カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! ポートレートフォトグラファー 魚住誠一 ✕ ポートレートフォト
写真・文:魚住誠一/編集:合同会社PCT
UOZUMI ストリートポートレート & more. 2023
女性ポートレートを中心に雑誌や広告で活躍中のフォトグラファー 魚住誠一さんによるポートレート撮影のハウツー記事をお届けします。今回は、魚住流撮影術の秘訣とその醍醐味を作品とともに解説していただこう。
- 魚住誠一(うおずみ・せいいち)
- 愛知県生まれ。名古屋学院大学商学部卒。高校1年の時に写真部に入るも、当時からバンド活動に興味があり夏休み後に写真部を退部。しかし、趣味で写真とは関わり、主にスナップとランドスケープを中心に楽しんでいた。27歳の時にバンドが崩壊し、途方に暮れ、趣味の写真で生活ができないか模索して、渡米。スタジオアシスタントを経て、30歳の時、地元愛知県で独立。渡米時に知り合ったカメラマンの影響でカラーネガプリントもその時に始める。32歳で活動の場を東京へ移す。その後、カメラ誌、ファッション誌、カルチャー誌、広告などでポートレートを発表。デジタルカメラ導入は早く、キヤノンEOS 30Dから。渋谷ルデコギャラリーで10年間、真夏に「ポートレート専科」を主催。同時に月刊カメラマンの表紙も担当。現在は多様化した写真表現を探りWeb「月刊デジタルファクトリー」でポートレート連載をはじめ、エンタメサイト「リアルサウンドテック」での記事執筆など幅広く活動。
目次
はじめに
はじめまして、写真家の魚住誠一です。
街中と普通の部屋で撮るポートレートについてここでは解説してみます。
ポートレート撮影というと何か特別の場所に行かなくてはならない。
とか、それなりの金額を出してスタジオを押さえなくてはならない。
といった感覚もあると思います。
しかし魚住が提案する2023年のスタイルは、普通の街中で撮る。どこにでもある公園で撮る、ということです。
全く難しいことは無いのです。
今回は東京でも昭和の雰囲気が残る高円寺で撮っています。
モデルの塩川莉世さんは、元転校少女のメンバー。
お洋服は、制服とカジュアルなデニムからワンピースとチョイス。
スタイリングをモデルさんに全部まかせてしますケースも多々ありますが、今回は撮影前に半日、お洋服を探しに行っています。
できるだけ今シーズンのおしゃれを取り入れたいと魚住は思います。
おしゃれについて苦手な方はモデルさんにもお洋服選びから参加してもらうとうまく行くと思います。
ヘアメイクは、自分らしさを優先するのであれば、さほど必要性を感じませんが、髪型などのアレンジでバリエーションが欲しいときはお願いしたいですね。
今回は魚住の昔からの仕事仲間の松岡奈央子さんにお願いしています。
撮影スタート!
撮影で集まったのが14時。
そこからお洋服を選んで、撮影の順番を決めてからヘアメイク開始。
ヘアメイクには60分から90分の時間を用意していますから、実際に1カット目が撮れたのは15時30分ぐらいからです。
①最初は引いたカットから撮る
今回は35mm F1.4レンズをチョイス。
街中を歩きながら見つけた場所で全身カットを、水平垂直を気にしながら撮る。頭の上を空けて35mmレンジならではのパースを利用してスタイルの良い1枚を。
絞りF1.8・1/125秒・ISO200・AWB・RAW
②公園に移動して日の丸構図で狙う
公園に移動してど真ん中にモデルを置くことにより、四隅の情景にもワンテンポ後に意識が行く。
何気ない手の動きが写真にスパイスを与えていると思います。
絞りF1.4開放・1/125秒・ISO200・AWB・RAW
③動きのあるカット
公園にあるブランコを使います。カメラのAFをAF-Cにして動体予測モードで連写します。全カットピントが来なくてもこれぞ!という1枚があれば良いんです。コツは根気よく何枚も撮ることです。声が聞こえてくるカットなら最高です。
絞りF2.2・1/125秒・ISO200・AWB・RAW
④住宅街を歩き、猫の目線で
公園を出て普通の住宅地を歩く。ここでは猫の目線で。バリアングルで地上20cmから撮る。常にファインダーを見て撮るスタイルからの脱却です。この手のカットも1枚あると新鮮で組写真の流れが変わります。
絞りF1.4開放・1/60秒・ISO320・AWB・RAW
⑤普通の部屋で撮る
普通の部屋で撮る。レンズは50mm F1.2に変えました。
