カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 鹿野貴司×ソニーレンズレビュー
写真・文:鹿野貴司/編集:合同会社PCT
SEL2450G、SEL1625G、SEL70200G2、3本のソニーFEレンズを深掘り!
今回は、2024年に発売したソニーの標準ズームレンズSEL2450Gと広角ズームレンズSEL1625G、それに昨年発売の望遠ズームレンズSEL70200G2を加えた3本を携行して街歩き。写真家鹿野貴司さんに、3本それぞれにて撮影、深掘りしていただきました。記事を読んで皆さんもぜひ悩んでください。
- 鹿野貴司(TAKASHI SHIKANO)or(しかの・たかし)
- 1974年東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、さまざまな職業を経て写真家に。広告や雑誌などを手掛けるかたわら、スナップやドキュメンタリーの作品を精力的に発表している。近年の写真展に「#shibuyacrossing」(ソニーイメージングギャラリー)、「煩悩の欠片を燃やして菩提の山へ走れ」(ナインギャラリー)など。一昨年9月には『いい写真を撮る100の方法』(玄光社)を出版。日本写真家協会会員。
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目次
はじめに
ソニーから4月19日にFE 24-50mm F2.8 G(SEL2450G)、5月17日にFE 16-25mm F2.8 G(SEL1625G)と、F2.8通しのショートズームが相次いで発売された。ズーム比こそ低いが、そのぶん小型軽量。これはジンバルに載せて動画を撮るためのレンズだな…と思っていたが、今回スチールで作例を撮ってその印象が覆った。もちろんジンバルの上でも威力を発揮するだろうが、街角を歩きながらの撮影でも、この小ささが生きてくるのを感じた。2本でカバーできるのは16mmから50mmまで。1本でもカバーできそうなレンジだが、もしF2.8通しで設計すればかなり巨大なレンズになるだろう。ひょっとするとサイズ的にもコスト的にも市販が難しいレベルかもしれない。それが2本に分けることで、合計してもわずか849gに。もちろんレンズ交換を要するが、一般的な状況であればSEL2450Gでほぼカバーできることを考えると、このレンジを2本に分けることには合理性があるように思う。
この2本では望遠端が50mmで、僕個人はそれで足りるのだが、望遠でなければ撮れない状況もある。そこで小型軽量の望遠ズーム・FE 70-200mm F4 Macro G OSS II(SEL70200G2)を組み合わせて、3本で東京都内を撮り歩いた。50~70mmが空いてしまう組み合わせではあるが、とくに不便を感じることもなかった。また小型軽量なズームは単焦点でカバーできないレンジを埋める使い方もできるし、よく使う焦点域であればそれ1本で出掛けるという使い方もある。たとえば超広角を使うことがなければSEL2450GとSEL70200G2のミニマムな組み合わせもアリだし、あるいは画角の変化が写りに大きく影響する超広角と望遠のみズームに任せ(SEL1625GとSEL70200G2)、35mmと50mmを単焦点レンズで揃えるのもいい。
というわけでユーティリティープレーヤーのこの3本を、それぞれ深堀りしていこうと思う。まずはSEL2450G。
SEL2450G(FE 24-50mm F2.8 G)
カメラ1台・レンズ1本で出掛けるなら、これは最高の相棒と思う。僕は単焦点レンズでもっとも使うのが35mmだが、SEL2450Gの“中間地点”もおおよそ35mm。ただ単焦点レンズと違って、引きがなければ広角に、遠近感を詰めたければ標準に焦点距離をシフトできる。それでいてFE 35mm F1.4 GM(SEL35F14GM)より小さくて軽いのだ。もちろん明るさが2段違うのだが、F2.8で十分ならばSEL2450Gは35mm単焦点レンズに取って代わる存在となりうる。また僕個人の話をすれば、FE 20-70mm F4 G(SEL2070G)を発売当初から愛用しているのだが、実際は28mmから50mmあたりの真ん中を使うことが多い。というわけで1段明るく、サイズも少し小さいSEL2450Gに買い替えようかしら…と思い始めている。
