カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 赤城耕一×ライカR3
写真・文:赤城耕一/編集:合同会社PCT
赤城耕一が深掘りする、「ライカR3」
第十五席 ミノルタXEを母体に生まれた「ライカR3」をいま使う
ライカの不定期連載の第15弾。写真家の赤城耕一さんがライカの歴史を紐解きながら、ご自身の体験をもとに熱くお話いただきます。今回は「R3」を取り上げます。
- 赤城耕一(あかぎ・こういち)
- 東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアル、コマーシャルで活動。またカメラ・写真雑誌、WEBマガジンで写真のHOW TOからメカニズム論評、カメラ、レンズのレビューで撮影、執筆を行うほか、写真ワークショップ、芸術系大学で教鞭をとる。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。著書に『赤城写真機診療所MarkⅡ』(玄光社)、『フィルムカメラ放蕩記』(ホビージャパン)、『アカギカメラ—偏愛だって、いいじゃない。』(インプレス)など多数。
目次
はじめに
今回は本題に入る前に少し寄り道をして話をしたい。
かつてミノルタXEという絞り優先AE一眼レフが存在した。発売は1974年である。
年配の方の中には篠山紀信さんが本機のCMに登場していたことを記憶している人もいるかもしれない。特別な機能を有するカメラではないし、今みると地味な部類に属する絞り優先AE一眼レフであるが、往時の広告のキャッチをみると「完全自動一眼レフ」とある。どこがだ(笑)。
ちなみに筆者がこの40年の間に購入したミノルタXEは半ダースか、それ以上になるはず。もちろん一度に大量購入したわけではない。調子が悪くなったり、壊れたりして、買い直してきたわけだ。もちろん中古品である。
なぜそれほどXEに執着したのか、それはスペックが理由ではない。うまく説明することができないし、説得力もないが、ファインダーの見え方や動作音、動作感触が自分のカラダに合うとしか説明のしようがない。それでも説得力が薄いか。
個人的にはMF一眼レフの中において、シャッター音の優しさやフィルムの巻き上げ感触ではXEの右に出るものはないのではと考えている。
ただ、これだけ頻繁にたくさん買い続けてきたということは、ミノルタXEは耐久性に難ありということの証明かもしれない。
XEの多くは、まずフィルム巻き上げの調子が悪くなる。正常に機能していると、この巻き上げはフィルムの有無でトルクが変わらないほどすばらしい。
それは氷の上をスケーティングするような心地よさ、快楽がある。分割巻き上げはできないが、その不満を感じさせないくらいなのである。フィルムの有無でのトルクの変化も小さいのはいい。
ところがだ、多くのXEは長期間使い続けると、巻き上げレバーを動作するときに歯車が欠けたような力が抜けるようなひどい感触になる。
もうひとつのお気に入りは、「サクっ」と聞こえる静かなシャッター音。これも今では特別な個性がない金属縦走りシャッター。当時のライツとコパルが共同開発した「コパルライツシャッター」という名称がついている。ライカR3登場の予測がこのあたりにもある。
ところが、XEは経年変化によって、メーターの指針の振れ具合などが、次第におかしくなってゆく。このため露出の精度も怪しくなる。
XEを分解した写真を見たことがあるが、上部のカバーを開けると、さまざまな電気コードが渦巻いているという感じ。それを無理やりぎゅうぎゅうとボディ内に押し込んでいる印象なのだ。フレキシブル基板がまだ一般のものとなる前だから当然なのかもしれないが製造もメンテナンスも効率が悪そうだ。
もちろん故障はそれだけが原因ではなくて、受光素子のCdSの経年劣化などの問題もあるだろう。もっとも多くのXEはマニュアル動作では使用することができたから、撮影自体は可能ではあった。
なぜ唐突にこんな話をしたかといえば、それはご存知、ミノルタXEは1976年に登場するライカR3の母体機として知られているから無視することができないわけだ。
口の悪い人は、当時のライツは経営難だったし、一眼レフの分野に関しては開発が遅れ、AE一眼レフを開発するにあたり、ミノルタの手を借りるしかなかったからだろう。
それは事実だろうが、ライツはミノルタとも富士フイルムとも仲良しだったわけだし、パナソニックの関連会社の協力で、コンパクトフィルムライカも供給していたことがある。
こうしたメーカー間の協力体制は普通のことで、これが現在のライカとパナソニックの関係により、ライカはまた新しい展開をみせている。
当時で問題とされたのは、ミノルタXEとライカR3の大きな販売価格差だろうか。同じことはこの連載で取り上げたライツミノルタCLとライカCLの関係にもいえるが、筆者の認識ではCLの事例とXEのそれとは異なるということだ。
