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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! フォトグラファー 中西祐介 ✕ スポーツ撮影に挑戦しよう!

写真・文:中西祐介/編集:

スポーツの魅力的な一瞬を捉える撮影術

興奮と感動の瞬間を写真にする魅力的なスポーツ写真。今回は、そんなスポーツ写真の撮影のコツから必須の機材まで、プロのスポーツ写真家、中西祐介さんのアドバイスとテクニックに学びながら、スポーツのエキサイティングな瞬間を捉え、素晴らしい写真を生み出すためのヒントをお届けします。初めての方も、さらなる成長を目指す方も、中西さんのスポーツ写真への情熱とノウハウに触れながら、素敵な瞬間をカメラで切り取る喜びを実感しましょう。

なかにし ゆうすけ
1979 年東京生まれ 東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。講談社写真部、フォトエーシェンシーであるアフロスポーツを経て2018年よりフリーランスフォトグラファー。夏季オリンピック、冬季オリンピック等スポーツ取材経験多数。スポーツ媒体への原稿執筆、写真ワークショップの講師も行う。現在はライフワークとして馬術競技に関わる人馬を中心とした「馬と人」をテーマに作品制作を行う。 日本スポーツプレス協会会員。国際スポーツプレス協会会員
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はじめに

野球、サッカー、バスケットボールなど私達の周囲には魅力的なスポーツシーンが溢れています。スポーツ写真というとどのようなイメージを持たれるでしょうか。超望遠レンズやフラッグシップ機が必要、激しい動きを追わなければならない、ハードルが高めのジャンルなど、様々なイメージを持たれると思います。

私が本格的にスポーツ撮影をしたのはフォトグラファーとして船出をしてから数年が経過した時でした。偶然にスポーツ撮影を行う会社に転職したことをきっかけにスポーツフォトグラファーとしてのキャリアがスタートしました。

それまでスポーツ撮影に関しては個人作品制作として撮影していたボクシング以外は経験がゼロ、毎日のように様々な競技を撮りながら葛藤の日々を送りました。その中で私が感じたスポーツ撮影に必要な要素をお伝えしたいと思います。

カメラの設定や操作など撮影におけるハード面と撮影のアプローチなどの経験値を上げていくといった両面を同時進行で固めていくことがとても大事になると思っています。またカメラを持たない予習時間が役に立つこともあります。今後のスポーツ撮影のご参考になれば幸いです。

選手の目線や体の向き、体重移動を見ながら(感じ取りながら)次の動きを予測しながらシャッターを切りました。©️FE NAGOYA 2022-23シーズンに撮影

【撮影データ】キヤノンEOS R3・RF70-200mmF2.8L IS USM・86mmで撮影・絞りF2.8・1/1250秒・ISO 8000・WB マニュアル

フリースローはじっくりとシャッターチャンスを狙うことが出来ます。選手のよって構え方が異なるため、事前に把握しておくとスムーズに撮影が可能です。
©️FE NAGOYA 2022-23シーズンに撮影

【撮影データ】キヤノンEOS R3・RF100-300mm F2.8 L IS USM・300mmで撮影・絞りF2.8・1/1250秒・ISO 8000・WB マニュアル

競技の特性とルールを知ろう

スポーツ写真の撮り方をお伝えする際にまずはカメラの設定から始めましょうと言いたいところですが、まずは被写体のことをよく知ることから始めていきましょう。

撮影に直結するものではないと思われがちですが、競技の特性とルールを知っておくと後々撮影の役に立つ場面が多くあると思います。私が最初に教わったのはルールを理解すれば理想のスポーツ写真に近づくというものでした。スポーツは競技ごとに動きの方向やスピード、動く範囲などそれぞれ特徴があります。ルールを理解することはこれらを知ることに繋がっていきます。

また選手の得意技や動きのパターンなども予め頭に入っていれば次のシーンの予測がしやすくなり、余裕を持ってカメラを構えることも可能です。スポーツ撮影は予測と決断の繰り返しになります。相手の動きをじっくりと見ながらシャッターを押していればあっという間にシャッターチャンスは目の前を通り過ぎてしまい、一歩タイミングが遅れた写真ができ上がります。そうならないためにこれから起こるであろうシーンを予測しながら半歩先を撮るイメージが必要になります。

