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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! フォトグラファー 中藤毅彦さん ✕ パナソニック LUMIX S9

写真・文:中藤毅彦(なかふじたけひこ)/編集:合同会社PCT

パナソニック LUMIX S9で軽快にモノクロスナップ!

高い描写性能・操作性と小型軽量を両立したパナソニックLUMIXのコンパクトなフルサイズ機、LUMIX S9が登場。今回、ストリートスナップとモノクローム写真を得意とする写真家 中藤毅彦さんが、ズームレンズ2本とマウントアダプターを介したオールドレンズでの撮影に挑戦。「LEICAモノクロームモード」での作例を中心に、LUMIX S9の魅力をご紹介する。

中藤毅彦(なかふじ・たけひこ)
1970 年東京生まれ。早稲田大学第一文学部中退。東京ビジュアルアーツ写真学科卒業。作家活動と共に東京•四谷三丁目にてギャラリー・ニエプスを運営。都市のスナップショットを中心に作品を発表し続けている。国内各地の他、東欧、ロシア、キューバ、中国、香港、パリ、ニューヨークなど世界各地を取材。国内外にて個展、グループ展多数開催。第29回東川賞特別作家賞受賞。第24回林忠彦賞受賞。

はじめに

まずは、手に取ってみての第一印象であるが、外観は非常にシンプルで、いかにもカメラらしいスタイルのカメラだと感じる。

ルミックスのカメラは元来、奇をてらったところの無い堅実なデザインが特徴だが、今回のLUMIX S9はそれに加えてライカ的なクラカメ要素も感じられ、中々にオシャレなデザインにまとまっている。エクステリア張り替えサービスでカラフルな革張りを特注すれば、更に愛着の涌く特別な一台になるだろう。

大きさも、フルサイズとしては小振りな方で、大き過ぎず小さ過ぎず、手に持ったサイズ感がちょうど良い。スナップ用に持ち歩くのも負担がない。EVFファインダーは省略され、撮影時は背面液晶のみで画像を確認するという方式は、最近のフルサイズミラーレス一眼としては珍しい程の割り切り方だ。背面液晶はバリアングルなので、EVFがなくとも様々な状況の中での撮影に十分対応できると思う。

最新機能はしっかり搭載しつつ、思い切ったフラットデザイン

小型ボディにズームレンズを装着すると、ややフロントヘビーな感がある。
驚かされるのはアクセサリーシューで、ストロボや外付けEVFを使うための電子接点のない純粋なる、ただのシューなのである。ケーブルを取り付けるX接点もどこにもないので、これは「ストロボなど使わずにアベイラブルライトのみで撮るべし」というメッセージなのだろうが、よくぞ思い切ったものである。

もちろん、パナソニックにそうした技術がない訳はなく、些細なコストダウンのためでもなく、このシンプルなシューの姿に、極限まで機能を削ぎ落すと言う開発意図が籠っていることを感じる。一方で、オリジナルの色設定を取り込んで撮影に反映させることができるリアルタイムLUTのワンタッチボタンが背面に設定されていたりと、動画も含めたニーズに応える最新の機能はしっかり搭載されている。新たな時代のカメラとしてツボを得たシンプル化と言って良いだろう。

アクセサリーシューには一切の電子接点はない。のっぺらぼうのコールドシューである。

LUMIX S9を見ていると奇妙な既視感があって、なぜなのか考えを巡らせていたのだが、このシンプルさは、かつてのマイクロフォーサーズのGM1に酷似していることに気がついた。GM1とEVF搭載のGM5の2機種によるGMシリーズは、尖った存在感の小型機として未だに探しているファンが多い名機である。

大きさは違うが、GMシリーズのコンセプトをフルサイズでリバイバルさせたのがS9なのではないだろうか?そう考えると、高機能なS1やS5とはまた違うS9独自の立ち位置が見えてくる気がする。スマホやコンデジからのステップアップ層と共に、てんこ盛りの高機能を必要としないスナップ派にも受け入れられるだろう。

「LEICAモノクロームモード」で、ストリートスナップ&ポートレート撮影!

