カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! ニッコールZレンズのススメ!
写真・文:上田晃司/編集:合同会社PCT
ヘビーユーザーの上田晃司が推す4本のZレンズ
超望遠レンズを除き、ニコンのほとんどのZレンズを所有する上田晃司さん。Zマウントになって設計の自由度が広がり、さまざまなタイプの高性能レンズがラインナップされています。その中から今回は特にオススメの4本のレンズを取り上げていただき、作例を交えながらZレンズの魅力に迫っていきます。
- 上田晃司(うえだ・こうじ)
- フォトグラファー/映像作家。米国サンフランシスコに留学し,写真と映像を学び,CMやドキュメンタリーを撮影。 帰国後,写真家塙真一氏のアシスタントを経て,フォトグラファー,映像作家として活動開始。新しい技術をいち早く取り入れ,写真や映像表現に活かしている。2014年頃からはドローンを取り入れた撮影も行っている。 現在は,雑誌,広告を中心に,ライフワークとして世界中の街や風景を撮影。講演や執筆活動も行っている。YouTubeチャンネル「写真家夫婦 上田家」でカメラや旅について情報を発信中。ニコンカレッジ講師、LUMIXアカデミー講師、Hasselbladアンバサダー2015、プロフォトトレーナー。
目次
はじめに
2018年にNikon Zシリーズが発表されてから約5年が経ち、レンズラインナップも大幅に充実してきた。発売当初は標準ズームのNIKKOR Z 24-70mm f/4 SとNIKKOR Z 35mm f/1.8 Sの2本のみのラインナップだったが、現在では超広角から超望遠までの33本とテレコンバーター2本といった具合に拡充されている。
筆者はZ 7が発売されてからずっとZシリーズを愛用する、ヘビーZシステムユーザーだ。超望遠を除けばほとんどのレンズを所有し、仕事から作品撮りまで幅広く使っている。今回はそれらのレンズの中から、お気に入りのレンズを4本選択したのでご紹介していきたい。
Zマウントは長く続いたFマウントと比べると大きな変化を遂げている。まずはマウントサイズとフランジバックだ。Fマウントはマウント径が44mm、フランジバックが46.5mmになっていて、Zマウントと比べるとマウントが小さくフランジバックが長い。そのため、超広角レンズなどはサイズが大きくなり重量もかなり重かった。画質においても一部のレンズでは、画面周辺部で甘い製品があったのも否めない。
一方、Zマウントは55mmと巨大なマウント径になり、フランジバックは驚きの20mmを実現し、他社のミラーレスマウントと比べてもかなり短いことがわかる。その結果、レンズ設計に自由度が生まれ、広角でも望遠でも驚くほど描写力の高いレンズになっている。Zレンズはどれも性能は高いが、Sラインシリーズと非Sラインシリーズの2種類に分けられる。
最高の画質と性能を得られるSラインレンズは高価なレンズを使用し、レンズコーティングにも抜かりがない。線は細く解像感もかなり高い印象だ。非SラインレンズはSラインレンズと比べると少し性能が落ちるところはあるが、それでも描写のレベルは高く、Fマウント時代の描写と比べるとかなり優れている。もちろんコーティングなどはSラインレンズとは異なるものの、コストパフォーマンスがよく使い勝手の良いレンズが多い。
8.3倍の高倍率ズームレンズが従来の概念を覆す!
