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写真家 池本さやか × 水族館
水族館でいろいろな撮影を楽しむ(前編)
写真・文:池本さやか/編集:合同会社PCT
水族館でいろいろな撮影を楽しむ(前編)
今回は水族館での様々な撮影の楽しみ方を、写真家 池本さやかさんに解説いただきました。前編後編の2回にわたってご紹介します。ぜひ水族館での作品づくりのご参考にしてください!
- 池本(いけもと)さやか
- 東京生まれ。
東京外国語大学外国語学部スペイン語学科卒業、同大学地域研究研究科ラテンアメリカ地域研究修了。
1993年朝日新聞社入社、西部本社写真部勤務、写真を始める。
1995年水中写真家中村征夫氏の師事を経て、その後フリーランス。
2000年~2002年パリの写真学校に留学/以降東京を拠点に、フリーの写真家として多方面に活動中。
海の中(大型の生き物、魚の群れ、海中風景等)、人間の活動(スナップ、旅風景、舞台もの-クラシックコンサート、ダンス等)を撮影。2003年からJCII(日本カメラ財団)などの写真講座・暗室教室の講師を行う他、雑誌等の連載、数多の写真コンテストの審査員も。個展開催も多数。 - http://sayaka-ikemoto.image-i.net/
目次
■はじめに
水族館は、とても楽しい場所ですが、撮影するには、実はとても難しい面もあります。
でも、どの水族館も、スタッフさんはとても生き物が好きで、自分たちの水族館にいる生き物たちを愛していて、大事にしているはず。そして、その生き物たちの魅力を多くの人に知ってもらおうと、展示もいろいろな工夫をされているところが多々あります。
1日、ただのんびり過ごすも良し、ずっとカメラを構えるのも良し。そしてステキな一枚が撮れたらなお良し、ですね。そのためのお手伝いが少しできればと思いながら、今回はなるべく初心者の方々向けにこの原稿を書いています。
■準備をしよう!機材の準備/水族館は「結構、暗い」
何はともあれ、水族館は「思ったより暗い」と考えたほうが良いでしょう。もちろん、外光を使った展示もあれば、照明が多い展示や、強いスポットライトが当てられている展示もあります。ですが、大概は水槽の中の生き物に配慮して、お客さん側、つまり我々のいる側は暗く照明を落としてあることが多いです。そうなると、展示に当たっている照明の明るさで撮影するしかなく、実は目で見ると普通に見えても、写真を撮るには光量が少ない場合も出てきます。ですので、まず機材を選ぶ時に、レンズはいわゆる「明るいレンズ」、つまり出来るだけ絞りのF値の数字が低い(F1に近い)ものを用意したいものです。と言っても、例えばF1.8やF1.4などのレンズは、わずかな数値の違いでいきなり高額になり、重さも加わりますので、まずはF2.8(またはそれに近いもの)があれば良いと思います。ズームレンズでも開放側がF3.5くらいになるものが、できれば欲しいですね。
それから、生き物が相手の場合、都合よく良い位置にきてもらうまで待ったりして、かなりの枚数を撮影することになる、ということを覚悟しておいてください。従って、たくさんのコマ数を撮れるよう、大容量のメディアがあると良いですね。私も、水族館では2時間くらいで少なくとも500枚以上、場合によっては1000枚以上、撮ることがありますので、メディアの容量はたっぷり用意します。「もっと撮りたいのにメディアがいっぱい…」などということがないように準備しましょう。
カメラは、慣れたものがよいでしょう。日頃から持ち歩いて、いろいろなシチュエーションで使って、操作に慣れておくのが良いと思います。絞り優先やシャッタースピード優先、マニュアルモードなどの設定も、被写体によりけりですし、どんな風に撮影したいかによって変わってきますから、「こう撮りたい」と思った時にそれができるように、日頃からいろいろな設定に慣れておくこと、普段から様々な撮影をやってみることをお勧めします。分からない場合は、プログラムオートで始めて、それに不満や疑問が出てきたら自分の機材のマニュアル本を面倒がらずに読みましょう。
あまりたくさん重たい機材を持っていっても、歩き回って疲れる上に、周囲のお客さんの邪魔になったりすることもあるので、ボディ1~2台、レンズも2本(標準ズーム、少々望遠)くらいで良いのではないだろうか。本文にも書いたが、とにかく使い慣れたものをお勧めする。
三脚はおそらくほとんどの水族館で許可が要ると思うので、一脚も含めて使用可能かどうかよく確かめてから持っていくと良いだろう。フラッシュを使っての撮影も基本的に許可されていないことが多いので、スマホでもうっかり発光しないよう、気を付けたい。
筆者は身軽に動きたいので、プライベートで遊びに出かける時は、ほとんどボディ1台、レンズ2本(24-70mm, 70-200mm)ほど。
メディアは大容量のもの一つだとリスクを伴うので、敢えていくつかに分けている。
まずはポートレートを撮ろう
・生き物は目にピントが基本 ・よく見てよく観察しよう
人物を含めて、生き物の写真は(顔・目を撮らない作画の場合を除いて)、まず「目にピント」が基本だと覚えておきましょう。逆に考えて、誰かがその写真を見た時に、目にピントがきていないと目立ちますし、どうしても「残念だ」と思われてしまうのではないかと思います。もちろん、敢えてブレている(ブラした)作品や、ピンボケをうまく利用した作品は別ですが、生き物を撮る場合、できるだけピントをしっかり、目に合わせると基本的に良い写真になってきます。
