カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 曽根原 昇 × 富士フイルムX-T50
写真・文:曽根原 昇/編集:合同会社PCT
上位モデルの性能を継承したXシリーズ中堅機「X-T50」
入門者にもわかりやすく操作性がブラッシュアップされ、上位機X-T5と同等のセンサーとエンジンを搭載した富士フイルム「X-T50」。その魅力と使用感を、写真家 曽根原昇さんに解説いただきました。
- 曽根原 昇
- 曽根原 昇(そねはら・のぼる) 信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し、雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。写真展に「冬に紡ぎき -On the Baltic Small Island-」(ソニーイメージングギャラリー銀座)、「関東牛刀ここにあり」(富士フォトギャラリー銀座)など、ほか多数。
目次
はじめに
今年6月に発売された富士フイルムの「X-T50」。APS-Cサイズセンサーを搭載するXシリーズカメラの最新機種にあたります。ラインナップ中の立ち位置としては、Xシリーズへの入門者も意識した、初心者寄りの中堅機種といったところでしょうか。
2019年発売の前モデル「X-T30」の後継機種にあたりますが、長らく間が空いたうえでのモデルチェンジだっただけに、先に登場した他モデルの技術を多く吸収し、結果的にはちょっと地味ながらも卒のない”とても良い子”に仕上がっています。
同じくダイヤルオペレーションでクラシックデザインの上位機種にあたる「X-T5」、および前モデルにあたる「X-T30」と比べることで、その優等生ぶりが明確になると思います。
ラウンド形状を取り入れたクラシックデザイン
「X-T50」は、上位機種にあたる「X-T5」と同じく、ダイヤルオペレーションを主体とした操作系をもつクラシックデザインであることが大きな特長です。
搭載する撮像センサーと画像処理エンジンも「X-T5」と同等。撮像センサーはXシリーズでは第五世代となる4020万画素の「X-Tran CMOS 5 HR」センサーで、画像処理エンジンは、こちらも第五世代の「X-Processor 5」。
【撮影データ】富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・絞りF5.6・1/900秒・-0.3EV補正・ISO125・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮像センサーと画像処理エンジンが同じですので、当然、得られる画像も基本的には「X-T5」と同じ。有効約4020万画素の高画素を、従来機比約2倍の高速処理を実現した画像処理エンジンで処理されるため、APS-Cサイズとしては破格とも言えるほど、緻密で高解像な写真を撮ることができます。
それでは「X-T5」と「X-T50」は何が違うのか? ということになると思いますが、まず第一に挙げられるのがサイズ感の違い。
幅×高さ×奥行きが、「X-T5」は129.5×91×63.8mmで質量約557g(バッテリー、メモリーカード含む)なのに対し、「X-T50」は123.8×84×48.8mmで質量約438g(バッテリー、メモリーカード含む)と、ひと回りほど小さく軽くなっています。
カメラとしての質感の高さという意味では「X-T5」に及びませんが、同じコンセプトながらもより軽快で気軽さを強調しているのが「X-T50」の特徴だと言えるでしょう。丸みを帯びたラウンド形状デザインで、手のひらへの収まりやすさを感じやすいのも、どこか親しみやすい「X-T50」のポイントになっています。
富士フイルム入門者にも分かりやすい操作性
操作性について「X-T50」は、より初心者にとって使いやすくなっています。
特に分かりやすく、富士フイルムのミラーレスカメラならではの醍醐味を感じられるのが、カメラ上面左側に設けられた「フィルムシミュレーションダイヤル」の存在。
「X-T5」を始めとした「X-T50」の上位機種では、フィルムシミュレーションの設定のために、一度フィルムシミュレーションの設定画面に入る必要がありましたが、「X-T5」の場合は、「フィルムシミュレーションダイヤル」を回すだけで、直ちに目的のフィルムシミュレーションを選択できます。
選択できるフィルムシミュレーションは、お馴染みの「PROVIA/スタンダード」や「Velvia/ビビッド」などをはじめとして、最新の「REALA ACE」を含む全20種類。フィルム時代から富士フイルムが培ってきた色仕上げのノウハウを存分に楽しむことができます。
