カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 村上悠太×鉄道写真の撮り方
写真・文:村上悠太/編集:合同会社PCT
「ポイントをおさえて、自分らしい鉄道写真を目指そう!」
今回は鉄道写真で広く活躍する写真家 村上悠太さんに、機材選び、鉄道写真の基本、おさえておくべきポイントから応用編まで解説いただきました。これから鉄道写真を始めたい方も、鉄道写真愛好家の方も、こんな発想もあったのか、と気付きを得られるはず!読んだ後にはわくわく、撮影に出かけたくなりますよ。
- 村上悠太
- 1987年鉄道発祥の地新橋で生まれた、JR発足と同い年の写真家。 鉄道は特に乗るのが大好きで、旅のあいだに撮影する旅スナップがライフワーク。 撮影、執筆のほか、イベント出演など鉄道に関わることならなんでもやる。 高校時代には毎夏北海道東川町で開催される「写真甲子園」に出場し、その後、出場経験者で初の審査委員を務めた。 2019年、台湾観光貢献賞(台湾観光局)受賞。
目次
はじめに
最近では自動的に被写体をカメラが検出し、ピントを追従してくれるAF機能が進化し、機種によっては「鉄道検出」ができるようになったりと、誰もが気軽に楽しめる撮影ジャンルになってきた鉄道写真。今回はちょっとしたポイントを押さえるだけで、より自分らしい鉄道写真を目指していく、そんなお話をしていきたいと思います。
1:鉄道写真に最適なカメラって?
まず、鉄道写真ならではの特徴をご紹介していきましょう。鉄道写真は高速で走行する車両を撮影することも多く、速いシャッタースピードと高速連写を多用するジャンルです。現在主流のミラーレス一眼カメラであれば、どんな機種を選んでも十分な性能があるので、自身の気に入った機種をチョイスすればいいかな、というのが僕の本音です。あえて具体的に説明するのであれば、ミドルクラス以上の機種で、連写スピードが秒間8コマ以上、被写体検出AF機能の中に「鉄道」があればより理想です。
僕の普段の機材はこちら。キヤノン初の鉄道検出AFを搭載したEOS R6 MarkⅡをメインに、EOS R5なども使用します。レンズはRF14-35mm F4 L IS USM、RF24-70mm F2.8 L IS USM、RF70-200mm F2.8 L IS USMとRF35mm F1.8 MACRO IS STMを携行。使用頻度の高い標準、望遠ズームはF2.8をチョイスしています。
そして、実際に持ってみてそのカメラを1日を通して持ち歩けるか、という点も忘れずに!これは“あるある話”の一つなのですが、スペックを重視し、高機能なカメラやレンズを揃えた結果、「重くて持ち歩くのが辛くて・・・」といったお話を時折耳にします。さらに僕がよく撮影する旅スナップでは列車移動が主となるため、携行性が特に重要になってきます。F2.8通しのズームレンズやフラッグシップ機種は確かに高性能ですが、自身が持って使いやすいか、さらにそこに三脚や着替えなどの他の荷物を携行することも想定して機材選びをしていただくのがおすすめです。
2:これだけ覚えて!構図の基本の「キ」
車両をアップ気味に撮り、その車両の特徴やかっこよさなどを表現する「編成写真」や、四季などと一緒に車両を写し込む、「鉄道風景写真」など細くジャンルを分けようとするといろいろ細分化もできますが、それぞれを細かく解説していくとそれだけでとても長いお話になってしまうので、ここでは最低限押さえておくと良いポイントをご紹介します。
鉄道写真の場合、シャッターチャンスの瞬間まで主題である列車が存在しないというとてもやっかいな問題があります。そのため、列車がいない状態で構図を作っていくのですが、鉄道車両は縦に長いため、気をつけないと構図のバランスが悪くなることがあります。
キヤノンEOS R5・RF24-105mm F4 L IS USM・マニュアル・1/3200秒・絞りF8.0・ISO1250・RAW・太陽光
この作例は車両をアップ目に撮影した編成写真の一例ですが、やや車両の画面内の位置が上気味で、下に空間が残ってしまって車両が浮くような違和感を覚えます。そのため、編成写真では画面下部を少なくし、画面内での車両位置を下げておくと安定して見えます。
キヤノンEOS R5・RF24-105mm F4 L IS USM・マニュアル・1/3200秒・絞りF8.0・ISO1250・RAW・太陽光
