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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! プロ写真家による季刊連載コラム!写真家 赤城耕一×LEICA(ライカ)

写真・文:赤城耕一/編集:合同会社PCT

赤城耕一が深掘りする、“眼のない” ライカ「ライカMD」

第七席 目標を失ったライカマニアが最後に行き着く世界!

ライカの不定期連載の第7弾。前回に引き続き写真家の赤城耕一さんにライカの歴史を紐解きながら、ご自身の体験をもとに熱くお話いただきます。今回はファインダーが省略されたM型フィルムライカ、「ライカMD」を取り上げます。

赤城耕一(あかぎ・こういち)
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアル、コマーシャルで活動。またカメラ・写真雑誌、WEBマガジンで写真のHOW TOからメカニズム論評、カメラ、レンズのレビューで撮影、執筆を行うほか、写真ワークショップ、芸術系大学で教鞭をとる。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。著書に『赤城写真機診療所MarkⅡ』(玄光社)、『フィルムカメラ放蕩記』(ホビージャパン)、『アカギカメラ—偏愛だって、いいじゃない。』(インプレス)など多数。

はじめに

今回は“眼のない” ライカの話をしようと思います。そこはライカの魔境であり、目標を失ったライカマニアが最後に行き着く世界と言われています。

ここまで書いて何のことかわからない方は、ライカを正しく使用し、それを表現者のツールとして正しく理解されていると思います。

ところが、ああ、なるほどライカIcとかIgあるいはライカMDとかMDaのことを言いたいのかオマエは。と、理解してしまう人は深刻です。ライカの沼から抜け出すことはかなり難しい状態であると自覚してください。世の中には知らないでよいこともあるわけですね。

でも何かあったら、私たちにはカメラの大林さんという駆け込み寺があるわけですから、そこで手当をしていただければよいので、さほど深刻には考えていないのですが。でもそれなりの費用はかかります(笑)。

例によって、ちょっとしつこく回りくどくなる話を最初にします。

まず「ライカMD」といえば、最近ではカメラボディ背面からLCDを省略したライカM-D(Typ 262)シリーズのことを思い出す人が多いのではないかと思われます。

ライカMD

ライカM1あるいはM2からファインダーと距離計を取り去ったモデルです。ビゾフレックス(現行のとは異なるレフボックスのものです)を使う時にも重宝します。製造台数は3200台程度と言われております。本来は高額になりそうですが、最近はなぜか不人気なようで入手しやすくなっています。

ライカM2と比較するとファインダーのブロックがなく質量が間違いなく軽いことが手にしただけで実感できます。セルフタイマーレバーもなく、のっぺらぼうのような綺麗なデザインですが、ライツ社では、本機をM2に換装するサービスをしていたという話もありますが、筆者は換装されたモデル(おそらくシリアルナンバーで判別できるはず)はこれまで見たことはありません。

アパーチャーの脇には溝の切り欠きがあり、セルロイドタイプの透明板に文字などのデータを書き、これを溝に挿入してフィルムにデータが写し込めるようになっていますが、このためには板を挿入するこのできる専用のベースプレートが必要になりますが市中で見かける多くのMDには通常のベースプレートがついていないことが多いようです。

筆者は基本的には距離計カムを持たない広角レンズを装着することにこだわっています。距離計カムのあるレンズの場合カムが使われることなく遊んでしまうのがイヤなのです。
今回の作例はすべて本機にミノルタのロッコール21mm F4を装着したものを使用しております。

これは、あくまでも仮の話であり、個人の妄想ですが…

だいたいにして、ライカMシリーズだって、デジタルともなれば、便利さを享受したいと考えて当然でありますね。それが撮影画像の確認行為であります。

撮影が成功したか否かをリアルタイムで確かめることができるのが、デジタルMの大きなアドバンテージの一つでありますから、背面LCDを省略してしまうというのは相当な英断であると考えていいでしょう。

とはいいながら、実はLEICAのアプリをスマホに入れておけば、そこで撮影画像が確認できてしまいます。なんだか合法カンニングみたいな方法もあるわけですが。これもまあ、デジタル時代のMシリーズライカのあり方だとは思います。

