カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 藤井智弘×ライカM11-P
写真・文:藤井智弘/編集:合同会社PCT
最新ライカプロフェッショナルモデルの魅力にせまる!
伝統のライカMシリーズから、ライカM11のプロフェッショナルモデル「ライカM11-P」が登場しました。写真の真正性を示す新技術、コンテンツクレデンシャル機能を搭載した世界初のカメラです。今回は写真家藤井智弘さんに、機能面から操作性、描写力までレビューいただきました。
- 藤井智弘(TOMOHIRO FUJII)
- 東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年に写真展を開催後、写真家になる。カメラ専門誌、WEBでの撮影や執筆、各種撮影や写真講師等で活動。作品では、国内や海外の街を撮影している。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。デジタルカメラグランプリ(DGP)審査員。NHK文化センター柏教室講師。
- ホームページ:https://fujiitomohiro.amebaownd.com/
- Instagram:https://instagram.com/fujiitomohiro
- Twitter:https://twitter.com/FujiiTomohiro
目次
はじめに
M型ライカと呼ばれる、レンジファインダーのライカMシステム。1954年から続く、ライカのアイコニックな存在です。2009年にM型ライカ初の35mmフルサイズデジタル、ライカM9が登場。そして2011年にライカM9のプロフェッショナルモデルとしてライカM9-Pがラインナップされました。以降、デジタルのM型ライカは、世代が変わってもスタンダードモデルの登場した後に必ず名称に「P」が付くプロフェッショナルモデルが追加されています。そして現在のM型ライカ、ライカM11にも、ライカM11-Pが追加されました。
ライカM11-Pの外観と基本性能は?
プロフェッショナルモデルがスタンダードモデルと大きく異なるのが外観です。ボディ前面のライカバッジがなく、トップカバーに「Leica」のロゴが刻印された、クラシカルなスタイルなのが特徴。これはライカM11-Pにも踏襲されています。
正面に赤いライカバッジがなく、かつてのライカM3やライカM2、ライカM4を思わせるトラディショナルな姿を持つライカM11-P。街中で目立ちにくく、ストリートフォトグラファーやフォトジャーナリストに向いています。
トップカバーの「Leica」のロゴと「LEICA CAMERA WETZLAR GERMANY」の文字が、100年以上続くライカの歴史を感じさせます。この刻印に釘付けになる人も多いのではないでしょうか。
基本的な機能は、ライカM11を踏襲。6000万画素の35mmフルサイズセンサーや1/16000秒までの電子シャッターを備えているのも同じです。また多くのデジタルカメラと比べて、ボタン類が少ないのも特徴。ライブビューやタッチパネルはありますが動画機能は持たず、長年培われてきたレンジファインダーシステムを受け継いでいます。
背面は向かって左に再生ボタンとファンクションボタン、メニューボタンのみ。右側はダイヤルと十字ボタンのみ、とシンプルです。ファンクションボタンは長押しすると割り当て項目が表示されてスムーズな設定ができ、背面モニターもタッチパネル。シンプルな操作で機能設定が素早く行えます。
スタンダードのライカM11と異なるのが内蔵メモリーの容量。ライカM11では64GBでしたが、ライカM11-Pは256GBにアップされました。SDカードスロットも持つので、記録を優先する側の指定や同時記録、DNGとJPEGを分散して記録も可能。ダブルスロットと同じように使うことができます。
ライカM11からライカでお馴染みだったベースプレートを廃止し、ライカSL2やライカQ3などと同じ底面を兼ねたバッテリーに変更。ライカの伝統を継承しながら、現代的な仕様も取り入れているのを感じます。SDカードスロットはバッテリー室に装備。また底面にUSB Type-Cの端子を備え、データ転送だけでなくバッテリーチャージや給電も行えます。
注目の「ライカコンテンツクレデンシャル」機能
ライカM11-Pは、世界で初めてコンテンツクレデンシャル機能を搭載したのも注目です。「ライカコンテンツクレデンシャル」機能は、CAI(コンテンツ認証イニシアチブ)の規格に基づいて暗号化されたデータをメタデータに記録します。これを専門サイトにアクセス、またはライカのアプリ「LEICA FOTOS」で、画像が改ざんされていないことを証明できます。フォトジャーナリストや報道に向いたライカM11-Pらしい機能といえます。コンテンツクレデンシャル機能は、これから他社でも採用されるかもしれません。AIが進化している現在、こうしたオリジナルを証明できる機能は重要になりそうです。
ライカコンテンツクレデンシャル機能は、メニュー画面でオン、オフができます。オンにすると、バッテリー残量の横に「cr」のアイコンが表示されます。
