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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! フォトグラファー大浦タケシ × 夜景写真の撮り方

写真・文:大浦タケシ/編集:合同会社PCT

「キリッとした夜景写真に挑戦!」

冬は夜景写真にぴったりの季節。撮影行を予定されている方も多いのではないでしょうか?今回は写真家・大浦タケシさんに「キリッとした夜景写真に挑戦!」と題して夜景写真の撮り方を解説いただきました。夜景写真にこれから挑戦しようと思っている方も、すでに夜景写真を楽しんでいる方も、ぜひこちらの記事でポイントをおさえていただき、撮影にお出かけいただければと思います。

大浦タケシ(おおうらたけし)
宮崎県都城市生まれ。雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。人物、取材、建築、美術品等の撮影に加え、専門誌および一般誌、Web媒体、セミナーなど多方面で活動を行う。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。一般社団法人日本自然科学写真協会(SSP)会員。都城市公認みやこんじょ大使。
https://www.takeshiohura.jp

はじめに

これからの季節、次第に寒くなってまいりますが、同時に乾燥した大気により空気が澄み、これまでもよりも早い日没で夜景写真の撮影により適したものとなります。さらにクリスマス、新年を迎えるためのイルミネーションなど夜の街も夏よりも賑やかであることが多いものです。そのような夜景を写真に収めるのはとても楽しいひと時と言えます。特に最近のミラーレス・デジタル一眼レフは感度を上げてもノイズの発生が抑えられており、また強力な手ブレ補正機構のお陰でスローシャッターでも手持ちで気軽に夜景撮影が楽しめます。とは言え、三脚を使い、ピントを緻密に合せ、ブレのないシャープネスの高い夜景写真はそれ以上に魅力的で注目を集めることが多いもの。ここでは高感度・手持ちの写真とは一線を画す、カチッとした精度の高い夜景写真の撮り方をメインに分かりやすく解説していきたいと思います。

夜景写真撮影に必要なアイテムは?

まずは、夜景写真を撮るためにカメラ・レンズ以外の必要なアイテムとしては、三脚とリモートレリーズがあります。三脚はミラーレスでもデジタル一眼レフでも、長秒の露光となりますので、カメラがブレてしまうようなことのない、しっかりとしたものを選ぶのがお約束。アルミ、カーボンと脚の材質は予算と重さで決めるとよいでしょう。ちなみにアルミ製の三脚は比較的安価ですが重いのが欠点、カーボン製は軽いのですがアルミ製にくらべ高価です。

段数に関していえば、より安定度の高いものを必要とするなら3段を、可搬性を重視するなら4段となります。最大パイプ径に関しては可能であれば25mm以上を選ぶのがオススメ。ちなみに私が愛用する三脚は、カーボン製で3段、パイプ径32.9mmとしています。同等サイズのアルミ製三脚にくらべ軽量なうえ、しっかりとしたつくりでカメラを確実に安定させる信頼性の高いものです。雲台は自由雲台でもスリーウェイ雲台でも使いやすいほうでいいかと思います。

三脚はアルミかカーボンか悩みますが、オススメはカーボンです。軽量なのでハンドリングが苦になりません。写真は私が愛用している「ジッツオGT3532」。脚はカーボン製で3段、最大パイプ径は32.9mmとし、堅牢性が高く軽量に仕上がっています。雲台は「梅本製作所 SL-60ZSC」を使用しています。

三脚にカメラをセットした状態。リモートレリーズの使用はマストです。風の強いロケーションでは、ストラップがなびくことで三脚ブレが発生するため、ストラップを外すか、風になびかないように三脚に括り付けるようにしています。レンズフードも必ず装着するようにしましょう。

リモートレリーズは、カメラによって有線と無線から選べますが、こちらも好みのものを使うとよいでしょう。リモートレリーズを忘れたときはカメラのセルフタイマー機能を使う手もあります。あと、レンズフードもマスト。画面の外から入ってくる有害な光を遮り、フレアやゴーストを抑えることができます。また、A5サイズからA4サイズほどの黒い厚手の紙をカメラバッグに忍ばせておくのもオススメ。レンズフードだけでは遮光しきれない光をこの紙でカットすれば、ゴーストやフレアの発生を抑えることができます。そのほか、暗いところで撮影することも少なくないので、懐中電灯も忘れずに。さらに夏場であれば虫除けスプレーを、冬場なら暖を取るための使い捨てカイロなども用意するようにしたいところです。

リモートレリーズには有線タイプと無線タイプがあります。個人的には有線タイプを使用しています。リモートレリーズは写真のキヤノン用のほかニコン用、富士フイルム用、オリンパス用など多数所有しているため、間違いを避けるため機種名などを書いたテプラを貼り一目で分かるようにしています。