しかし、実は、水槽のアクリルが、避けて通れない障害物になることも多いです。アクリルに対して斜めに撮影したい時など、いろいろと映り込むと思いますし、何をどうやって頑張っても、光の屈折などのせいでピントがきっちりこないこともあります。ポートレート(○○という生き物、という写真)は、アクリルに対して垂直な角度で構図をとるようにして、生き物の「目にピント合わせ」を目指しましょう。その生き物の動きなどをよく観察することも大事です。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/30秒・ISO1600・WBオート
タコは動きがそれほど速くないので、ピントも合わせやすいはず。動き始めると形がとても面白くて、いろいろと絵になるモデルさん。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/50秒・ISO400・WBオート
こちらの水槽は外光での展示で比較的明るく、撮影しやすかった。アロワナも動きが速くはないので、しっかり撮りたい。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/80秒・ISO800・WBオート
ナポレオンフィッシュは模様もとても魅力的。手前のアクリルの映り込みも、頬のお化粧のようなところに、うるさいほどではないので、良しとした。
■アートな写真を撮ろう
具体的な被写体① パーツ撮り
生き物だからと言って、図鑑的にばかり撮る必要はありませんよね(ただし、本当に図鑑用の写真は、ものすごく難しいのですが)。時にはアートな作品に挑戦してみましょう。大きくて割とゆっくり動くことが多い生き物は撮りやすいし、ナポレオンフィッシュやマンボウなどは、模様や形が面白くて私はいつもたくさん撮ってしまいますが、顔だけ、シッポだけ、模様だけ、などとパーツのように撮り分けてみるのもあり、だと思います。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/60秒・ISO800・WBオート
ナポレオンフィッシュの目の周り。実は目は少しだけブレてしまったが、アップでオブジェのようにできて、模様がよく撮れて色も統一できた。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/80秒・ISO800・WBオート
ナポレオンフィッシュの背びれと尾ひれ。少し透けている感じとともに体表の模様も見える。背景も含めて色も統一感があるのはよかった。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/60秒・ISO400・WB晴天
マンボウも個性的で、ゆったりとした動きが魅力。この時、この水槽にこの個体以外のものが何も入っていなかったし、ひとりぼっちが少々かわいそうな気もするな、と眺めていた。マンボウ自身はどう思っているか分からないけれど、晴天モードで撮った真っ青なままにして、静かな孤独を表現。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/60秒・ISO400・WB晴天
顔が向こうにいってしまったタイミングでそのまま撮ったら、胸びれと背びれに光が当たった美しい形になり、それをシンプルに捉えられたと思う。
具体的な被写体② 同じ種、群れの魚
1匹、1頭のポートレートやパーツが撮れたら、次は複数の個体の組み合わせに挑戦してみましょう。
例えば、見ている分には永遠に飽きないクラゲ。形も面白いし、動きも優雅ですが、実は被写体として少々難度が高いです。特に群れでいるクラゲは、複数がファインダーの中に良い位置にきてくれるまで、ひたすら待つしかありません(私はそうやってすぐに何百枚も撮ってしまいます)。「クラゲ」として撮るより、画面上の模様、デザイン画のつもりで撮ると良いと思います。
同様に同じ種の魚等が複数いる場面で良い形になった瞬間や、群れの魚を全体として捉えて、画面の中の構成を考えると美しい一枚が撮れるでしょう。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/60秒・ISO400・WB晴天
ミズクラゲは、たくさん一緒に入っていて水流でゆっくりと回っていることが多い。できるだけ画面の隙間がバランスよくなるような配置にくるまで、ひたすら粘ろう。光のあたる個体に注意。ピントは、やはりその目立つメインの個体に。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/30秒・ISO800・WBオート
重なり具合も気にしてみよう。周囲の空間もバランスよく。ピントはメインの個体の中央、花の雌しべ雄しべのような部分、つまりやはり目立つ部分に。
Nikon D90・AF-S DX NIKKOR 18-105mm f3.5-5.6G ED VR・シャッター優先モード・絞りF18・1/60秒・ISO3200+1段増感・WB晴天