また、ピントについては列車の“顔”が来る位置にAFフレームを合わせ、ピントを追従してくれる「サーボAF」を組み合わせれば、最近のカメラであればカメラ任せで十分にピントを合致させることができます。
一方、遠景となる鉄道風景写真では「対角構図」を意識するのがおすすめ。これは構図内の主題と副題を対角線上に配置する構図で、実はこれを意識するだけで簡単に構図を安定させることができます。下の作例では列車の先頭と山の頂を対角線上に配置しています。「対角構図」は特に鉄道撮影に限った話ではないので、他の撮影ジャンルでもぜひ活用してみてください。
キヤノンEOS RP・RF24-105mm F4 L IS USM・マニュアル・1/2000秒・絞りF8.0・ISO640・RAW・太陽光
遠景撮影時はピントを追従する必要はないので、AFモードはワンショットAFでも問題ありません。よく、「鉄道は動いているものだからサーボAFですよね?」とご質問をいただくのですが、編成写真のように大胆にこちらに向かってくる場合は、ピント位置が大きく変化するためピント追従が必要ですが(ピントをあらかじめ置いておく置きピンという中級向けのテクニックもあります)、遠景の場合は確かに列車はこちらに向かってくるものの、大きなピントの変化はないので、列車を配置する箇所に一度ピントを合わせてしまうだけでOKです。
3:テーマを持って撮影をしてみよう
さて、ここまで鉄道写真の基本的な要素をご紹介してきました。ここからは実際に僕が撮影した写真を交えつつ、「テーマを持って撮影をする」ということを中心にお話ししていきたいと思います。
キヤノンEOS R8・RF24-240mm F4-6.3 IS USM・マニュアル・1/400秒・絞りF11・ISO1250・RAW・太陽光
こちらはJR九州日田彦山線西添田付近の春風景です。このあたりは綺麗な桜並木がつづき、まっすぐ伸びるレールの先に列車が見える、というシチュエーションです。ちょうど跨線橋があり、その上から撮影しています。この時、僕が描いたテーマは「まっすぐなレールと朗らかな春の日」でした。やや逆光気味の光線になる時間帯を選び、桜が輝くような状況を待ちました。順光で撮影すると、桜自体のディテールや色は明確になりますが、今回はそれではやや印象が強いかなと判断し、半逆光となる夕方に撮影しました。また、まっすぐなレール、を画面の中で構成するために列車が手前に来る前にシャッターを切り、列車の手前にレールを多めに配置しています。
キヤノンEOS R8・RF24-240mm F4-6.3 IS USM・マニュアル・1/1000秒・絞りF6.3・ISO1250・RAW・太陽光
一方、こちらは列車ではなく桜にピントを合わせてみた一枚です。桜自体が美しく、それを主テーマに列車を背景に撮影しました。この区間は単線のため、ヘッドライトをつけて向かってくる列車と赤いテールライトをつけて走り去る列車がやってきますが、これも鉄道写真では重要な要素の一つ。列車が「来る」のか「去る」のか。これがその写真のテーマを大きく左右します。今回は「桜の元を旅立つ列車」といったテーマを想定したため、テールライトで撮影しました。このように車両をボカす場合、第三者が見たときに「列車がボケている」ということが明確にわかるようにボカすのがコツです。ボケた列車というのは思った以上にそれが列車だと分かりづらいので、撮影時点ではやや絞りを絞り込むことを意識し、「これではボケが少ないかな」程度にとどめておくのがポイントです。
4:高感度を使って木々の中に「窓」を作ってみる
今、日本全国にその路線網を広げている新幹線。でも四国には新幹線がない・・・と思いきや、ちょっと変わった可愛らしい新幹線が走っています。四万十川沿いを走るJR四国予土線には初代新幹線車両である、0系をモチーフにした「鉄道ホビートレイン」という列車が走っており、雄大な光景の中をコミカルな新幹線が走る、ユニークな光景が見られます。
キヤノンEOS R・RF24-105mm F4 L IS USM・マニュアル・1/320秒・絞りF10・ISO4000・RAW・太陽光
