カメラの大林 オンラインマガジン

カテゴリー
カメラレンズアクセサリー風景星景航空写真/鉄道写真ポートレート動物スポーツ
分野
実写レビューハウツーライカ コラムその他
ブランド
NikonCanonSONYPanasonicFUJIFILMOM SYSTEMTAMRONLeicaHasselblad

カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 第四弾! フォトグラファー 内田ユキオ × FUJIFILM X-H2

写真・文:内田ユキオ/編集:合同会社PCT

Xシリーズ、歴代最高のポテンシャル? X-H2について

市井の人々や海外の都市スナップを撮り続けるスナップフォトグラファー、内田ユキオさんによる富士フイルムX-H2実写レビュー記事をお届けします。富士フイルムX-H2シリーズのフラッグシップ機の実力とその大いなる魅力に迫る。

内田ユキオ(うちだ・ゆきお)
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市スナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。富士フイルム公認 X-Photographer。




私物の使い込んだフジノンXF35mm F1.4 Rを付けてみた。
10年の隔たりがあるが、サイズとデザインのフィット感は悪くない。

はじめに

こちらでは初めまして、写真家の内田ユキオです。
FUJIFILM(富士フイルム)Xシリーズ使用歴は長くて、初代FinePix X100の2011年─正確には発表される前の年から関わっているので、もう12年になります。現在のメイン機はX-Pro3。

ここを読んでいる人が長くXを愛用していたら戸惑いはないかもしれませんが、いまXシリーズは変革期を迎えています。第五世代と呼ばれる新しいセンサーとプロセッサーを搭載したボディが登場して、それに合わせて何本かのレンズがⅡ型にリニューアルされました。マウント交換式が登場して十年になり、一般的にレンズの性能は十年先を見据えて作られると言われるので、世代交代の時期を迎えています。
そこで今回はフラッグシップのひとつであるX-H2を取り上げてみます。
現在は他メーカーを使っている、もしくは併用している人が、これから本格的にXを愛用しようと考えたとき、どの機種を買えばいいのかかなり迷うことでしょう。そこでまずはX-Hシリーズがどんなラインなのか、少し長くなりますが説明します。

富士フイルムX-Hシリーズとは

X-H1の登場は2018年で、最大のトピックは「Xシリーズで初めてボディ内手ブレ補正を搭載している」ことでした。その年の今くらいの時期にX-H1を持って香港に撮影に行き、「なんて便利なんだろう、でもこれは自分のためのカメラじゃないな」とはっきり思ったのを覚えています。それまでのXのスタイルに慣れていると、コマンドダイヤルで操作するオペレーションシステムに馴染めません。デザインも正直に言って好きになれなかったです。
それでも二つ強く印象に残っていることがあって、ひとつはホールディングの良さ。グリップに厚みがあって大きな手で持っても安定します。
もうひとつはウリであったボディ内手ブレ補正の効果。メインのレンズはフジノンXF56mmF1.2 Rを使っていて、絞り開放にしても不安になるようなローライトレベルの条件でも、手持ちでビシバシ撮れます。しかも恐ろしいほどシャープ。このレンズにここまでのポテンシャルがあるのかと驚きました。これからさらに高画素化していったら、手ブレ補正なしでは撮影できなくなるかもと思ったほどです。

これは予想でしかないですが、もしX-H1がバカ売れしたら、こちらがメインラインになって、X-Tシリーズはマニアに向けたサブラインになっていったかもしれません。
時代のニーズにはHシリーズのほうがフィットしているように感じたからです。5桁もあるISO感度や電子シャッターを、物理ダイヤルだけで設定するのは無理があります。コマンドダイヤルだったらいくらでも機能を拡張できる。ニーズが増えつつあった動画にも柔軟に対応できて、他メーカーから乗り換えても慣れやすいでしょう。「Xシリーズは扱う楽しさがあるのはいいけれど、グリップがないからホールディングしづらい」と言っている人たちも喜ぶはず。
でもそう単純ではなく、賛否両論というかたちでX-H1は受け入れられました。むしろX-T3/X-T4、X-Pro3、X-E4のようなカメラへの偏愛が強まります。

富士フィルム X-H1 (2018年)