M型ライカらしい軽快さと高精細な描写力
使用したのはブラックボディ。ライカM11と同様に、ブラックボディは外装にアルミを採用し軽量に、シルバーボディは真鍮で質感を重視した仕上がりです。重さもライカM11と同じブラックが約530g、シルバーが約640g(バッテリー含む)。ブラックはオリジナルのライカM6とほぼ同じ重さで、軽快に扱える印象です。
すっきりした光学式のレンジファインダーの高い視認性は、M型ライカならではの魅力のひとつ。LED式のブライトフレームや二重合致式の距離計も見やすく、快適に撮影できました。また6000万画素だと距離計の精度も気になるところ。わずかにピントがズレただけで目立ってしまいますが、F1.4の絞り開放でも正確に合わせられました。距離計の精度はとても高いと言えます。さらにライブビューも可能なので、ミラーレスのような使い方も可能。ピントリングを回すと自動で画面が拡大されるのも便利でした。
電源をオンにするとシャッター幕が開き、メカシャッターにも電子シャッターにも対応します。ライカM10シリーズまではメカシャッターのみだったため、シャッターの最高速は1/4000秒でしたが、ライカM11からはメカシャッターは1/4000秒、電子シャッターは1/16000秒が可能になりました。日中でもF1.4のズミルックスやF0.95のノクティルックスなど大口径レンズが絞り開放で使えて、表現の幅が広がります。メカシャッターのシャッター音も静かで、さり気ない街のスナップも快適に撮影できました。
6000万画素は、やはり被写体の質感をしっかり再現する画質。クラシカルな外観から想像できないほど細密な写りをします。また、これにはライカMレンズの描写性能の高さも起因しているでしょう。ここではエルマリートM f2.8/28mm ASPH.とズミクロンM f2/35mm ASPH.、ズミルックス f1.4/50mm ASPH.をメインに使用し、解像力に定評のあるアポ・ズミクロンではありませんが、それでも6000万画素の実力を十分発揮してくれました。
裏面照射型の6000万画素CMOSセンサーは、非常に高い解像力が得られます。建物の壁の質感まで、見事に再現されました。
ライカM11-P・ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF8・1/400秒・+0.7EV補正・ISO64・WBオート
M型ライカらしい軽快さを踏襲し、撮影中は6000万画素を意識させません。冬の光が何気ない街中をドラマチックにしてくれたシーンに反応できました。
ライカM11-P・ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.・絞りF8・1/320秒・ISO64・WBオート
駐車場出口のカーブミラー。ライカM11から電子シャッターが搭載され、1/16000秒まで対応します。おかげで日中でもF1.4の絞り開放に設定でき、それまでのM型ライカではできない表現が可能になりました。
ライカM11-P・ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.・絞りF1.4・1/10000秒・+0.3EV補正・ISO64・WBオート
二重合致式の距離計は精度が高く、50mmのF1.4開放でも正確なピント合わせができます。扉のレバーにピントを合わせ、浅い被写界深度でガラスに反射した景色をボカすことで、雰囲気のある仕上がりを意識しました。
ライカM11-P・ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.・絞りF1.4・1/180秒・−0.7EV補正・ISO64・WBオート
橋の上から水面に反射する太陽の光とボートに惹かれてライカM11-Pを構えました。手すりがあるためレンジファインダーでは撮影し辛く、ライブビューでフレーミング。ピントリングを回すと自動で拡大するので、ライブビューの使い勝手も上々。絞り込んで反射する光に光条を出しました。
ライカM11-P・ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.・絞りF11・1/250秒・ISO64・WBオート
フィルムモードはすべて標準のSTDに設定。ライカM11-Pは深みのある色調で重厚感のある仕上がりが得られました。
ライカM11-P・エルマリートM f2.8/28mm ASPH.・絞りF11・1/200秒・−0.7EV補正・ISO64・WBオート
レストランの店先に置かれていたテーブルとイス。シンプルな装いで、街中で目立たないライカM11-Pは、さり気ないスナップを撮るのにとても使いやすいカメラです。
ライカM11-P・ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.・絞りF4・1/200秒・−0.3EV補正・ISO400・WBオート
夕暮れが近くなる時間帯に、空と水面のグラデーションを意識して撮影しています。6000万画素ながらダイナミックレンジは広く、ハイライトからシャドーまで豊かな階調で再現され奥行き感のある仕上がりになりました。