というのも、描写がSEL2070Gより明らかにワンランク上なのだ。SEL2070Gも十分シャープではあるのだが、コントラストがやや高く、単焦点レンズのような繊細さはあまり感じられない。対してSEL2450Gはとても繊細で、強い日差しの中で撮影しても、ディテールを豊かに再現してくれる。6100万画素のα7R IVで撮影したが、高精細モデルでも安心して使えると感じた。約2倍という低いズーム比で光学設計に無理がないのか、ボケ味が単焦点レンズ並みに美しいのもいい。そして使い勝手の良さに貢献している点として、最短撮影距離が広角端で19cm、望遠端で30cmと寄れることを挙げたい。ちなみにこの数値はAF時で、MFにすればそれぞれ1cm縮まる。
ソニーα7R IV・FE 24-50mm F2.8 G(50mmで撮影)・絞りF2.8・1/200秒・ISO400・WBオート
ソニーα7R IV・FE 24-50mm F2.8 G(50mmで撮影)・絞りF8・1/200秒・ISO100・+0.3補正・WBオート
少しばかりのあいだ使った感覚としては、たしかに50mmから望遠側にズームしたくなることもなくはないが、そこは慣れの問題とも感じた。また標準ズームでは望遠側にいくにしたがって鏡筒が伸びていくレンズが多いが、このレンズは縮んだ状態で50mm。そこから広角側にズームすることで伸びていく。標準から広角へシフトしていくという感覚は、スナップで被写体に迫っていくときのアシストになる。足で寄りつつ画角を広げることで、主題の存在感を増したり、背景が広がっていくのだ。機構上こうなっただけかもしれないが、設計したのは写真のことをよくわかっている人なのだろうと推測する。
ソニーα7R IV・FE 24-50mm F2.8 G(26mmで撮影)・絞りF5.6・1/1000秒・ISO1000・-0.7補正・WBオート
ソニーα7R IV・FE 24-50mm F2.8 G(50mmで撮影)・絞りF2.8・1/100秒・ISO1000・-1補正・WBオート
SEL1625G(FE 16-25mm F2.8 G)
この望遠→広角のズーム機構は、SEL1625Gも同様。超広角ズームだが、望遠端の25mmであれば人によっては常用域ともいえる。16-25mmというズームレンジは静止画よりも動画で重宝しそうではあるが、登山など広角がメインとなる状況では主力となりうるだろう。
SEL2450Gと比べると、最大径は同じで全長が9mm短い。2本並べると見分けがつかないくらいそっくりだが、このあたりは動画向けのアクセサリーを共用できるという親切心もあるのかもしれない。ともに今回はα7R IVで実写したが、このサイズをありがたく感じるのはα7Cシリーズではないだろうか。そう考えると、なんだかα7CRが欲しくなってきた。これが沼か。
ソニーα7R IV・FE 16-25mm F2.8 G(16mmで撮影)・絞りF8・1/125秒・ISO125・-0.3補正・WBオート
SEL1625Gの描写だが、こちらもまた繊細。ワンランク上のGマスターレンズに肉薄しているのではないかと思う。画角が広くなると太陽などの光源も写り込みやすくなるが、耐逆光性もすばらしい。下の作例ではあえて厳しい角度で太陽を写し込んでみたが、ごくわずかにゴーストが生じたものの、画面全域でしっかりコントラストも保っている。
ソニーα7R IV・FE 16-25mm F2.8 G(18mmで撮影)・絞りF8・1/250秒・ISO100・WBオート
最短撮影距離は広角端で18cm(MF時は17cm)、望遠端で24cm(同22cm)と、同じ焦点域の単焦点レンズと同等。極端に寄れるというわけではないが、ワーキングディスタンス(レンズ先端から被写体までの距離)を考えれば十分かと思う。もちろんF2.8という明るさもあるので、近距離では大きなボケも得られる。かつての超広角ズームといえば周辺部は荒れるのが相場だったが、ズーム比が約1.6倍と控えめなおかげか、ボケ味も単焦点レンズのように素直だ。
