カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 赤城耕一×ライカM2-R
写真・文:赤城耕一/編集:合同会社PCT
赤城耕一が深掘りする、「ライカM2-R」
第十四席 人生でライカ1台しか選べないなら「M2-R」を選ぶ?
ライカの不定期連載の第14弾。写真家の赤城耕一さんがライカの歴史を紐解きながら、ご自身の体験をもとに熱くお話いただきます。今回は「M2-R」を取り上げます。
- 赤城耕一(あかぎ・こういち)
- 東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアル、コマーシャルで活動。またカメラ・写真雑誌、WEBマガジンで写真のHOW TOからメカニズム論評、カメラ、レンズのレビューで撮影、執筆を行うほか、写真ワークショップ、芸術系大学で教鞭をとる。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。著書に『赤城写真機診療所MarkⅡ』(玄光社)、『フィルムカメラ放蕩記』(ホビージャパン)、『アカギカメラ—偏愛だって、いいじゃない。』(インプレス)など多数。
目次
はじめに
ライカM2はM3よりも発売が後なのになぜ「2」なんでしょうか。という謎もきちんと解明はしていないのですが往時のライツは、新しいライカを発売してからディスコンになるまでの間、けっこう時間をかけて長期にわたり販売していました。
M3とM2は併売されていた時間もそれなりにありましたが、高価なカメラなのだからゆっくり売りましょうか、みたいな考え方があったのかもしれませんね。いまのデジタルのライカとは考え方が異なりますね。本当のところはどうかわかりませんけど。
フィルムライカの場合はあたりまえですが、新型ライカを使用しても、旧型ライカを使用しても、同じレンズと同じフィルムを使えばまったく同じ写真ができるという、あたりまえすぎるほどの現実があります。
それがわかっていても、ライカユーザーの多くは新しいライカが登場してくれば欲しくなるわけですが、先の理由により、フィルムライカの場合は新型を購入する理由を見つけるのはなかなかに難しいものです。
言葉は悪いですが、レンジファインダータイプのフィルムM型ライカの場合は機能的発展の限界が見えています。ある意味では、その限界点を超えたのはデジタル化してからである。というのは興味深いことです。M型ライカがよくわかっている人ならば、機能的な不完全さも許容して使うというのが本当のところです。
以前の本連載でも書きましたが、ライカ研究でも有名な写真家の中川一夫さんがライカM4登場の時に書いた記事に興味深い一節があります。すこし長いですが引用しておきましょう。
これは自分へのライカへの不純な気持ちへの戒めの文言となるからです。
「(あなたが)もしM2型かM3型ライカを持っていて、今度の改良点が自分の撮影にどうしても必要であると思う人以外は、もしその人がフォコマートを使っていないなら、M4を買うよりもフォコマート引伸機もっていないのならば、M4型よりもフォコマートを使用する方向に進むほうが、ライカの性能をより発揮できることになる」(中川一夫著 写真工業別冊 ライカの歴史 昭和54年)
このようにきわめて明確に述べています。新しいライカは要らないみたいにもとれますからねえ。すごいなあ。
でもこの文言によって、筆者はフォコマートIIcを素直に導入することになります。
たしかにこれはアタリでした。もしフォコマートがなければ、いまごろウチの暗室は閉めていたでしょう。それくらいインパクトのある引伸機であり、暗室仕事の効率を大幅に引き上げました。
とはいえ、それでもライカは増えてゆくことになります。つまり、この中川さんの文言は筆者には戒めにはならなかったわけですね(笑)。
で、これからやっと今回の本題「ライカM2-R」に入ることにします。
ライカM2-R。いわゆる刻印ありのモデルなので外観はM4に近い仕様。せっかくM2を改良したM4を発売したのにこのようなモデルを出してくるところにライカの変態性があるわけ。でもモノとしての作り込みは良好であり、いわゆる記念モデル的な印象も薄いのは救いです。見る人が見ればわかるというやつでしょうか。
記念モデルではなくて、M2の復刻モデル
ライカM2はM3と並んで、製造期間中に改良が加えられており、機能的にも外観も変わっているものがあります。これだけで研究できそうですが、筆者は勉強嫌いなので、そうした資料もナナメに読んでいるほうです。
M2の場合、すごくおかしいのは、通常のラインアップのモデルの中になぜかM4最大のウリと言ってよいラピットローティングスプールを内蔵したモデルが登場してきます。
このモデル発売について、ライツからは特にアナウンスはなかったということですが、資料によれば“亜種” 的な扱いをするものもあれば、アメリカ軍の注文に応じて作られたという話もあります。どちらが真実かはわかりません。ずっと筆者にはウラがとれていないので、このあたりはご理解の上おつきあいください。
