カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! フォトグラファー渡部さとる× SONY(ソニー) VLOGCAM ZV-E1レビュー
写真・文:渡部さとる/編集:合同会社PCT
SONY 「ZV-E1」は誰のためのカメラなのか?
Vlog(ブイログ)など動画撮影に特化したVLOGCAMシリーズの最上位機種として、ソニーから発売されたVlogカメラ「ZV-E1」。レンズ交換式の小型軽量で、Vlog機としては初のフルサイズイメージセンサー搭載で注目度も高い。今回、YouTube「2B Channel」でも知られる、写真家の渡部さとるさんに「ZV-E1」を使っていただき、動画と写真の撮り下ろしと共に、さっそくレビューしてもらった。
- 渡部さとる
- 1961年山形県米沢市生まれ。1984年日本大学芸術学部写真学科卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。同社退職後、フリーランスとなり、これまでに写真集6冊、書籍を5冊出版。近著に『da.da』(松本広域連合)、『じゃない写真』(梓出版社)、『撮る力 見る力』(ホビージャパン)などがある。2019年よりYouTube上に「2B Channel」を開設。作家インタビューや写真集の解説動画をアップしている。
- Youtube:2Bチャンネル
目次
はじめに
YouTubeを初めて4年が経とうとしている。最近では、写真を撮るよりもはるかに動画を撮ることの方が多い。まさか自分が動画を撮るようになるなんて、夢にも思わなかった。
忘れもしない2013年、友人のカメラマン6人と会った時のことだ。その中の4人はすでに収入の大半が動画撮影になっていると話していた。そして彼らは、「もう大きなビデオカメラなんていらないんだよ、パナソニックから出たGH3があればフルHDのハイクオリテいな動画が撮れるんだから」と言っていた。動画の世界は、すでに10年前から「よいカメラさえあれば、それまでの職人技がなくても誰でも手軽に撮れる時代へと変わっていたのだ。
それでも僕にとって動画は面倒くさい。設定も謎すぎた。ファイル形式も「10ビット4:2:2」とか、オールイントラとかロングゴップとか、Lutって何だよ。知らない用語ばかりだ。しかも撮影の後には、しかるべき編集ソフトを使って色調をコントロールしなくてはならない。40年も仕事で写真をやっているのに、僕にとって動画は未知のものすぎた。
SONY(ソニー) VLOGCAM ZV-E1。
思いがけず使いやすかったのがキットズームとして販売されているFE 28-60mm F4-5.6。開放F値が暗いが、軽い。わずか167グラム。ボディキャップレンズと言っても差し支えないほど。旅行に1本だけ持っていくならこれでいいと思う。
フルサイズ初のVlog機「ZV-E1」とは?
さて、今回のカメラはソニーの最新Vlog機「ZV-E1」だ。ソニーによると「Vlog」とは「Video blog」の略で、平たく言うと、「自分の好きなことを文章で表現する一般的なブログの動画版」だそうだ。文字で日常を書くブログのように、動画を使って発信しようというもの。まずここで、Vlog機と謳って発売しているということは「手軽に動画が撮れますよ」ということだ。
僕はZVシリーズとしてコンパクトシリーズの「ZV-1」と「ZV-1F」の両機種を使っている。「手軽で使いやすい」という宣伝文句に惹かれてしまったのだ。しかしセンサーが1型CMOSと小さいため、画質はそれなり。ZVシリーズには、そのほかにAPS-Cセンサー搭載の「ZV E-10」もあるが、今回発売の「ZV-E1」は何とフルサイズセンサー搭載。よく収めたなというくらいのボディサイズだが、そのスペックには驚くべきものがある。
コンパクトなボディにα7S Ⅲ譲りの約1210万画素フルサイズセンサーを搭載している。ボディカラーはホワイトとブラックから選べる。
まずベースになっているのが、ミラーレス機の中で最も動画性能がいいとされている「α7S Ⅲ」なのだ。そのスペックをそのまま引き継ぎ、さらにそこに「α7S Ⅲ」にはない高性能のAIトラッキングフォーカスが内蔵されている。これは「α7R Ⅴ」に搭載されているもので、人物だけではなく、鳥や虫や飛行機、電車もAI認識によってAFを追従してくれる。
音の良さは間違いなし。「ZV-E1」の極小セットで動画撮影ができてしまう
最初に「ZV-E1」を手にした感想は「なんじゃこりゃ、軽いぞ」だった。バッテリーとSDカードなしの状態のボディ重量は399グラム。小さなボディに最新のスペックを詰め込めるだけ詰め込んだカメラだ。
