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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 深澤 武×ニコン Z レンズ

写真・文:深澤 武/編集:合同会社PCT

写真家 深澤 武のおすすめニコンZレンズ

ネイチャーフォト作品で活躍されている写真家の深澤武さんに、ニコンZレンズよりおすすめの5本を選定いただき、作例とともに解説いただきました。レンズ購入の参考に、お楽しみください。

深澤 武
1974年生まれ。東京理科大学工学部電気工学科卒。穂高岳など北アルプスの山々に憧れ、山歩きをしながら風景写真を撮り始める。北は利尻山、南は宮之浦岳(屋久島)まで日本各地を取材する。近年は奄美群島や琉球諸島など、琉球弧の島々へフィールドを広げ、「黒潮に育まれた生命」をテーマに風景や生物の撮影を続けている。富士フイルムフォトサロンやニコンサロンなどで写真展多数開催。写真集「沖縄・八重山諸島」、「奄美・琉球」(青菁社)など著書多数。最新刊は「にっぽん桜めぐり」(青菁社)。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。

はじめに

ネイチャーフォトの撮影フィールドは幅広く、海、川、山など変化に富んでいます。フィールドでの撮影を軽快に行うために装備の軽量化は不可欠です。バランス感覚が求められる登山道や滝を目指して沢を遡上するようなシーンにおいて軽量化は安全に直結します。フィールドでは予想外の出会いがよくあり、千載一遇のチャンスとなることもありえます。軽量化のために特定のレンズを置いていくことはせず、いつでも機材一式を携行することで嬉しい出会いに備えています。私の場合は広角14ミリから望遠200ミリまで、加えてクローズアップ撮影用のマイクロレンズはいつもカメラザックに入っています。ホタルや星空の撮影では開放F2.8クラスの明るいレンズを使うこともありますが、常用しているのはF4クラスのコンパクトなレンズたちです。自然風景をドラマチックに描き出してくれる5本のレンズをご紹介します。

NIKKOR Z 14-30mm f/4 S

眼前に広がる雄大な風景を余すところなく捉えられる広角ズーム。Zレンズのなかでも使用頻度が高く、特に気に入っているレンズのひとつです。広角端が14ミリまであり、引きが取れない場面でも広い風景を捉えるのに有利です。Zマウントはマウント径が大きく、フランジバックが短いため、レンズ設計の自由度が増しました。この恩恵を大きく受けたのがZ 14-30mmF4Sです。

画面全体にわたって精緻な描写を見せてくれ、一眼レフ(Fマウント)の広角ズームに比べて周辺部の画質が目に見えて向上しています。また広角側が14ミリありながら、82mm径のフィルターを装着できることも大きなメリット。C-PLフィルターでメリハリのある色彩を引き出すのはもちろん、NDフィルターでスローシャツターを生かすなど、オールマイティに風景撮影で活躍します。さらに100ミリ角のハーフNDフィルターを使用できるため朝夕の光を生かした撮影にも有利。S-Lineの名の通りナノクリスタルコート採用なので安心して強い光を捉えられます。

朝日、夕日はもちろん、昼間の太陽をワンポイントで入れるような場面において、ゴーストのないクリアな仕上がりを得られます。全長85mm、質量485gとコンパクトなのもありがたく、昼間なら手持ちで軽快に撮影できます。

新雪を纏った岩手山。山頂に広がる火口丘を14ミリ広角端で撮影しました。太陽を画面に入れてワンポイントとしましたが、ナノクリスタルコートの効果もあり、ゴーストやフレアが目立たないクリアな仕上がりです。
ニコン Z 7・NIKKOR Z 14-30mm f/4 S・A(絞り優先)モード・絞りF16・1/320秒・−0.7EV補正・ISO200・WB5000K・手持ち撮影

大岩を抱きかかえるように成長したサワラ。超広角14ミリでサワラに迫り、森の広がりを捉えつつ、大木の存在感を引き出しました。周辺まで安定した描写を見せてくれ、森の木々や苔むした岩を精緻に描き出してくれました。
ニコン Z 9・NIKKOR Z 14-30mm f/4 S・A(絞り優先)モード・絞りF16・1/1.3秒・−0.7EV補正・ISO200・WB5000K・C-PLフィルター・三脚使用

NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S

開放F2.8の大口径広角ズーム。質量650gと大きくて重いので常時持ち歩くわけではありませんが、星空やホタルなどの撮影で活躍するレンズです。広い画角を生かして星空と風景を一緒にフレーミングする星景写真を撮るのにぴったりです。ISO6400やISO12800に感度を上げると、開放F2.8、露光時間10秒程度となり、星を流さずに点像として捉えることができます。絞り開放での星空撮影はレンズ性能の良し悪しがはっきりでます。このレンズなら星々を乱れの少ないクリアな像で捉えられます。