内蔵フラッシュの搭載も、「X-T5」を始めとした上位機種にはない「X-T50」の特徴です。
【撮影データ】富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・絞りF4.8・1/60秒・±0EV補正・ISO3200・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード・内蔵フラッシュ使用
外部フラッシュに比べると簡易的なイメージの内蔵フラッシュですが、ISO感度を上げても撮れないような暗所で記念撮影などを撮ろうとした場合にとても便利です。あればあったでイザというときに重宝すると言ったところでしょうか。
ダイヤルオペレーションを主体とする「X-T50」は撮影モードダイヤルがないのですが、それでもシャッターを押すだけでカメラが自動的に写真を撮ってくれる「AUTOモード」を備えています。「AUTOモード」はシャッターダイヤルと同軸のレバーを「AUTO」に引くだけで設定可能です。
小柄なカメラながらちゃんと「フォーカスレバー」を搭載しているのが「X-T50」の良いところだと思います。「フォーカスレバー」はその名の通りフォーカスエリアの移動を主に行うための機能ですが、その他にもメニューの選択や再生画面の移動などにも活躍してくれます。これがあるとないだけで、カメラの操作性は大きく変わると言って過言でありません。
ファインダー(電子ビューファインダー)は、0.39型で約236万ドット。クラス比で考えると妥当な画面サイズと解像度で、十分な視認性があると思います。
液晶モニターは、3.0型の約184万ドットで、上下チルト式が採用されています。上位機種の「3方向チルトLCD」は別格としても、バリアングル式でなく上下チルト式が採用されたのは嬉しいことです。
前モデルから大きく向上した画質
同じダイヤルオペレーションのクラシックデザインで、上位機種にあたる「X-T5」とは撮像センサーも画像処理エンジンも同じであるため、基本的に画質は同等という話は先に述べています。しかし、前モデルとなる「X-T30」と比べると、画質にかんする性能は大きく進化していることは間違いありません。
常用最低感度は「X-T30」のISO160からISO125になりました。
【撮影データ】富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・絞りF6.4・1/40秒・±0EV補正・ISO125・WB 10000K・フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
これは撮像センサーの集光効率が向上したためですが、画素数が有効約2610万画素から有効約4020万画素へと、高画素化したうえでダイナミックレンジも拡大したことになりますので、「X-T50」ではより解像感が高く緻密な画質が得られます。
一方で、常用最高感度は変わらずISO12800のまま。
【撮影データ】富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・絞りF5.6・1/13秒・+0.3EV補正・ISO12800・WB オート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
ただし、画素数が増えたうえでの同じ最高感度ですので、実質的には高感度性能も向上していると見做して良いと思います。高画素化してもノイズを抑えた優れた高感度画質を実現できたのは、画像処理エンジン「X-Processor 5」の処理能力がそれだけ進化したということでしょう。
上位モデルから引き継いだ被写体検出AF
前モデル「X-T30」からのもうひとつの大きな進化点として挙げられるのが、AIによるディープラーニング技術を使った「被写体検出AF」の搭載になります。「X-T30」も人物の顔や瞳の検出はできましたが、「X-T50」ではそれに加えて動物・鳥・車・バイク・自転車・飛行機・電車・昆虫・ドローンの検出が可能になっています(「昆虫」は「鳥」に、「ドローン」は「飛行機」に内包)。
【撮影データ】富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・絞りF5.6・1/600秒・-0.7EV補正・ISO250・WB オート・フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト
被写体検出設定を「鳥(昆虫)」にして撮影。ちゃんとモンキチョウの複眼を検出して、正確にピントを合わせてくれているのだから驚きます。被写体検出AFに慣れてしまうと、被写体検出AFなしで撮影するのが恐ろしくなるほど強力な機能だと感じています。
