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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 鹿野貴司×雨の日の撮影の仕方

写真・文:鹿野貴司/編集:合同会社PCT

「雨の日ならではの情景を表現しよう!」

梅雨の時期が近づくと憂鬱な気持ちになる方も多いのではないでしょうか。天候によって撮りたい写真が撮れずモヤモヤとすることもあるかと思います。今回は雨の日だからこそ撮りたい写真、またその撮り方、準備の仕方を、写真家鹿野貴司さんに解説いただきました。雨の日ならではの写真を撮りに出掛けましょう!

鹿野貴司(TAKASHI SHIKANO)
1974年東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、さまざまな職業を経て写真家に。広告や雑誌などを手掛けるかたわら、スナップやドキュメンタリーの作品を精力的に発表している。近年の写真展に「#shibuyacrossing」(ソニーイメージングギャラリー)、「煩悩の欠片を燃やして菩提の山へ走れ」(ナインギャラリー)など。昨年9月には『いい写真を撮る100の方法』(玄光社)を出版。日本写真家協会会員
Instagram:@shikanotakashi
Twitter:@shikanotakashi

はじめに

これからは太陽の光も明るさを増し、日照時間も伸びて撮影が楽しくなってくる。しかしそれに文字通り水をさすのが梅雨だ。写真を仕事とする僕も、予定が組みにくく憂鬱な気分になる。雨を想定して準備を進め、それが功を奏することもあるが、屋外で撮影するはずのものが室内になるとテンションが下がる。

しかし私事においては、雨は必ずしも嫌なものではない。十分モチーフとなりうるし、いい雰囲気を演出してくれることもある。街並みなどは日なたと日陰がなくなることで、かえって撮りやすくなるともいえる。

ホワイトバランスの設定で雨天の記憶や印象を表現しよう

キヤノンEOS 6D・EF 24-70mm F4L IS USM・24mmで撮影・絞り優先オート(F4・1/80秒)・-0.7補正・ISO100・WB4500K

雨の撮影でまず重要なのはホワイトバランスだ。光源に合わせてカメラが色温度を設定。それで今のデジカメはほとんどの撮影を問題なくこなすことができる。ただし苦手とするのが雨天。光量が乏しいため、どうしても色味が乏しくなってしまう。さらにニュートラルな色温度が設定されると、全体的にグレーっぽい写真になりやすい。もちろんそれが生きてくることもあるが、青みを抑えようとするあまり、やや黄色っぽくなることも多い。一般に人が想像する雨天の光景は、反対にやや青みを帯びている。


オリンパスOM-D E-M1 MarkII・M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8(35mm判換算34mm)・シャッター優先オート(1/6秒・F5.0)・-0.3補正・ISO200・WB白熱電球(2850K)

そこでファインダーやモニターを見ながら、ホワイトバランスをオート以外に設定してみよう。風景など急いで撮る必要がない状況なら、まず「太陽光(晴天)」に設定。それでも青みが足りなければ「蛍光灯」に設定してみよう。実際には「太陽光」ではグレーっぽく、「蛍光灯」では青すぎるということが多いと思う。そこで色温度をマニュアルで設定してみよう。

色温度は光の温かさ・冷たさを指し、ケルビン(K)という単位で数値化される。太陽光は5200~5600K。そこを境に低くなると赤く、高くなると青くなる。かなり低い(赤みを帯びた)光源は炎で、そこから電球、蛍光灯と上がっていくにつれて白に近付いていく。太陽光を超えて色温度が上がっていくと、曇天、日陰と逆に青みが強くなっていく。カメラのホワイトバランス設定はそれに合わせて補正をする機能で、つまり電球に照らされた状況を「電球」に設定して撮影すると、ニュートラルに近い色味で再現される。

本来のホワイトバランスはそのような使い方が正しいのだが、実際にはオートでほぼきれいに撮れてしまう。むしろ写真をリアルよりも人間の印象や記憶に近付けたいときに、マニュアル設定が有効になってくるわけだ。雨天と一口にいっても天気や時間帯で変わってくるが、おおむね4200~5000Kが雨の情景を再現するのに適しているように思う。