またアルネオコートとナノクリスタルコートを採用しており、ゴーストやフレアが少ないのも大きな魅力。朝夕の光はもちろんライトアップの強い光源があっても安心して撮影できます。バヨネットフード を使えば112mmのフィルターを使用可能ですが、私は大きくて高価な112mmのフィルターは持っていません。フィルターワークが必要な時はZ 14-30mmF4を使い、Z 14-24mmF2.8はフィルターなしで淡い光を捉えるために役立てています。

柱状節理が発達した七ツ釜。広角端14ミリで岩場を広々と見せ、玄界灘から昇る朝日を捉えました。S-Lineのレンズは強い光が差し込んでもクリアな描写で応えてくれます。
ニコン Z 7 II・NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S・A(絞り優先)モード・絞りF16・1/10秒・ISO100・WB5000K・三脚使用

竹細工のライトアップを生かしつつ、色付き始めたカエデを見上げるように撮影しました。F16まで絞り込むことで、ライトアップの光源が美しい光条となり、秋の夜の華やかさが伝わってきます。
ニコン Z 9・NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S・A(絞り優先)モード・絞りF16・2秒・+0.7補正・ISO800・WB晴天・三脚使用

広角端14ミリの広い画角を生かし、絞り開放F2.8、30秒露光で星空を捉えると月明かりに照らされた山や湖がうっすらと見えてきました。画面中心から周辺まで星像に乱れはなく、キレ味鋭い描写が素晴らしい。
ニコン Z 7・NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S・M(マニュアル)モード・絞りF2.8・30秒・ISO3200・WB4000K・三脚使用

NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR

28ミリから400ミリまで、広角から超望遠までカバーする高倍率ズーム。標準ズームと望遠ズームを一本にまとめられるメリットは機材を軽くしたい山岳撮影で役立ちます。広い風景から朝日夕日のアップまで、なんでも撮れるレンズにどこまで性能を求めるのかと考えられがちですが、絞り込んで撮ることの多い風景撮影に必要十分な性能を持っています。広角側でのパンフォーカス撮影ではZ 24-70mmF4と同等の描写を見せてくれるほどです。

このレンズの面白いところは広角28mmで最短撮影距離が短くなり、被写体に20cmまで近づけること。目一杯近づけば花をかなりアップにできますし、背景を広く見せる広角接写的な撮り方にも向いています。

丹沢の山で出会った大きく枝を広げたケヤキ。午後に湧き始めた霧に包まれて幻想的な姿を見せてくれました。28mm広角端で大木らしい存在感を引き出せました。
ニコン Z 9・NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR・A(絞り優先)モード・絞りF16・1/4秒・+0.7EV補正・ISO200・WB5000K・C-PLフィルター・三脚使用

朝日狙いでしたが思ったより雲の多い夜明けとなりました。三脚に据えてタイミングを計り、波に洗われた岩礁を超望遠400ミリで切り取りました。スローシャツター5秒により波が霞んだような情景となり、幽玄なイメージに仕上がりました。
ニコン Z 9・NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR・A(絞り優先)モード・絞りF16・5秒・+0.3EV補正・ISO64・WB4600K・C-PLフィルター・三脚使用

海岸の岩場に咲くイソギク。28ミリで最短撮影距離20cmまで近づき、絞り開放で黄色いボケを生かして撮影しました。冬が近い岩場に咲く、華やかさが伝わってきます。
ニコン Z 9・NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR・A(絞り優先)モード・絞りF4・1/250秒・+0.3EV補正・ISO400・WB5000K・C-PLフィルター・三脚使用

NIKKOR Z 70-180mm f/2.8

開放F2.8でありながら、全長151mm、質量795gと軽量コンパクトな望遠ズーム。春の花や夏のお花畑、晩秋の霜が降りた草原など、年間を通してボケを生かした撮影を楽んでいます。首から下げてフィールドを歩いても負担にならず、気になる被写体へ素早くレンズを向けられます。最近気に入っているレンズのひとつです。

さらに70mmでは被写体に27cmまで近づけるのも大きな魅力。最大撮影倍率は0.48倍となり、マイクロレンズに近いクローズアップ撮影が可能です。Z 70-200mmF2.8(1440g)と比べると645g、およそレンズ1本分軽量化できるメリットは大きく、野山に持ち出しやすい携行性と大口径レンズの魅力を兼ね備えています。取り回しのよさに甘えて手持ちで撮り始めることが多いですが、特に望遠側では三脚を使って丁寧に構図を決めたほうがよい結果を出しやすいようです。望遠側が180ミリまでなのは物足りないですが、1.4倍のテレコンでカバーしています。こうすると望遠端は250ミリとなり、遠景の山や木々を精緻に描きだしてくれます。