もちろん予想が外れることも多くありますが、それは全く問題ありません。私自身も的中率は5割程度です。この5割を達成するためには競技や動きを理解しておくことが何よりも重要な要素になることを私自身が経験しています。テレビ中継があるスポーツの場合は解説付きのスポーツ中継やニュースをよく見ることをおすすめします。

特にサッカーやバスケットボール、ラグビーなどの団体競技はフィールドやコートを上から撮影したアングルで見ることができます。これを見ることで試合の流れや撮りたいシーンなどを客観的に捉えることが可能です。スポーツ撮影を始めたばかりの頃は気になるスポーツ中継や自分が撮影したものを録画して復習のために見ていました。カメラを持たない時間をぜひ有効活用してみてください。

卓球は選手の利き腕や攻撃型かカットマンのような守備型なのかなど選手の特徴を知っていると狙う瞬間を絞り込むことが出来ます。ボールを打つ瞬間の腕の振りはとても速いので高速シャッターが必要になります。
©️日本ペイントマレッツ 2021-2022シーズンに撮影

【撮影データ】キヤノンEOS R3・RF400mm F2.8 L IS USM・絞りF2.8・1/2000秒・ISO 8000・WB マニュアル

サーブの瞬間を撮影。会場が静まりかえる時間のため、シャッター音のしない電子シャッターで撮影しています。選手の集中力を妨げないように細心の注意を払います。
©️日本ペイントマレッツ 2022-2023シーズンに撮影

【撮影データ】キヤノンEOS R3・RF400mm F2.8 L IS USM・絞りF2.8・1/2000秒・ISO 8000・WB マニュアル

望遠レンズの画角と距離感に慣れよう

スポーツ撮影において欠かせないものが望遠レンズになります。高価な明るい開放値のレンズから比較的リーズナブルな望遠ズームまで様々なラインナップがありますが、テレ側が400mmから500mm程度の焦点距離を使用する頻度が多くあります。特に屋外のフィールド競技では撮影場所から被写体までの距離が物理的に遠くなるためノートリミングで撮影するためにも上記のようなレンズを使用することになります。

バスケットボールなどのアリーナ競技の場合は200mm程度のレンズで足りる場合もあります。どちらにしても私達が普段肉眼で見ている世界よりも画角が狭く、レンズを通して見ると選手の体感スピードが速く感じられます。普段見慣れているよりも速く見えるのに加えてピントを合わせながら追いかけていくのはとても難しいことです。これに対する解決方法はアナログ的な回答になりますが、この体感に慣れることが一番の近道になります。

この作業を繰り返しているうちに段々と余裕が生まれてきます。競技場に行く機会が少ないという方はカメラを構え、ファインダーを見てカメラを振るだけでも十分練習になります。まずは望遠レンズの感覚に自分を慣れさせてください。スポーツフォトグラファーはアスリートに似ていると言われますが、事前練習と反復練習がその後の撮影を楽にしてくれます。また競技ごとにお使いのカメラのAFスピードやフォーカスエリアなどのマッチングを探ってみてください。被写体ごとにパターンを決めてみるのも一つの方法です。

野球の投手を正面上のスタンドから撮影しました。バッター方向から撮影するため投手の顔をしっかりと捉えることができ、ボールをリリースする瞬間を狙いやすい角度になります。撮影協力 日本大学準硬式野球部

【撮影データ】キヤノンEOS R3・RF800mm F5.6L IS USM・絞りF5.6・1/2500秒・ISO 800・WBオート

超望遠レンズの特徴である圧縮効果を狙いながらバッターにグッと寄って撮影しました。バットの角度斜め45度くらいになる位置に狙いを定めてシャッターを切っています。また斜めから差し込む光と影にも注目し、顔に影が付く時間帯を選んで撮影しています。
撮影協力 日本大学準硬式野球部

