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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 佐藤 尚×雲海写真の撮り方

写真・文:佐藤 尚/編集:合同会社PCT

雲海写真の撮影を楽しもう!

雲海の写真と聞くと、ハードルが高いように感じませんか?今回は写真家 佐藤尚さんに雲海の写真の撮り方、アドバイスを紹介いただきました。この記事を読んでいただくと、雲海写真がグッと身近になり、撮影に出かけたくなること間違いなしです。ぜひ参考にしてみてください。

佐藤尚(さとう・たかし)
1963年福井県生まれ。47都道府県の農村や自然などを対象に撮影を続け、新潟県魚沼と埼玉県見沼田んぼをライフワークとして取材している。その傍ら、写真ワークショップ「里ほっと」を地元埼玉県の見沼田んぼで主宰する。 写真集に、「こころの故郷-魚沼の風景を撮る」(恒文社)、「47サトタビ」(風景写真出版)、「japan」(まむかいブックスギャラリー)がある。日本風景写真家協会会員、日本学生写真部連盟指導会員。
WEB:http://www.satophoto.net/

はじめに

雨が降って、明日は晴れる予報が出ています。ならば、翌朝は山や峠に行けば雲海が見られるかもしれません。早起きをして、目的の場所に到着します。予想通り、眼下には雲海が広がっています。三脚を出して、カメラを雲台に固定します。東の空がうっすらと明るくなり始めています。レンズは何をつけるか?露出はどうする?構図はどうだ?何枚か撮影しているうちに、日の出の時刻が近づき、オレンジ色の光が雲海や山並みを照らし始めます。刻々と変わる光や景色を、素早く撮影していきます。太陽がだいぶ高くなってきました。このあとはどうするべきか?現場にとどまるか、移動するか?瞬時に判断し、朝の貴重な光を逃さないよう撮影を続けていきます。

予想通りに雲海が現れると、本当に嬉しいものです。納得のいく撮影には技術や熟練が必要ですが、何より大切なのは、現場に立つことです。撮りたいという気持ちです。失敗してもいいという気楽な気持ちで行動することも必要です。

初めての場所は不安かもしれません。私も結構臆病でして、特に有名な撮影ポイントに行くときは、現場が混雑していて三脚を立てられなかったらどうしようと心配することが多かったのですが、何とかなるものです。撮影ができなかったことはありませんので、とにかく行ってみることが大切です。

雲海の撮影基本

撮影地で事前に知っておきたい情報は、①駐車場、②トイレ、③日の出時刻です。ネット検索で情報を集め、Googleマップのストリートビューや航空写真で現場の様子を確認しておくと良いでしょう。あとは現場で撮影に集中します。でも、そんな事前準備を忘れていても大丈夫。行くことです。

富士フイルム X-T4・XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR・絞り優先オート(F13・1/8秒・-0.7EV補正)・ISO200・WB晴れ・秋吉台(山口県美祢市)

現場に着いたら、足を使って動くことが大切です。たった10メートル動くだけで、見える景色が大きく変わることがあります。視界を遮るものがなくなったり、前景の様子が変わったりするので、安易にカメラを構えるのではなく、周囲をよく見渡して撮影する場所を判断しましょう。
撮影した写真がブレないよう、撮影には細心の注意を払います。まず大切なのは、三脚をしっかりと構えることです。三脚の足を伸ばして立てる際は、地面に突き刺すようなイメージで安定させます。三脚に固定しているからといって安心せず、風が吹いている時は微風でも注意が必要です。カメラを三脚に固定して撮影する際には、ボディーやレンズの手ブレ補正機能を忘れずにオフにします。せっかく撮影した写真がブレてしまわないように気をつけます。また、周りに人がいる場合は、人が歩くだけでも地面が揺れることがあるので注意しましょう。特に展望台などの建造物は揺れます。自分が遅れて上がる時は、先客への配慮としてゆっくりと上がるようにします。

同じ構図の写真を量産しないように心がけましょう。日の出前は空の様子が刻々と変化するので、ついシャッターを切りすぎる傾向がありますが、空の色のピークを見極めることが大切です。また、雲海に気を取られすぎないよう、状況を見ながら足を使って様々なアングルを探りましょう。家に帰ってから写真を確認した時に、「空と雲海」の写真しか撮っていなかったということがないように、色々な被写体を発見するために歩いてみることもします。朝日が昇ったあと何を撮るかイメージづくりや下見にもなります。写すのは何だって良いのです。