さて、このLUMIX S9を自分はどう使うか。これほどに尖ったコンセプトのカメラであるからには、使うこちらも思い切りわがままに使ってみたい。

今回は、マウントアダプターを使用してクラシックレンズも装着したりしながら、フォトスタイルのLEICAモノクロームモードに限定して、スナップや都市風景、ポートレートを撮影することにした。

僕は、モノクロメインに作品を撮っているのだが、G9 PROⅡやS5Ⅱから搭載されたライカモノクロームモードの完成度の高さは大いに気に入っている。ルミックスのカメラは、モノクロに特に力を入れており、ライカモノクロームモード以外にも、LモノクロームSやLモノクロームLといった様々なモードが搭載されているが、その辺りは以前の当オンラインマガジンのG9 PROⅡのレポートで詳しく書いたのでご興味ある方はそちらを参照していただきたい。

フォトスタイルのLEICAモノクロームモード。


パナソニックLUMIX S9をモノクロのストリートスナップでさっそく実写!

レンズは、パナソニックSマウントのズームレンズLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6 、LUMIX S28-200mm F4-7.1の2本と共に、ライツズマロン35mm F3.5、エルマー50mm F3.5、カールツァイスゾナー50mm F1.5のクラシックレンズ3本をチョイスしてみた。

まずは、純正のズームを装着してライカモノクロームモードでポートレートや都市風景を撮り歩く。ピントの合焦速度はスムーズで撮影は非常に快適だ。電子シャッターを装備したS9は、シャッターのショックが皆無で、電子音をオフにすると完全に無音で撮影ができることに驚く。

フルサイズのミラーレス一眼ながら、コンデジ以上に軽快に写真が撮れるオートマチックな感覚は、スナップ撮影に於いて非常に有効だと感じる。ライカモノクロームモードの生み出すモノクロ画像は、カメラ内モノクロモードとして完成の域に達しており、文句の付けようのない仕上がりと言えるだろう。

【撮影データ】LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6・31mmで撮影・絞りAE(F4.9・1/50秒)・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

有楽町駅近くのガード下に貼られた懐かしい映画ポスターが風化して朽ち果てていた。


【撮影データ】LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6・20mmで撮影・絞りAE(F8・1/1000秒)・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

汐留のハイテクビルを仰ぐと空に一筋の飛行機雲が浮かんでいた。


【撮影データ】LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6・20mmで撮影・絞りAE(F4.1・1/6秒)・ISO6400・フォトスタイル:LEICAモノクローム

タワマンが立ち並ぶ品川の夜景。スローシャッターで鉄橋を渡る新幹線の動きを出してみた。


LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6・20mmで撮影・絞りAE(F10・1/250秒)・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

室内ポートレート。薄暗い店内に佇むモデルの若者。気だるい色香を漂わせていた。


LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6・21mmで撮影・絞りAE(F10・1/125秒)・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

港から突き出した桟橋をシンメトリーな構図で狙ってみた。


LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6・21mmで撮影・絞りAE(F4.7・1/50秒)・ISO3200・フォトスタイル:LEICAモノクローム

夕暮れの港のクレーンに灯りがともる。羽田から飛び立つ飛行機が画面にうまく収まった。


LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6・44mmで撮影・絞りAE(F4.9・1/1300秒)・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

近代的な都市風景と強い西日が描く光と影の造形が美しかった。


LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6・21mmで撮影・絞りAE(F4・1/100秒)・ISO1600・フォトスタイル:LEICAモノクローム

銀座と新橋を結ぶガード下。鉄骨と提灯が織りなす、めくるめく昭和の世界が残っている。


LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S.・39mmで撮影・絞りAE(F4.6・1/60秒)・ISO3200・フォトスタイル:LEICAモノクローム

ファッションフォト。個性的なモデルの不良感を意識してポージングした。


LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S.・66mmで撮影・絞りAE(F5.4・1/100秒)・ISO2500・フォトスタイル:LEICAモノクローム

