カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! フォトグラファー熱田 護 × 基礎から知りたい!モータースポーツの撮り方
写真・文:熱田 護/編集:合同会社PCT
- 熱田 護
- 熱田 護(あつた まもる) 1963年三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1986年ヴェガインターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。1991年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。F1取材回数は575戦(2023年末時点)。写真集に『サウダージ・アイルトンセナ』(山海堂)、『Turn in』(三樹書房)、『Time to say goodbye』(三樹書房)、『IGNITION』(TOKIMEKIパブリッシング)、『The F1 Spirit Takuma Sato』(二玄社)、『500GP』(インプレス)、『Champion』(インプレス)、『P1』(キヤノンマーケティングジャパン)など。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真家協会(ANSP)副会長、日本写真家協会(JPS)会員。
目次
はじめに
これからモータースポーツ写真を撮ってみたいと思っている方向けに参考になればと思います。
まず、一口にモータースポーツと言ってもさまざまなカテゴリーがあります。サーキットを走るオートバイ、4輪車、ゴーカート、オフロードを走るモトクロスやエンディーロ、トライアル,ラリーなどそれぞれ、さらに排気量やライダー、ドライバーのライセンスによってクラス分けされていたりします。
国内で開催しているレースでは世界選手権としては、2輪ではMOTOGP,トライアル、4輪ではF1,WEC,WRC,になり国内選手権ですと、2輪が全日本ロード、モトクロス、トライアル。4輪がSF,SGTなどが人気カテゴリーになります。
まずは、サーキットに行ってどういう雰囲気なのか肌で感じ取ってみてください。そのスピード感や音を体感してどう感じるのか、そして写真を撮ってみてください。写真を撮るためにはそのコース周辺を歩いてみて自分が好きなポジションを探すことがまず第一歩です。
なんでも情報が手に入る今の時代ですが、まずは歩いてお気に入りの場所を見つける事です、3メートル動けば違う絵になることもよくあることです。
次に、機材選び。僕がアドバイスするならば、予算があると思うので、その上限で選んでくださいということ、価格が上がれば性能も上がるということです。安い機材が高い機材の性能を上回るということはほぼ無いと言ってもいいと思います。これはカメラもレンズも同じです。
これから始めるのであれば、ミラーレスカメラを選ぶべきであると思います。中古の機材を選ぶというのもいいと思います。被写体との距離があるサーキットでの撮影ですので300mmくらいの望遠が必要かもしれません、出来れば500mm程度の望遠レンズがあった方が撮影場所の選択肢が増えます。最近は性能の良いズームレンズもたくさんあるので、悩みつつ選んでみてください。機材選びも楽しいものです。
スピードに慣れる
キヤノンEOS R3・RF400mm F2.8 L IS USM・絞りF7.1・1/500秒・ISO100・WBマニュアル
当たり前のことですが、サーキットを走るマシンは速い!
レースという競技は車やバイクを使ってその速さを競うものですからね、最初は速くて感じてマシンをファインダーの中で大きく捉えられないかもしれません。でも安心してしてください、これは慣れで誰でも撮れるようになるので頑張ってモニターでチェックしつつ頑張ってみてください。
その時のカメラの設定ですが、キヤノンの場合、ピントはオートフォーカス、サーボAF。乗り物モード、トラキングオン。シャッタースピード優先モードで1/1000秒以上で。
自分の思っていた撮りたいと思うマシンの角度をフレームの中で適切な大きさで捉えられるように何度も何枚も撮ってみてください。
そんな練習に適切なのはコーナーの曲がり方がきつくスピードも遅いヘヤピンカーブなどがいいと思います。同じ事をやるのは飽きてしまうので、少し場所を移動しながらしつこく練習してください。
僕の撮影スタイルです。400mmを使うときは一脚を使っていて、それ以外は手持ちで撮影しています。超望遠レンズを一脚で動きが速い被写体を追う場合、多少慣れが必要です、コツは一脚を支点に自分が動くようにしてみてください。腕力に自信のない人も一脚を使えれば撮影が楽になりますし、自分の狙った構図で撮れる確率も上がると思います。
流し撮りに挑戦してみましょう!
