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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 赤城耕一が深掘りする、M型初のTTLメーターを内蔵したライカM5

写真・文:赤城耕一/編集:合同会社PCT

第三席 ライカM5を連れ回す理由

ライカの不定期連載の第3弾。前回に引き続き写真家の赤城耕一さんにライカの歴史を紐解きながら、ご自身の体験をもとに熱くお話いただきます。今回はライカの中でも、赤城さんが親しみやすいモデルとして愛用している、ライカM5を取り上げます。

赤城耕一(あかぎ・こういち)
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアル、コマーシャルで活動。またカメラ・写真雑誌、WEBマガジンで写真のHOW TOからメカニズム論評、カメラ、レンズのレビューで撮影、執筆を行うほか、写真ワークショップ、芸術系大学で教鞭をとる。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。著書に『赤城写真機診療所MarkⅡ』(玄光社)、『フィルムカメラ放蕩記』(ホビージャパン)など多数。

はじめに

筆者はデザインの良否をカメラの評価の基準のほぼすべてとしています。正直デジタルカメラのインプレッションを行なっても、あらゆるカメラは“よく写る” わけですから、アマチュアの皆様にどのカメラが良いのですかと尋ねられても、その基準は見た目で選んでくださいと本気で答えます。

つまり、どんなに高性能でもカッコ悪ければ使いたくはなくて、これ、逆をいえば、カッコよければ多少のスペックの低さ、使いづらさなど許容してしまうようなところがあるわけですね。でも何事にも例外はあります。筆者の中で、不格好さを許容できる唯一無二のライカがあるのです。

これがライカM5です。前回ライカM4のことを褒めすぎてしまいまして、M5のことがあまりにも不憫になってしまいまして、このところ、可能なかぎり連れ回すようにしていたのです。不格好と言われて、自分の愛機がディスられたと怒る方もいらっしゃると思います。作者も自分で書いておきながら、なんだか複雑な気持ちなのですが、M5が商売的に成功を収めなかったのは、機能的な問題とか、一眼レフと比べると、時代遅れのレンジファインダーカメラだからというステレオタイプな理由だけではなくて、やはり見た目なのではないかと思うわけです。

M型ライカの中で、かなり個性的なルックスのライカM5

M5は小型の弁当箱みたいなデザインになりました。その理由は単純ですね。TTLメーターを内蔵したからであります。全体はM4から大きく重く、少しエラがはったような顔立ちです。ボディ両袖の丸みもなくなり角ばった感じになったわけです。平たく四角いわけですね。しかも筆者のM5はシルバークロームですから、なんだか全体像からはアルミの弁当箱とか、カップ麺の焼きそばを想起します。ええ、決してそれらと似ているわけじゃないんですよ、単純な印象評価です。

巻き戻しノブはベースプレート側に移りました。このため意外にカメラ上部の多くの面積はすっきりとしています。立ち退きにあって空き地ができたみたいな感じです。でもLeicaのロゴの大きさは謙虚だったりします。体は大きいけど、優しい人みたいな感じです。

Mシリーズのライカではネックストラップアイレットに丸環リングを通し、そこにストラップを通す方式を採用していましたが、M5は大型のアイレットの中にストラップを直接通す方式に変更されました。このこともデザイン面では大きな変化ですね。初期型ではストラップをとりつけるアイレットがボディの片側にしかなく、カメラを縦方向で吊るすしかありませんでした。

筆者は個性的で良いと思いましたし、ライカM5を使うのだという心構えみたいなものが、これによって生まれたように思いました。ところが、ライカのメンテナンス技術者の中には、縦位置で携行した方が、力学的にも内蔵メーターの指針に影響を与えないとしていました。はい、もちろんウラは取れていませんが、素人は納得してしまいそうになります。都市伝説かもしれませんが、それらしくきこえませんか?そうでもないですか。