【撮影データ】キヤノンEOS R3・RF800mm F5.6L IS USM・絞りF5.6・1/2500秒・ISO 400・WBオート

動きを止めるためのカメラ設定

次にカメラの設定についてお伝えしていきます。細かい設定についてはメーカーやカメラごとにメニューが異なるため割愛させていただきます。

(1)理想のシャッター速度とホワイトバランス

ここでは動きをしっかりと止めて撮影することに重点を置いてお話しします。まず私は露出設定をマニュアルにしています。シャッター速度、絞り、感度を全て自分で決定します。近年発売されたカメラはオート機能が大変優秀なので心配ないのですが、それでも自分が意図していない露出になる可能性が100パーセントではないと考えているためマニュアルにしています。

私が経験してきた中で動きをピタッと止めるためには1/1000秒以上のシャッター速度が必要と判断しています。そのためシャッター速度を1/1000以上に設定→絞り→感度の順番でセットします。できるだけ早いシャッター速度を確保し、できるだけ低い感度で撮影するため絞りは開放になるケースが多いです。

ホワイトバランス(WB)は原則として屋外(ナイター以外)はオート、屋内で自然光が入らない場合は明るさや色の変化がないためプリセットマニュアルでWBを固定します。これは写真データを整理する際に可能な限り色の揃ったカットが並んだ方が後処理の時間を短縮できるためです。RAWで撮影した場合でも行っています。

ゴール下の撮影位置からゴールに向かってジャンプした選手を撮影しました。足先までピタリと動きを止めるためには1/1000秒以上のシャッター速度があると安心です。©️FE NAGOYA 2022-23シーズンに撮影

【撮影データ】キヤノンEOS R3・RF70-200mmF2.8L IS USM・絞りF2.8・1/1250秒・ISO 8000・WB マニュアル

(2)AF設定とAFエリア

次にAFについて。AFは動体予測(コンティニュアンスAF)を使用します。カメラによってはAF特性を細かく設定可能ですが、ご自身の経験値が大きく影響しますので最初はデフォルト設定のままで良いと思います。AFエリア1点AFは範囲が狭く、ゾーンAFは複数人数が交錯するコンタクトスポーツ(ラグビーなど)ではメインの被写体以外にフォーカスが移りやすいため、これらの中間である領域拡大の使用をお勧めします。また瞳AFや顔認証AFは個人種目のようにフレームの中に選手が一人しか入らない場合は大変有効です。特にバドミントンやバレーボールなどのネット越しに被写体がいるケースやヘルメットを被っている場合でも安定してフォーカスしてくれる可能性が高いです。逆に複数の選手が絶えず交錯するようなスポーツでは狙っていない被写体にフォーカスが持っていかれることがあるため私は使用していません。

またカメラの背面にあるAF-ONボタン(親指AF)を積極的に活用するとAF性能を効果的に引き出すことができます。シャッター半押しでAF駆動させるのがデフォルトになっていますが、シャッターボタンはシャッターを切るためだけに使い、AFはAF-ONボタンと役割を別の場所に設ける方がシャッターを押すタイミングを計りやすいと思います。長時間撮影においての疲労軽減のためにも人差し指(シャッター)と親指(AF)にストレスを分散させることで可能な限り肩の力を抜いて被写体と対峙するようにしています。

AF-ONボタンを押しっぱなしにしてAFを動かしながらシャッターチャンス時のみシャッターボタンを押しています。この方がタイミングをはかりやすく、シャッターチャンスの時にスムーズにシャッターを切れると思います。
撮影協力 日本大学馬術部

【撮影データ】キヤノンEOS R3・RF400mmF2.8L IS USM・絞りF4・1/2500秒・ISO 400・WBオート

(3)高感度について

ナイターや屋内スポーツのように明るくない環境下で強い味方になってくれるのが高感度性能です。近年発売されたカメラであればISO6400からISO12800までを常用しています。ここまで使用できれば撮影の幅が大きく広がっていきます。