キヤノンEOS R3・RF400mm F2.8 L IS USM・絞りF6.3・1/200秒・ISO100・WBマニュアル
キヤノンEOS R3・RF400mm F2.8 L IS USM・絞りF20・1/15秒・ISO100・WBマニュアル
動く被写体の表現方法として誰もが知っている技法は流し撮り。背景をブラす事で車体の動感を出します。
方法は単純で、シャッタースピードを遅くしてマシンの動きに合わせてレンズを振れば良いのです。上の2枚の写真は同じ場所でシャッタースピードの違いで1/200秒と1/15秒です。
どちらの写真がいいかは、人それぞれですが、被写体のマシンがブレずに撮れる確率は圧倒的に早いシャッタースピードの方が簡単です。何故ならば、シャッターが開いている時間、正確にマシンの動きと同期しなければ流し撮りの成功にはならないからです。
キヤノンEOS R3・RF14-35mm F4 L IS USM・35mmで撮影・絞りF8.0・1/800秒・ISO100・WBマニュアル
キヤノンEOS R3・RF14-35mm F4 L IS USM・35mmで撮影・絞りF22・1/6秒・ISO50・WBマニュアル
同じく流し撮り、この写真はイタリアのモンツアサーキットの最終コーナーにある撮影台から俯瞰で狙える場所となります。レンズは35mm。時速200km以上は出ているし、しかも近いのでそのスピードに合わせてレンズを振るのはとても難しい。
でも難しいから楽しいんです。
レース写真を撮り始めて40年くらい経ちます、ず~っと流し撮りをやってますが、僕は流し撮りが上手くないという事がわかりました。でもどうやって作品を撮るのかというと、しつこく何度も撮ることをしています、わかりやすく言えば、数を打って当てるということ。
F1撮影で味方になってくれるもの①火花
キヤノンEOS R3・RF400mm F2.8 L IS USM・絞りF4.5・1/1000秒・ISO3200・WBマニュアル
キヤノンEOS R3・RF400mm F2.8 L IS USM・絞りF13・1/10秒・ISO100・WBマニュアル
F1を撮影する上で、大きな味方になってくれる要素がいくつかあるので代表的なものを紹介したいと思います。
まずは、火花。
マシンの車体の下部に埋め込まれたチタン合金が路面のギャップに接触した時に火花が散ります。どの場所でも散るわけでなくて、ブレーキングする場所、高速で走行しダウンフォースで車体が沈んでいる場所で路面のギャップがある場所がポイントになります。しかも、セッション開始直後のチタンがたくさん残っている時に顕著に現れます。さらに、夜間のセッションであればさらに光り輝きます。そのような条件で各サーキットの火花ポイントが決まります。
F1撮影で味方になってくれるもの②雨
キヤノンEOS R3・RF400mm F2.8 L IS USM・絞りF5・1/800秒・ISO200・WBマニュアル
次に、雨。
タイヤが外に出ているフォーミュラカーは、路面に溜まった雨を盛大に巻き上げます。水煙の上がる量は、その場所の水の量とマシンの通過速度で大きく変化します。
僕は、雨天での撮影が大好きです。何故ならば、綺麗で迫力のある水煙を上げながら疾走するシーンが何より美しいと思うから。もちろん、カッパを着込んで機材のレインカバーの用意など手間になるし、暑ければ蒸れるし、寒ければもっと寒いし。でも、美しいんですよね。
そこで問題があって、雨量が一定量を超えると走行が危険と判断されて走行中止になることが最近多くなっています。そうなると、我々はコースで走行再開を待つことしかできず、走り出す頃は雨量が減っていて迫力なしということもよくあります。でも、少ないチャンスでも時々いいコンディションで走行する時もありますから、ベストなポジションで撮れるように準備することが大切です。
最近のカメラ機材は多少濡れても大丈夫ということですが、濡らさない努力は不可欠です。thinkTANKのレインカバーはよく考えられていてお勧めアイテムです。