2022年、二つのX-Hシリーズの登場

2022年を迎え、マウント交換式10周年となって、先を見据えてラインナップを整備する時期になりました。第五世代と呼ばれるセンサーのX-Trans CMOS 5とプロセッサーのX-Processor 5を搭載した二つのX-Hシリーズが登場します。先がX-H2Sで、後がX-H2。一般的にはスピードのX-H2Sと高画素のX-H2と呼ばれています。
X-H1が登場したときより動画のニーズが高まり、コマンドダイヤルによるオペレーションや大きなグリップを切望する人が増えました。GFXがあって、似たフィーリングで扱えることも大切なポイントでしょう。EVFの画素数、AF速度、手ブレ補正などがそれぞれ正常進化しました。現代のデジタルカメラとして、必要とされるものを全て備えたXシリーズのフラッグシップの登場、それが今回のX-H2です。

第五世代と呼ばれるX-Trans CMOS 5センサー。

X-H2の第一印象とその操作性

操作に関するほとんどのことは時間が解消してくれますから、レビューとしたら第一印象のほうが貴重なはず。ですので印象を正直に書きます。
X-Pro3をメイン機にしていて、撮影はほとんどスチル(動画ではなく写真)なので、X-H2の操作性に戸惑いがあります。まずスロットが二つあるのにCFexpress Type BとSDなので、差し替えや併撮が不便です。ホワイトバランスとフィルムシミュレーションをよく変える撮影スタイルだとファンクションボタンの配置に慣れません。しょっちゅう間違えます。これは好みで割り当てできるとして、液晶モニターがバリアングルなのも扱いづらいです。写真を撮っていていちばん多く使うのは、ローアングルに対する水平方向のチルトのはず。それがシンプルにできないだけでなく、左手で液晶モニターを開くのにプレビューボタンも左にあるため、無駄な手間も増えます。
でも、そんなの全てどうだっていい、自分が慣れればいいだけのことでしょ、と思えるくらい画質がよくて、撮れた写真に満足できるおかげでX-H2を使うのが楽しくなってきて、そうなると慣れるのも早いんですね。これには自分で驚きました。

X-Pro3みたいに、写真を撮らなくても触っているだけで気分が高揚するという感じはありません。けれども、どんなレンズを付けても、どんな被写体に向かっても、それを支えてくれる包容力のようなものがあります。

今回の撮影で、寒い日に自転車で移動しながら撮ったものがあります。手袋をしたまま操作してみたのですが、X-Pro3だと細かい操作は絶望的です。ところがX-H2はそのまま撮影が続けられました。設定も変えられます。キヤノンなどを借りて使うと、そういったところにいつも感心します。厳しい環境で多くの人が使ってきた蓄積に違いありません。手袋をつけたままでも、初めて使う機種でも、長く撮り続けて手が疲れても、操作に戸惑うことがない。X-H2にはそれに近い配慮を感じました。

大きく深いグリップ、液晶パネル、上部に一列に並んだファンクションボタン、 X-Hシリーズの特徴が集中した右肩。

バリアングルの背面モニターなど、上部から見たフォルムはネオクラシカルと呼ばれる他のXシリーズとは異なる。

*今回の製品写真は24MPのX-Pro3、第一世代のレンズであるフジノンXF60mm F2.4 R Macroで撮影しています。

第五世代の画質について

肝心の第五世代の画質ですが、とにかく滑らかでキメが細かいことに驚かされます。何もかもがスムーズに見えます。特に水やガラス、金属のような質感が恐ろしいほど生々しい。第五世代に向けてリリースされたレンズを合わせると、その特長はさらに際立ちます。フォーカス部分の鋭さと、まったく濁りのないボケのクリアさ、そのコントラストの美しさに魅了されてしまう。トーンが豊かで上下(ハイライトとシャドウ)ともによく粘るため、ダイナミックレンジがすごく広がったように見えます。他にも画質に関しては言いたいことがたくさんあるので、写真に添えたキャプションを合わせて見てください。

古いXマウントレンズとの親和性は?