XEとR3、仮に中身が同じならば機構的なウィークポイントは同じなはずだが、うちのライカR3は素人目にはすべて正常に動作しているようにみえる。予備機も一台あるが、こちらも問題ない。
外観からは母体機であるXEを感じさせないところがいい。デザイナーが頑張って、ライツのオリジナリティを追求したのだろうか。
ミノルタXEとは似て非なる、ライカR3の外観
実用上は十分である。XEよりR3のほうが頑丈とは言わない。それに中古市場で完動品として生き残っているライカR3も数は多いようにはみえないから、耐久性には少々難ありなのかもしれない。あるいは不人気なカメラだから手を入れられている個体が少ないのかも。
半世紀前のAE一眼レフに完全に正常な動きを求めることはできないし、こちらもおすすめすることはできないが、動作している限りはこれからも優しく扱おうと思う。
デザイン面で両者をみてみよう。ライカR3はXEよりもゴツい面構えだ。ボディ底部は直線基調となって、ライカフレックス時代の船底のようなフォルムの面影はない。
Rレンズの絞り環の数値を読み込むためなのか、ペンタプリズム部の張り出しが大きくなっている。どことなく、ニコンF時代のフォトミックファインダーの銘板にもみえてくる。ここにLEICAのロゴがドンと入っているのだから、迫力があるのかも。
ボディのカバーは真鍮製だから重量級で、手のひらにずっしりくる。Rマウントレンズが重たいこともあるけれど。
メインスイッチとフィルムカウンター。このあたりにミノルタXE的な雰囲気がもっとも強く感じられる。ライツのお墨付きがあったということなのか。
マウント部はライカRマウントとミノルタバヨネット(SR)マウントでは前者のほうが大きく、かつ機構的に複雑にみえる。
ライカR3には、同時に登場したRカムを装備したRマウントレンズを使用しないと、TTL開放測光など、機能のパフォーマンスをすべて発揮させることはできない。
R3と同時に、Rカムのみだけを装備するRマウントレンズが登場するけれど、個人的には3カム仕様という、R3以前の各ライカフレックスとの共用が可能になるレンズを選んだほうが汎用性が高くなる。
かつては1カムも2カムのレンズも、R3対応にできる3カムへの改造を可能としていたが、Rカムレンズを3カムレンズにするなどの対応は行われていない。現在はいずれの改造もできなくなっているので、レンズを選択する場合は注意が必要だ。
2つの測光方式をどう使い分けるか
シャッターボタン周りにある小さなレバーが平均測光、スポット測光の設定切り替えだ。
スポット測光したい被写体にレンズを向けてシャッターボタンを半押しすると、ファインダー内のシャッタースピードを示す指針が下にストンと落ちる。シャッタースピードを示していた指針の数字でシャッターは開き露光される。
平均測光とスポット測光の切り替えレバー。レバーを動かすことで機能する。赤ポチはロックボタン。被写体によって、使い分けるというのが筋であろうけど、2択のうち好きなほうを使ってねというのが正しいのか。AEを搭載するといろいろと考えねばならなくなるわけだ。
これはAEロックをしましたよと知らせる役割をしているようで、そのまま半押しから、シャッターを切れば、指針が直前まで示していたシャッタースピードで露光されるという仕組みである。
それにしても、この指針の動きがヘンで、他のカメラに類を見ないものだから、筆者などは使い始めた当初は壊れてしまったのかと間違えたくらいなのだ。スポット測光はあとで付け足した感があるけれど、それなりには役立つに違いない。
スポット測光はマニュアル露出でも可能だけれど、R3の場合はいわゆる適正露出読み取り方式を採用している。指針が示しているシャッタースピードと同じ数値をダイヤルで手動設定すれば、適正露出とする方式だ。
定点式の表示はないので、場合によっては、撮影者は指針が表示するシャッタースピードを記憶しておく必要があるだろう。
露出精度はなかなか優秀。ただ、露光補正は1EV刻みなので粗い。ポジフィルムを使うことは少なくなったとはいえ、細かい露光補正をする場合は、フィルム感度設定ダイヤルで行うほうが実用的だ。
問題は測光素子がCdSなので応答速度が遅いこと。明暗差の大きい条件とか、屋外から屋内に急に条件を変えて撮影せねばならない場合など、指針の動きがついてゆけず、反応がゆっくりなので、正確な露光を得るには、指針が落ち着いたのを確認してからシャッターを切る必要がある。
巻き上げ感触からR3 MOTまで
全体のフィーリングはXEに似たところ、違うところがあることも面白い。
XEで褒め称えたフィルム巻き上げレバーのトルク感は、R3ではそれほど滑らかさを感じない。内部機構が少々違うのだろうか、このためなのかは不明だが、ウチにある個体は、巻き上げ機構は現在も問題なく機能する。滑らかさを得るためにどこか無理をしていたのか。