黒い厚紙を夜景撮影では常に携えるようにしています。いわゆる“ハレギリ”として使用するもので、レンズフードではカットしきれない強い光を、このハレギリでカットし、光が直接レンズに入らないようにして使用します。ちなみにハレギリとは“ハレーション切り”の略となります。

夜景写真撮影時のカメラの設定

忘れてならないのがカメラの設定です。

まず撮影フォーマットはRAWを選択しましょう。画像の明るさや彩度(濃度)、ホワイトバランスなど、画質を劣化させることなく調整が可能だからです。夜景を撮影していると、現場でカメラの液晶モニターで見たときと、帰宅してパソコンの画面で見たときの色あいや濃度の違いが小さく無いこともありますので、RAWであれば自分の思い通りの仕上がりに追い込めます。RAWは難しいと思うひともいるかと思いますが、これを機会に挑戦してみるとよいでしょう。

ISO感度は、三脚を使用する場合はベース感度に設定するようにします。状況によってはそれよりも少し高い感度に設定することもありますが、いずれにしてもそのカメラの持つ最高の画質を得るためです。ホワイトバランスはオート(AWB)に設定してまず大丈夫でしょう。もし使用するカメラのホワイトバランスに「ホワイト優先」があれば、それに設定しておくと光源の色かぶりをより抑えられることができます。


ミラーレスやデジタル一眼レフのオートホワイトバランスでは、「雰囲気優先」と「ホワイト優先」から選べるものも少なくありません。選択は好みとはなりますが、夜景では様々な光源に被写体が照らされる場合がほとんどですので、私自身は「ホワイト優先」をチョイスすることが多いです。掲載したキャプチャー画面は「キヤノンEOS R5」のものです。


キヤノンEOS 5D Mark IV・EF16-35mm F4L IS USM・絞り優先AE(絞りF8・8秒)・ISO400・RAW

オートホワイトバランスの「雰囲気優先」と「ホワイト優先」の比較作例となります。上段の「雰囲気優先」では光源の色味がわずかに残っており、下段の「ホワイト優先」では白いものは白く再現しようとしていることが分かります。好みの問題ではありますが、人工光源の多い夜景撮影では留意しておくとよいでしょう。

「長秒時露光のノイズ低減」機能を「ON」もしくは「AUTO」に設定しておくのも忘れないように。撮影モードはマニュアルか絞り優先AEが使いやすいと思います。私の場合はほとんどの場合絞り優先AEモードを選択しています。ただし、カメラによっては絞り優先AE の場合30秒以上のシャッター速度には対応していないものがほとんどですので、それよりも長秒で撮影したい場合はマニュアルモードに設定しB(バルブ)で撮影するか、先ほど述べましたとおり感度を上げてみるとよいでしょう。手ブレ補正機構についてはOFFにします。ごく稀に何らかの影響で手ブレ補正機構が長秒撮影中に作動してしまい、画像のシャープネスを低下させることがあるからです。

長秒時のノイズ低減機能はONもしくはAUTOに設定するようにします。多くのカメラの場合、1秒を越すような露光時間でこの機能は作動し、撮影直後にシャッター速度と同じ時間処理を行います。その間カメラの操作は基本できませんので、連続して撮影したいときなどは注意が必要です。掲載したキャプチャー画面は「キヤノンEOS R5」のものです。

いよいよ、夜景写真を撮りにいってみよう!

準備が整いましたら、撮影に入りましょう。三脚は人通りの邪魔にならない場所で、行き交うクルマなどの振動を拾わないところを見つけて立てるようにします。三脚の脚はしっかりと広げ、脚やエレベーターなどのロックは確実に締めるようにします。大体のアングルが決まったら、ピントを合わせます。最近のミラーレスは暗くてもAFで正確にピントを合わせてくれますが、デジタル一眼レフのAFではそうでないことも少なくありません。そのため、可能であればライブビューにし、画像を拡大してマニュアルフォーカスでピントを合わせることをオススメします。慣れていないと、マニュアルフォーカスでのピント合わせは難しく思うかもしれませんが、あせらずじっくりとフォーカスリングを操作するとよいでしょう。

あとはタイミングを見計らってリモートレリーズのシャッターボタンを押すだけです。撮影中は三脚に振動を与えないように、撮影者は動かないようにします。また、風の強い日はカメラのストラップがなびいてしまい、それがブレを発生させることもありますので、ストラップをカメラから外すか、三脚に括り付けるようにするとよいと思います。1秒を越すようなシャッタースピードの場合、撮影後すぐに長秒時ノイズリダクションの処理が始まります。処理時間がシャッタースピードと同じ時間かかりますので、終わるまでカメラのスイッチを切ることなく気長に待つようにしてください。

