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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 写真家 今浦友喜 × 桜撮影

写真・文:今浦友喜/編集:合同会社PCT

桜のさまざまな表情を楽しむ

風景写真愛好家のみなさんは春の桜撮影に向けて準備を考えておられるのではないでしょうか。今回は今浦友喜先生に、名木から名もなき桜まで作例を交えて、桜撮影のポイントを解説いただきました。「今年は4年ぶりのなんの制限もない桜シーズン」。ぜひご参考ください!

今浦友喜(いまうらゆうき)
1986年埼玉県生まれ。風景写真家。楽器製作学校講師を経て、'13年に株式会社 風景写真出版に入社。'16年にフリーランスとなる。自然風景、生き物の姿を精力的に撮影。雑誌制作の経験や豊富なカメラ知識を生かし、雑誌への執筆や写真講師として活動している。 公益社団法人 日本写真家協会 会員(JPS)・アカデミーX講師

はじめに

風景写真を撮られている方は毎年、春が近づけばワクワクとソワソワで心ここにあらず。今すぐに桜を撮りに行きたい衝動に駆られていることだろう。近年は異常な暑さで桜の開花が大幅に早まっていることもあり桜旅の計画が立てにくい。私の場合は撮影に出られるタイミングで咲いている桜に会いに行くといった感じが多い。桜の開花状況はいくつかの情報サイトなどで確認するが目的の桜の情報がなくとも付近の桜の情報を見て勘を働かせて行くこともある。

私の現在の主力機材は富士フイルムのXシリーズ。メイン機のX-T5はAPS-Cセンサーながら高画素でボディ内手ブレ補正も搭載されており軽快に撮影できるのが気に入っている。レンズはAPS-Cセンサーの小型軽量性を生かしてけっこうな本数を持ち歩いていることが多い。といっても広角から中望遠までは単焦点レンズを主に使用し、望遠域のみズームレンズとしている。単焦点レンズは一本一本がとても小さいので本数からすれば総重量はかなり軽量に収まっている方だと思う。単焦点レンズを好んで使う理由としては画質やボケ表現に優れている点に加え、ズームを使うと足が動きにくくなるという自分への自戒の念のようなものもある。いや、ズームが便利なのはわかりきっているので、それほどおすすめなわけではないが。

使用機材は、カメラが富士フイルムX-T5、レンズは単焦点レンズが14mmF2.8、23mmF2、35mmF2、56mmF1.2、60mmF2.4(マクロ)、90mmF2に、望遠ズームの70-300mmF4-5.6を加えた合計7本をメインとしている。荒天時には16-80mmF4の高倍率ズームも使用する。なお昨年まではX-T3を使用していたので記事内の機材は多くがX-T3。


憧れの桜に会いに行く

今年はどんな桜を撮ろうかと夢想すると思うが、やはり有名な桜は外せない。フォトコンテストやSNSで見かける桜は行ってみたくなるもの。私も行ってみたい桜はたくさんあるが、あれもこれもと欲張るとひとつひとつが雑な撮影になってしまうこともあるのであまり欲張らず、目的の桜は一日でひとつ。多くてもふたつ程度にしている。そのひとつの桜を早朝に着いて、日中は近場の桜を巡って、夕方にまた朝の桜をもう一度訪れるのもいいだろう。

薄曇りの天気だったのでいろいろと巡った日、長野の野平の一本桜を訪れた。のどかな雰囲気がありつつも北アルプスの絶景を背負う力強さを併せ持つ素敵な桜だ。

FUJIFILM GFX 50S・GF32-64mmF4 R LM WR・34mm(35mm判換算43mm)で撮影・絞りF8・1/500秒・ISO200

埼玉の八徳の一本桜。この日は朝に訪れてひと通り撮ったあと、日中は近場の桜をぶらぶら。その後に光の状況が変わった様子も見てみたかったので夕方に再訪して撮影したが、夕方のほうが私の好みにマッチしたので満足。

FUJIFILM X-T3・XF16-80mmF4 R OIS WR・37mm(35mm判換算56mm)で撮影・絞りF5.6・1/280秒・ISO320


名もなき桜も見逃さない

目的の桜を撮ったあとは近場の桜を観光マップやGoogleマップなどで調べたりする。近くのガソリンスタンドなどで穴場を聞いてみるのもいいだろう。またその道すがら、安全運転に気を使いつつも周りの風景を観察しながら運転する。すると名もなき桜がそこかしこに見つけられるものだ。そうした桜はどこか野生味があったり、地域の生活とのつながりを感じられたりと、風光明媚な桜と違った味わいがありそれはそれで素敵なものだ。

そんなこんなで日中は行き当たりばったりな撮影でふたつ目の目的地になかなか到着しないこともあるが、そんなゆるっとした撮影行も被写体が豊富な春だからこそといえる。

もちろん観光地化されていない桜は駐車場や周りの環境が整っていないことも多いので迷惑にならないように気を配るのは言うまでもない。なお、そうした桜はもう一度行こうと思っても場所がわからないことが多いので、Googleマップに登録するなり、スマホのマップ画面をカメラで写しておくなどポイントを記録しておくことが重要だ。

