カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 梶山博明×オーロラ写真の撮り方
写真・文:梶山博明/編集:合同会社PCT
コツをおさえてオーロラ撮影を楽しもう!
今回はオーロラ写真の撮影の仕方を、写真家梶山博明さんに解説いただきました。難易度が高いイメージのオーロラ写真ですが、この記事を読めばばっちり。撮影方法から、設定、持ち物リストまで紹介いただきました。
- 梶山博明
- 旅で出会う自然風景が得意分野であり、旅と自然が創り出すドラマを一枚の写真で表現する「一旅一写」をメインテーマとして創作活動を続けている。原色の世界に魅せられ10数年撮り続けているニュージーランドの風景を纏めた写真集2冊が㈱日本写真企画から出版されている。また、㈱ニコンが運営するカルチャースクール・ニコンカレッジの講師として写真の楽しさを伝える活動を続けている。 公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員 一般社団法人 日本旅行写真家協会(JTPA)会員 総合旅行業務取扱管理者 1951年 東京都出身
目次
はじめに
新聞やテレビのニュースでオーロラの出現が報じられることが多くなった事にお気づきですか。北海道や東北地方の日本海側・能登半島そして極めて珍しい現象で京都でも観察されました。今年はオーロラの出現が世界中で活発になっています。
そこで、オーロラに遭遇した時に慌てないためにもオーロラ撮影についての基礎知識を確認しておきましょう。オーロラの撮影は基本的にはそれ程難しい事はありませんが幾つかのポイントを押さえておく必要が有ります。ポイントを押さえコツさえ掴めばオーロラの撮影は簡単です。コツを掴んだら夜空に現れるスケール感のあるオーロラ撮影を楽しみに出かけましょう。
Nikon Z7・NIKKOR Z14-24mm f2.8S・14mmで撮影・絞りF2.8・1.6秒・ISO3200・WBオート1・クルアニロッジ前(カナダ)
オーロラ基礎知識
太陽の活動により発生したプラズマ粒子(太陽風)が地球に到達し大気中の粒子と衝突した際に発生する光の事をオーロラと呼んでいます。
オーロラベルトと呼ばれる北欧やアイスランド・カナダ・アラスカなどの北緯65度~75度周辺が主にオーロラの出現しやすい地域と言われていますが、最近は日本でも確認できる程にオーロラの活動が活発になっています。
太陽活動はおよそ11年周期で極大期と極小期が反転しますが、2024年から来年2025年が丁度極大期のピークになります。
北半球だけでなく南半球でもオーロラの出現は有りますが陸地部分が少ないため観察できる地域は限られてしまいます。私が撮影に出かける機会の多いニュージーランドではオーロラ予報が新聞に出るなどオーロラ撮影が期待できる地域といえます。
また、ニュージーランドのオーロラは低緯度オーロラと呼ばれ赤色が中心ですが、北半球のカナダユーコンなどでは緑色が多くみられる傾向にあります。
オーロラ撮影の基礎
オーロラは暗いので高感度(ISO3200~12800程度)に強いデジタルカメラが必要になります。また、空高く広範囲に出現するオーロラ撮影には超広角レンズ(14mm~20mm程度)又は魚眼レンズが必要になります。動きの活発なオーロラを鮮明に撮影するには明るいレンズ(F1.8~2.8程度)を使用して出来るだけ早いシャッタースピードで撮影する必要が有ります。遅いシャッタースピードになると動きの速いダイナミックなオーロラを鮮明に撮影する事が出来なくなってしまいます。
オーロラ撮影はカメラ任せのオートでは残念ながらうまく撮影する事が出来ません。
基本的にはISO感度を決めてレンズのF値に応じたシャッタースピードをマニュアル(M)で設定して撮影する事になります。(下図の露出ガイドを参考にして下さい)
例えば、ISO6400でレンズがF2.8であればシャッタースピードを2秒に設定します。