ソニーα7R IV・FE 16-25mm F2.8 G(21mmで撮影)・絞りF2.8・1/4000秒・ISO100・+1補正・WBオート
ソニーα7R IV・FE 16-25mm F2.8 G(25mmで撮影)・絞りF2.8・1/1250秒・ISO100・-0.7補正・クリエイティブスタイル白黒
ソニーからはFEマウント用にさまざまな超広角ズームが発売されているが、そのほとんどは大柄。その中でSEL1625Gは異色の存在だが、24ミリまでは標準レンズでカバーできるのであれば、α7Cシリーズに限らずとても合理的な選択肢といえる。僕自身も仕事で広角レンズを選ぶときはあれこれ迷うのだが、小さくてよく写るSEL1625Gがあれば、迷うこともなくなりそうだ。
SEL70200G2(FE 70-200mm F4 Macro G OSS II)
最後は、そんなSEL2450GとSEL1625Gと今回組み合わせてみたSEL70200G2について。このレンズはF4通しのいわゆる“小三元”と呼ばれるレンズに分類され、初代が9年経ってリニューアルした二代目にあたる。
初代も70-200mmF4というスペックから想像するよりコンパクトだったが、二代目はさらにダイエット。約46g減らして約794g、全長は26mmも短くなった。何より大きな改良点は、名称に「Macro」という文字がある通り、ズーム全域で最大撮影倍率0.5倍を実現したことだ。
ソニーα7R IV・FE 70-200mm F4 Macro G OSS II(145mmで撮影)・絞りF4・1/200秒・ISO1600・WBオート
もともと70-200mmF4というレンズは、軽さからネイチャーの分野で人気を博してきたが、そこにハーフマクロを盛り込んできたのは、これもまた写真のことがよくわかっているなぁと感心させられる。焦点距離でボケや遠近感が変わってくるのは当たり前だが、ことクローズアップでは被写体の見え方が劇的に変わってくる。ズーム全域で最大撮影倍率が変わらないということは、そのアレンジも楽しんでくださいねというソニーからの提案かもしれない。
ソニーα7R IV・FE 70-200mm F4 Macro G OSS II(200mmで撮影)・絞りF4・1/8000秒・ISO200・-0.7補正・WBオート
ソニーα7R IV・FE 70-200mm F4 Macro G OSS II(133mmで撮影)・絞りF8・1/400秒・ISO100・+0.7補正・WBオート
今回は限られた時間での実写で、望遠ズームが真価を発揮するような場面(たとえば運動会とか)がなかったのだが、街を歩きながらのスナップでも十分その実力は確認できた。ふと気になったものを、ズームで構図をアレンジしながら切り取っていくのは実にクリエイティブ。写りは絞り開放からシャープで、ボケ味も素直だ。明るいレンズが重宝されるポートレートでは、70-200mmといえばF2.8が定番だが、単焦点レンズのサブとしてあえてF4のこちらを選ぶというのも賢いと思う。
ソニーα7R IV・FE 70-200mm F4 Macro G OSS II(87mmで撮影)・絞りF8・1/800秒・ISO100・WBオート
ソニーα7R IV・FE 70-200mm F4 Macro G OSS II(200mmで撮影)・絞りF4・1/640秒・ISO100・WBオート
まとめ
最後のまとめとして僕個人の感想を記すと、明るさやボケが欲しいときは迷わず単焦点レンズを使うので、ズームレンズは暗くても倍率が高いほうがよいと考えてきた。その点でいえばSEL70200G2は以前から興味があったが、SEL2450GやSEL1625Gは正直あまり関心がなかった。しかし今回実写して、明るいショートズームの価値を実感した。明るいけれどコンパクトな点は、少しばかり焦点距離が動く単焦点レンズという考え方もできる。 35mm単焦点レンズを常用する身としては、SEL2450Gは実に興味深い(というか欲しい)。またSEL1625Gは超広角が必要な仕事のとき、カメラバッグを軽くしてくれるはずだ。レンズ選びはカメラマンの数だけ答えがあると思ってきたが、いやはや自分ひとりでこれだけいくつも答えがでてくるとは。皆さんもぜひ悩んでください。