まず1本目は高倍率ズームのイメージを覆してくれた万能レンズ、NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VRを取り上げたい。筆者はこれまで高倍率ズームは使用していなかった。その理由は画質で、高倍率ズームは一本で幅広い画角をカバーできる反面、画質は犠牲になることが多かった。
正直な話をいえば、本レンズが登場した際にもあまり興味はなかった。しかし、仕事でこのレンズを使ってみたところ、描写力の高さに驚かされた。非Sラインのレンズにもかかわらず、レンズには色収差をしっかり補正するEDレンズを2枚、ED非球面レンズ1枚、非球面レンズ2枚を採用する贅沢なレンズ構成となっている。
尾道を訪れた際に貨物列車が通過するシーンを撮影した。AF速度も早く、迫ってくる貨物列車をしっかりと捉えられた。ピント面を見てもわかるように収差はほとんどなく、超高倍率ズームレンズとは思えないほどシャープに描写されている。
【撮影データ】ニコン Z 6II・NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR・A(絞り優先)モード・絞りF6.3・1/1250秒・-0.3EV補正・ISO400・WB自然光オート
広角側37mmの画角で桟橋と海を撮影。水平線を見ても歪曲収差はほぼ感じられず、真っ直ぐ写っている。
【撮影データ】ニコン Z 5・NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR・A(絞り優先)モード・絞りF8・1/500秒・+0.7EV補正・ISO100・WB晴天
コーティングはレンズ正面から入る光に強いアルネオコートを、レンズ最前面にはフッ素コーティングが施されていて汚れにも強い。約8.3倍の幅広い画角がカバーできるうえに最短撮影距離は広角端で0.5m、望遠端で0.7mと近接撮影も可能で、最大撮影倍率は0.28倍と一本でさまざまな被写体をカバーできるので便利だ。旅行などの荷物が限られるようなシーンでは、特に威力を発揮してくれる。これからの旅行シーズンや山歩き用のレンズ選択に悩んでいる方には、本レンズをオススメしたい。
アジサイにアマガエルが止まっているシーンを望遠端の最短撮影距離付近で写した。アジサイの前ボケも美しく、近接撮影にもかかわらずとてもシャープに描写できた。
【撮影データ】ニコン Z 7・NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR・A(絞り優先)モード・絞りF6.3・1/640秒・ISO100・WB晴天
フルサイズ機でもAPS-C機でも使いやすい超軽量コンパクトレンズ
2本目のレンズは、発売されたばかりのNIKKOR Z 26mm f/2.8を紹介しよう。このレンズは筆者待望の一本である。Zシリーズのレンズは画質重視の製品が多いため、単焦点レンズでも少し大きめのものが多い。そのため、筆者は薄いパンケーキレンズの登場を心待ちにしていた。
これまでもNIKKOR Z 28mm f/2.8のようなコンパクトなレンズはあったが、装着した時にZ 6IIやZ 7IIのグリップよりも短いレンズを待ち焦がれていたところ、ついに発売となったのである。全長は23.5mmで、質量は125gと超軽量だ。FXフォーマット機では広角レンズとして使えて、Z fcなどのDX機では39mm相当の標準域のレンズとして使用できるので、どのカメラと組み合わせても使いやすい。
香港のビル群を撮影した。24mmのレンズと比べると画角は若干狭くなるものの、それでもダイナミックに広角感を表現することができた。描写力も高く、画面周辺部までしっかりと解像している。
【撮影データ】ニコン Z 6II・NIKKOR Z 26mm f/2.8・A(絞り優先)モード・絞りF8・1/400秒・ISO100・WB自然光オート
薄さを重視しているため、IF(インナーフォーカス)ではなく全体繰り出し方式を採用しており、ピントを合わせると内部のレンズが繰り出す。繰り出しが気になる場合は、付属のレンズフードを使うと厚みは増すものの目立たなくなる。AF速度は何の問題なく、近接から遠景に切り替えた時などピントの移動量が大きい時には他のレンズに比べてやや遅いように感じるかもしれないが、コンパクトさを考えると充分に許容できる。