鳥居と高層ビルのコントラストが面白く思えてカメラを向けました。クルマのヘッドライトなどでできる光跡を敢えて抑えたく、クルマが信号待ちで止まった瞬間にシャッターを切りました。朱色の鳥居が際立つ夜景写真になったかと思います。

キヤノンEOS 7D Mark II・トキナーatx-i 11-16mm F2.8 CF PLUS・絞り優先AE(絞りF11・8秒)・WBオート・ISO100・RAW

バスの営業所を向かになる跨線橋から撮影したものです。土曜日、日曜日の夕方は、平日の夕方と異なり車庫で寝ているバスも多く、その様子を狙いました。空の明るさとバスの明るさのバランスがとれたと思ったタイミングでシャッターを切っています。

キヤノンEOS 7D Mark II・トキナーatx-i 11-16mm F2.8 CF PLUS・絞り優先AE(絞りF8・10秒)・WBオート・ISO100・RAW

夜景撮影は、条件によってはわずかな時間の違いによって写りが大きく異なることを比較した作例です。撮影は冬至も近い12月18日。上段の写真は17時44分、下段の写真は18時2分に撮影しています。18分ほどの違いですが、上段の写真にくらべ、下段の写真はぐっと煌びやかな雰囲気としています。光の状態の変わる夜のはじめは、じっくりと被写体の状況を見ながら撮るとよいでしょう。なお、空は曇っており、思ったような蒼い色とはならなかったのは残念。

ソニーα7R III ・タムロン70-180mmF/2.8 Di III VXD(A056)・絞り優先AE(絞りF2.8・4秒)・WBオート・ISO100・RAW

蒼い空の色と、照明で照らされた古い構造物の明るさのバランスが絶妙な写真となりました。撮影したときよりも早い時間に撮影すると空が明るすぎて締まらない写真に、遅い時間に撮影すると空は黒くなって立体感のないものとなるはずです。また曇り空では、この蒼さはでません。夜景と言えども天候にも気をつかいたいものです。

ソニーα9 II ・FE 20mm F1.8 G・絞り優先AE(絞りF4・1.3秒)・WBオート・ISO100・RAW

三脚が使えないところでは、やはり高感度に設定し手持ちで撮影を行いましょう。この写真を撮影したときの感度はISO12800。1/125秒のシャッター速度と強力な手ブレ補正機構と相待って、シャープな写真が得られました。また、動いている船舶も止めることができています。三脚を使い被写体としっかり対峙するのが夜景写真の王道と言えますが、条件によってはこのような撮影方法で対処するとよいと思います。もっともこの写真、夜景と言うよりは夕景に近いものがありますが。

ソニーα9 II ・FE 70-200mm F2.8 GM OSS・絞り優先AE(絞りF4・1/125秒)・WB太陽光・ISO12800・RAW

真夜中でも雪があれば、光の反射により明るい雰囲気の夜景写真が撮れる可能性が高くなります。特に雪の降る日の少ないところでは、普段とは違った夜景写真が撮れるため積極的に臨んで欲しいところです。この写真では、雲の流れも長秒撮影により表現できました。

富士フイルムGFX 50S ・GF23mm F4 R LM WR・絞り優先AE(絞りF8・28秒)・WBオート・ISO100・RAW

みんな大好き、工場夜景です。昼間とは大きく異なった顔を見せるのが工場夜景の魅力のひとつ。様々な光源で工場が照らされていることが多いので、ホワイトバランスの調整に気を使うこともありますが、クリアに見えるような色合いに調整できると雰囲気あるものに仕上がるかと思います。望遠レンズで撮影しているため、ISO感度を上げ、なるべく速いシャッター速度となるように露出を設定しています。

富士フイルムX-T3 ・XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR・絞り優先AE(絞りF8・2秒)・WBオート・ISO800・RAW

世界的に最も知られた交差点、渋谷駅前交差点です。三脚は脚を閉じて立てているため、三脚が倒れないようカメラのストラップを首にかけて撮影しています。長秒撮影により、スクランブル交差点を行き交う人々がブレて記録され、シャープに写った建物とのコントラストが面白い写真となりました。

キヤノンEOS 5D Mark III・EF16-35mm F4L IS USM・絞り優先AE(絞りF11・1秒)・WBオート・ISO100・RAW

かつての東京の北の玄関、上野駅です。空と駅舎の明るさのバランスを見ながら断続的にシャッターを切っていき、そのなからチョイスした1カットです。空に蒼さが残ることで、奥行き感のある写真となりました

