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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 第六弾! フォトグラファー 阿部秀之 × タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD (Model A062)実写レビュー

写真・文:阿部秀之/編集:合同会社PCT

タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXDと行く、大阪二泊三日 くいだおれ&撮影旅

カメラ業界では、「アベっち」でおなじみ。撮影はもちろん技術的な解説もおまかせの写真家 阿部秀之さんによるタムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD (Model A062)実写レビュー記事をお届けします。Vlog(動画ブログ)などの自撮り撮影にも便利な超広角20mmをカバーする「新時代の標準ズーム」を謳う本レンズの実力を徹底解剖していただきましょう。

阿部秀之(あべ・ひでゆき)
東京都出身。1986年よりフリー。ヨーロッパとアジアの風景、コマーシャルなど、幅広いジャンルを撮影。フリーになると同時にカメラ専門誌に執筆をはじめる。1987年より、カメラグランプリ選考委員。2020年からニコンイメージングジャパン公式チャンネル「Zの世界」を担当。
ニコンイメージングジャパン公式チャンネル


はじめに

はい、阿部秀之です。今回はタムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD (Model A062) ソニーEマウント仕様をレポートしよう。えっ!アベってニコンでしょ。ソニー用のレンズをレポートするの?と驚く人も多いだろう。確かにバリバリのニコンユーザーだけど、ソニーαも末席ユーザーではある。

常用しているのは、α7 Ⅲ (ILCE-7M3)とタムロン28-200mm F/2.8-5.6 DiⅢ RXD(Model A071)の組み合わせ。もちろんソニー製レンズも所有しているが、日常の記録、ロケハンなど、さまざまなシーンで活躍してくれるのはタムロン28-200mmだ。ただ、ワイド側が28㎜だと、ちょっと物足りない時もあって今回の20-40mmは興味がある。

今回のレポートは、自前のα7 Ⅲで撮るつもりだったが、編集部がα7 Ⅳを用意してくれた。こういうときは、気を付けないといけない。α7 Ⅳの方がいいに決まっている。特にEVFの見栄えが新幹線の普通席とグリーン車ぐらい異なるので、木乃伊取りが木乃伊にならないとも限らない。おっと、木乃伊はミイラと読むのだけど、ご存じでしたか。

まずは外観をチェック

右手前が今回のレポート機材、タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXDとα7 Ⅳ。左奥が自前のタムロン28-200mm F2.8-5.6 Di Ⅲ RXDとα7 Ⅲ。本当は比べないほうがいいのだけど。

さて、20-40mmという焦点距離について考えてみよう。一般にワイドズームと呼ばれるレンジだ。初期は20-35mmだったが、今はさらにワイド側を広げた16-35mmが主流になっている。20-40mmは逆にテレ側を40mmまでに伸ばしたものと考えられる。史跡や自然風景などダイナミックな景色を撮るのに適した焦点距離。だが、以外にも街歩きにも適している。ちょうど2泊で大阪へ行く用事があったのでぶら下げていくことにした。

レンズの全長はズームの40mm時が最も短くカタログに記されている86.5mmになる。

20mm時はレンズが約10mmほど繰り出され全長が最大になる。

タムロンのレンズコーティングは以前から定評があった。今回もBBAR-G2が用いられている。美しいレンズだったのでアップで撮ってみた。

20ー40mm本体の重さは365g。α7 Ⅳのバッテリーとメモリカードを含んだ重さは約658g。合わせた重さは1023gほどだから、一日中下げて歩いても苦にはならない。レンズとボディのバランスはとても良い。レンズの外観の仕上げは光沢があり、ボディは艶消しのマットなので質感は異なるが、レンズのデザインとボディのデザインはよく合っている。ズームリング、フォーカスリングとも作動は滑らかで気持ちのよい操作感だ。フードはカチッと止まって安心感がある。フードのロックが甘いのは、精神的によろしくない。