【撮影データ】富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・絞りF4.8・1/150秒・-0.7EV補正・ISO320・WB オート・フィルムシミュレーション:ACROS
被写体検出設定を「動物」にして撮影。こちらも正確にネコの瞳にピントを合わせてくれました。富士フイルムの被写体検出AFは、2022年に発売された「X-H2S」で初搭載された機能ですが、上位機種で培われた機能が、今回、「X-T50」にも無事投入されたということになります。
「X-T50」を使ってみた感想を作例より
【撮影データ】富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・絞りF8.0・1/45秒・-0.3EV補正・ISO800・WB 10000K・フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
筆者が富士フイルムのXシリーズカメラを使っている理由のひとつは、やはりフィルムシミュレーションがあるから。フィルムメーカーならではの、多彩で良質な画作りはとても魅力的です。「X-H2S」を使っている筆者ですが、「X-T50」の「フィルムシミュレーションダイヤル」はうらやましささえ覚えます。ぜひ活用してみてください。
【撮影データ】富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・絞りF5.0・1/350秒・+0.3EV補正・ISO125・WB オート・フィルムシミュレーション:ACROS
同じくフィルムシミュレーションを活用。名モノクロフィルムをイメージしたフィルムシミュレーションである「ACROS」で撮ってみました。ファインダーまたは液晶モニターを見ながら「フィルムシミュレーションダイヤル」を回せば、現在の映像にフィルムシミュレーションが適用されるため、出来上がりがイメージしやすくモチベーションが上がります。
【撮影データ】富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・絞りF5.0・1/100秒・-0.3EV補正・ISO400・WB オート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
液晶モニターを引き出して、ハイアングルで撮影しています。横位置の場合に限られますが、上下チルト式だとバリアングル式に比べて、液晶モニターを引き出す手数が少なくて済むため、急なシャッターチャンスに対応しやすく気に入っています。被写体検出AFが搭載されたおかげで、対象の被写体であれば、自動的にピントを合わせつづけてくれるところも素晴らしい。
【撮影データ】富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・絞りF5.6・1/480秒・+0.3EV補正・ISO160・WB オート・フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト
ダイヤルオペレーションのカメラとしては珍しい「AUTOモード」で撮影してみました。仕事柄、「AUTOモード」を使うことは滅多にありませんが、ファインダー画面の情報を見ていると、意外なほど的確なカメラ設定が選ばれていることに驚きます。ダイヤルが多いとフイに現在の設定が分からなくなってしまうこともあると思います。そんな時「AUTOモード」は心強い味方となってくれるでしょう。
まとめ
前モデルの「X-T30」から約5年の間を空けて、ようやく登場したのが本機「X-T50」です。その間に、同じくダイヤルオペレーションを基調とした「X-T5」をはじめ、多くのモデルが先んじて発売された…というのが「イマココ」です。撮像センサーも画像処理エンジンもすでに第五世代となっていますので、「X-T40」が幻となったのにも納得するしかありません。
しかし、「X-T50」は後発となったおかげで、先発の多くのカメラで培われた新しい技術が惜しみなく詰め込まれています。「X-T50」だけの際だった機能というのは、実はほとんどありませんが、先達のいいとこどりによって満遍なく優れた”優等生”であると言えるかもしれません。
クラシックデザインをまとった富士フイルムのカメラに興味はあるけど、「X-T5」は何だか本格的過ぎて使いこなせなさそう、なんて感じている人も多いのではないでしょうか。クラシックなたたずまいを取り入れながら、入門者にも優しい機能を、イイ感じで折衷させたのが本機「X-T50」です。サブ機に欲しいという筆者の願望はともかく、初めての富士フイルムを体感するのに打って付けのカメラだと思いますよ。お勧めのカメラです。