2秒で撮影して画像を確認し明るく写りすぎていたら1秒に、暗く写りすぎていたら4秒にするなど調整が必要な場合が有ると思います。オーロラの強さや色彩によって明るさが変化するので確認しながらの撮影が必要になります。
【露出ガイド】 | ||||
---|---|---|---|---|
F値/ISO | 1600 | 3200 | 6400 | 12800 |
1.8 | 3 | 1.6 | 1/1.3 | 1/2.5 |
2.8 | 8 | 4 | 2 | 1 |
4 | 15 | 8 | 4 | 2 |
参考までに、私がオーロラ撮影に持参するカメラとレンズの組合せは下記のようになります。
カメラ2台:Nikon Z8・Nikon Z6Ⅲ *三脚2本
レンズ4本:NIKKOR Z14-24mm f2.8S・NIKKOR Z20mm f1.8S
NIKKOR Z14-30mm f4S・NIKKOR Z24-120mm f4S
オーロラの撮影
①空の面積を出来る限り多くする
カナダユーコンのクルアニロッジの前からの撮影ですが、この時はオーロラの活動も活発で想像以上に空高く広範囲にオーロラが出現してくれました。超広角レンズを付けたカメラを思い切り上を向けて空の部分を出来る限り多く入れ撮影しました。下部にある湖岸や山はシルエットになるので多くを入れない方がバランスの良い作品になります。カメラを上に向けると水平線が曲がりがちになりますので注意してください。
Nikon Z8・NIKKOR Z14-24mm f2.8S・14mmで撮影・絞りF2.8・4秒・ISO6400・WB晴天・クルアニロッジ前(カナダ)
②水面の映り込みを利用する
風のない日は水面にオーロラを映すチャンスです。空に広がるオーロラと水面の映り込みのバランスを考えて撮影しました。水面がもっと広ければ水平線を真ん中にしてオーロラを上下シンメトリーに捉える事も素敵だと思います。
Nikon Z6・NIKKOR Z14-30mm f4S・14mmで撮影・絞りF4・4秒・ISO6400・WBオート1・ドーソン郊外の湖沼(カナダ)
③比較明合成で星の軌跡を利用する
ホワイトホース郊外のフイッシュレイクで出会ったオーロラは残念ながら迫力のないものでした。緑のオーロラが低い位置に出てはいましたが此れだけでは素敵な作品創りには難しい状況でした。満天の星空が広がっていましたので星を主役に作品創りをする事に切り替え星の軌跡とオーロラのコラボレーションを*比較明合成176枚で表現しました。
*比較明合成とは、撮影した2枚以上の画像のピクセルを「比較して明るい部分だけ合成」して1枚の作品に仕上げる便利な機能です。合成する為には比較明合成ソフトが必要になりますが無料でダウンロードする事が出来ます。
比較明合成ソフト:シリウスコンプ64・キクチマジックなど
Nikon Z6・NIKKOR Z14-30mm f4S・17.5mmで撮影・絞りF4・3秒・ISO12800・WBオート1・フィッシュレイク(カナダ)
Nikon Z6・NIKKOR Z14-30mm f4S・17.5mm・絞りF4・3秒・ISO12800・WBオート1・比較明合成176枚・フィッシュレイク(カナダ)
④オーロラと星の競演を狙う
ニュージーランドのマウントクックで星空の撮影をしていた時、南の空が赤みを帯びている事に気づき1枚テスト撮影。画像を確認すると赤いオーロラが出現している事が判り慌てて場所を移動してミルキーウエイ(星)とオーロラの競演を撮影する事が出来ました。ニュージーランドでよく見る赤いオーロラは低い位置に出現する為に見落とすことがあります。善き羊飼いの教会の右サイドに出たオーロラは肉眼では確認が難しい弱いものでしたが13秒の露光時間で教会もオーロラも上手く捉える事が出来ました。
Nikon Z6・NIKKOR Z14-30mm f4S・14mmで撮影・絞りF4・20秒・ISO6400・WB晴天・マウントクックロード(ニュージーランド)