不安だったのは、古いレンズを使ったらどうなるかということ。センサーが高画素になればレンズに求めるものも厳しくなります。例えばフジノンXF35mm F1.4 Rは 、Xシリーズで最も古く今でも高い人気がありますが、12M時代に登場したレンズです。24Mくらいまでは想定していたとしても、40Mで撮ったら欠点ばかりが目立つのでは? ところが絞り開放で使ってみても、やさしい滲みを残しつつ、しっかり実用に耐えていて嬉しくなりました。こちらも実写した作例があります。40Mならではの階調の美しさも感じられるので、被写体を選んで使い方を限定すれば、まだ現役でいけそうです。

まとめまさに最高の戦闘能力を持ったカメラ

フジノンXF16-55mm F2.8 R LM WRのように画質は素晴らしいけれど手ブレ補正を内蔵していなくて、しかもちょっと重くて大きなレンズも、5軸7段のパワフルな手ブレ補正と大きく深いグリップのおかげで実用性が高まるはずです。

しかもフル装備のフラッグシップ機がこの価格だなんて魅力的ですよね。
交換レンズと最新機能を駆使して、撮影者の負担を軽減すべくサポートしながら、美しい映像を量産するためのマシンと考えたら、Xシリーズで-いや、現在のカメラを見渡しても最高の戦闘能力を持ったカメラだと思います。

X-H2フォトギャラリー

水面のテクスチャーなど細かい部分の再現力は飛躍的に向上している。

【撮影データ】FUJIFILM X-H2・フジノンレンズXF16-80mm F4 R OIS WR・16mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF22・1/150秒・-0.33EV補正・ISO125・WBオート・フィルムシミュレーション クラシッククローム・JPEG

XF56mm F1.2 R WRのような高解像の最新レンズを組み合わせると、センサーのポテンシャルがフルに発揮される。質感の美しさとキレの良さは格別。

【撮影データ】FUJIFILM X-H2・フジノンレンズXF56mm F1.2 R WR・35mm判換算85mmで撮影・絞りF1.2開放・1/170秒・-0.67EV補正・ISO125・WB晴天・フィルムシミュレーション ASTIA/ソフト・JPEG

ボケの輪郭に色収差がないため、とてもクリア。おかげでピント部分が浮き立つよう。

【撮影データ】FUJIFILM X-H2・フジノンレンズXF56mm F1.2 R WR・35mm判換算85mmで撮影・絞りF1.2開放・1/500秒・-0.33EV補正・ISO125・WB晴天・フィルムシミュレーション Velvia/ビビッド・JPEG

輝度差の高い撮影条件だが、ハイライトからシャドーまで豊かなトーンで表現されていて、破綻が見られない。

【撮影データ】FUJIFILM X-H2・フジノンレンズXF16-80mm F4 R OIS WR・16mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF4.0・1/60秒・ISO125・WB電球・フィルムシミュレーション ETERNAブリーチバイパス・JPEG

10年前のレンズとの組み合わせ。モノクロにしていることもあり、軟らかさが感じられ、レンズの長所がうまく引き出されている。

【撮影データ】FUJIFILM X-H2・フジノンレンズXF16-80mm F4 R OIS WR・41mm(35mm判換算62mm)で撮影・絞りF4.0・1/60秒・ISO250・WBオート・フィルムシミュレーション ACROS・JPEG

EVFがよく見えるようになったおかげで、こういった繊細なピント合わせと色のチューニングが求められる撮影も快適。

【撮影データ】FUJIFILM X-H2・フジノンレンズXF56mm F1.2 R WR・35mm判換算85mmで撮影・絞りF1.2開放・1/180秒・+1EV補正・ISO250・WB電球・フィルムシミュレーション Velvia/ビビッド・JPEG

高画素になると、一見したとき鋭さよりは優しさを感じるものだ。質感がスムーズに表現されていて、輝きや艶が生々しいから。

【撮影データ】FUJIFILM X-H2・フジノンレンズXF56mm F1.2 R WR・35mm判換算85mmで撮影・絞りF1.2開放・1/800秒・+1EV補正・ISO250・WB日陰・フィルムシミュレーション PROVIA/スタンダード・JPEG

今回の使用機材

FUJIFILM(富士フイルム)X-H2 発売=2022年9月29日
詳細はこちら

フジノンレンズ XF 56mm F1.2 R WR 発売=2022年9月29日
詳細はこちら

フジノンレンズ XF 16-80mm F4 R OIS WR 発売=2019年9月26日
詳細はこちら

フジノンレンズ XF 35mm F1.4 R 発売=2012年2月18日
詳細はこちら