カラフルな花が咲く夏の草原。ノアザミの高低差を生かしてリズム感を出しつつ、開放F2.8でアカバナシモツケソウをぼかし、カラフルな雰囲気を引き出しました。朝らしいしっとりとした空気感が伝わってきます。
ニコン Z 7 II・NIKKOR Z 70-180mm f/2.8・A(絞り優先)モード・絞りF2.8・1/100秒・+0.7EV補正・ISO200・WB5000K・C-PLフィルター・三脚使用

1.4倍テレコンを使用して約250ミリとし、開放F4の明るさを生かして諏訪湖の夜景を撮影しました。木々のシルエットを生かしながら、街灯りを画面一杯に捉えると煌びやかな雰囲気に仕上がりました。
ニコン Z 7・NIKKOR Z 70-180mm f/2.8・Z TELECONVERTER TC-1.4x・M(マニュアル)モード・絞りF4・13秒・ISO800・WB3400K・三脚使用

NIKKOR Z MC 50mm f/2.8

ZマウントにはZ MC 105ミリF2.8 VR Sというマイクロレンズもありますが、Z MC50ミリF2.8は質量260g、全長66mmと軽量コンパクトなのが魅力です。どちらも最大撮影倍率は等倍ですが、等倍撮影時の被写体までの距離(最短撮影距離)は105ミリが29cm、50ミリが16cmです。生物の撮影には被写体との距離をとれる105ミリF2.8が有利ですが、常にカバンに入れておいても負担にならず、美しい花やコケなどと出会ったときにいつでも活用できるのがZ MC50ミリF2.8のメリットです。

また絞り開放時の口径食が少なく、丸ボケが美しいのもこのレンズの大きな魅力です。MC50ミリF2.8にVR機能はありませんが、手持ち撮影でもブレにくく、ピントも合いやすい印象です。焦点距離50ミリゆえに適度な被写界深度があり、コンパクトゆえの扱いやすさが有利に働くのでしょう。

森の中で清楚な姿を見せてくれるレンゲショウマ。木々の間から木漏れ日が見えるポジションを選び、絞り開放(実効絞りF3.8)で撮影しました。ほぼ円形のボケが美しく、爽やかな雰囲気に仕上がりました。
ニコン Z 7・NIKKOR Z MC 50mm f/2.8・A(絞り優先)モード・絞りF3.8・1/320秒・+1EV補正・ISO800・WB5000K・手持ち撮影

晩秋、氷点下まで冷え込んだ朝に見つけた霜柱。絞り開放で最短撮影距離まで近づくと霜柱の中に氷の結晶が見えてきます。肉眼では見逃してしまう、繊細な造形美を捉えられました。
ニコン Z 9・NIKKOR Z MC 50mm f/2.8・A(絞り優先)モード・絞りF5.6・1/160秒・+0.3EV補正・ISO200・WB5000K・手持ち撮影

まとめ

私の常用レンズは広角14-30ミリF4、標準24-70ミリF4、望遠70-180ミリF2.8、マイクロ105ミリF2.8の4本です。ここではこの4本に限定せず、魅力的なレンズをいくつか紹介しました。撮影スタイルや体力に応じて24-200ミリF4-6.3や28-400ミリF4-8を活用したり、マイクロレンズを50ミリF2.8にすることによる、軽量化のメリットを感じているからです。疲れているとカメラを出すのが億劫になりやすく、よい出会いを生かすには体力的に余裕を持ってフィールドを巡ることが欠かせません。一期一会の出会いを大切にして、ネイチャー撮影を楽しみましょう。

今回のカメラ・レンズ

ニコン Z9
◉発売=2021年12月24日 ◉価格=オープン(ボディ実売・694,980円税込)

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NIKKOR Z 14-30mm f/4 S
◉発売=2019年4月19日 ◉価格=オープン(ボディ実売・166,320円税込)

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NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S
◉発売=2020年10月30日 ◉価格=オープン(ボディ実売・304,200円税込)

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NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR
◉発売=2024年4月19日 ◉価格=オープン(ボディ実売・184,800円税込)

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NIKKOR Z 70-180mm f/2.8
◉発売=2023年7月14日 ◉価格=オープン(ボディ実売・163,350円税込)

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NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
◉発売=2021年6月25日 ◉価格=オープン(ボディ実売・81,540円税込)

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