最短撮影距離付近でブーゲンビリアを写す。できるだけ花に近づいて撮影し、背景が入るように構図を調整した。開放絞りのF2.8で撮影しているため、背景も大きくボケた。
【撮影データ】ニコン Z 6II・NIKKOR Z 26mm f/2.8・A(絞り優先)モード・絞りF2.8・1/1600秒・ISO100・WBオート
描写に関しては、絞り開放でヴィネッティングにより少し画面周辺部が光量落ちするものの、それがとても味わい深く感じられて個人的には好印象だ。ちなみに2段ほど絞ると、ヴィネッティングが目立たなくなりとてもクリアな描写になる。本レンズは非Sシリーズの製品でありながらも、この小さなレンズからは想像できないほどシャープで細部までしっかりと解像してくれる。
F2.8のレンズの魅力は、明るいF値により暗いシーンでも早いシャッター速度を確保できて、ISO感度をそれほど上げずに撮影できることだ。文字のディテールなどもしっかりと表現できて、街灯によるゴーストやフレアの発生は最小限に抑えられている。
【撮影データ】ニコン Z 6II・NIKKOR Z 26mm f/2.8・A(絞り優先)モード・絞りF2.8・1/6秒・ISO400・WB自然光オート
お店の街灯を撮影。近接撮影でも画角が広いので、背景も広く入れられる。背景のボケや丸ボケが美しい。
【撮影データ】ニコン Z 6II・NIKKOR Z 26mm f/2.8・A(絞り優先)モード・絞りF2.8・1/125秒・+1.3EV補正・ISO1600・WB自然光オート
線も細く、特にカッチリとした描写が好きなユーザーや、コンパクトさと描写を両立したい方にはぜひ使ってほしい一本だ。ちなみにレンズキャップは被せ式を採用している。
逆光でも描写力の高さは折り紙つき! 持っておきたい万能型ズームレンズ
3本目のNIKKOR Z 24-120mm f/4 Sは、万能で最高の描写を得たいユーザーにオススメの一本。広角24mmスタートのズームレンズを多く所有している中で、個人的に最も使用頻度の高いのがこのレンズで、主に都市風景や自然風景を撮影する際に使っている。24-70mmも便利だが、望遠端が120mmになると撮影の幅がグッと広がる。
都市風景など画角の微調整をしたいシーンで本レンズはとても便利だ。焦点距離54mmで横浜みなとみらいのマジックアワーの風景を撮影した。遠景のビルの細かな窓や輪郭までしっかりと描写している。
【撮影データ】ニコン Z 9・NIKKOR Z 24-120mm f/4 S・A(絞り優先)モード・絞りF8・1/3秒・ISO400・WB晴天
このレンズは、Sラインということもあり描写力は驚くほど高い。Fマウントでも同じスペックのレンズがあったが、描写力の高さは比較にならないほど優れている。レンズは13群16枚でEDレンズ3枚、ED非球面レンズ1枚、非球面レンズ3枚で構成されており、ナノクリスタルコートやアルネオコート、さらに最前面のレンズ面には汚れに強いフッ素コートが施されて逆光に強く、高コントラストな描写が得られる。
ナノクリスタルコートとアルネオコートの採用により、強い光が当たる逆光時でも充分なコントラストが得られる。このような場面でも解像感は高く、ディテールもしっかりと再現してくれる。
【撮影データ】ニコン Z 9・NIKKOR Z 24-120mm f/4 S・A(絞り優先)モード・絞りF5・1/400秒・ISO64・WB自然光オート
開放F値はズーム全域でF4通しと使い勝手がよく、最短撮影距離もズーム全域で0.35mを実現し、最大撮影倍率は0.39倍と万能に使える。絞り羽根も9枚になっていて丸ボケも得られ、被写体との距離や背景との距離にもよるが、FX機と組み合わせると適度にボケを活かすこともできる。もちろん大口径タイプの単焦点レンズのようなボケは得られないものの、望遠端で撮影することで背景などを大きくボカすことは可能だ。風景やスナップなど幅広く使えて近接撮影にも強く、特に高い画質を求めているユーザーにはぜひ使ってほしい。
48mmで撮影。絞り開放での撮影にもかかわらず、ピントを合わせた部分の解像感の高さには驚かされる。彫刻のディテールまでしっかりと表現できているのが確認できる。適度なボケ感も得られて、とても使いやすいレンズだ。