コース脇を歩いて、好きな光とポイントを探そう
キヤノンEOS R3・RF400mm F2.8 L IS USM・絞りF2.8・1/12800秒・ISO100・WBマニュアル
光を味方にする。
どのジャンルの撮影でも同じですが、光の向きを常に意識することは大切です。あらかじめ走行時間をチェックしてから、好きな光線の向きになるようにポジションを決めます。
キヤノンEOS R3・RF50mm F1.2 L USM・絞りF2.2・1/12800秒・ISO640・WBマニュアル
斜面に咲いている黄色の花を活かすために、寝転んで撮影しました。画面構成をどう構築するか、コース脇を歩きながら探してみてください。この写真は50mmで撮りました。望遠レンズだけがモータースポーツ写真ではありません。
キヤノンEOS R3・EF11-24mm f/4L USM・絞りF9・1/3200秒・ISO640・WBマニュアル
空が綺麗だと感じたので、広角で空をたくさん入れてみようとシャッターを切りました。後から確認してみると、なんとトンボ!偶然でも嬉しいじゃないですか。できたら、もう少し右にいてくれれば最高だったんだけどね。
キヤノンEOS R3・RF400mm F2.8 L IS USM・絞りF5.6・1/400秒・ISO250・WBオート
俯瞰で撮ることで、フォーミュラカーの造形の美しさを表現してみました。ドライバーのステアリング捌きも見えることで臨場感も出せていると思います。
スピードを克服したら、ピント合わせに挑戦しよう!
ここまで書いてきましたが、モータースポーツ写真を撮り始めて戸惑うのは、冒頭に書いたスピードに対して適切なフレーミングが出来ないことですが、これは前述したようにそのスピードは繰り返し練習することで克服できます。
次に、ピント合わせの問題。比較的近距離で迫ってきて過ぎ去る被写体というモータースポーツ撮影は、ピントを合わせることが一番難しいジャンルかもしれません。オートフォーカスの性能は日進月歩。僕もAFに頼り切って撮影する場面が多くなりました。自分の機材が高性能であれば、ぜひ頼って撮影してみてください。トラキングも使ってみると撮影の幅が広がります。
もしそうでない機材でも、諦める必要など微塵もありません。撮ってみてピントが来なければ、マニュアルフォーカスにして撮りたい場所に置きピンをしてシャッターを切ってみてください。その撮影方法を身につけると、AFで撮りづらい場面になった時、マニュアルフォーカスで撮れるという経験はきっと役に立ちますから!
キヤノンEOS R3・RF400mm F2.8 L IS USM・絞りF4.0・1/1000秒・ISO100・WBオート
フォーカスをどこに合わせればいいのか。フォーミュラカーはヘルメットに合わせるのが基本、GTや箱車の場合はフロントグリルが基本だと思います。
僕が使っているキヤノンR3には乗り物モードというのがあって、走ってくる車の形を見分けて、フォーミュラカーはヘルメットに、箱車はグリルにピントを合わせてくれます。なんと便利な時代になったのでしょう。
F1の現場に持っていく機材です。カメラはEOS R1に切り替える予定です。
おわりに
1年中、旅をしなければなりません。機材をなるべくコンパクトにしたい。そして安全に移動したい。当然パソコンや周辺機器も必要。僕はいつもこのバック2個とスーツケースで移動しています。
「海外に出かけて楽しそうですね」とよく言われますが、現実は円安と物価高で取材は大変難しい状況です。
でも、なぜ続けるのかというと、世界で1番を決める世界で見ることができる光景は、関わっている人間、走るマシンの造形、集まるお客さんの雰囲気、どれもキラキラ輝いています。そんな世界でシャッターを切れることに幸せを感じますし、やり甲斐を感じているからだと思います。
ぜひそんなモータースポーツの世界の写真を撮ってみてください。サーキットは暑いし、寒いし、雨も降るし、歩かなければなりません。難しいけれど、思った通りに撮れた時の感動は、確実に感じることができると思います。