ファッションフォト。中性的で物憂げな表情を狙った。


LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S.・35mmで撮影・絞りAE(F5.1・1/30秒)・ISO1600・フォトスタイル:LEICAモノクローム

ファッションフォト。喫煙室だった豪華な部屋で、窓から射す逆光の光を活かして撮影。


LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S.・35mmで撮影・絞りAE(F5.1・1/1250秒)・ISO500・フォトスタイル:LEICAモノクローム


LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S.・62mmで撮影・絞りAE(F5.3・1/30秒)・ISO3200・フォトスタイル:LEICAモノクローム

ファッションフォト。端正な顔立ちのモデルの魅力を意識して撮影した。


LUMIX S 26mm F8.0・絞りAE(F8・1/1000秒)・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

発売記念キャンペーン特典のパンケーキレンズ(26mm)で撮影してみた。軽快で楽しいレンズだ。

マウントアダプターを介して、オールドレンズでも撮影

さて、クラシックレンズである。

少々マニアックな話であるが僕のエルマー50mm F3.5は、一見ごく普通のエルマーなのだが、ライカ最初のカメラであるA型から取り外されスクリューマウントに改造された個体である。製造番号がなく、ノブ後ろの識別番号は1だ。専門家の鑑定によると、本来はニッケルメッキの鏡胴だった筈だが、レンズのガラスのみが活かされ、戦後にクロームメッキの新しい鏡胴に入れ直されているようだ。

エルマー5cm F3.5は、最も古い部類のライカレンズである。


ライツ社の50mm単体ファインダーの見えの良さは抜群である。


つまり、ごく少数のエルマックス等の希少品を除けば、いま手に入る最も古い部類の交換レンズなのである。その100年近く前のライカのレンズと、最新のデジタルカメラが融合し、その名も「LEICAモノクロームモード」で撮影できるとは、何とも風雅なことである。


ライツエルマー5cm F3.5・絞りF3.5・1/3200秒・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

開放絞りで撮影。個性的なボケとローキーな描写がいかにもオールドレンズらしい。


ライツエルマー5cm F3.5・絞りF5.6・1/640秒・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

画面周辺部に少しの流れは見られるが、しっとりした柔らかさはさすがエルマーである。


ライツエルマー5cm F3.5・絞りF5.6・1/3200秒・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

光を反射した水面の滑らかな描写が美しい。100年近く前のレンズの味が出たと思う。


ライツエルマー5cm F3.5・絞りF5.6・1/500秒・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

硬質な被写体を写しても、決して固くはならない。アウトフォーカス部分には時代を感じる

残る2本は、戦後のもので、バルナックライカ用の広角ズマロン35mm F3.5と、コンタックスⅡa用のゾナー50mm F1.5である。それぞれ決して珍しい物ではないが、1950年代のドイツカメラ絶頂期の名品で、品質も写りも定評のあるレンズである。これらのクラシックレンズを使用する場合は当然AFは使えずマニュアルでのピント合わせとなり、またレンズの装着にはマウントアダプターが必要となる。


ズマロン3.5cm F3.5は描写も心地よく比較的安価に入手できるお薦めのライカレンズだ。


ライツ社の大ぶりな35mm単体ファインダーを装着した姿は中々に戦闘的だ。


ライツズマロン3.5cm F3.5・絞りF5.6・1/640秒・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

反逆光の条件で画面左半分が柔らかなフレアで覆われた。オールドレンズならではの描写だ。


ライツズマロン3.5cm F3.5・絞りF5.6・1/2500秒・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

輝度差の強い被写体だったが、光と影で浮かぶ暖簾の質感と文字が面白い具合に融合した。


ライツズマロン3.5cm F3.5・絞りF5.6・1/1000秒・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