まずは窓側へ。モデルの背後から入ってくる自然光で撮る。今回は曇りでしたの窓からのダイレクトな自然光ですが、晴れの日には、薄い白レースカーテンでコントロールすると良いです。
絞りF1.2開放・1/125秒・ISO2500・AWB・RAW
⑥自然光を生かした撮影
ソファーに横になってもらいバリアングルでモデルの上から撮る。この時のライティングは頭の方角からの自然光。影の出方が自然になります。
絞りF1.2開放・1/80秒・ISO1250・AWB・RAW
⑦クリップオンストロボのダイレクト発光でファッション雑誌風に
クリップオンストロボをダイレクトに発光。Tシャツにトップスが変わったのでファッション雑誌風に撮る。モデルの目線を外すことによりお洋服やメイクに意識がいきます。
絞りF5.6・1/60秒・ISO400・AWB・RAW・クリップオンストロボ使用
⑧天井バウンスの柔らかい光線を生かす
同じ条件で、クリップオンストロボを天井バウンス。この時に注意することはバウンスする壁や天井が色被りが無い、白系であること。柔らかい光線の写真に仕上がります。
絞りF2.8・1/60秒・ISO400・AWB・RAW・クリップオンストロボ使用
⑨夕方、50mm単焦点の開放で空気感を演出
すっかり日が落ちて夕方の時間帯です。
メイン光は飲料水の自動販売機です。50mm単焦点レンズの開放で空気感を演出しましょう。
絞りF1.2開放・1/50秒・ISO640・AWB・RAW
⑩コンビニの蛍光灯照明をメインに背景のお店のタングステン光を生かして暖かさを演出
今度はコンビニの入り口の光で撮っています。背景のお店のタングステン光が暖かさを出していますね。点光源は開放だとレモン型になりますが、f2まで絞るとほぼ円形になります。
絞りF1.2開放・1/200秒・ISO1600・AWB・RAW
⑪意外に有効なモノクローム
ミックス光で色がイマイチな時は、思い切ってモノクロームに仕上げてみましょう。流れの中でのモノクローム1枚は意外に有効だったりします。
絞りF1.2開放・1/125秒・ISO800・AWB・RAW
⑫真っ直ぐのびる商店街で奥行き感を生かす
商店街の真っ直ぐな道で奥行きを出す。
モデルの目線あたりに背景のハイライトが来るようにしています。人はまず、一番明るい場所に目がいきます。そこを理解しましょう。
絞りF1.2開放・1/100秒・ISO1250・AWB・RAW
⑬自然な表情を捉えやすい夜の撮影
お店の入り口の光線を使い、背景のお店も顔の位置に白いところが来る位置でフレーミング。夜の撮影の良いところは、眩しく無いので、自然な表情が捉えやすいところがあります。
絞りF1.2開放・1/100秒・ISO1000・AWB・RAW
まとめ
いままでに見たことがない夜のポートレートを生み出してほしい
最新のカメラ、大口径レンズにお金を使いたいのはもっともですが、女性ポートレートをワンランクUPするには、お洋服が重要です。
今年の流行のテイストのお洋服で撮る。
ここをまったく無理してしまうと残念な感じになります。
撮影の前段階でモデルとお洋服とメイクの感じを打ち合わせして、カメラマンがそこをわからなければ、素直にモデルに教えてもらうぐらいな感じで、一緒にそこから作り上げるのが良いと思います。
高いお洋服で無くて良いです。撮影が終わればモデルに差し上げるのであれば、モデルが自分に一番似合うのをチョイスしてくれます。
そのあとは、普段、自分がよく歩いている街で、この場所に女の子が立っていたらどう見えるのだろう?と妄想してください。
毎日、自分のテリトリーで撮影の妄想をするのです。
ここを怠らない。そうすればあとは、自分の好きな光で、ドキドキした瞬間にシャッターを押せば良いのです。
そして、今のデジタルカメラは高感度に強くなりました。単焦点の明るいレンズであれば、夜のポートレートが簡単に楽しめます。
魚住のおすすめは飲料水の自動販売機をソフトボックス的に使うことです。
柔らかい質感のポートレートが撮れます。
これから春になりますから夜のポートレートで今まで見たことが無い作品を生み出してくださいね。
使用カメラ SONY α7R Ⅴ
使用レンズ SONY FE 35mm F1.4 GM・FE 50mm F1.2 GM
使用ストロボ SONY HVL-F60RM
モデル 塩川莉世
ヘアメイク 松岡奈央子
スタイリスト 森 美和子
撮影協力 高円寺パンディット
カメラマン 魚住誠一
〆