この日は朝から曇天だったのですが、その分、風景全体がしっとりとしていて印象的な日でした。空をそのまま入れ込むと、画面の中に白い空間が生まれてしまうため、目の前にある木を活かし、その隙間に列車を配置することで窓のように見える構図を作ってみました。これでも構図内に空は白く残りますが、手前に木々を配置することで、枝や葉っぱのディテール表現に活用しています。この構図では、手前の木々にもなるべくピントを合わせたかったため、F10まで絞り込んでいます。ただ、列車が動体ブレしない最低限のシャッタースピードは確保しないといけないため、ISO4000まで上げて撮影しています。ISO感度を上げるとノイズ発生のリスクが伴いますが、最近のカメラは高感度でもノイズレスな撮影ができるので、こうした撮影にもチャレンジできるようになりました。
5:家並みを入れこみ、その地域の生活感を探してみる
僕のライフワークの一つに、その土地の「生活や日常の気配を探す」というものがあります。よく、「日常を切り取った一枚」という表現がありますが、僕自身その土地に住んでいるわけではないので、どんなに注意深く見ていても僕が見たそれはその土地の“日常”だとは考えづらく、そのため「日常が撮影できている」という意識ではなく、「その気配を探す」という感覚を大事にしたいと思っています。
そんな日々の撮影の中で僕はよく家並みをテーマにすることがあります。家の構造や屋根の形などに風土の佇まいや生活のニュアンスを感じ、鉄道と地域の生活というテーマを写し込むことができるように感じるからです。
キヤノンEOS R5・RF70-200mm F2.8 L IS USM・マニュアル・1/1600秒・絞りF7.1・ISO1600・RAW・太陽光
JR東海紀勢本線相賀駅付近を行く、特急「南紀」。このあたりは青い海と列車を撮影できる撮影地が点在している中、早朝の時間帯ということもあり、海を大きく入れるのではなく朝の低い陽の光を活かし、「静かな海沿いの朝」をテーマに撮影してみました。南紀というとどちらかと言えばビビットな風景が印象的ですが、あえて彩度を意識しないことで、「淡々と迎えるいつもの朝」といった光景を探してみました。電線や電柱、ガードレールなどは鉄道写真の中ではどちらかと言えば避けたい被写体として考えることも少なくありませんが、生活感や街並みを見るときは大切な要素ではないかなと感じています。
6:高感度撮影を使って高速シャッター×PLフィルター
キヤノンEOS R5・RF24-70mm F2.8 L IS USM・マニュアル・1/2000秒・絞りF5.6・ISO1250・RAW・太陽光・PLフィルター使用
こちらもJR東海紀勢本線の一枚です。新鹿駅付近はどこまでも深い青を感じる車窓が広がる区間です。この青を表現するためにPLフィルターを使用し、海と空の青の深さを強調してみました。PLフィルターは濃度の濃いフィルターのため、露出が下がってしまう点が高速シャッターを多用する鉄道写真ではデメリットでした。しかし、高感度特性が高い昨今のカメラを使用すれば、PLフィルターを使用してもISO感度を上げることで高速シャッターを使用した撮影が可能です。PLフィルターの効果は大きく、単に彩度を上げただけでは表現できない階調や海の表情を写し込むことが可能です。最近では高価ですが露出が大きく下がらないPLフィルターも発売されているので、そちらを使用するのも一考です。このカットのように夏の青い海など、PLフィルターを使用するとかなり色が濃くなります。そのため、画像処理やピクチャースタイル等で彩度を上げると、不自然な仕上がりになるので、気をつけましょう。
7:列車が抜けないときはブラしてみる
キヤノンEOS R5・RF24-105mm F4 L IS USM・マニュアル・1/15秒・絞りF10・ISO1000・RAW・太陽光
三重県を走るJR東海名松線。家城駅を過ぎると終点の伊勢奥津駅まで、茶畑や雲出川沿いを走り、のんびりとした雰囲気がすてきな路線です。また、もみじも多く、それらと列車を組み合わせた撮影も楽しめます。伊勢八知駅〜比津駅は特に撮影スポットも多い区間なのですが、年々木々が成長しているせいか、場所によっては列車が木々の合間から全て抜けない箇所も増えてきました。このカットもそうした場所なのですが、紅葉の赤と雲出川の表情がどうしても気に入って、どうにか撮影できないかと工夫を考えてみました。結果、列車を微妙にブラしてみることで、「木々の合間を風のように吹き渡る列車」をテーマにしてみました。見ていただくと分かる通り、列車は枝にかかってはいるのですが、写し止めた時にくらべて、ブラすことによってそれがあまり気にならなくなっています。