でもね、ライカM-D系には、LCDがなくても、光学ファインダーはそのまま残されていますし、二重像合致式の距離計でのフォーカシングを行うことができます。個人が覚悟を決めて撮影に挑む部分が残されているということで評価はできます。撮影した画像を二度と振り返ることはないという意志を確認することができるからです。

これは、あくまでも仮の話であり、個人の妄想ですが、現行のMシリーズライカから光学ファインダーを省略したとしても、EVFやLCDを使えば、正確なフレーミングやフォーカシングが可能になるはずです。

そうですね。見た目は富士フイルムX-E4のような感じを想像してもらえばわかるかと。

また使用感としてはM-Lアダプターを使用して、ライカSL3にMマウントレンズを装着して使うことで似た感覚は得ることができそうですが、この場合は、それなりの大きさ、重さは覚悟して使用する必要があります。ライカがデジタルのMシリーズライカから光学ファインダーを省略したモデルを出さないのは、なにか他に理由があるのかもしれませんねえ。

ライカIg

ライカIIIgからファインダーと距離計を取り去りました。代わりにアクセサリーシューが二つ並んでいます。

興味深いのは、スクリューマウントライカのうち唯一、筆記体「Leica」ロゴがボディの前面に刻印されていることです。これ、大きさが品がいいですね。

距離計と単体ファインダーをアクセサリーシューに装着し、標準レンズを使うとか、カスタマイズを楽しむ人もいますが、無理しないほうがいいですよ。使いづらいだけです(笑)。

多くのスクリューマウントライカはMシリーズライカよりフィルムのコマ間が狭いか、アパーチャーサイズが大きい設計です。

本機に広角レンズを装着して撮影すると、ネガの画面サイズがさらに大きくなるので、コマ間が髪の毛一本よりも狭くなり、ネガをハサミでカットするのが困難になり、間違いなく画面の一部を切ることになります。大切な写真になることがわかりそうな場合はあらかじめ数コマ、予備のカットを撮影しておいたほうが無難です。ここではカタチの美しさに負けてルサール20mm F5.6を装着してみましたが、ネガのカットには苦労すると思います。

“眼のない” ライカは潔くも美しいフォルムをしている

そしてまた、話を今回の本題に戻しますと、フィルムライカでなぜ“眼のない” ライカを生み出したかといえば、当初は顕微鏡や複写などを含めた科学写真用とか、ビゾフレックスの使用を前提として開発したモデルだからかもしれません。

そういえば“ポストライカ” というのもありました。電話局で度数計を記録するというもの。筆者はその様子を見たわけではないので、本当なんでしょう。いや、何かの資料で見たような気もしますが、あまり記憶がありません。

あらかじめ撮影距離も露出も決まっている条件で撮影するカメラなら、ファインダーや距離計やセルフタイマーなど、とにかく外せるものは全部取っ払ってしまえ。という合理的な考え方が生まれたのでしょう。

と、いうか、べつに度数計を撮るのにライカを使わなくてもいいと思うのですが、そこはドイツの電話局の人は愛国心に溢れていたので、自国製のカメラであるライカを使ったという解釈でいいのでしょうか? 知らんけど(関西の方、使い方合ってますか?)。

とても重要なのは、こうした普通では地下(にあるかどうかは知らないけど雰囲気として)の部屋に潜み、陽が当たらないまま、生涯、一般の人の眼にはふれることなく、ひらすら数字だけを記録してゆくライカがあるとは、想像しただけでなんとも気の毒になってしまいますね。

それらのライカに日の目を当てるためにライカMD系など“眼のない”ライカを一般発売したのかもしれません。よくみれば、ファインダーが省略された、“眼のない” ライカは潔くも美しいフォルムをしています。これもまた魅力の一つかもしれません。

ところで、“眼のない” ライカを一般的な撮影に使用するためにはどうしたらいいのでしょうか。とても無理をしている感じもあります。筆者も常日頃、「カメラの命はファインダーである」と公言しているくらいですから命をなくしてしまうとそこには露光装置のついた暗箱があるだけとなるわけです。