フードは花型タイプでカチッと止まるのが気持ちがいい。28-200mmフードは外観が艶消しだったが、光沢のある仕上げになっている。おっとよく見ると28-200mmフードは「Made in China」。20-40mmは「Made in the Philippines」となっている。コロナ禍で中国での生産は厳しくなったというが、その影響だろうか。

いまではすべてと断言できるほどレンズキャップは内側にも指掛かりが付いた。実はこれ、最初に始めたのはタムロンだ。

丁寧に作られたマウント部。独自開発した専用ソフトウェア「TAMRON Lens Utility」に対応している。フォーカスリングのカスタマイズや最新ファームウェアへのアップデートを行うことができる。

実写インプレッション~大阪二泊三日旅へ~

11月28日12時。伊丹空港に到着。よく晴れている。気持ちが良いのですぐにモノレールに乗らずにターミナルの外に出た。こんなに晴れているのに明日は雨だという。本当だろうか? 見上げるとちょうどモノレールが入ってきた。青空を背景に映えるメタリックな車両。絞り開放から周辺光量不足は感じられない。周辺に向かって均一に空の濃度が落ちていくのが美しい。これだけで20-40mmのファンになってしまう。

α7 Ⅳのクリエイティブルックをビビッドな「VV」に設定してイメージを強調。子供の頃に見たSFアニメの世界のようになった。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD・20mmで撮影・絞りF5.6・1/1250秒・-0.3EV補正・ISO100・WBオート・JPEG撮って出し

心斎橋のホテルに荷物を預けて、南船場界隈をブラブラ。コロナ前はちょいちょい大阪に来ていたが、コロナ禍では半年に一度ぐらいに減ってしまった。街は生きている。しばらく見ないとガラリと変わる。新しい商業施設の裏にパーキングがあった。未来的というのか映画に出てくる宇宙船のようだった。これだとよほどカッコイイ車じゃないと止められないなと思ったら、入ってきたのはイタリア製の高級スポーツカー。やっぱりね。

かなり暗かったがAFはバッチリ。こちらに向かって来るときも逃さなかった。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD・40mmで撮影・絞りF4.5・1/40秒・-1.3EV補正・ISO250・WBオート・JPEG撮って出し

引き続きブラブラ。昔から何度も歩いているところだが、毎回なにかの発見がある。あれ、こんな古い建物あったっけ。ドアの上に大きな看板があり「大阪農林会館」と記されている。ドアの奥にシャンデリアが見える。中に入ってみると昭和にタイムスリップしたようだ。階段の手すり、ホールクロック、エレベーターのドア。すべてに味がある。後で調べてみたら1930年代の建築だそうだ。

見た目のイメージが忠実に再現されるようホワイトバランスを赤みが残るように設定した。シャープに写したかったので絞りは開放でなくf5.6に絞った。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD・20mmで撮影・絞りF5.6・1/30秒・-0.3EV補正・ISO100・WB晴天・JPEG撮って出し

同じく「大阪農林会館」。足元を見ると市松模様のタイルも洒落ている。照明が暗いのでメリハリはない。その場の空気感がしっとりと再現されている。被写界深度の関係で手前はピントがきていないが、奥は四隅もシャープで素晴らしい描写を見せてくれた。

20mm、しかもズームだと思うと描写はしっかりしている。右上のクリスマスツリーを拡大して確認してもらえば、このレンズの実力がわかるはずだ。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD・20mmで撮影・絞りF5.6・1/30秒・ISO3200・WBオート・JPEG撮って出し

長堀橋の交差点からすぐのところにまるで神殿のような柱が6本ある。プレートには「HARMONIE EMBRASSEE it HOUSE」とある。20年ぐらい前にはもうあっただろうか。結婚式場だと想像していたが調べたことはない。ただ、この柱のデザインが好きで何度か前を通っている。美しさが保たれていて良かった。