ラピットスプールの採用というのは、小改良の域を超えていますけど、多くは製造番号116万台のあたりに登場してくるということです。
のちのM4のラピッドスプールの効果がライカユーザーにウケるかどうか知りたくて、実験的なモデルという意味もあったのかもしれませんが、その出自に関していろいろと言われています。
面白いのは、この変わったM2は、中川さんの著作によれば、ヨーロッパで一般発売されたとあります。
その変わったM2がアメリカに渡り人気になり、これを知ったニューヨーク・ライツが特別注文をして、それが1969年に「M2-R」と命名されて2000台製造されて販売されたということです。
出自の理由はさておき、ニューヨーク・ライツの注文というのは各資料とも共通しているから、そうなんでしょうね。本機にはデュアルレンジズミクロン50mm F2が、いまふうにいえばキットレンズ的に用意されていたということです。
どことなくいまのライカ社の記念モデル、特別モデル的な商売というのは、正直なところ全面的には賛成しかねるのですが、M2-Rの場合はある意味では、記念モデルではなくて、M2の復刻的な印象もあります。昔のライカユーザーは新型が登場すると、必ず旧型のほうが良かったという話が出てきます。
裏蓋周囲はM2の塗装仕上げから、メッキ仕上げになりました。剥がれなどには強いですね。これもM4と同じです。なおシンクロターミナルは旧方式を採用。この理由がよくわかりません。実用よりもデザイン優先なんでしょうか。
ライカM2とM2-Rは外観的な違い
M2-Rは数量限定ライカというわけですが、中古店でも評価はあまり高くないので、珍品扱いではなく、少しがんばれば筆者にも購入できる値付けとなっています。でも、そんなに高い人気ではないようです。
M2-Rのシリアル番号はライカM4より後発の登場なので124万台となっています。
最初のラピッドスプール内蔵のM2はシリアルナンバー116万台のものですが、M2-Rでは124万台ですね。M4の最初のスタート番号117万台よりも数字が大きく、M2登場後に用意されたものだとわかります。
通常販売モデルのM2とM2-Rは外観的にどこが違うかといえば、ベースプレートのキーの回転方向の刻印がないこと、セルフタイマーレバーの座金が黒いこと、シャッタースピードダイヤルの中央が黒くなっていること、裏蓋周りの金属がペイント仕上げからメッキ仕上げになっていることが挙げられます。これらはM4と同様です。
もちろんこちらはカメラの中身についてはまったくの素人なので、よくわからないまま勝手なことを言いますが、M2-Rは単純にいえばM4とM2の上部カバーを取り替えたように見えるわけです。ただ、巻き戻しクランクのシャフトなどの内部の仕組みはそのまま両者共通で生かせるのかもわかりません。
それにシンクロターミナルは旧型のM2のままなこともよくわかりません。ボディを共通使用したならば、シンクロターミナルを共用することができるはずですがやはり、ボディ自体は異なるんでしょうか。M2-Rにおいても、スピードライトを使う場合はあの出来損ないのいまいましいアダプター“ニップル”を使う必要があります。これは面倒だなあ。
フィルム装填はコツをつかむべし
公式にはM2-Rのブラックペイントモデルの用意もないようですが、いやいやライツのことですから密かに数台用意してあったりしてね、これはわかりませんが筆者はリペイント以外のM2-Rブラックペイントは見たことがありません。
ここでふと思ったのは現行品のライカM-Aのことですね。ライカMPからTTLメーターを省いたモデルがM-Aですが、デザイン、機能的にはライカM2-Rの仕様とほぼ同一と言っていいほどであります。新品でM2-Rの気分を味わいたい人は迷うことなく現行モデルのM-Aを選択すべきでしょう。ブラックもありますし。
フィルム装填はライカM4と同じです。フィルムを上から入れて、ベースプレートを閉じるだけの簡単さですが、先端が外れてしまうなど事故がないわけではなく、慎重な人はフィルムのパーフォレーションを本体のスプロケットになかば強引に入れてました。
それにしても、M4のラピッドワインディングスプール方式はそんなに良かったのかなあと。最終的には現行モデルのフィルムM型ライカM7まで連綿と続くことになりますから元には戻れない。そういえばM5のスプールはフィルムが抜けづらい独自の形式でしたが、他の機種には採用されませんでした。
筆者自身も40年以上のM4形式のラピッドスプールにお世話になっていますが、スピールからフィルム先端が抜けるなどの事故はそれなりに経験しています。すぐに気づくので、撮れなかったということはないのですが。
何を言いたいのかといえば、M2までの取り外し式のスプールのほうが、フィルム取り替え時間はかかるものの、フィルム先端が抜けてしまうというトラブルは起こりづらかったわけですね。