のちにカメラを横方向に吊るして携行できないのはダメという声が少なからずあったのでしょう。途中でアイレットは増設され、横位置にカメラを吊るすことも可能になりました。既存のアイレットが片側にしかないモデルにも有償の改造でアイレットをつける対応していました。筆者はこれをメンテナンス時にお願いした記憶があります。

それまでのライカの比べ、操作性が大きく変更した

筆者がブサイクなM5に肩入れを始めたのは実際に使用してみて、最初の印象がものすごく良かったからですね。かつて、M5を雑誌で褒めすぎて、読者から「話が逆」、「一貫性がない」と怒られたことを思い出しました。朝令暮改は得意(笑)な筆者ですが、これはあまりにも極端すぎたようです。

M5ではTTLメーター内蔵の利便性もさることながら、巻き上げレバーの同軸上にシャッタースピードダイヤル、シャッターボタンを位置させたことなど、基本的な操作性の改良点が大きかったようです。今ふうに言えば、UIが極端に変わってしまったということですね。

シャッターボタンとシャッタースピードダイヤルが同軸にあることは新しいUIですね。使用してみると意外と言っては失礼だけど、他のMシリーズライカと混用すると、あれれと思うこともあります。

M5のファインダー内のTTLメーター指針表示は設定シャッタースピード指針と光の強弱で変わるメーター指針をクロスさせることで適正露出として表示します。いわゆる追針式というやつですね。バッテリーはMR9水銀電池を使用しますが、今は入手できないので、電池アダプターを使用します。

シャッターダイヤルはシャッターボタンの基部にあります。撮影時の基本設定である、まず、シャッタースピードを先に決め、絞りを回しながら動くメーター指針を合致させることもできますが、シャッタースピードダイヤルは人差し指一本で回すことができますから、まず絞りを先に決めシャッタースピードを指針がクロスするまで回し、適正露出まで追い込むという方法も可能です。

ASA(ISO)感度ダイヤル。それなりの大きさが取られているのはデザイン的な考え方なのかどうか。設定は行いやすいですね。フィルム位置マークは初期は小さく、後期は大きくなります。

つまり絞り優先設定方法でも使いやすいと言われています。もっともこの方法はあまりやらないですけどね、ただ、シャッターボタンの基部にシャッターダイヤルがあるのは操作感としては悪くないですね。けれど、M3とかM4などと一緒に使うという場合には少々戸惑うことになるのは事実です。

本気の「TTLダイレクト測光」と言えるTTLメーターを内蔵したM5

M5のTTLメーターの仕組みはすごいですね。レンズのすぐ後ろの光軸の位置に、腕木にとりつけたCds受光素子を置いて測光、露光直前にこれを退避させるというメカニカルな力技で行われます。

シャッターボタンを半押しすると、すでにCdsは退避する態勢になりますので、光軸からも外れ、測光値が変わることがあるので注意せねばなりません。本来は測光時にはシャッターボタンに指を触れない方がいいことになりますが、それも難しいでしょうから、気に留めておくことは必要かと思います。また、測光範囲はスポットです。だから被写体のどこを測るのか、測光箇所の反射率に関して、留意しておいた方がよいでしょう。

この測光方式はレンズから入ってくるナマの光を直接測光することになるわけですから本気の「TTLダイレクト測光」と言えるものではないでしょうか。個人的にはそう考えています。なぜならばダイレクト測光をウリにしたオリンパスOM-2では、フィルム面、もしくはシャッター幕面で反射光を測光していたのですから。

何らかの故障で腕木の動作が鈍くなったり、動かなくなればCdsが退避せずにフィルムに写り込んでしまうという絶望的な状況にもなりかねません。そのような経験をした人がいるという話も聞いています。でも筆者には幸いにもそのような経験はありませんでした。Cds受光部は、ボディからレンズを外した状態ですと、見ることはできません。このため動きは見えないのでわかりません。L-MのマウントアダプターをつけるとCdsを見ることができます。