また、日中ではなく、やや薄暗い夕方に撮影することで、列車の金属感やヘッドライトが目立ち、列車の存在感、すなわち“列車感”を表現してくれています。先述した列車をボカした表現と同様に、列車をブラす場合もそれが列車であることが明確に分かるブラし加減にするのがポイントです。
8:文字で旅情を表現する
僕が写真を始めた頃、「文字を写して写真を説明しないように」と言われたことがありました。確かにそれは重要な要素なのですが、鉄道の世界の場合は文字が旅情を表現してくれる、そんなシーンもあるかなと感じています。
キヤノンEOS R5・EF50mm F1.4 USM・コントロールリングマウントアダプター EF-EOS R・マニュアル・1/160秒・絞りF1.4・ISO200・RAW・太陽光
車体に付いたたくさんの雪と、夜の闇に消えゆく秋田新幹線。そして駅の電光掲示板には「東京」の文字。撮影したのは秋田県の田沢湖駅で、「20時過ぎまで田沢湖にいても、まだ雪ひとつない東京に帰ることができるんだ」と思い、撮影しました。
東京生まれの僕は東京という文字に郷里への想いを感じるのですが、雪と夜、そして東京という文字で、距離や環境の違い、それらをつなぐ鉄道の存在感をテーマにしてみました。この時使用したのは50mmの単焦点レンズ。人間の視界に近いとされる、50mmの画角とナチュラルな遠近感が、その時見ていた僕の視界をそのままに表現してくれると思い、このレンズをチョイスしました。ただ、そのままでは何を主題に伝えたいのか、わかりづらいと判断し、電光掲示板にのみピントを合わせたく、大胆に大きくボカすことができる、絞り開放のF1.4を使用しています。ズームレンズではなかなか表現できない、広角〜標準域のボケによる表現が楽しめる単焦点レンズは、1本持っておくと予想以上に活躍してくれるはずです。
9:何か“気になる”なら撮ってから考える
キヤノンEOS R6 MarkⅡ・RF24-240mm F4-6.3 IS USM・マニュアル・1/640秒・絞りF8.0・ISO2500・RAW・太陽光
キヤノンEOS R6 MarkⅡ・RF35mm F1.8 MACRO IS STM・マニュアル・1/5000秒・絞りF1.8・ISO200・RAW・太陽光
キヤノンEOS R6 MarkⅡ・RF35mm F1.8 MACRO IS STM・マニュアル・1/1000秒・絞りF1.8・ISO200・RAW・太陽光
この3枚は昨年の夏、初めて訪れた銚子電鉄で撮影したものです。鉄道ファンには人気の路線なのですが、お恥ずかしながらこの時が僕は初めての乗車で、気ままに途中下車しながら、気になった光景をシンプルに撮影していきました。この日はとにかく暑い日で、1枚目の緑の中を行くシーンでは駅前で遊ぶ半袖の少年の姿に、「こんな夏の日もあったよね」と自身の当時を重ねつつ撮影してみました。2枚目も同様で、ノスタルジックな牛乳屋さんや学生時代によく食べ、よく飲んだアイスと清涼飲料水の自販機などを、夏の思い出のモチーフにして撮影しています。このように、僕の撮影スタイルは業務的な撮影以外は緻密に計算を行なって撮影地に赴くというよりは、まずは行きたい場所に行きたい時に行くことが多く、その場で気になったものを「なぜそれが気になったのか」を整理しながら撮影していくことがほとんどです。おそらくみなさんも旅の道中で「ここで写真を撮ろう」と思ったことがいくつもあると思うのですが、それは「なぜなのか」、その辺りから整理を始めていくと自分が思い描く写真に近づいていけるように考えています。そのため、理屈で考える前にまずは撮ってみることが最優先。すぐに撮影ができるように常にカメラを首から下げておきますし、カメラバッグもすぐにカメラが出せるVANGUARD製のものを愛用しています。すぐに撮影できないと観音駅で出会った3枚目のように、すぐにいなくなっちゃう方もいらっしゃいますからね(笑)
10:おわりに
普段から写真を撮っているとさまざまな「あ、いいな」に出会うと思うのですが、この「あ、いいな」に対してまずは撮ってみるということが、僕は一番大事だと思っています。それを写真を見てくださる方により伝わりやすい写真にするために、テクニックや構図のノウハウ、フィルターワークがあるのです。この繰り返しがやがて自分にしか撮れない、オリジナリティにつながっていくのだと僕は信じています。
今回のカメラ・レンズ
EOS R
◉発売=2018年10月25日 ◉価格=オープンプライス