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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 今年撮りたい芳賀日向オススメの夏祭り

写真・文:芳賀日向/編集:合同会社PCT

祭りのエキスパートが、場所取りから撮影ワザまでを大公開!

祭りを追い求めて、日本各地を縦横無尽に駆け巡る芳賀日向さん。今回は数ある中から厳選した祭りを取り上げ、その魅力と撮影のポイントについて語っていただきます。間もなく迎える夏祭りの本番に備えて、しっかりとポイントを押さえて撮影に臨みましょう!

芳賀 日向(はが・ひなた)
長野県軽井沢に生まれる。祭り写真家。米国西イリノイ州立大学文化人類学科卒業。メキシコのマヤ族の祭りを見てから、祭り写真撮影を専門とする。海外49カ国の祭りを撮影後、日本の祭りを撮り始めて35年になる。テーマは「祭りの心」を写す。写真展「世界のカーニバル」、「被災地の夏祭り」(銀座キヤノン)、監修「日本全国祭り図鑑」(フレーベル館)など。(公社)日本写真家協会・監事、NPO日本の祭りネットワーク理事。
日本の祭りフォトムービー(チーム:芳賀日向)

はじめに

自粛されていた祭りがいよいよ復活し、盛大な夏祭りの季節が来る。日本全国が一番熱気にあふれる季節だ。今回はとっておきの「絶景」が撮れる夏の祭りと、その撮り方をご紹介していこう。

熊野那智大社「那智の扇祭り」[和歌山県那智勝浦町/7月14日開催]

私が最も好きな夏祭りのひとつで、何度通ったか記憶にないほど惹かれた。熊野古道にある神社は風景も素晴らしく、火祭りが勇壮だ。那智の滝は一段の落差が133メートルと日本一の名瀑であり、お滝自体がご神体となっている。

熊野古道にたたずむ熊野那智大社と那智の滝。古代へのロマンを感じる。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark IV・EF70-200mm F4L IS USM・106mmで撮影・絞りF10・1/50秒・ISO200・WBオート

言い伝えによると古代に那智のお滝本に12柱の神様が降りてこられ、神様はお滝本の飛瀧(ひろう)神社に祀られた。317年に那智山の中腹に熊野那智大社が建立され、12神が遷(うつ)られた。熊野那智大社例大祭「那智の扇祭り」はこの12神が年に一度、お滝本にお里帰りする。12の滝を模した形をした扇神輿に遷された神様の行く参道を清めるのは、1本が50kgを越える12本の大松明。豊作を願い、神様のお里帰りを祝う盛大な火祭りとなる。

撮影の第1ポイントは午後2時から始まる「御火行事」で、参道を清める大松明と背後の赤い扇神輿が一緒に写る場面である。木が生い茂る薄暗い参道で、松明をもつ白装束の男たちの表情の明るさ、炎の露出、奥の背景の露出をマニュアルで合わせることの難度が高い。とてもプログラムオートなどで対応できる場面ではなく、露出が明る過ぎると炎が真っ白くなってしまい、立体感がなくなる。

参道を清める12本の大松明。背後には12柱の神様が遷られた赤い扇神輿が見える。ここから炎の乱舞が始まる。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark IV・EF24-105mm F4L IS II USM・70mmで撮影・絞りF7.1・1/250秒・ISO1250・WBマニュアル

御火行事は参道中腹より、徐々に松明が降りてくる。できるだけ早く、炎と人物の露出を液晶画面を見ながら調整することが必要になる。炎の露出が飛ばず、人が少し暗くなるくらいが良い。写真は後処理で明るすぎたものは暗くはできないものの、-2EVくらい露出が暗い部分はマスキングで明るさを戻せるので、撮影時には炎の露出の調子を合わせて、周りが少し暗く描写されるように心掛けたい。

ごうごうと音を立てて燃える大松明。その年の湿気によって燃え方が違う。火を沈めるために口から水をプーッと吹く。こんなに近くまで寄って撮ることができる。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark IV・EF70-200mm F4L IS USM+EXTENDER EF1.4・118mmで撮影・絞りF7.1・1/320秒・ISO2500・WBマニュアル