マイナスの露出補正がキモ。RAW撮影しておけばあとからでもイメージに近づけられる

キヤノンEOS 7D・タムロン16-300mm F3.5-6.3 Di II VC PZD・300mm(35mm判換算460mm)で撮影・絞り優先オート(F8・1/250秒)・-0.3補正・ISO800・WB白色蛍光灯(3800K)

次に肝心なのが露出。雨天では晴天に比べ、構図の中を影が占める割合が多くなりがち。そもそも光が乏しいため、普段よりも景色が暗い。そのためカメラ任せで撮影すると、印象よりも明るめになりやすい。色が青みを帯びているのと同様、人間が雨天としてイメージするのは暗さだ。そこで露出補正をマイナス側に振るのがキモになってくる。

ただし空や反射が目立つ(画面を占める面積が広い)場面では、そちらに引きずられて暗めに写ることもある。ミラーレスであれば色味も露出もリアルタイムで確認できるので、設定を追い込んで撮影するといい。デジタル一眼レフでは撮影後の確認になるが、ミラーレスでも結局のところシャッターチャンスが来てから設定したのでは遅い。いずれにせよ、さあこれから撮るぞというときに試し撮りをして設定を済ませよう。雨天では光が均一なため、晴天と違って色温度が極端に変わることもない。一度色温度を設定すれば、その日はそのまま撮影を続けてもよいと思う。


オリンパスPEN E-P5・M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8(35mm判換算90mm)・絞り優先オート(F1.8・1/250秒)・-0.7補正・ISO200・WBマニュアル(5000K)

もちろんRAWで撮影しておけば、後からホワイトバランスは自在に設定・変更できる。僕もイメージする色味に近くなるようホワイトバランスを設定しているが、被写体や風景によって少し青みを抑えたくなったり、反対にもっと乗せたくなることもある。最終的にはRAW現像で軽く調整することも多い。今回掲載している写真もすべてAdobe Lightroom ClassicでRAW現像している。

光がフラットな状態を生かす

色味という点からいえば、色を取り除いてモノクロで見せるのも効果的だ。明暗差のみで被写体を再現するモノクロは、日なたと日陰がはっきりした晴天より、曇天や雨天のほうが美しい写真を撮りやすい。光がフラットであればあるほど、白から黒までのトーンが豊かになるからだ。さらに曇天より雨天がよい面として、濡れた路面が挙げられる。反射による陰影が生まれ、それだけでひとつの被写体になる。これはカラーで撮影するときも同様で、石畳の路地や夜景は雨天または雨上がりがチャンスだ。

オリンパスPEN E-P5・M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8(35mm判換算34mm)・絞り優先オート(F1.8・1/400秒)・-0.3補正・ISO200・RAWデータをAdobe Lightroom Classicでモノクロ現像


ソニーα7Ⅲ・Sonnar T* FE55mmF1.8 ZA・絞り優先オート(F1.8・1/125秒)・-0.3補正・ISO1600・WB太陽光(5500K)


雨の日ならではのモチーフを探そう

濡れた路面もそうだが、雨ならではのモチーフを探すのも天気を味方にするコツだ。たとえば窓ガラスや花びら、あるいは水たまりに落ちた雨粒。マクロレンズや接写に強いズームレンズがあれば、水滴のクローズアップもおもしろいだろう。ガラス越しに撮影すれば、水滴がレンズの役割を果たし、向こうの風景をデフォルメして写すことができる。

オリンパスOM-D E-M5 MarkII・M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8(35mm判換算90mm)・絞り優先オート(F1.8・1/1000秒)・ISO200・WBマニュアル(4350K)


オリンパスOM-D E-M5 MarkII・M. ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8(35mm判換算90mm)・絞り優先オート(F1.8・1/5000秒)・+0.7補正・ISO200・WBマニュアル(4350K)


富士フイルムX100F・23mm(35mm判換算35mm)で撮影・絞り優先オート(F2・1/125秒)・ISO500・WB蛍光灯(3800K)

水たまりもそれ自体が雨を表現するものではないが、雨だからこその事象といえる。大粒の雨が降っているときであれば、水面に浮かぶ波紋にやはり目がいく。さらに風が少なく、雨量も少ないのであれば反射を狙ってみるのもいい。歩行者の目線で上から見ると水面には空しか映っていないが、目線を下げれば風景が反射したり、あるいは前ボケとしてアレンジすることもできるだろう。