もし巻き上げのためのメカの機構が異なるとなれば、ライツの考えるコストダウンに繋がったのかどうかは不明であるけれど。
R3には専用ボディのR3 MOTという名称が冠せられたモータードライブ仕様のボディがあり、これはデザイン的にも思想的にも個人的にグラッとくる印象である。
セルフタイマーを省き、どこかストイックな印象があるからだけど、ミノルタXEにはモーター仕様のものはない。
この意味においてもR3は希少なモデルという考え方もあるだろう。多くのパーツ供給がミノルタから行われているのであれば、ミノルタの協力なしで、モータードライブ専用機は企画できないからである。
コマ速度が遅いから、こんなもの役に立つわけはないという意見もあるかもしれないけれど、今や120コマ/秒となる仕様のカメラが存在するのだから、フィルムカメラでコマ速度を問題するほうがおかしい。どのみち36枚しか撮影することはできないのだ。
R3 MOTに限らず、モータードライブやワインダーの話をするたびに筆者が述べているのは、これらは分解写真(もはや古語かもしれない)を制作するためにあるのではなくて、手持ちで撮影する時、一度決めたフレーミングが移動するのを最小限に抑えることに役立つのではないかと考えている。
もっともフィルムがこれだけ高額になってしまうと、モータードライブで湯水のごとくフィルムを消費するということは夢の世界となった。
フィルム感度ダイヤルと露光補正ダイヤルは兼用。外周と内周を使い分ける方式。DIN/ASAの並列表記のために、ダイヤルはそこそこに大きいのに表示数値が小さくなってしまっている。老眼には少々厳しい大きさ。露出補正は1EV刻みで粗いのが残念。
「PORTUGAL」の刻印が物語るもの
うちにあるライカR3は 「PORTUGAL」刻印がある。
ライカ ポルトガルは歴史ある会社で、筆者も訪れたことがあるが、その当時はM6を作り込んでいたことを記憶している。少なくとも部品レベルではなかった。
もちろんいまも現行ライカ製品にとってもライカ・ポルトガルは無視できない存在である。
「PORTUGAL」とボディ底部に小さく刻印があるが、ライツポルトガルで製造されたという意味だ。日本からポルトガルにパーツを送り、そこでアセンブリを行うのか。ミノルタXEから増えた機能のため、内部パーツはかなり異なるはずだが、これもミノルタが供給したのだろうな。
ヴェッツラーにライカの工場が復活したことはめでたいが、部品レベルから探っていけば、各協力会社が存在したからこそ、ライカを作ることができたわけだ。
今はもうライカR3、いや一眼レフそのものの存在すら気にかけられなくなっている世の中になってしまった。ライカの歴史を考える上ではライカCLと並び、ライカR3は重要な位置にあることは間違いないと思うわけである。
そんなことを考えながら今回はしばらくぶりに引っ張り出したライカR3での撮影だが、昔と変わらず快適に撮影することができた。重たいのはご愛嬌と考えることにした。
まとめ
手巻きでポツポツと撮影するスピードは現在の高額なフィルムを大事に使うにはちょうどよいペースが得られるような気がする。
ライカフレックスからライカへという命名の転換も、将来的にはレンジファインダーのMよりも一眼レフのRを、ライツの主力の商品としたいという、この当時の雰囲気を感じるし、これはしばらく続くことになる。
一時はライカMよりもライカRのほうが人気だった国もあるそうなので、やはりレンジファインダーと一眼レフという機構的な違いで、嗜好の好みは分かれるのであろう。
ライカR3の作例
鈍い光の差す夕刻。被写体が暗いので、補正なしのAE撮影ではもっと露光オーバーになると予想されたけれど、いいところに落ち着いている。
ライカR3・エルマリートR35mm F2.8 1st・絞りF5.6・AE・フジフィルム400
被写体が白いのでアンダーになりやすい条件なので、マニュアル露出にしている。カラーネガのラチチュードにも頼っている。
ライカR3・エルマリートR35mm F2.8 1st・絞りF8・1/500秒・フジフィルム400
平均測光のAEでいけると思いAE撮影。カラーネガらしい、階調再現の広い描写である。
ライカR3・エルマリートR35mm F2.8 1st・絞りF5.6・AE・フジフィルム400
毎朝、挨拶をする代わりに撮影している給水塔。全体的にすっきりとした描写だ。モノクロフィルムだと、より違いが明確になるかも。
ライカR3・エルマリートR35mm F2.8 1st・絞りF8・AE・フジフィルム400
モータードライブで連写するような撮影方法はとれないわけだし、フィルムも高額なので、撮影時もけっこう慎重になって、ここぞという瞬間を狙おうと考えている自分が面白い。
ライカR3・エルマリートR35mm F2.8 1st・絞りF8・AE・フジフィルム400
今回使用したカメラ
ライカR3
◉発売=1974年 ◉生産終了品