第2ポイントは大松明、扇神輿がお滝本に降りると、扇神輿が並んだ前でお滝に向かって氏子たちが御田刈式・那瀑舞を奉納するところだ。特に那瀑舞の日の丸の扇を差し上げて、お滝を拝む場面は絵になる。

氏子たちが那智の滝を拝んで舞う「那瀑舞」が、祭りの最後となる。神様たちの年一度の里帰りが終わる。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark IV・EF70-200mm F4L IS USM・70mmで撮影・絞りF8・1/320秒・ISO3200・WBオート

撮影は場所取りがとても大切で、滝に向かって参道の左側の石垣の上が無料の特等席といえる。できるだけ参道の下の方に場所を構えれば、松明の写真が長い時間撮れる。付近には民間の有料駐車場がいくつもあり、当日は朝8時前までに場所を取るようにしたい。場所を確保したらトイレ以外には場所を離れてはいけないというルールがあるので注意しよう。午後2時まではかなり長い時間となるが、場所を取れば必ず撮れるのでここは我慢のしどころだ。

もうひとつお勧めの場所は、お滝に近い境内の無料のスペースの最前列である。ここでは大松明がお滝本の鳥居を焦がしながら入ってくる場面や、参道から降りてきた扇神輿を1本ずつ神職が褒める「扇褒め神事」を目の前で撮影することができる。

美国神社「天狗の火渡り」

[北海道積丹町/7月4日~6日開催(天狗の火渡りは5日と6日開催)]

祭りでの炎の撮影に夢中になり、試行錯誤の結果、3年掛かってやっとそのテクニックを体得することができた。炎は燃やす素材によって色も勢いも違い、天候によっても左右される。いかにその祭りの雰囲気を炎で表現するかがすべてだった。

その中でも私の最終の試練となったのが「天狗の火渡り」だ。美国神社の例大祭は天狗が主役である。日中は天狗と神輿の巡行となり、このときは天狗様に敬意を払って迎えなければならない。天狗様より高いところから見ている者や洗濯物が出ている家を鋭く見つけ扇子で指すと、お付きの人間が走ってお清めの塩をかけに行く。私の知人は天狗様の写真を正面から撮ったので、彼の眼の前でお付きの者が棒で大きな×印を作り、塩をたっぷり振りかけられたことがある。

祭りの主役となる天狗。道案内の神であり、元の姿は古代の神「猿田彦命」ともいわれる。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark IV・EF24-105mm F4L IS II USM・41mmで撮影・絞りF10・1/200秒・ISO800・WBオート

夜になると美国神社の境内にはいくつものオガクズの山ができる。この祭りのために地元の製材所がオガクズを用意してくれている。そして午後7時からは、この祭りの最大の見どころである「火渡り」が始まり、最初は炎の周りを数回まわって炎の調子を見る。オガクズが足されて一段と炎が大きくなると、あっという間に炎の中をくぐり抜けていく。これは3回行われるが天狗と炎の関係上、異様な世界をバッチリと写せるシャッターチャンスはほぼ神頼みだ。

湿り気、風などによりオガクズの燃え方はまったく違う。形の良い炎の中から天狗が現れることを願う。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark IV・EF70-200mm F4L IS USM・160mmで撮影・絞りF7.1・1/400秒・ISO400・WBオート

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark IV・EF70-200mm F4L IS USM・135mmで撮影・絞りF8・1/400秒・ISO400・WBオート

祭りの最後は若衆が燃え盛る炎の中を神輿を担いで渡る。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark IV・EF24-105mm F4L IS II USM・24mmで撮影・絞りF6.3・1/400秒・ISO800・WBマニュアル

オガクズが燃えるのは早く、炎の変化も大きい。この場面では、1/500秒くらいの速いシャッター速度で炎をきっちりと止めたい。観客も多くはないので、場所取りも1時間前で充分だろう。この祭りを毎年撮っているカメラマンが何人もいるので、その近くが良い撮影ポイントといえる。余談になるが祭りが行われる頃、この辺りではウニ漁が解禁となり、美味しいウニ丼が本土の1/3の値段で食べられるので、ぜひ味わってほしい。