選手入場の暗転時はスポットライトのみになるため積極的に高感度を使って動きを止めるようにしています。
©️FE NAGOYA 2022-23シーズンに撮影

【撮影データ】キヤノンEOS R3・RF70-200mm F2.8L IS USM・絞りF2.8・1/1000秒・ISO 10000・WB オート

(4)背面モニターではなくファインダーを使おう

カメラが一眼レフからミラーレス全盛になる中でファインダーではなく背面モニターを見ながらシャッターを切る方がいますが素早い動きを追い続けるためにはファインダーを使用した方が動きに対して集中することが出来てフレーミングを作りやすいです。スポーツはじっくりと構えて考えながら撮影する時間はなく、相手の動きに合わせて直感的にシャッターを切っていくことが求められます。

コンマ一秒の迷いがシャッターチャンスを逃してしまうケースも多くあります。背面モニターを見ながら撮影するとどうしても周囲の状況が見えすぎてしまい、シャッターを押すまでの時間が長くなってしまいます。上級機でなければファインダー性能がイマイチな部分もあるかもしれませんが、ファインダーを使っての撮影をお勧めします。また私の場合は競技中のみ画面表示先をファインダーのみにしています。

背面モニターを見ながらスポーツのような激しい動きを追い続けるのは集中しにくいためファインダーを使用することをお勧めします。その方が選手の動きの変化を追いやすくなります。
©️FE NAGOYA 2022-23シーズンに撮影

【撮影データ】キヤノンEOS R3・RF70-200mm F2.8L IS USM・絞りF2.8・1/1000秒・ISO 8000・WB マニュアル

(5)最後に(スポーツ撮影の経験値を上げよう)

スポーツ写真撮影はこうすれば必ずうまくいくという方程式がありません。ある程度のアプローチ方法やコツはありますが、最終的には経験値が仕上がりを大きく左右します。そのためにも予習と復習が欠かせません。被写体の特徴をよく理解し、撮影後はしっかりと自分が撮影した写真と向き合う。とても地味な作業のように見えますが、私自身もこの反復練習を繰り返しています。またいつくるかわからないシャッターチャンスに反応するためにできるだけ間隔を空けずに撮影機会を設けることをお勧めします。すぐに結果が現れる必殺技はなく、少しずつ積み上げていくことが上達の一番の近道となります。

そして競技会場や種目ごとに撮影のルールが異なりますので事前に撮影可能場所や持ち込み可能な機材、公開する際の注意事項などを確認いただけますと幸いです。

ボクシングは次に何が起きるのか全くわかりません。これまでの経験値と勘を頼りにシャッターを切ります。スポーツは予測と決断の繰り返しなのです。

【撮影データ】キヤノンEOS-1D X・EF70-200mm F2.8L Ⅱ IS USM・絞りF2.8・1/1000秒・ISO 3200・WB 3200K

中西祐介さんの使用機材

メインカメラはキヤノンEOS R3、サブカメラや高画素が必要な場合はEOS R5、3台体制で撮影する時に備えてEOS R6 Mark IIを常備しています。
レンズはRF15-35mm F2.8 L IS USM、RF24-70mmF2.8 L IS USM、
RF70-200mm F2.8 L IS USM、RF400mm F2.8 L IS USMを使用しています。

RF400mm F2.8 L IS USMを使用する際は一脚を使用、屋内競技でホワイトバランスを取る時に使用するホワイトバランスフィルターも常備。

メモリーカードはプログレードデジタルのCFエクスプレスとSDカードを愛用。

キヤノンEOS R3
◉発売=2021年11月 ◉価格=オープン価格
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キヤノンEOS R5
◉発売=2020年7月 ◉価格=オープン価格
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キヤノンEOS R6 Mark II
◉発売=2022年12月 ◉価格=オープン価格
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RF15-35mm F2.8 L IS USM
◉発売=2019年9月 ◉価格=オープン価格
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キヤノンRF24-70mm F2.8 L IS USM
◉発売=2019年9月 ◉価格=オープン価格
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キヤノンRF70-200mm F2.8 L IS USM
◉発売=2019年11月 ◉価格=オープン価格
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RF400mm F2.8 L IS USM
◉発売=2021年7月 ◉価格=オープン価格
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