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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 助川康史 × ニコンZ6Ⅲ実写レビュー

写真・文:助川康史/編集:合同会社PCT

プロユースにも十二分に応えるミドルクラス機「ニコンZ6Ⅲ」

満を持して登場したニコンZ6Ⅲの魅力を、写真家 助川康史さんに作品を交えながら紹介いただきました。操作性や性能の進化、新機能のポイントなどぜひご参考ください。

助川康史
1975年東京生まれ。秋田経済法科大学法学部、東京ビジュアルアーツ写真学科卒業後、鉄道写真家の真島満秀氏を師事。鉄道車両が持つ魅力だけでなく、鉄道を取りまく風土やそこに生きる人々の美しさを伝えることをモットーに日本各地の線路際をカメラ片手に奮闘中。鉄道ダイヤ情報(交通新聞社)などの鉄道趣味誌や旅行誌の取材、JTB時刻表(JTBパブリッシング)やJR時刻表(交通新聞社)などの表紙写真を手掛ける。またJR東日本や東武鉄道などの鉄道会社のポスターやカレンダー撮影も精力的に行っている。日本鉄道写真作家協会(JRPS)理事。(有)マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ勤務。 ニコンカレッジ講師。

はじめに

満を持して発売されたニコンZ6Ⅲ。Z8やZ9のスピリットを受け継いだその性能は今までのZ6シリーズとは一線を画す高性能機に仕上がっており「Z6シリーズではない。」という声も聞かれるほどだ。だが高感度特性やハンドリングの良い画素数などはまさしく新世代のZ6シリーズ。それではZ6Ⅲの驚くべきパフォーマンスを少しずつ紐解いていこう。

ニコンZ6Ⅲ・NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S・110mmで撮影・絞りF9・1/800秒・ISO800・WBマニュアル・日南線 大堂津~南郷

ニコンZ6Ⅲの「ファーストインプレッション」

Z9は『フラッグシップ』、Z8は『ハイエンド』という位置付けに対して、Z6Ⅲは『ミドルクラス』としている。ミドルクラスというと初級者から中級者向けというイメージが強くなるが、Z6Ⅲのパフォーマンスはその域に留まらない。プロユースにも十二分に応える能力を秘めている。

ボディサイズこそZ6シリーズのコンパクト&軽量さを踏襲しながらも、グリップやボディにやや厚みを持たせることでホールド感の良さやボタン操作のしやすさが大きく向上している。そのボタン配置もZ9やZ8で考え抜かれたレイアウトや角度に変更したおかげで、より軽快な操作感が味わえる。加えてZ9やZ8の操作に慣れたユーザーもZ6Ⅲを同様に操作できるので、Z6Ⅲを2台目として所有してもストレスフリーで操作できることは間違いない。手に取った時にしっくりくる感触は、Z6Ⅲがユーザーの撮影スタイルに寄り添ったボディーデザインに仕上がっていると感じるだろう。
しかしZ6Ⅲの本質はまだまだこれから。次は性能面についてお話をしよう。

ニコンZ6Ⅲ・NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S・135mmで撮影・絞りF8・1/250秒・ISO800・WBマニュアル・南阿蘇鉄道 立野~長陽

世界初!部分積層型CMOSセンサー搭載で広がる撮影の楽しさ

数あるZ6Ⅲの機能や性能面の中でも最も大きく貢献しているのが世界初の『部分積層型CMOSセンサー』だ。完全な積層型CMOSセンサーのZ9やZ8に比べると読み出し速度はやや劣るものの、裏面照射型CMOSセンサーのZ6Ⅱに対して約3.5倍の読み出し速度を実現した。さらに最新の画像処理エンジンEXPEED7との連携によって様々な性能向上へとつながっている。

まず挙げるとするならば、電子シャッターが普段使いの実用レベルに向上したこと。撮影時のローリング歪みが軽減され、最高20コマ/秒の高速連続撮影が可能になった。さらにはZ9やZ8と同じく最大約120コマ/秒で撮影できる『ハイスピードフレームキャプチャー』も搭載された。従来のフォーカルプレーン型のメカシャッターも残しているが、私の体感としては電子シャッターをデフォルトとして設定したほうが撮影時のメリットは大きい。メカシャッターを使う回数が減れば機械的な故障も防ぐことができ、結果Z6Ⅲの寿命をより延ばすことも可能になる。

また『部分積層型CMOSセンサー』はEVFの性能向上にも大きな役割を果たしており、表示タイムラグが非常に少ない、ブラックアウトフリーEVFの搭載が実現した。様々な写真ジャンルの中でも、特に被写体が動体の撮影では威力を発揮する機能が惜しげもなく搭載されているのだ。逃すことができない緊張の一瞬でも、楽しさを感じながら撮影できるだろう。