「相馬野馬追」

[福島県相馬市・南相馬市/7月最終土日月曜開催]

相馬市相馬中村神社より出陣する総大将。祭りの始まりだ。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark III・EF70-200mm F4 IS USM・106mmで撮影・絞りf10・1/500秒・ISO400・WBオート

2011年3月に甚大な被害をもたらした東日本大震災。その中でも、地震、津波、原発事故と三重の被害を受けた南相馬市周辺。災害からの復興を祈願して、その年の夏に「相馬野馬追」が開催された。ハイライトとなる甲冑競馬が行われる雲雀ヶ原祭場地は避難地に指定されたため中止となったが、最終日に行われる「野馬懸神事」は原発事故現場よりわずか20数キロ離れた多珂(たか)神社で行われた。その翌年、400騎以上もの騎馬武者が集まり、観客の大歓声の中で完全復活した姿には思わず涙が出た。

相馬野馬追は平将門が野馬を放ち捕まえる軍事訓練に起因する、一千有余年の歴史を持つ祭りだ。祭りのハイライトは、日曜日に雲雀ヶ原祭場地で行われる甲冑(甲冑)競馬と神旗争奪戦である。昼の12時から始まる競馬は甲冑姿の騎馬武者による、6頭~10頭立てのレースが10回ほど行われる。

雲雀ヶ原祭場地での甲冑競馬。第1コーナーを通過する。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark III・EF70-200mm F4L IS USM・138mmで撮影・絞りF11・1/500秒・ISO400・WBオート

馬が疾走する迫力ある場面を撮るのであれば、第1コーナー外側付近だろう。それより後ろになると、騎馬の集団がバラけてくる。朝7時に開場になるので入場券を買い、第1コーナーに脚立や三脚を立てる。日中は暑いので日傘が必須だ。

第1コーナーでうまく撮れたら、次の13時から始まる「神旗争奪戦」の撮影のために、本陣山に続く観覧席へと坂を登る。観覧席は祭場に向かって右半分から中央あたりが、背景の地面が芝生なので騎馬武者が映える。花火で十数発打ち上げられたご神旗を、騎馬が争奪する場面は圧巻だ。

観覧席から撮影する場合は、300mm~500mmの望遠レンズを準備しておきたい。神旗が落ちてくるところは風任せなので、どこに行くかわからない。神旗と馬と争奪する騎手の表情がうまく撮れれば、成功といえる。

第2コーナーから背景の大観衆をボカして、騎馬武者が浮き出すように撮影した。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark III・EF500mm F4L IS USM・絞りF6.3・1/500秒・ISO160・WBオート

観覧席から撮影した神旗争奪戦。赤と黄色のご神旗を騎馬武者が奪い合う。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark III・EF500mm F4L IS USM・絞りF10・1/1000秒・ISO400・WBオート

「五所川原立佞武多(たちねぷた)」

[青森県五所川原市/8月4日~8日開催]

日本の夏祭りの一番人気は、青森市の「青森ねぶた祭」だろう。しかし、撮影するとなると規制が厳しく、有料の席も購入しなければならない。一方、お隣の五所川原市の立佞武多は、観覧の規制も緩く存分に写真を撮ることができる。立佞武多の高さも25mあり、実際に動いているところを見ると感動を与えてくれるほど立派な灯籠だ。

祭りが開催されるのは午後7時からなので、現地に早めに着いて「立佞武多の館」を見学することをお勧めしたい。実際の立佞武多が展示されていて、いろいろなことを学べる。私が一番関心を持ったのは、立佞武多が風速15mにも耐えられるほど頑丈だということだった。

立佞武多を撮るならば、ぜひ立佞武多が出動する地点から撮ってほしい。なんと「立佞武多の館」の一部が開き、中からビル7階の高さに相当する立佞武多が登場するのだ。ガンダムチックなこのメカニズムには圧倒されてしまうこと請け合いだろう。