パシフィックシーネットルは、傘が大きい。照明があたって透けるところにくるようなタイミングを待ってみた。メインの個体に着目しつつ、全部の個体が良い配置にくるまで粘る。相手は生き物なので、気長に構えるしかない。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF8・1/125秒・ISO800・WB晴天
我ながら、これはよく撮れた。2匹のトラフザメが良い配置で奥行きも出ているし、それぞれ良い形で動きもあるし、表情も分かる。他に目立つ邪魔なものも無く、概ね周囲の魚のバランスもよく、たくさん撮った甲斐があった。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/1250秒・ISO800・WBオート
これも、相当たくさん撮った。ツノダシの形が生かせた瞬間。周囲の照明の映り込み、色合いの統一感も悪くないと思っている。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/80秒・ISO800・WBオート
たまたま水槽を上から見下ろす場所があって、色合いの美しい模様のような光景を目にした。形、色の対比など、魚の写真というよりは、「模様」の写真。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF8・1/4秒・ISO800・WBオート
ペンギンがせわしなく動き回る様子を表そうと敢えてブレるようシャッタースピードを1/4秒にしてみた。中央の一羽の顔が照明の中にきてくれてポイントができた。
具体的な被写体③映り込みにも注目、建物やインテリアも利用しよう
水槽のアクリルによる反射などは、気をつけていないと余計なものが入った感じになると思います。どうしてもカットしたい場合は、黒っぽい上着や帽子を使って、その外からの反射の光を遮りながら撮影するという手もありますが、そういう反射に敢えて着目してみるのも良いと思います。むしろ光の屈折や反射を利用した作画もぜひやってみてください。いずれにしても、建物や展示そのものも、いろいろよく観察してみましょう。水族館側もステキな空間をつくる努力をしているでしょうし、思わぬところに思いがけない良い場面があるかもしれません。
Nikon D4 ・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/60秒・ISO800・WBオート
アトランティックシーネットルは、触手が長いので、それを活かして撮影。周囲の照明の映り込みもよく見ながら、良い配置にくるように待って撮影した。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・絞り優先モード・絞りF2.8・1/800秒・ISO400・WB晴天
アトランティックシーネットル(単色に写っているもの)の水槽を上から覗いたら、天井の照明が面白い色と形で映り込んでいた。そこに水滴が落ちて、波紋ができて、何とも不思議な生き物が出現したようになった。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/500秒・ISO800・WBオート
水槽の下を通れる通路の出入口付近で。不思議な空間にいた気分。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/1000秒・ISO400・WBオート
少し角度を変えたら、シイラ(?)が入ってくれて水槽だということが分かるが、不思議な感じはさらに増したような気がする。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/4000秒・ISO400・WB晴天
サンシャイン水族館の、アシカが空を泳いでいるような展示。あえて建造物や周りのビルが入るように撮影。
Nikon D4・AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED・マニュアルモード・絞りF2.8・1/4000秒・ISO400・WB晴天
アシカは何度もぐるぐる回ってきてくれるので、何度も撮った中の一枚。連続写真として組み合わせても面白いと思う。
■前編のまとめ
水族館に限らず、撮影は準備が大事です。そして、現場ではフットワークとポジションどり、それらが決め手になってきます。場合によっては機材の設定などより、フットワークの方が大事かもしれません。また、良いポジションは誰もが撮影したい場所でしょうから、撮影する際に、周囲とトラブルにならないよう、気をつけてくださいね。一番良さそうな場所だけど、そこに行けないから、反対側に回ってみたら、実は意外な面白い写真が撮れた、などということも出てくることがあります。
後編では、水族館でスナップ、風景、スポーツ写真の撮影についてお話しします。
是非、そちらも読んでくださいね。
撮影場所:
環境水族館アクアマリンふくしま
すみだ水族館
しながわ水族館
(現)マクセル アクアパーク品川 (撮影時 EPSON品川アクアスタジアム)
新江ノ島水族館
今回のカメラ・レンズ
Nikon D4
◉発売日=2012年3月15日 ◉価格=オープンプライス
AF-S NIKKOR 24-70mm f2.8G ED
◉発売日=2007年11月30日 ◉価格=294,250円(税込)