M5内蔵のCds。L-Mアダプターを使用すると出現します。何か見てはいけないものを見てしまったかのような気持ちになり、気の小さな者は目をそらしたりしてしまいます。集光レンズが前にあるのか、それなりの存在感と迫力を感じますよ。

後玉が突き出たスーパーアンギュロン21mm F3.4などは、原則として装着するのはやめた方がいいのですが、登場時のタイプによって、自動的に腕木が格納されるものもあるそうです。また沈胴方式のレンズも沈胴させると、Cdsと衝突してしまう可能性もあるので注意せねばなりません。

「わかっているやつだけにわかればいい」という孤高の魅力

メーターも応答速度の遅い受光素子のCdsですし、スポット測光ですから、それなりのコツは必要ですので、全幅の信頼を置いて良いのかどうか、また登場から半世紀を経るわけですから、経年変化による精度低下も正直なところ不安があるのですが、なに、大丈夫です。筆者のM5にはバッテリーが入っていたことはほとんどないからです(笑)。少なくともカラーポジフィルムを使用するような場合、露出決定に内蔵TTLメーターを全面的に信頼して使用することはほとんどなく、加減を加えるからです。

ならばM5を使う意味はなかろうと思われるかもしれませんが、これまで述べてきたようにM4までのUIとの違いによって、新鮮味を感じることもありますし「わかっているやつだけにわかればいい」というM5ならではの孤高の魅力を感じるわけです。

ベースプレートにある巻き戻しクランク。ビルトインタイプなのはデザイン的にも良いセンスじゃないでしょうか。操作性はとてもいいですね。

巻き上げスプール。M5から新しくなり、取り外し式になりました。フィルムもしっかりと挟まるので、M4の時みたいにフィルムの先端が抜けてしまうようなことはなくなりました。

フィルムの装填方法を見ますと、フィルムのリーダー部は少し飛び出させた方がいいみたいですね。理由はよくわかりませんが。

今こそしっかりと見直してしかるべきライカM5

このようにMシリーズライカで初のTTLメーター内蔵の記念すべきカメラがM5というわけですが、Mシリーズの中での失敗例とは言い過ぎかもしれませんが、現在に至るまで人気薄です。これは外観の大きさとデザインにその理由があるというのが強いようですが、実際にM5を使用してみると、よくぞここまでUIを変えたなとも思いますが、ほとんどは理にかなった改良で、使いやすくなりました。シャッター音も小さく品格の良さを感じます。

人気がない、イコール入手しやすい価格ということで、暴騰を続けるMシリーズライカの中にあって、M5は筆者に近しい親しみやすいモデルとして考えています。今こそM5はしっかりと見直してしかるべきライカだと考えています。

カラーポジフィルムで表現する、M5の世界

酷暑の中で咲くひまわり。反射率は高い被写体ですから少しオーバー目に露出設定したらドンピシャでした。

ライカM5・ズミクロン90mm F2・ 絞りF5.6・1/500秒・MARIX100

昼下がり。画面内の明暗差が大きく、基準になる測光箇所を探すのか考えてしまいましたが、ハイライト寄りで測光を行い、補正をかけています。

ライカM5・ズマロン35mm F2.8・絞りF5.6・1/500秒・➖1/2E V補正・MARIX100

廃船。ズマロン35mm F2.8はズミクロンの8枚構成の35mm F2より優れているのではないかと思うことがたびたびあります。

ライカM5・ズマロン35mm F2.8・絞りF8・1/250秒・MARIX100

マリックス カラーリバーサルフィルム 100D
●価格=2800円(税込)

今回のカメラ・レンズ

LEICA(ライカ)M5 シルバークローム
◉発売=1971年 ◉価格=生産終了品

LEICA(ライカ)ズマロンM f5.6/28mm(現行品)
◉発売=2016年11月2日 ◉価格=418,000円(税込)
詳しくはこちら

LEICA(ライカ)ズミクロンM f2/90mm
◉発売=1998年 ◉価格=生産終了品