「立佞武多の館」の一部が開き、立佞武多が登場した。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark IV・EF17-40mm F4L USM・20mmで撮影・絞りF10・1/125秒・ISO800・WBオート

撮影をする時には、「立佞武多の館」の反対側の歩行者道路に1時間前に並んでおきたい。太陽が完全に沈むまでの空が紫から青くなるまでの間の背景と、色華やかな立佞武多のコントラストが美しい。

夕方の群青色の空に映える立佞武多。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark IV・EF24-105mm F4L IS USM・58mmで撮影・絞りF16・1/20秒・ISO800・WBマニュアル

露光間ズームにより、立佞武多の目を強調して撮影。

【撮影データ】キヤノンEOS 5D Mark IV・EF24-105mm F4L IS USM・97mmで撮影・絞りF11・1/15秒・ISO800・WBマニュアル

ひとつ注意したいのは五所川原周辺のホテルは少なく、ホテル予約開始日にすぐ埋まってしまうことだ。お隣の青森市でも祭りの最中で、ホテルの予約が取りづらい。中には普段の5倍以上の値段になってしまうところもあるので、前もってしっかりと計画を立てるか、祭りの直前に出るキャンセルを当てにして、もし予約が取れたら撮影に行くといったスタイルがいいだろう。

私も今夏は各地の夏祭りの予定を入れている。どこかでお会いできたら、ぜひお声がけください。

★写真撮影用

(左から)
レンズクロス(ETSUMI)
レンズクリーナー(堀内カラー)

キヤノンEOS R5+キヤノンRF14-35mm F4 L IS USM
キヤノンEOS R5+キヤノンRF24-105mm F4 L IS USM
キヤノンRF70-200mm F4 L IS USM
スピードライト 600EX-RT

メディア
(左から)
CFexpress Type B(ProGrade Digital)×2
SD UHS-II カード(ProGrade Digital)×2

★写真&動画撮影用(写真撮影と動画撮影を兼ねる場合)

(左から)
レンズクロス(ETSUMI)
レンズクリーナー(堀内カラー)

動画用5K小型カメラ:GoPro HERO 11
キヤノンEOS R5+キヤノンRF14-35mm F4 L IS USM
キヤノンEOS R5+キヤノンRF24-105mm F4 L IS USM
クリップオン動画用マイク(SENNHEISER MKE 400) 
キヤノンRF70-200mm F4 L IS USM
スピードライト 600EX-RT

メディア
(左から)
CFexpress Type B(ProGrade Digital)×2
SD UHS-II カード(ProGrade Digital)×2

今回のカメラ・レンズ

キヤノンEOS 5D Mark Ⅲ
◉発売=2012年3月22日 ◉価格=オープンプライス

キヤノンEOS 5D Mark Ⅳ
◉発売=2016年9月8日 ◉価格=オープンプライス

EF17-40mm F4L USM
◉発売=2003年5月下旬 ◉価格=120,000円(発売時)

EF24-105mm F4L IS USM
◉発売=2005年9月28日 ◉価格=159,500円(発売時)

EF24-105mm F4L IS II USM
◉発売=2016年11月3日
◉価格=オープンプライス(実売168,300円・税込)
詳しくはこちら

EF70-200mm F4L IS USM
◉発売=2006年11月23日 ◉価格=173,800円(発売時)

EF500mm F4L IS USM
◉発売=1999年7月 ◉価格=980,000円 (発売時)

キヤノンEOS R5
◉発売日=2020年7月30日 ◉価格=514,800円(税込)
詳しくはこちら

RF14-35mm F4 L IS USM
◉発売日=2021年9月30日 ◉価格=212,850円(税込)
詳しくはこちら

RF24-105mm F4 L IS USM
◉発売日=2018年10月25日 ◉価格=166,320円(税込)
詳しくはこちら

RF70-200mm F4 L IS USM
◉発売日=2021年3月10日 ◉価格=212,850円(税込)
詳しくはこちら

スピードライト 600EX-RT
◉発売日=2012年3月 ◉価格=68,250円(発売時)