ライカMD2

本機の前機種はMDaと呼ばれました。ライカM4から距離計とファインダーを取り去ったモデルになりますが、筆者はこれは所有しませんでした。何度か入手する機会があったのですが。

本機はライカM4-Pから距離計とファインダーを取り去ったモデルですね。カバー材質は、亜鉛ダイキャストでしょう。

このためでしょうか、シルバーモデルはなく、ブラッククロームモデルしか存在していません。クロームモデルしかないMDaとは逆です。またMDaと異なり、上部はホットシューが採用されています。

しかし、ここにホットシュー対応のスピードライトを装着してしまうと、外づけのファインダーを装着できなくなりますね この場合はどうしたらいいのでしょうか。かつてのライツやコシナ・フォクトレンダー用として用意されていたタンデムシューを装着して対応するのでしょうか。自重は軽く感じます。

本機にもアパーチャーの脇には溝の切り欠きがあり、データが写し込めるようになっていますが、MDと同様に、この板を挿入するこのできる専用のベースプレートが必要になります。ところが筆者はMD-2に合わせたブラッククローム仕上げのデータ写し込み用ベースプレートをみたことはありません。
ここではミラーアップがライカフレックスのみに装着することができるライカRマウントのスーパーアンギュロン21mm F3.4をR-Mアダプターを使って装着しています。

日中晴天下で絞り込める状態ならばフォーカシングは原則不要

それでも私たちは使いたいのです。 超広角系のレンズを装着して目測の距離設定を行い、ファインダーは外づけのものを装着してフレーミングすれば問題なく撮影できる理屈です。とくに日中晴天下で絞り込める状態ならばフォーカシングは原則不要なわけであります。こうした撮影方法で良いのは、外づけのファインダーを使う時です。普通の眼のあるライカ、すなわちファインダーのあるライカだとファインダーアイピースが鼻の脂によって汚れてしまうことがしばしばあります。“眼のない” ライカではファインダーがないのですからこの心配はないわけです。

もともとMシリーズ内蔵のブライトフレームでもっとも広いものは28mm相当のものですから、これ以上画角の広い広角レンズを使う場合、外づけのファインダーを使用してフレーミングを行うのが原則となります。

つまり、内蔵のファインダー、ブライトフレームは見ていないことになります。もちろん、レンズ側に距離計カムがあるものは距離計が連動しますので、二重像合致によるフォーカシングができますが、これは絞りが開いているときとか、至近距離での撮影に使う程度かと思います。

でも、外づけのファインダーは視野率が低いのでアテにならないだろう。はい。そのとおりです。

もともとレンジファインダーカメラは一眼レフやミラーレス機よりも視野率は低いので、余分なものが写ることがあります。外づけファインダーならば尚さら極端に視野率は低くなります。

コシナ・フォクトレンダー ベッサL

ライカではない機種もひとつ紹介しておくことにします。コシナのOEM用の一眼レフカメラをベースにそこからプリズムやミラーをとっぱらい、ライカスクリューマウントを採用したカメラ。登場は1999年です。

距離計やファインダーはありませんからライカIcやIf、Igと同様の役割を担うことになりますが、驚くべきはそれらの機種と異なりTTLメーターを備えていることです。

これはシャッター幕面測光によって行われる正確なものです。また縦走り金属シャッターはミラーがないと漏光の危険があるために、遮光用のシャッターを前面に設けるという徹底ぶりもコシナの本気度を世の中に知らしめることになりました。

ただ、ボディカバーはプラスチック製ですし、高級感は薄く持つ喜びはあまり得られませんが、実用性は満点ですし、しかも廉価設定なのでライカユーザーの間で注目され話題になりました。

当初用意されたライカスクリューマウントのスーパーワイドへリア15mmF4.5Lとスナップショットスコパー25mm F4Lですが、これらには距離計カムが設けられていませんでしたから、本機は表向きはそれらのレンズ用として開発されたものです。

ところが本機にライカスクリューマウント互換のワイドレンズを装着して楽しむ人が多くなり、これがきっかけとなり、距離計とファインダーを搭載したベッサRが生まれることになります。