このカメラ、誰がターゲットかというと、まさに僕のような難しい設定なしで簡単にハイクオリティの動画を撮りたい人向け。動画撮影でまず問題になるのがAF。動画撮影中にピントを見失うのが最もストレスになる。現行機種で最高性能を誇るAFが内蔵されているというだけで大きな魅力となる。
電源スイッチとズームレバーが上面のシャッターボタン周りに集められたレイアウトになっている。このレバーは電動ズームとデジタルズームに対応していて動画撮影ではかなり使いやすい。
そして動画は音がとても重要になる。YouTubeを始めて4年近く経つと言ったけど、その間に買ったマイクの数は両手では足りない。僕の動画の歴史はそのままマイク選びの歴史そのもの。「ZV-1」を買ったのも、内蔵マイクの性能がいいと聞いたから。確かに噂通りで、なんの設定もいらずに音がクリアに取れるので、外での撮影では外部マイクなしで収録することもよくある。
ソニーは音響メーカーでもあるので、やはり音作りは他社よりも抜きん出ている。そのソニーの最新機種なのだから、音の良さは間違いない。しかもAIによって前後左右の音源に合わせて自動で指向性を変えてくれる機能が新たに追加されている。これでマイク問題はほぼほぼクリアされたといってもいい。カメラとレンズだけという極小のセットで動画撮影ができてしまう。
さらに、すでに定評のあるソニーのアクティブ手ぶれ補正も進化し、電子手ブレ補正に光学手ブレ補正が組み合わされたダイナミックアクティブモードも選ぶことができる。これでほぼほぼジンバルを使わずとも歩き動画が撮れることになる。ただしその場合のクロップ率は半端ない。「ZV-E1」は、光学+電子 の場合、焦点距離は約1.3倍になってしまう。キットズームのFE 28-60mm F4-5.6 (SEL2860)を使った場合、焦点距離は36-78mm相当になってしまい広角側では物足りなさを感じてしまうことになる。
自撮りを前提でVlogを撮影するなら、広角側は少なくとも20mmは欲しい。1.3倍のクロップ率を考えると、16mmになってしまう。となると「ZV-E1」に合う現行フルサイズ対応で広角レンズを選択した場合、レンズ重量を考えると選択肢は、FE PZ16-35mmF4Gしかない。他のレンズは重量があって、「ZV-E1」の小型軽量を損ねてしまう。最近発売されたばかりのFE20-70mm F4も小型軽量で候補のうちの1本となるが、もう少しワイド側が欲しいところ。
左のレンズがFE 28-60mm F4-5.6で、右がFE 35mm F1.8。キットズームに比ベレば少々大きいが、シネマティック動画撮影にはピッタリの画角になる。開放がF1.8と明るいため、ボケをいかした絵がつくりやすい。
超広角レンズの登場が待ち望まれる
実は「ZV-E1」で動画撮影をするのに一番の問題は、小型軽量の超広角レンズがないこと。ソニーはAPS-Cセンサー用に E11mmF1.8、E15mmF1.4。EPZ10-20mmF4、3機種の小型軽量広角レンズを供給していて、いずれも性能的にとても優れている。
おそらく今後、これに準じたフルサイズ用レンズが出てくることは間違いないだろう。シグマやタムロンといったサードパーティのレンズを使うという手もあるのだが、動画撮影に関してはソニー純正の方が手ぶれ補正やAFなどで優位性がある。それでもシグマから発売されたばかりの「17mm F4 DG DN Contemporary」は、まさにこのカメラのために開発されたんじゃないかというくらい。
キットズームセットと販売されるFE 28-60mm F4-5.6は 、単体で購入するより3万円近く割安があるので欲しいところだが、広角側の画角に不満がある方は、それと合わせてシグマの17mmを購入するのはどうだろう。
レンズさえ気にいるものが選べたら、「ZV-E1」は「ハイクオリティな動画撮影」を約束されたカメラだと言える。その分だけ上位機種のような細かな設定はついていないが、実際FX30を使っていても、全く機能していないから、むしろシンプルな構成はありがたいと言える。
さっそく自宅でVlog撮影、動画制作
僕は「ZV-1」と「ZV-1F」以外にも、ソニーのカメラとしてフルサイズのα74とAPS-C機のFX30を使っている。特にFX30はシネラインという位置付けで本格的な動画撮影が可能だ。そこに惹かれて購入したわけだが、本格的ということは自分で設定できる範囲が広いということだ。
左上がZV-1、右上がZV−1F 、左下がZV-E1、右下がFX30。コンパクトだと思っていたFX30がかなり大きく感じる。ZV-E1とFX30は操作性も別物と考えてもいい。業務撮影だけではなく、日常や旅に持って行くことを考えるとZV-E1のサイズは魅力的だ。