キヤノンEOS 5D Mark III・EF16-35mm F4L IS USM・絞り優先AE(絞りF11・2秒)・WBオート・ISO100・RAW

歩道から変電設備の見渡せる場所で撮影しています。昼間見ると何でもない風景ですが、日が暮れると様々な光が構造物を照らし、非日常的な不思議な空間に。蒼い空とともに記録しました。私見とはなりますが、夜景撮影の醍醐味のひとつは、昼と違かった顔を見せる風景をいかに見つけ、そして記録することと思っています。

キヤノンEOS 5D Mark III・EF16-35mm F4L IS USM・絞り優先AE(絞りF8・25秒)・WBオート・ISO100・RAW

もやに煙る東京タワーを狙ってみました。このときは生憎三脚を持ち合わせていませんでしたので、ISO感度を3200まで上げ、手持ちで撮影しました。古いレンズでの撮影ですが、ゴーストやフレアの発生要因となる強い光源に気をつければ、最新のレンズに迫る写りが楽しめます。ただし、マニュアルフォーカスのレンズの場合ピント合わせには細心の注意が必要です。

ニコンDf・Ai Zoom Nikkor 28-50mm F3.5S・絞り優先AE(絞りF5.6・1/200秒)・WBオート・ISO3200・RAW

まとめ

私の夜景撮影は夕暮れと漆黒の夜の間、ブルーアワーの時間に撮影することがほとんどです。と言うのも、空が真っ黒に写ってしまうと夜景ならではの華やかさ、艶やかさが今ひとつのように思えてしまうからです(そう言った意味では、私の写真は夜景と言えないかもしれません)。また、立体感も無くなるように思えています。そのような写真が撮りたければ、快晴で空に青みが少し残っている時間に写すとよいと思います。

そのブルーアワーでの撮影ですが、空の青さと建物や橋など被写体の明るさのバランスを見図るのが撮影のキモとなります。空が明るすぎると、当然深い青みが出ないばかりか、地上の構造物が暗く写ってしまう場合がほとんど、反対にタイミングを見逃してしまうと今度は空は黒く写ってしまいます。そのため、日が落ちた夕方にカメラをセットし、周囲が暗くなり始めたら時折シャッターを切って、空の青さと被写体の明るさのバランスを見るようにしています。空が深い青色(蒼色)となり、地上の被写体の明るさとバランスがとれている時間はほんのわずかです。そのタイミングを見逃さないよう細心の注意を図り、シャッターチャンスと思ったなら断続的にシャッターを切り続け、最上の一枚をものにするようにしています。デジタルになって夜景写真が格段に撮りやすくなりました。これまで夜景は難しいと思っていたひとも、この冬、暖かい格好をして撮影にぜひ出掛けてみてください。きっと素晴らしい夜景写真が撮れるはずです。

今回のカメラ・レンズ

キヤノンEOS 5D Mark III
◉発売=2012年3月 ◉価格=オープンプライス

キヤノンEOS 5D Mark IV
◉発売=2016年9月8日 ◉価格=オープンプライス

キヤノンEOS 7D Mark II
◉発売=2014年11月 ◉価格=オープンプライス

ソニーα7R III
◉発売=2017年11月25日 ◉価格=オープンプライス

ソニーα9 II
◉発売=2019年11月1日 ◉価格=オープンプライス(実売589,050円・税込)
詳しくはこちら

富士フイルムGFX 50S
◉発売=2017年2月28日 ◉価格=オープンプライス

富士フイルムX-T3
◉発売=2018年9月20日 ◉価格=オープンプライス

ニコンDf
◉発売=2013年11月28日 ◉価格=オープンプライス

キヤノン EF16-35mm F4L IS USM
◉発売=2014年6月 ◉価格=オープンプライス

トキナー atx-i 11-16mm F2.8 CF PLUS
◉発売=2022年9月9日 ◉価格=97,500円(税別)

タムロン70-180mmF/2.8 Di III VXD(A056)
◉発売=2020年5月14日 ◉価格=137,500円(税込)

ソニー FE 20mm F1.8 G
◉発売=2020年3月13日 ◉価格=163,900円(税込)(実売・134,640円税込)
詳しくはこちら

FE 70-200mm F2.8 GM OSS
◉発売=2016年9月30日 ◉価格=330,000円(税込)

GF23mm F4 R LM WR
◉発売=2017年6月22日 ◉価格=339,500円(税別)

XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR
◉発売=2016年2月18日 ◉価格=344,850円(税込)(実売・247,995円税込)
詳しくはこちら