ライカM11-P・ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.・絞りF5.6・1/250秒・ISO64・WBオート
画素数が多いと、ダイナミックレンジと共に気になるが高感度の画質だと思います。ライカM11-Pの高感度はノイズが小さく、目立ちにくいのが特徴です。さらに被写体のディテールを損なうこともなく、高感度でも解像感の高い画質が得られます。部屋に置いているギターを撮影しましたが、ISO6400でもノイズは目立たず常用できる仕上がりです。筆者の印象ではISO12500まで実用的だと感じました。
ライカM11-P・ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.・絞りF2.8・1/40秒・−1.3EV補正・ISO6400・WBオート
6000万画素の高解像力は、撮影スタイルに応じた柔軟な使い方も可能
高精細の写真が軽快に撮れるライカM11-Pですが、6000万画素は多すぎると思う方もいるでしょう。ライカM11-Pは、ライカM11と同様に、3600万画素、1800万画素に設定することができます。しかも画素数の変更はJPEGだけでなくDNG形式のRAWでも可能。例えば「JPEGは6000万画素で記録したいけど、DNGはデータサイズを小さくしたいので1800万画素に設定」などということができるのです。自分の撮影スタイルに応じた画素数が選べるのはとても便利です。
また6000万画素の高解像力は、トリミングに強い点も見逃せません。ライカM11-Pは2種類のクロップを装備しています。メニュー画面「デジタルズーム」から1.3倍と1.8倍が選べます。50mmレンズを装着している場合は、65mm相当と90mm相当で撮影可能。1.3倍では約3600万画素、1.8倍は1800万画素相当あり、1.8倍でも実用的な画素数です。ただし構図の決定はライブビュー、もしくはEVFのライカビゾフレックスで行います。
ここでは50mmレンズを1.8倍のデジタルズームで撮影。ライブビューでのピント合わせも行いやすく、スムーズな撮影ができました。デジタルズームも活用した撮影は、現代のM型ライカらしい使い方と言えるでしょう。
ライカM11-P・ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.・絞りF1.4・1/500秒・ISO64・WBオート・1.8倍にデジタルズーム
もちろん歴代の名玉も楽しめる
M型ライカは1954年から続く、ライカの伝統的なシステムです。ライカMマウントも現在まで変わらず、かつての名レンズたちもライカM11-Pに装着して楽しめます。ここではライカM11-Pに1954年製のズマリットf1.5/50mmを装着してみました。
コントラストが低く独特のボケ味。現代のレンズにはない描写が、古いレンズを使う楽しさです。しかしピントを合わせた部分はしっかりシャープで、ライカレンズの性能の高さが感じられます。
ライカM11-P・ズマリット f1.5/50mm ・絞りF1.5・1/400秒・−0.3EV補正・ISO64・WBオート
ズマリットf1.5/50mmを絞り開放でカゴに入った野菜や果物を撮影しました。まるでソフトフォーカスのような柔らかい描写が、1950年代の大口径レンズを感じさせます。
ライカM11-P・ズマリット f1.5/50mm ・絞りF1.5・1/750秒・ISO64・WBオート
まとめ
シンプルな操作性ながら、ライブビューやデジタルズーム、内蔵とSDのデュアルメモリー、選べる画素数など、使い勝手に優れ、さらに赤バッジを持たない控えめな外観が特徴のライカM11-P。「ライカ」というとコレクターアイテムというイメージを持つ人もいるかもしれませんが、ライカM11-Pは実用に優れたM型ライカです。さすがに手ブレ補正を持たない6000万画素は、50mmレンズで1/125秒でもブレやすいですが、高感度に強いので積極的にISO感度を上げることでカバーできます。これまでM型ライカを使ってきた人はもちろん、初めてM型ライカを手にする人にもライカの魅力が存分に味わえるカメラに仕上がっています。
今回のカメラ・レンズ
ライカM11-P
◉発売=2023年10月28日 ◉価格=1,474,000円(税込)(実売・1,400,300円税込)
ブラックはこちら
シルバーはこちら
ズミクロンM f2/35mm ASPH
◉発売=2016年3月15日 ◉価格=539,000円(税込)(実売・512,050円税込)
詳しくはこちら
ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.
◉発売=2006年10月9日 ◉価格=605,000円(税込)(実売・574,750円税込)
詳しくはこちら
エルマリートM f2.8/28mm ASPH.
◉発売=2016年2月18日 ◉価格=374,000円(税込)(実売・355,300円税込)
詳しくはこちら