なのに、実はほとんどその機能を使っていない、というか使いこなせない。なんでもできるということは面倒くさいのだ。僕にとっては簡単に手軽にハイクオリティが望ましい。そして「ZVーE1」はAIのサポートによってそれを具現化したカメラになる。まずは「シネマチックVlog」モードにして、その中から好みの色調を選べば、もうそれ以上煩雑なことをしなくてもいいくらいだ。
このカメラボディ単体で33万円するようだ。だから趣味で使うというよりも目的がある人向け。それは個人商店や企業が自社制作動画に使うのにドンピシャ。仕上がりのクオリティを33万円で買うと思えば良い投資だと思う。良い機材は時間を節約してくれる。仕事においてはそれが一番大事。趣味であれば他の選択肢もあるだろうが、ビジネスで使いたいなら最強だと思う。
さっそく自宅でVlogを撮ってみることにした。タイトルは「5月の朝」。単焦点のSEL35mmF1.8を使い、設定はシネマティックモード。露出もすべてオート。この感じはフルサイズならではで、1型センサーのZV-1ではこんな風には写らない。
「ZV-E1」で写真を撮ってみる
さて、ここで動画ではなく静止画、つまり写真撮影について触れてみたい。
「ZV-E1」はVlog機であり、動画用だと説明してきたが、もちろん写真撮影にも対応している。しかしここで問題がひとつ。ファインダーがない。画像は背面の液晶モニターで確認することになる。写真撮影においてこれは辛い。どうしても覗きたくなる。しかしよくよく考えてみればiPhoneやリコーGRで撮影するときはそんなことを思わないから、慣れの問題なのかもしれない。
ZV-E1には電子ビューファイダーがない。背面の液晶は様々な情報が入るために少々わずらわしい。ただ、タッチスクリーンに対応しているためメニューの変更がダイレクトにできるのは便利。
最近はファインダーが付いていないカメラは珍しくはなくなっている。そこで「ZV-E1」とFE 28-60mm F4-5.6で写真を撮ってみることにした。小型軽量で「ZV-E1」のボディとのバランスがいい。センサーがα7S Ⅲ譲りということもあって、暗所性能は抜群にいい。というか市販モデルでは最高性能になる。
SONY ZV-E1・FE 28-60mm F4-5.6(35mm判換算60mmで撮影)・絞りF5.6・1/100秒・ISO3200
夜の新宿ゴールデン街をキットズームで撮ってみた。
SONY ZV-E1・FE 28-60mm F4-5.6(35mm判換算28mmで撮影)・絞りF5.6・1/100秒・ISO10000
昔から写真家たちが集うゴールデン街のバー「こどじ」。
SONY ZV-E1・FE 28-60mm F4-5.6(35mm判換算38mmで撮影)・絞りF5.6・1/60秒・ISO4000
絶妙のホワイトバランス。最近のソニーは、以前と比べてオートでもまったく問題なく色が出るようになった。
SONY ZV-E1・FE 28-60mm F4-5.6(35mm判換算28mmで撮影)・絞りF5.6・1/50秒・ISO8000
スツールの描写がすごい。まったくのノイズレス。
作例にあるように、新宿のゴールデン街がFE 28-60mm F4-5.6でも、なんなく撮ることができた。旅に持っていくなら、動画も静止画もこの1本だけで十分のような気がする。ただ、細部を見ていくと、FE 28-60mm F4-5.6の解像感はさほど高くない印象を受ける。有効画素も1210万と少ないから、余計にそう感じてしまうのかもしれない。
そこで解像感に定評のあるFE 35mm F1.8を使って撮ってみたところ、予想以上の写りをした。解像感は画素数よりもレンズ性能が大きく影響するということだ。
SONY ZV-E1・FE 35mm F1.8・絞りF1.8・1/80秒・ISO500
ZV-E1の有効画素は約1210万と現在市販されているミラーレス機ではかなり少ない。しかし解像度の高い単焦点レンズを使うことで十分な描写を得ることができる。
まとめ
結論、「ZV-E1」は①小型軽量なボディ、②AIサポートによって動画撮影の経験がなくても難しい設定なしに、ハイクオリティな結果が得られる。企業や個人経営で動画が必要なニーズには最適。もちろん個人で動画撮影のクオリティを上げたいと思っている人にも。その対価としてボディ価格が33万円になるわけ。確かに高いけど、コストパフォーマンスには優れている。こういったレビューを書いてしまうと自己催眠にかかってしまって、「ZV-E1」が気になってしょうがない。