被写体検出(のりもの)&高精度AF

鉄道写真撮影を生業としている私にとって、Z6Ⅲに『被写体検出(のりもの)』が搭載されたことは非常に大きい。列車の顔を判断し、AFポイントをピントを合わせるべき箇所へと導く『被写体検出(のりもの)』の素晴らしさは既にZ9やZ8で体感済み。

ちなみにZ6Ⅱは人物や動物の顔や瞳、頭部の検出しかできなかったが、それがZ6Ⅲでは9種類もの『被写体検出』が可能になったのだから、動体を被写体とするアグレッシブな撮影をするユーザーには非常に心強い。だが確実なピント合わせは『被写体検出』だけでは成立しない。部分積層型CMOSセンサーとEXPEED7が生み出す高速&高精度なAF能力が有るからこそだ。Z6ⅢのAFはZ9やZ8をしのぐ-10EVまで検出可能な優れた能力を備える。ピント合わせは被写体や撮影状況に合わせて的確なAF設定を導き出し、Z6Ⅲに任せるだけ。そして撮影者はアングルに集中するのみ。これこそ、表現者が求める妥協なき作品につながる撮影スタイルだ。

被写体検出EVFキャプチャー画面

ニコンZ6Ⅲ・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・460mmで撮影・絞りF11・1/1600秒・ISO1600・WBマニュアル・日豊本線 豊後豊岡~亀川

ニコンZ6Ⅲ・NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S・68mmで撮影・絞りF8・1/2500秒・ISO800・WBマニュアル・久大本線 由布院~南由布

最大約120コマ/秒で撮影!ハイスピードフレームキャプチャー

Z9やZ8で好評の『ハイスピードフレームキャプチャー』だが、Z6Ⅲにも引き継がれた超高速連続撮影モードだ。

これも『部分積層型CMOSセンサー』による電子シャッターが可能にした機能で、最大約120コマ/秒で撮影することができる。鉄道の場合は高速で駆け抜ける列車の編成写真を標準レンズで撮る場合、いわゆる「見かけの速度が速い」アングルの撮影には最適な撮影モードでもある。ただし撮影データはRAWではなくJPEG〔NORMAL〕(1/8圧縮)になる。画像サイズも約120コマ/秒であればDX(APS-C)、約60コマ以下であればFX(フルサイズ)と制限はある。しかしDXでも約1060万画素。四つ切プリントにちょうど良い画素数でもあり、十分実用的なレベルと言って良いだろう。DXは電子シャッターのローリング歪みがより軽減されるということも特筆すべき点。

またシャッター全押しの撮影1秒前から記録をする『プリキャプチャー』も搭載している。鉄道撮影では機会は少ないが、鳥や動物、スポーツ写真などの不意な動きでシャッターチャンスを逃してしまうような撮影では保険にもなる。一期一会の得難い瞬間を逃さず、確実に撮影することができるだろう。

(共通撮影データ)
ニコンZ6Ⅲ・NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S・48mmで撮影・絞りF8・1/4000秒・ISO1600・WBマニュアル・久大本線 恵良~引治

ブラックアウトフリーEVFが叶えるアグレッシブな鉄道写真撮影

これもまた『部分積層型CMOSセンサー』の能力によるものだが、Z6ⅢがブラックアウトフリーEVFを装備したことも大きい。鉄道写真撮影はもちろん、これも鳥や動物、球技や格闘技のスポーツ写真など、動きが不規則な被写体の撮影で重宝する。どんなシーンも写真を撮るためには最低限、被写体をファインダーで捉え、追い続けなくてはならない。そんな厳しい条件下でもZ6ⅢのEVFは応えてくれるのだ。

オススメの設定はやはり電子シャッターの高速連続撮影(拡張)。最大60fpsの高速表示になるので、連写中もまるで動画を見ているかのように滑らかに表示され、容易に被写体を追うことができる。またEVFの表示タイムラグが非常に少ないのも特徴。

となれば鉄道写真撮影で活躍するのが『流し撮り』だ。列車はほぼ等速で走っているとはいえ、通常のミラーレス一眼では列車に合わせて同調するようにカメラを振り続けるにはコツが必要。シャッターボタンを押す前にカメラを振る速度を体で覚え、EVFがブラックアウトしたり、画像が止まっても惑わされずに最後まで連写しながら振りぬく必要がある。しかしZ6ⅢのブラックアウトフリーEVFは連写時でもファインダー像が消失や停止することなく、Z9やZ8の『リアルライブビューファインダー』と同じ感覚で列車を追い続けて流し撮りをすることが可能だ。流し撮りはテクニカルな撮影だけに敬遠する人も多い。しかし一度コツを覚えれば写真表現は大きく広がる。それを実現してくれるのがZ6ⅢのブラックアウトフリーEVFだ。