ズマロンは条件が合うとこの写真のように中々力強い描写をする。 人物のシルエットが効いた。


ライツズマロン3.5cm F3.5・絞りF8・1/160秒・ISO800・フォトスタイル:LEICAモノクローム

ズマロンは条件が合うとこの写真のように中々力強い描写をする。 人物のシルエットが効いた。


カールツァイスゾナー5cm F1.5・絞りF1.5・1/125秒・ISO2500・フォトスタイル:LEICAモノクローム

ゾナーの描写は個性的だ。絞り開放では画面全体がベールの様なフレアに包まれる。


カールツァイスゾナー5cm F1.5・絞りF8・1/100秒・ISO1000・フォトスタイル:LEICAモノクローム

逆光気味の条件でスナップ撮影。少し絞ると全体がシャープな描写になる。


カールツァイスゾナー5cm F1.5・絞りF1.5・1/100秒・ISO3200・フォトスタイル:LEICAモノクローム

薄暗い屋内での撮影。ゾナーのボケはどこかヌルっとした独特の滑らかさがある。


カールツァイスゾナー5cm F1.5・絞りF1.5・1/100秒・ISO3200・フォトスタイル:LEICAモノクローム

閉店した写真館の看板。大判カメラのイラストが可愛らしくも哀愁を誘う。



今回、ライカスクリューマウントのレンズ2本には、L-Mマウントアダプターと、7ArtisansのM-パナソニックSマウントアダプターの2枚を組み合わせて使用した。
コンタックスマウントのゾナーには、さらにC-Lマウントアダプターを追加して3つのマウントアダプターを組み合わせなくてはならない。

コンタックスⅡa用の標準レンズ、ゾナー5cm F1.5は当時としては別格の大口径レンズだった。


レンジファインダーコンタックスレンズを装着するためには、アダプターを3つ組み合わせなくてはならない。


ツァイスレンズとライカモノクロームモードの組み合わせは面白い。

EVFのない本機では、背面の液晶モニター頼りのマニュアルフォーカスになってしまうのは仕方がないところであるが、ピーキング機能を有効に使えばピント合わせの精度を補うことができる。こう書くと非常にややこしく、果たしてちゃんと撮れるのか不安になってくるが、案ずることはなく、撮影結果は非常に良好であった。

電子接点のないアクセサリーシューをどう使うか

ところで、件のホットシューならぬコールドシューであるが、電子接点のないアクセサリーシューがあることの意味を自分なりに考えてみた。普通に考えると動画撮影用の外付けマイクを付ける台座ということになるし、おそらくそのためにシューが残してあるのだろうが、ここに光学式の外付けファインダーを装着してはどうか?と思いついた。

ライカの50mmや35mmの外付けファインダーは、美しい見え味で定評のある名品であるが、実際に付けてみるとクラシックカメラ然とした佇まいが実に良い。実用的な側面から見ても、背面の液晶モニターだけでなく、さっと覗いて迅速に画角を確認できる外付けファインダーもあれば、単焦点レンズのスナップ撮影では有用だ。もしかすると、この使い方のために接点のないシューを敢えて残したのかとさえ考えてしまう。

まとめ

LUMIX S9は、最新型ながら元々がクラシカルなデザインのカメラなので、クラシックなレンズやアクセサリーを装着した姿は中々に良く似合う。撮影自体を楽しむと共に、こうした遊び心で組み合わせをアレンジするのも、シンプルなこのカメラならではの楽しみではないかと思う。LUMIX S9は、どちらかと言うとフルサイズのミラーレス一眼は初めてという初心者をターゲットにしたカメラであるが、それだけではない魅力に溢れている。実は、通好みのシンプルな小型機を求める向きのベテランにこそお薦めなのだ。

今回のカメラ・レンズ

Panasonic(パナソニック) Panasonic LUMIX S9 ブラック/シルバー
◉発売=2024年6月20日 ◉価格=オープンプライス(実売207,900円・税込)
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LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6
◉発売=2020年7月22日 ◉メーカー希望小売価格=81,400円(実売73,260円・税込)
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LUMIX S 28-200 mm F4-7.1 MACRO O.I.S.
◉発売=2024年4月18日 
◉メーカー希望小売価格=132,000円(実売118,800円・税込)
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LUMIX S 26mm F8 S-R26
◉発売=2024年6月20日 ◉メーカー希望小売価格=31,900円(実売28,710円・税込)
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