いかもしれません。ただし画角が狭くなるほど高速で飛ぶ機体をファインダーに安定して捉えることは難しく、慣れが必要です。とりあえずは400ミリ界隈からステップ行くと良いでしょう。手持ち撮影でカメラを空に向ける時間が長くなるので腕力も考慮して無理のないレンズを選びましょう。
航空祭や基地周りでの撮影では背景となるのはほとんどが空ですが、自治体の記念行事やイベントでの航過飛行では地上のランドマークも一緒に写し込みたくなるはずです。このような場合はやはり広角レンズで狙ったり、少し距離が離れた場所から望遠レンズで機体と景色を圧縮する方法もあります。

CANON EOS 7D MarkⅡ・SIGMA 150-600mm F5-6.3DG OS HSM Contemporary・1/1600秒・絞りF9.0・ISO800・AWB

CANON EOS 7D MarkⅡ・SIGMA 150-600mm F5-6.3DG OS HSM Contemporary・1/1600秒・絞りF9.0・ISO800・AWB
撮影を重ねるともっと大きく写したい!という欲求が出てくるのは当然です。機体をロールさせながら比較的低い高度で観覧席正面を横切る課目ではコクピット側を地上に向けた姿勢を大きく捉えるチャンス。背面飛行時にポーズをきめる後部席の隊員の姿もはっきり確認できます。さらに経験を積むと800ミリや900ミリオーバー・・・いけるところまで行ってください(笑)

OLYMPUS E-M1 MarkII・M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO + MC-14・1/1600秒・絞りF13・ISO400
ブルーインパルス5番機、6番機が航空祭展示飛行の締めくくりに行う課目「コークスクリュー」を、進行方向に5キロ弱離れた山から焦点距離840ミリ相当で撮影しました。
高速な飛行機を写しとめる撮影設定
・AFモードやエリアの設定
動く被写体のためコンティニュアスAFモードの設定が基本です。AFエリアは被写体補足に慣れるまで広めのAFエリアを使うのが良いでしょう。航空機に対応する被写体認識やAFトラッキング(追従)などの機能が備わった機種はマニュアルや使用ガイドをよく読んで利用しましょう。
・ファンクションボタンを活用しよう
メニューの設定画面をファンクションボタンでダイレクトに呼び出す設定が可能な機種は、よく使う機能を割り当てておくと便利です。
・動きとブレを防ぐシャッター速度設定
高速な動きを止め、カメラブレも防ぐためにはシャッター速度が概ね1/1600秒を下回らない露出設定を推奨します。マニュアルモードでシャッター速度と絞りを固定し、明るさの変化にはカメラが自動でISO感度を可変するISOオートを使うのも有効です。高感度時はノイズが出やすいので画質的に自分が許容できる範囲でISO感度の上限設定をしておくことをおすすめします。
・必ずしも高速連写でなくてOK
手持ちの動体撮影ではフレーミングやAFのズレ、手ブレなども起こりうるため保険の意味でも連続撮影が無難です。慣れないうちは必要以上にシャッターボタンを長く押してしまいがち。バッファメモリが埋まるなどすれば肝心のシャッターを逃すので注意が必要です。連続撮影は歩留りという意味では有効ですが、必ずしも1秒間に数十コマの高速連写機が必要ということはありません。書き込み速度の速いメモリーカードを選びましょう。
次の5カットは撮影日も基地も異なりますが、先の項目でα9の作例写真でお見せしている「フェニックスループ」をほぼ同じ位置関係の地上から×1.4テレコンを装着した150-600mmズームの望遠端840ミリで撮影したものです。

Canon EOS 5D Mark IV・TAMRON SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 A022 +1.4x III・840mmで撮影

Canon EOS 5D Mark IV・TAMRON SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 A022 +1.4x III・840mmで撮影
1枚目から4秒後の撮影。6機揃って機首は真下(地面)方向を向いてきているため、青く塗られた胴体下部は見えず、機首に対して少し高い位置から撮影をした印象を受けるアングルです。

Canon EOS 5D Mark IV・TAMRON SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 A022 +1.4x III・840mmで撮影
さらに4秒後。機首を上げ始めていますが、まだ機体と同レベルの高さから撮影した印象を受けるアングルです。5番機をフレームアウトさせ6番機をかろうじて入れています。ここから全押しキープの連写を開始。

Canon EOS 5D Mark IV・TAMRON SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 A022 +1.4x III・840mmで撮影
約0.5秒後(2コマ後)4機の構図に整えました。

Canon EOS 5D Mark IV・TAMRON SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 A022 +1.4x III・840mmで撮影
さらに約0.5秒後(3コマ後)個人的な好みは3コマ前なのでここで連写を止めました。
一連の写真でお伝えしたいのは、操縦席が見える角度で撮影できるのは、ほとんどが高高度で背面飛行状態にあるか、遠距離で機体を大きく傾けているタイミングなのです。それを大きく写すには900ミリクラスのレンズが必要で、複数の機体とスモークが圧縮されて画に迫力を与えてくれます。
また、この課目で言えばEOS 5D Mark Ⅳの最高約7コマ/秒程度の連写速度でも狙った画が撮れました。
事前の準備や覚えておきたいこと
航空祭の展示飛行を高画質で録画した動画をYouTubeなどの動画配信サイトで簡単に観ることができます。ブルーインパルスの映像を予め見ておくと、観覧エリアの様子も含め当日どのような展示飛行が繰り広げられるかも予習ができ、本番の撮影に必ず活かせるでしょう。
航空祭は人気が高く、何万人もの人が来場するため、良い位置での観覧や撮影を望む人が始発電車などを利用し、入場門が開く数時間前から列を作ります。入場には手荷物検査があり時間が掛かりますので、時間に余裕をもって出かけましょう。

FUJIFILM X-E3・XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR・1/1250秒・絞りF5.0・ISO200

FUJIFILM X-E3・XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR・1/1250秒・F6.4・ISO640
開門前の早朝から並ぶ必要があるためハードルは高いのですが、航空祭では早い時間に入場できれば良い撮影ポジションをキープできるかもしれません。最前列からは遮るものなく機体を撮影できたり(上1枚目)、整備士やパイロットの動きも追うことができます。キャノピー越しのパイロットの真剣な視線を最前列から望遠ズームで捉えました。(2枚目)
一部の航空祭では有料の撮影エリアを設ける基地もありますが、ほとんどの基地で三脚、一脚、踏み台などの持ち込みは禁止されています。近年はレンズの全長に制限が掛かることが多いので、不明な点は直接問い合わせ確認しましょう。
基地周辺の撮影では迷惑駐車や私有地への立ち入りなどは厳禁です。公衆トイレの場所なども事前に把握し、ゴミなどは全て持ち帰ります。苦情などにより規制が掛かれば困るのは自分たちです。
まとめ
自衛隊の航空機撮影に少しでも興味を持っていただけたでしょうか?
コロナ禍も過ぎ、開催見送りや入場制限などされていた全国各基地の航空祭も、2024年にはほぼ元通りの誰もが楽しめる通常開催に戻りました。また新型の機体への更新も進み、最新ステルス機F-35による機動飛行の展示もされるようになっています。
撮影機材も小型軽量化されて航空祭撮影に向く機材も揃い、撮影を始めるにはとても良い環境とタイミングになりました。
もうしばらくすると航空自衛隊のイベントスケジュールも今年度の予定に更新されるので、ぜひとも撮影プランを立てて航空機の撮影を楽しんでください。