流し撮りEVFキャプチャー画面

ニコンZ6Ⅲ・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・340mmで撮影・絞りF11・1/60秒・ISO200・WBマニュアル・日豊本線 中山香~杵築

ニコンZ6Ⅲ・NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S・91mmで撮影・絞りF9・1/8秒・ISO400・WBマニュアル・日豊本線 立石~中山香

新機能フレキシブルカラーピクチャーコントール

ピクチャーコントールはシャープネスやコントラスト、彩度や色味などを撮影意図に合わせて設定して作品の印象を大きく変える重要な機能。Zシリーズには『スタンダード』や『ビビッド』などのメインとなるピクチャーコントールに加え、より細かく独特の色味やトーンを付ける『クリエイティブピクチャーコントール』がある。そこにZ6Ⅲの『フレキシブルカラーピクチャーコントール』が新たに加わった。

今までのピクチャーコントールはカメラが設定した値をそのまま使用するのに対し、『フレキシブルカラーピクチャーコントール』は撮影者の嗜好を反映したオリジナルのピクチャーコントールを作り上げ、Z6Ⅲに登録することから始まる。NX-Studioでカラーブレンダーやカラーグレーディングなどで詳細に色味や絵柄の質を設定・保存し、CFexpressやSDカードに書き込むか、『Nikon Imaging Cloud』にアップロードした後にZ6Ⅲにコピーして撮影に反映させるという手順になる。

Z6Ⅲにデータが反映されるとピクチャーコントールに新たな項目が反映され、それを選択することで使用することができる。NX-Studioで自分の色味を出すレタッチをしている人は多いと思うが、それは撮影後のデスクトップ上でやる作業になるので撮影時のピクチャーコントールを『スタンダード』や『ニュートラル』を選んでいることになる。その中で細かな設定はするものの、完全に自分のイメージに沿った設定をすることは難しかった。しかし『フレキシブルカラーピクチャーコントール』は撮影者オリジナルの設定を丸ごとZ6Ⅲに反映させることができる。そしてその最大のメリットはEVFやモニターに『フレキシブルカラーピクチャーコントール』が反映された色味やコントラスト、シャープネスなどが表示されることだ。特にEVFは高精細で表示されるので、より作品イメージが掴みやすい。オリジナル設定が反映されたEVFを見ながら撮影するというのは、想像力と創作力が湧いてくることは間違いない。『フレキシブルカラーピクチャーコントール』は個性的な作品を撮りたいという写真愛好家にとって大きな存在となるはずだ。

ニコンZ6Ⅲ・NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S・28mmで撮影・絞りF7.1・1/160秒・ISO800・WBマニュアル・鹿児島本線 門司港駅

ニコンZ6Ⅲ・NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S・160mmで撮影・絞りF5.6・1/60秒・ISO800・WBマニュアル・鹿児島本線 門司港駅

まとめ

Z6ⅢはZ6シリーズの最新機種という位置付けでありながら、それとは一線を画す程の性能や機能を兼ね備えていることがおわかりいただけたと思う。Z6Ⅲが今後のZシリーズのミドルクラス機の基準になると考えると、ニコンZシリーズ全体の今後にさらに期待を膨らませずにはいられない。またZ6ⅢはAFや電子シャッター、高速連続撮影などの機能や性能アップといったハード面だけではなく、操作感や『フレキシブルカラーピクチャーコントール』などの撮影者のクリエイティブな気持ちを高めるソフト面を併せ持つカメラだ。手にしたときのワクワク感、そして撮影する時のドキドキ感を楽しめる、ハートフルで素晴らしい相棒となってくれるだろう。

ニコンZ6Ⅲ・NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S・24mmで撮影・絞りF7.1・1/2500秒・ISO800・WBマニュアル・日豊本線 川南~高鍋

今回のカメラ・レンズ

ニコンZ6Ⅲ
◉発売=2024年7月12日 ◉価格=オープンプライス
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NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
◉発売=2019年4月19日 ◉価格=オープンプライス
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NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S
◉発売=2020年8月28日 ◉価格=オープンプライス
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NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR
◉発売=2023年8月31日 ◉価格=オープンプライス
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