どちらが良いのかと問われれば、筆者自身もM4のスプールと答えることでありましょう。
フィルムが送られていることを確認できれば、どのような形式でも問題はありません。ただ、フィルム装填に必要以上に気を遣うことは煩わしいものであります。ライカユーザーのみなさんは、年月をかけてラピッドスプールのフィルム装填のコツを掴んだのでしょうねえ。フィルムライカの使い方のコツは正しいフィルム装填にかかっていると言っても過言ではありません。
筆者のフィルムカメラを使用したワークショップなどでは、参加しているみなさまに、とにかくフィルム巻き上げ確認せよと声を枯らしてずっと叫んでいます。これはどうしようもないですね。
ほれぼれするフレームの品格の良さ
ベースプレート取り外しキーの回転方向刻印は省略されています。のっぺらぼうでつまらないですが、こんなことを語れるのはライカだけかもしれません。
ファインダー関連などはM2と変わらず。35、50、90mmフレームが装着レンズに合わせて、単独で表示されます。M3よりも構造的に省略されたから気に入らないという人も一部にいるみたいですけど、実用性からみますと、使いやすいですし。
この表示はなかなかすっきりとしておりますので本当に心地よいですね。筆者は35mmレンズ派ですから、とくにこのフレームの品格の良さにはほれぼれしております。M3よりもどうしても持ち出す頻度は高くなるわけです。
ライカM4-P以降のフレームだらけの賑やかなファインダーは、どうもフレームの数だけレンズを買わねばならぬ的な沼の話に陥りやすいものですから、M2“だけ” を使っているぶんにはライカのレンズ沼に落ちることがなく安全ということになるわけです。
M4ではね、135mmフレームが追加されちゃうからね、必要なくても135mm買ってしまうわけです、ロクに使いもしないのに。
結局は個人の自由なんですけどこのことは言っておきますね(笑)。よく調整されたM2-RはM型ライカに共通する快楽的動作感触を誇ります。
エルマー3.5cm F3.5をMーLアダプターを介して装着してみます。小さいのでとても気に入っております。最近、人気が上昇しております。正直35mmレンズを使うなら、M型ライカが楽しい。撮影の効率も上がります。
まとめ
また、あくまでも実用という意味では巻き上げレバーもM4のものと同じ、プラスチックのアテがあるものにしたら、指の腹が痛くならないんじゃないかと思うわけです。
ただ、それを行うと、デザイン的には近づきすぎてしまいますかねえ。ヘタにライカをカスタマイズで改造すると“ライカの本質を知らない” ヤツという烙印を押されかねません。これは恐怖ですから、良い子は下手なことしないほうが賢明です。
このようにライカM2-Rはいまふうにいえば「ほぼM4」なわけですが、旧来のフォルムがどうしても良いという人以外は進んでおすすめはしません。
でも、自分の人生でライカ1台しか選んでいけないという法律ができたら、筆者はM4ではなくて、M2-Rを選んでしまいそうな気がします。
ライカM2-Rの作例
高性能のアポズミクロンM35mmF2 ASPH.をフィルムで撮影してみたくて、M2にポジフィルムを装填して撮影してみました。フィルムの描写の厚みがうまく慣らしてくれているようです。
ライカM2-R・アポ・ズミクロンM35mm F2 ASPH.・絞りF5.6・1/500秒・フジクロームプロビア100
ややくぐもったような描写になるのは春の陽気のせいか、それともフィルムの再現性か。古いレンズのせいか。少し地味な感じの再現なんですが、現代レンズとは異なる解釈。サイズ感としても好きな組み合わせです。
ライカM2-R・エルマー3.5cm F3.5・絞りF6.3・1/500秒・フジクロームプロビア100
逆光の条件です。硬質なコンクリートがどのような再現になるか楽しみでしたがなかなかよい雰囲気です。階調の再現性も優れたレンズなのでしょう。
ライカM2-R・アポ・ズミクロンM35mm F2 ASPH. ・絞りF5.6・1/250秒・フジクロームプロビア100
明暗差が大きい条件ですが、繋がりのよい階調再現をみせますね。シャープな描写です。ただ、レンズが重たいので少しバランスが悪く、M2とのホールディングバランスはいまひとつです。
ライカM2-R・アポ・ズミクロンM35mm F2 ASPH.・絞りF5.6・1/500秒・フジクロームプロビア100
カラーネガフィルムを使ってみます。エッジの線が太いのはフィルムの特性かと思いますが、デジタル画像でしたら、もっと目が痛くなりそうです。本レンズもバランスの良さから持ち出す頻度が高いレンズです。
ライカM2-R・コシナ・フォクトレンダーウルトロン35mm F2 Aspfherical VM・絞りF5.6・1/250秒・フジフイルム400
今回のカメラ・レンズ
ライカM2-R
◉発売=1969年 ◉生産終了品