Nikon Df・NIKKOR 20mm f1.8G・20mmで撮影・絞りF2.8・13秒・ISO2500・WBオート1・善き羊飼いの教会を入れて(ニュージーランド)
⑤前景を入れて雰囲気のある作品創り
作品8・9・10
空高く広範囲に出現するオーロラの撮影では前景の存在が疎かになりがちです。
空に広がるオーロラをずっと同じアングルで捉えるだけでなく少し落ち着いてきたら前景を入れて撮影するようにしましょう。
クルアニロッジの前で前景に木を入れた作品では激しくウエーブするオーロラと木のバランスでスケール感が良く表現出来た作品になりました。
カナダのドーソンシティでは高台から川の流れに囲まれた素敵な街の夜景がオーロラ撮影の良いポイントになります。雲が多くオーロラは望めないかと諦めかけたその時、突然雲間から激しく強いオーロラが出現してくれました。街の明かりとオーロラ、オーロラに照らされた雲の明るさがバランスよく表現出来ました。
カナダユーコンのクルアニロッジに宿泊してのオーロラ撮影は快適です。ロッジを一歩出ると目の前に湖と山が見える絶好のオーロラ撮影ポイントになっています。
この時は、湖とは反対側のロッジの上空に淡いオーロラが出現してくれました。
前景にロッジの明かりを入れて雰囲気のあるオーロラ作品に仕上げました。
Nikon Z8・NIKKOR Z14-24mm f2.8S・14mmで撮影・絞り2.8・2秒・ISO6400・WB晴天・クルアニロッジ前の木を入れて(カナダ)
Nikon Z7・NIKKOR Z14-24mm f2.8S・14mmで撮影・絞りF2.8・2秒・ISO2000・WBオート1・ドーソンシティを入れて(カナダ)
Nikon Z8・NIKKOR Z14-24mm f2.8S・14mm・絞りF2.8・5秒・ISO6400・WB晴天・クルアニロッジを入れて(カナダ)
おわりに
オーロラの撮影はコツさえ掴んでしまえば難しい事はありません。
ただ夜の暗い場所での撮影になりますので事前の準備がとても大切です。
まずは撮影地を明るいうちに下見して足場を確認しておく必要が有ります。
突然暗い場所に立つと良いアングルが取れないばかりか危険も伴いますので下見は極めて重要です。カメラの設定+三脚も明るい場所で済ませておきましょう。
なお、撮影場所に向かう際には小型のライト・ヘッドライト等が必要になりますが先に撮影者がいないか細心の注意を払って光が撮影者の邪魔にならないようにしてお互いにゆったりと楽しい撮影が出来るように心がけましょう。
さあ、準備が出来たら素敵なオーロラとの遭遇を期待して撮影に挑みましょう!
梶山先生のオーロラ撮影持ち物リスト
このリストは、私が9月のカナダ・ユーコンに撮影に出かける際に使用したものです。持ち物を準備する際に忘れ物が無いようにチェックして撮影に出かけましょう。季節によって必要度が違ってきますが、本格的な防寒具についてはレンタルも有りますので確認してみてください。また、カメラ機材以外で私がいつも持参する「サーモボトル」は撮影中に暖かい飲み物が飲めて重宝しています。リストには在りませんが、パスポートや航空券も忘れずに!
・カメラ機材
カメラ2台(メイン・サブ)、レンズ(広角~望遠・魚眼)、記録メディア(充分な枚数)、予備バッテリー・充電機、リモコン・レリーズ、三脚(出来れば2本)、フイルター(PL・ND)、レンズヒーター・モバイルバッテリー、膝あて、ビニールシート
・衣類
長ズボン、長袖シャツ、パジャマ、防寒具、雨具(ゴアテックス等)、下着〈パンツ・シャツ・靴下)、帽子、手袋、タオル・ハンドタオル
・その他
靴(軽トレッキング・防水)、携帯長靴(有ると便利)、ヘッドランプ・ペンライト、サーモボトル、折りたたみ傘、副食物(あめ・ガム等)、洗面用具、ティシュー、携帯(充電器)、筆記具・メモ帳、腕時計、予備メガネ、スリッパ(機中・ロッジ)