20mm側のディストーションはごくわずかなタル型。とてもよく抑えられていて実際には気になることはなかった。夕暮れ時で色もないので、柱の美しさが強調されるようにモノトーンで再現した。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 DiⅢ VXD・20mmで撮影・絞りF11・1/130秒・+0.3EV補正・ISO500・WBオート・クリエイティブルック BW・JPEG撮って出し

18時になったので予約しておいた心斎橋の「浜料理 魚はん」へ。明日地球が滅びるなら前の晩に行きたい店ベスト3の一軒だ。明日地球が滅びるなら前の晩に店はやらないと思うが、この店のご主人はきっと開く。「たとえ明日、世界が滅亡しようとも今日私はリンゴの木を植える」ような誠実な人柄なのだ。それが気に入ってもう何十年と通っている。

毎回スタートに出されるカワハギの薄造り肝のせ。最短撮影距離0.29mで撮影(ワイド側は最短0.17m)。包丁の切れ味がわかるような質感が再現された描写。料理を撮るならスマホと同等で情けない。ちゃんとカメラで撮ったらしい写真になった。店内の照明はホワイトバランスが微妙なのでRAWで撮影して調整している。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD・40mmで撮影・絞りF2.8・1/40秒・+0.3EV補正・ISO800・WB RAWで調整

店を出て腹ごなしに道頓堀へ。すごい人だ。コロナ前に戻ったようだ。だが、歩いているとシャッターが閉まったままの店もある。コロナの爪痕だろう。真正面に射的の店。前からあっただろうか? 記憶にはないが賑やかなのは歓迎だ。インバウンドが戻ってきたらもっと賑やかになるのだろうな。

40mm側の絞りf2.8開放は、ごくわずかにフレアを感じられ軟調な雰囲気になる。この射的のシーンには合っている。1段絞ればグッとシャープになる。賑やかな雑踏の声まで写せたように思う。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD・40mmで撮影・絞りF2.8・1/60秒・+0.3EV補正・ISO100・WBオート・JPEG撮って出し

御堂筋のイルミネーションは華やかだ。区間ごとに色合いが変わるという。南船場の辺りはパープルが入るので一段と見映えがいい。まだ街路樹の葉が残っているのでイルミネーションだけにはならないが、木の葉に反射した光も美しい。左手前に座っているカップルにピントを合わせた。イルミネーションのボケは軟らかでいい感じだ。画面周辺部を見てもボケ像は崩れていない。

単焦点レンズを使っているかのような整った描写をしてくれた。名ばかりでなくちゃんと実力を伴った絞り開放f2.8と感じた。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD・30mmで撮影・絞りF2.8・1/30秒・+0.3EV補正・ISO1000・WBオート・JPEG撮って出し

11月29日10時、本当に雨が降った。大阪の雨は1ヵ月ぶりだという。晴れ男のつもりだったが、逆に持っているのかも。昔から雨の日は雨の日の写真が撮れるというではないか。なんばパークスに向かってみる。クリスマスのプレゼントをモチーフにした飾りがあった。夜は照明されるのだろうが、昼間でも雨粒がキラキラと輝いて美しい。カリッと写したかったので1段絞った。撮影後に拡大して驚いた。なんとリアルな質感だ。花だけでなく、水滴もしっかり写し出されている。

焦点距離、絞り値、光線の組み合わせで想像以上に描写の変化があることがわかった。状況に応じて自分なりに工夫していく甲斐があるレンズだ。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD・34mmで撮影・絞りF4・1/50秒・+0.7EV補正・ISO100・WBオート・JPEG撮って出し

法善寺横町から脇道に入ると「道頓堀筋・浮世小路」がある。知る人ぞ知る的な極細の通路だ。遠くからでも目を引くのは、赤い提灯。吸い寄せられるように引き込まれ、写真を撮っていた。小路の壁には懐かしい絵地図があって楽しい。実はなかなかのオススメだ。

40mm時どうフレーミングするか迷ったが、右奥の提灯の浮世小路にピントを合わせた。これで左手前の提灯と奥の景色はボケる。自然と奥行き感、立体感が描写できる。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD・40mmで撮影・絞りF2.8・1/40秒・-0.7EV補正・ISO100・WBオート・JPEG撮って出し