ピントの位置は、山の稜線や木など、メリハリのあるところに合わせると良いでしょう。露出は、何を見せたいかに応じて、適切にプラスやマイナスの露出補正を行います。ISO感度は、夜明け前にはノイズを考慮して高感度に設定し、周囲が明るくなるにつれて低感度に設定を変えていきます。構図は、ポイントになるものを画面に入れると安定感が出ます。雲海が出過ぎるとその場所の特徴の景観が見えなくなるので良い塩梅になるのは自然まかせで難しいところ。

朝日が昇ってからは、忙しくなります。あっちこっちにカメラを向け、時には後ろも写します。観察しながら、様々なアングルでシャッターを切っていきます。陽が昇ると雲海が増えて上に上ってくることも多いので予想をしておきます。光芒が現れたら部分的にも撮る。広くも撮る。何を写すかによってアングルを替えてます。レンズを替えたり、足を使ったりして、最良の瞬間を逃さないようにします。

富士フイルム GFX 50R・GF32-64mmF4 R LM WR・絞り優先オート(F11・1.4秒・-0.7EV補正)・ISO200・WB晴れ・星峠の棚田(新潟県十日町市)

富士フイルム X-T4・XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR・絞り優先オート(F9.0・1/750秒・-0.3EV補正)・ISO200・WB晴れ・星峠の棚田(新潟県十日町市)

滝雲

雲海の中でも、「滝雲」を一度は撮影してみたいという人も少なくないでしょう。“雲”が“滝”のように流れ落ちる現象を「滝雲」と呼びます。谷間に溜まった雲海が、山の峰を溢れるように流れ落ちる様子です。滝雲は特定の場所でしか見られないわけではなく、山岳地帯なら比較的よく見られますが、新潟県魚沼市の枝折峠が特に有名です。ここでは、奥只見湖周辺で発生した霧が雲海となり、早朝に山の尾根を越えて滝雲を作り出します。この光景を撮影しようと、全国から多くのカメラマンや観光客が集まります。滝雲は峠の近くの道路脇から、あるいは駒ケ岳への登山道を少し登った場所など、様々なポイントから見ることができます。滝雲の発生条件は雲海と同じです。

滝雲の撮影では、日の出と絡めて広く撮影することもできますし、滝雲を部分的に狙うこともできます。まだ暗いうちは、長秒露光(10秒など)で雲に流動感を持たせ、明るくなってからは早いシャッター速度で迫力を出すように撮影します。

奥只見湖周辺で紅葉の時期を迎える10月20日前後には、枝折峠が大混雑するので注意が必要です。魚沼市観光協会は2024年9月14日(土)から11月4日(月)の土日祝日に、早朝運行の「うおぬま滝雲シャトルバス」を運行するようです。詳細をネットで確認しましょう。枝折峠の駐車場にはトイレがありますが、数が限られており、過去に故障で使えないこともあったので、事前に済ませておくことをお勧めします。

富士フイルム GFX 50R・GF100-200mmF5.6 R LM OIS WR・絞り優先オート(F14・1/340秒・-0.7EV補正)・ISO400・WB晴れ・枝折峠(新潟県魚沼)

雲海夜景

「雲海夜景」という言葉を耳にしたことはありませんか?これは、夜の雲海が街の灯りに照らされ、彩り豊かになる現象です。雲海は夜中に発生して朝には消えてしまうこともあれば、日の出直前に発生することもあります。そのため、自然条件が揃ったとしても、雲海夜景の撮影は一概に簡単ではありません。ほかのカメラマンたちと長い時間一緒に撮影することも多く、暗く顔の見えない中で挨拶を交わし、懐中電灯を使う際や動いたり歩いたりする際には周囲に気を配る必要があります。冬の撮影では、しっかりとした防寒対策が欠かせません。また、熊の活動にも十分注意が必要です。ですので、撮影の難易度はとても高いといえます。

撮影時のシャッター速度は、空を含むアングルで撮影するなら、星が流れ過ぎないように1/20秒程度に設定すると良いでしょう。ホワイトバランスは、少し青味を持たせた4,200K程度がおすすめです。失敗のリスクを減らすために、様々な設定を試しながら撮影することも重要です。