【撮影データ】ニコン Z 9・NIKKOR Z 24-120mm f/4 S・A(絞り優先)モード・絞りF4・1/200秒・ISO64・WB自然光オート
見たことのない世界を表現できる至高の一本
4本目は、筆者が「神レンズ」と位置づけるNIKKOR Z 85mm f/1.2 Sを取り上げよう。単焦点のF1.2シリーズは「神レンズシリーズ」で、描写やボケ感は他のレンズを凌駕している。その反面、サイズや重量についてはシンプルに「大きく重い」レンズといえる。とにかく画質重視というユーザー向けの製品が、このF1.2シリーズになる。
NIKKOR Z 85mm f/1.2 Sは発売されたばかりで、製品に関する情報もまだ少ない。一般的に85mmのレンズはポートレートレンズといわれており、本レンズもポートレート撮影にはもってこいのレンズだ。驚くほど浅い被写界深度により、前景や背景が大きくボケる画像は他に類を見ないほど美しく、被写体が際立って立体感が感じられる。
一方で、85mmという焦点距離のレンズはストリートフォトグラフィーや花、ペット、風景などを撮影する時にも使い勝手に優れている。筆者の専門であるストリートフォトグラフィーでも、このレンズは驚くほどの結果を残してくれた。極めて浅い被写界深度により街中から被写体を際立ててくれて、見たことのない世界を表現できる。
ベネチアのブラーノ島で出会ったクロネコが可愛かったのでカメラを向けた。絞り開放で撮影すると、ネコの背景も大きくボカすことができた。とろけるようなボケは品があり美しい。ピント位置のシャープさも、85mmのF1.2クラスらしいものだ。
【撮影データ】ニコン Z 9・NIKKOR Z 85mm f/1.2 S・A(絞り優先)モード・絞りF1.2・1/640秒・+0.3EV補正・ISO64・WB曇天
レンズ構成は10群15枚でEDレンズ1枚、非球面レンズ2枚が採用されていて、ナノクリスタルコートも施されている。逆光性能も高く、絞り開放から驚くほどキレの良い画質が得られ、少し絞ると画面周辺までさらに線が細くなり立体感のある描写を楽しめる。レンズ駆動にはSTMモーター2個を搭載したマルチフォーカス方式を採用している。近接から遠景まで高い描写を得られるのが本レンズの魅力だろう。
古い扉が印象的だったのでカメラを向ける。質感をしっかり出したいと思ったのでF4まで絞り込んだ。写真を拡大してみると、扉の木のディテールがしっかりと再現されていた。
【撮影データ】ニコン Z 9・NIKKOR Z 85mm f/1.2 S・A(絞り優先)モード・絞りF4・1/20秒・-0.7EV補正・ISO64・WB晴天
今回はトータルで4本のレンズをご紹介したが、ZレンズはSライン・非Sラインシリーズでも充分な画質を堪能できることがわかっていただけたのではないだろうか。Zシリーズをお使いのユーザーは、作品をワンランクアップさせるために拘りのある描写のレンズを選び、まだZユーザーではない方はぜひZレンズレンズを使って、ご自身の作品のクオリティを上げていただきたいと思う。
今回のカメラ・レンズ
ニコン Z 6II ◉発売=2020年11月6日 ◉価格=オープンプライス(実売176,000円・税込) 詳しくはこちら
ニコン Z 5 ◉発売=2020年8月28日 ◉価格=オープンプライス(実売164,340円・税込) 詳しくはこちら
ニコン Z 7 ◉発売=2018年9月28日 ◉価格=オープンプライス(実売228,000円・税込)
ニコン Z 9 ◉発売=2021年12月24日 ◉価格=オープンプライス(実売694,980円・税込) 詳しくはこちら
NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR ◉発売=2020年7月3日 ◉価格=112,860円(税込) 詳しくはこちら
NIKKOR Z 26mm f/2.8 ◉発売=2023年3月3日 ◉価格 : 65,340円(税込) 詳しくはこちら
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S ◉発売=2022年1月28日 ◉価格 : 138,600円(税込) 詳しくはこちら
NIKKOR Z 85mm f/1.2 S ◉発売=2023年3月24日 ◉価格 : 364,320円(税込) 詳しくはこちら