雨の中、あちこちで写真を撮り、遅めのランチに訪れたのは心斎橋の「にし家本店」。料亭のような立派な店構えだが、実際には気取っておらず気軽に楽しめる感じのいい店だ。メニューは昔からの定番も大切にしているが、時代に合わせた新規開拓にもチャレンジしている。そこが人気の秘訣なのだろう。それにしても変わらないのは、コシがあってのど越しがいいピカピカのうどん。思わず撮りたくなった。

おー!これは旨そうだ。特にライティングもせずにこれほどに写せるなら文句のつけようがない。やはりスマホでなくカメラだ。店内の照明はホワイトバランスが微妙なのでRAWで撮影して調整している。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD・40mmで撮影・絞りF2.8・1/40秒・+0.3EV補正・ISO1250・WB RAWで調整

午後になって雨はますますひどくなった。JR梅田駅に向かってみる。ここ何年かでもっとも大きく変わったのはこの辺りだろう。正直、なにがなんだかわからない。そんな中、かなり真剣に写真を撮っている女性を見つけた。5分、いや10分は撮っていただろうか。空の色が刻一刻と変わっていく時間だ。頑張っているなぁ。

邪魔をしては悪いのでうしろ姿を入れて撮らせてもらった。ピントは背景のビルに合わせた。雨の日は空に表情が出る。路面の反射も綺麗だ。その情景をしっかりと再現してくれた。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD・32mmで撮影・絞りF2.8・1/40秒・-0.3EV補正・ISO840・WBオート・JPEG撮って出し

写真を撮り終えるのを待つ間に、手すりの雨粒が気になった。レンズを向けてみると、想像していた以上に美しい光景が広がった。雨の日には雨の写真が撮れる。こういうことをいうのだろうな。ワイドなので口径食はなく、美しい玉ボケが得られた。

最短撮影距離0.29mで撮影。ピントの合う奥行きが1点しかないのでピント合わせに気を遣った。中央よりもやや左寄り。小さな水滴がいくつかある部分にピントを合わせている。

【撮影データ】α7 Ⅳ・タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD・40mmで撮影・絞りF2.8・1/40秒・+0.3EV補正・ISO1250・WBオート・JPEG撮って出し

まとめ超広角20mmが使えるメリット絶大! 旅のお供に最適なレンズ

JR梅田駅から45分で御堂筋、難波、中の島などを回ってまだJR梅田駅に帰って来る市内観光バスがあると聞いた。バスは2階建で屋根はオープンで走るのだそう。残念だけど雨の日は屋根は開かない。席に余裕があるというので乗ってみた。雨の御堂筋ならぬ土砂降りの御堂筋のイルミネーションを体験できた。どんな状況だろうと写真を撮るのは楽しい。相性の良いレンズとカメラなら、さらに楽しさは倍増する。タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXDは旅のお供に最適な1本だと確信した。

ところで、木乃伊取りが木乃伊になったか?いや、まだ持ちこたえている。カメラの大林の梅林社長は、不在だと聞いたので店には寄らずに東京へ帰った。あとはこの原稿がアップされたときに気を付けなければ。ホームページで確認して、ついうっかり通販サイトを見るとキケン。最近は通販サイトにも力が入っているのでついポチっとしてしまうかもしれない。

今回、登場するレンズ、カメラ

タムロン20-40mm F/2.8 Di Ⅲ VXD (Model A062)
発売=2022年10月27日 詳しくはこちら

SONY α7 Ⅳ[ILCE-7M4]
発売=2021年12月17日 詳しくはこちら

タムロン28-200mm F/2.8-5.6 Di Ⅲ RXD (Model A071)
発売=2020年6月25日 詳しくはこちら

SONY α7 Ⅲ[ILCE-7M3]
発売=2018年3月23日 詳しくはこちら