ツァイスイコンSW

コシナとツァイスの協業によってたくさんのライカMマウント互換交換レンズが生まれました。そしてライカMマウント互換の「ツァイスイコン」が誕生することになるわけですが、本機はそこから距離計とファインダーを撮りはらい、アクセサリーシューを2つ載せたモデルになりますが、その姿、カタチは美しく、機能を簡易化した廉価機というイメージはありませんでした。その名を「ツァイス イコンSW」いいます。ZMマウントにはディスタゴンT*15mm F2.8ZMという注目の高性能超広角レンズがありますが、このレンズには距離計カムは用意されていませんでした。しかも、これはZMシリーズ交換レンズの中で唯一の仕様なのです。F2.8と大口径なのに距離計を省略したのは謎なんですがツァイスのエンジニアはそれでよいと判断したようです。

ツァイスイコンにこのレンズの装着すると、当然ですが、ボディ側の距離計は遊んでしまうことになりますから、そのために本機は用意されたかもしれません。しかも絞り優先AE撮影が可能なことは驚きでした。

本機もMマウント互換であることでさまざまなMマウントレンズ、あるいはL-Mアダプターを介してライカスクリューマウントレンズが装着され、楽しむことができたのです。 今回はビオゴンT*21mm F4.5ZMを装着してみましたが、このレンズ、最近にしては珍しく線の描写に強さを感じるレンズであります。

フォーカスも露出もすべて自身で決めて、被写体と立ち向かうことができる

でもこういう“特性” に神経質になってしまう人は、Mシリーズライカ使いには向いていません。はい、デジタルMでEVFやライブビューによるフレーミングが行えるのは画期的なことですが、これは撮影時の条件により役立つ場合もあるということでライカの本筋ではないように思います。

極論してしまうと“眼のない” ライカ にもっとも向いているユーザーは、撮影自体をカラダそのもので撮ることができる人になるということです。つまり、フォーカスも露出もすべて自身で決めて、被写体と立ち向かうことができる人ということです。

写真家の田中長徳さんによれば、写真家の重鎮、高梨豊さんは、ライカMDのような“眼のないライカ” を使って撮影した写真は「戦場のように写るのではないか」と話をされていたということです、これは何度も繰り返し読みました。

実際に高梨さんにお会いした時にこの話を確認したことがあるのですが、「覚えていない」そうです。ただ、この話はなんとなく合点がいくように思うのです。

昨今の世界情勢では、戦場ときくと物騒で、笑えない話でもあるのですが、カメラの発展が機能的な進化をしても、“体で撮る” ような感覚はライカ使いにとっては大切なんじゃないかと考えるわけです。

ライカMDでの作例写真

高感度のカラーネガフィルムを使用しても、線が細いのに力のある描写をするのは驚きです。周辺光量の低下もよい感じです。

【撮影データ】ライカMD・ロッコール21mm F4・絞りF8・1/1000秒・富士フイルム フジカラー400

とにかくシャドーは捨ててもいいので、ハイライトの情報を出す方向でプリントしてもらいました。まっすぐなものはひたすらまっすぐに写ります。

【撮影データ】ライカMD・ロッコール21mm F4・絞りF8・1/1000秒・富士フイルム FUJIFILM 400

硬質なものは硬質に写る。やや硬い調子ですが、光のニュアンスをうまく表します。優れたレンズですね。

【撮影データ】ライカMD・ロッコール21mm F4・絞りF8・1/1000秒・富士フイルム FUJIFILM 400

21mm級のレンズを使う場合、日中晴天下の少し絞り込んで、何か目に入った瞬間に脊髄反射的にシャッターを切ることになります。

【撮影データ】ライカMD ・ロッコール21mm F4・ 絞りF8・1/1000秒・富士フイルム FUJIFILM 400

鮮鋭度や解像力の問題ではなくて、銀塩写真の場合の評価は描写の厚みみたいなものではないかと考えます。

【撮影データ】ライカMD・ロッコール21mm F4・ 絞りF8・1/1000秒・富士フイルム FUJIFILM 400

今回のカメラ・レンズ

富士フイルム FUJIFILM 400
●価格=1980円(税込)


LEICA(ライカ)MD
◉発売=1964年 ◉価格=生産終了品