ソニーα7R IV・シグマ35mmF1.2 DG DN | Art・絞り優先オート(F1.8・1/160秒)・+0.3補正・ISO640・WB蛍光灯(3800K)


ソニーα7R IV・シグマ35mmF1.2 DG DN | Art・絞り優先オート(F1.2・1/160秒)・+0.7補正・ISO1250・WBオート・上下反転

直接雨を写さなくても、見る人に雨を連想させるモチーフが傘だ。最近は日傘を差す人も多いが、写真の光線状態でそれが雨傘か日傘かはおおよそ判断がつくと思う。雨傘を写し込む利点は色味だ。雨天では色味が乏しい中、派手な色の傘が写り込めば、格好の差し色になる。またスローシャッターでブラせば、静的な風景の中に動きを表現することもできる。


キヤノンEOS 6D・EF 24-70mm F4L IS USM・37mmで撮影・絞り優先オート(F6.3・1/10秒)・ISO100・WBマニュアル(4200K)


リコーGR Ⅲ・18.3mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞り優先オート(F2.8・1/30秒)・-1.3段補正・ISO200・WBマニュアル(4200K)

ピント位置やシャッター速度も意識しよう

また雨天でのスナップで注意すべきなのはオートフォーカス。狙った被写体ではなく、手前の雨粒にピントが合ってしまうことがある。フォーカスロックや、場合によってはマニュアルフォーカスを活用しよう。また雨粒を意図的に写し込むときは、シャッター速度も意識すべきポイント。高速シャッターで飛沫のように写し止めるのと、低速シャッターで流れる筋のように表現するのとでは印象が大きく異なる。たとえばポートレートでも、楽しく雨と戯れているように写すなら高速シャッター、物憂げに写すなら低速シャッターといったアレンジができるだろう。

カメラの扱いについては、最近のカメラやレンズは防塵防滴が当たり前。雨でもさほど神経質にならずに済むようになった。とはいえ、シャッターやセンサーなど繊細な機器が露わになるレンズ交換はもちろん、メディアやバッテリーの交換もなるべく避けたい。もしやむをえず交換するときは、落ち着いて屋根のある場所で行おう。

オリンパスPEN E-P5・M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8(35mm判換算34mm)・絞り優先オート(F1.8・1/1600秒)・-0.3補正・ISO200・WB晴天(5300K)


まとめ

たとえばスポーツや報道のカメラマンは雨でも通常通りに撮影しなければならないことがあるが、僕はそのようなことがほとんどない。よって撮影用のポンチョといった雨に特化したアイテムは持っていないのだが、雨具にはこだわっている。おすすめは無印良品の、その名も「2通りにたためる折りたたみ傘」。長い傘のように親骨を伸ばしたままでも閉じられるし、さらに留めるテープが左右両方向で使える。つまり畳む際にクルクルと回すのが、時計回りでも反時計回りでもよいのだ。2990円とやや高価だが、機材を抱えていても畳みやすい優れモノだ。
https://www.muji.com/jp/ja/store/cmdty/detail/4550583104160

足元の装備も重要。僕は登山をするため防水のトレッキングシューズを何足か持っており、雨天ではそれらを履いて出掛ける。ソックスも写真の町・北海道東川町にあるYAMAtuneのメリノウール製を愛用。雨に限らず歩きやすいトレッキング用のソックスだが、万が一靴の中が浸水しても濡れていることを感じにくい。おかげで雨の中でも快適に歩くことができるし、撮りたい場所が水たまりの中でも躊躇なく入っていける。
https://www.yamatune.jp

話が多岐にわたってしまったが、雨でしか撮れない風景や光景もたくさんある。写真愛好家の皆さんには梅雨でも自宅に閉じこもらず、かっこいい雨の情景を捉えてほしいと思う。

今回のカメラ・レンズ

ソニーα7Ⅲ
◉発売日=2018年3月23日 ◉メーカー希望小売価格=オープン(実売256,410円税込)
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ソニー Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA
◉発売日=2013年12月20日 ◉メーカー希望小売価格=130,900円(税込)(実売105,930円税込)
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リコー GR Ⅲ
◉発売日=2019年3月15日 ◉メーカー希望小売価格=オープン(実売120,375円税込)
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