埼玉県秩父は雲海夜景で有名で、秩父市のミューズパークや皆野町の美の山公園が、秩父盆地の雲海を眺める名所として知られています。どちらも展望台が2箇所ありますが、雲海を目当てに訪れるカメラマンや観光客で朝方は混雑することが多いため、訪れる際にはその点を考慮する必要があります。首都圏に近いこともあり、近年の撮影人気は非常に高く、混むことへの覚悟が必要といえます。

雲海夜景は、街を覆う雲海があればどこでも見られる可能性があります。例えば、信濃川越しに越後三山を写せる朝日の撮影ポイントである山本山では、高速道路の夜景と共に雲海夜景を楽しむことができます。

富士フイルム X-T5・XF16-55mmF2.8 R LM WR・F4.0・20秒・ISO1250・WB4200K・美ノ山公園(埼玉県皆野町)

富士フイルム GFX 50R・GF100-200mmF5.6 R LM OIS WR・F7.1・40秒・ISO2500・WB3600K・山本山(新潟県小千谷市)

東の上空に雲があったらチャンス

雲海を撮影する際、せっかく雲海が出ていても、東の空が雲に覆われて朝日に期待できないことがあります。そんな時、早朝から日の出を期待して集まった人たちが、「今日はダメだ」と言って帰ってしまうのを何度も目にしてきました。確かに、強烈な朝日が差し込む光景を見られなかったのは残念です。でも、すぐに移動するべき場所の予定がないなら、東の上空に雲がある時は30分くらいその場で待ってみる価値があります。雲間から下界に光が差し込んでくることがあるからです。

栃木県日光市の霧降高原にある六方沢展望台で、関東平野を望んでいた朝、4人のカメラマンがいたのですが、みんなが帰った後、光が降ったという経験があります。

富士フイルム X-T4・XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR・絞り優先オート(F11・1/1800秒・-1.3EV補正)・ISO400・WB晴れ・霧降高原(栃木県日光市)

前景を入れる構図

撮影現場では、遠景を望遠レンズで切り取るだけでなく、手前にポイントとなるものを探すのも重要です。たとえば、ススキや桜など季節感を表すものや、形としてシルエットが美しいものを前景に取り入れることで、個性的な写真に仕上がります。

富士フイルム GFX 50R・GF32-64mmF4 R LM WR・絞り優先オート(F5.6・1/280秒・-1.3EV補正)・ISO400・WB晴れ・翠波高原(愛媛県四国中央市)

富士フイルム X-T4・XF16-55mmF2.8 R LM WR・絞り優先オート(F11・1/210秒・-0.3EV補正)・ISO400・WB晴れ・夜久野高原(京都府福知山市)

里に下りる

雲海の撮影が終わったら、素早く麓での撮影に切り替え次の撮影に臨むことを意識しています。現場での撮影後に仲間と談笑するのも楽しいですが、朝の光はとても貴重です。田園には霧が漂い、林の中から光芒が生まれることもあります。時間を無駄にせず、早く下りることが大切なのです。

FUJIFILM X-T5・XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR・絞り優先オート(F10・1/680秒・-2EV補正)・ISO200・WB晴れ・新潟県南魚沼市

おわりに

雲海は美しく、刻々と変化するため、つい夢中になってシャッターを切り過ぎてしまいがちです。同じアングルでひたすら撮影していることに気づいたら、意識的に違う視点を探すようにすることは忘れないようにしてください。そして、撮影地では足を使って動いてください。ぜひ、楽しく雲海撮影をしていただけましたら幸いです。

佐藤先生の撮影機材。富士フイルムX-T5、GFX100SII。

今回のカメラ・レンズ

富士フイルム X-T5
◉発売=2022年11月25日 ◉価格=オープン(実売 ボディ:268,290円・税込)
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富士フイルム X-T4
◉販売終了品

富士フイルム GFX 50R
◉販売終了品


フジノンレンズXF50-140mmF2.8 R LM OIS WR
◉発売=2014年11月 ◉メーカー希望小売価格=314,600円(税込)(実売:206,100円税込)
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フジノンレンズXF16-55mmF2.8 R LM WR
◉発売=2015年2月26日 ◉メーカー希望小売価格=235,400円(税込)(実売:159,885円税込)
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フジノンレンズGF32-64mmF4 R LM WR
◉発売=2017年2月28日 ◉メーカー希望小売価格=402,050円(税込)(実売:325,710円税込)
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フジノンレンズGF100-200mmF5.6 R LM OIS WR
◉発売=2019年2月14日 ◉メーカー希望小売価格=349,250円(税込)(実売:283,140円税込)
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