また移動中に見逃してほしくないのが橋の上だ。橋の上は見晴らしがよく、俯瞰や展望台的な撮影が簡単にできる。さらに山間の道であっても、谷間の左右どちらかは光が入っていることが多いので斜面に咲く桜が撮りやすいのだ。それなりに大きな橋には前後に駐車スペースがあることが多いので路駐せず安全に撮影できるのもポイントだ。

那須塩原の桜を巡っているとき道すがらの橋の上から見つけた桜。日もやや傾き始めた時間だったが、谷間に咲く桜だったので光がまだ差し込んでいるところを撮ることができた。

NIKON D850・AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G・絞りF11・1/100秒・ISO200


朝夕の色を意識する

風景写真において朝夕の光に色の付いている時間はとても大切だ。特に朝は冷え込みもあり霜が降りたり霧が出たりとドラマチックな状況も期待できる。そのため目的地へは少なくとも日の出の30分前くらいには到着しているのがいいだろう。ただし駐車場が空いていない時間に入れないからと路駐をしたり、地元住民に迷惑となる行為はご法度だ。私は目的の桜に近い道の駅を前日のうちに探して車中泊をして、目的地までの移動時間を計算して出発することも多い。

夕日は沈んでいく様子を見ながら撮影すればいいのでフレーミングは考えやすいが、朝日は方位がわかっていないと焦ってしまうため、あらかじめどんな位置から撮影するのが良さそうかをシミュレーションしておくのがいいだろう。私はスマホアプリの「サンサー・ベイヤー」を使用している。ARモードで太陽や月の動きが確認できるのであらかじめフレーミングを考えておけるのでとても重宝している。

山形の伊佐沢の久保桜を早朝に訪れた。が、この桜は久保桜の周りに植えられている桜。光がまだ差し込まない美しい青みに染まった桜と半月を合わせて撮影した。

FUJIFILM X-T3・XF56mmF1.2 R APD・56mm(35mm判換算85mm)で撮影・絞りF8・1/40秒・ISO640

夕方ごろに訪れた山形の十二の桜は、淡い霧がオレンジに染まり美しい景色を見せていた。背景の森が霞む様子を描きたく、離れた位置から望遠で狙った。

FUJIFILM X-T3・XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR・73mm(35mm判換算109mm)で撮影・絞りF8・1/220秒・ISO320


スローシャッターで描く桜

春は風の強い日が多い。桜の撮影では基本的にはピシッと止まっている写真を撮りたくなるが、強風時にはそうもいかないので思い切ってブラした写真を撮ってしまおう。風の強さや画角にもよるが2秒以上のスローシャッターにすると良いブレ具合になることが多い。

晴れている日に2秒を超えるスローシャッターにするためにはND64、ND500、ND1000あたりの高濃度NDフィルターがあるといい。可変タイプのNDフィルターも有効だが、高濃度側でX型の濃度ムラが発生するので広角レンズ使用時には注意が必要である。なおND1000などの高濃度が必要になる理由としては、晴れている日に桜の白とびを防ぐダイナミックレンジを拡張する機能を使いたいためだ。特に富士フイルムのX・GFXシリーズではダイナミックレンジ400%というモードがあるが、このモードを使うためにはISO感度を上げる必要がある。例えばベース感度がISO125のX-T5では200%がISO250以上、400%ではISO500以上の感度となる。

ちなみに私は桜の撮影時にPLフィルターの使用頻度はかなり低い。桜自体が白か薄いピンクでPLを掛けても効果はわかりにくいし、空の青みも春は霞んでいるものなのでそれほど濃く表現したいわけでもない。PLフィルターをよく使用するのは夏秋だ。

満開のタイミングで訪れられた埼玉の丸墓山古墳はかなりの強風だった。午後になると風はさらに強まり風が止まる瞬間はなさそうだったので思い切ってスローシャッターにした。スローシャッターのときのフレーミングのコツは、止まっている幹のラインをかっこよく画面に配置することだ。

FUJIFILM X-T3・XF23mmF2 R WR・23mm(35mm判換算35mm)で撮影・絞りF11・4.5秒・ISO160・ND500使用


雨も曇りもその時々の桜を捉える

撮影に行ける日が天気が良い日ばかりとは限らない。雨や曇りの天気にあたることも多いだろう。特に曇りの日は、今日の天気はダメだ〜、と諦めるのでなく、いつもとは違う撮影手法にチャレンジするなどして作品化したい。おすすめは白い空を思いっきりハイキーに表現する方法。その際、白とびは気にしない。すると和紙に墨で桜を淡く描いたような表現となる。また雲に多少なりとも濃淡がある場合は桜をシルエットにした大胆なローキー表現もいいだろう。

福島の桜巡りをしたこの日は一日中曇りだった。大きなしだれ桜である忠七桜をプラス3EVの露出補正をすることで、襖に墨で桜を描くようなイメージで撮影した。

NIKON D850・AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G・絞りF11・0.4秒・ISO500

私の雨の日のカメラの保護方法はちょっと変わっているかもしれないが紹介しておこう。

まず、現在の中級機以上のカメラは防塵防滴性能がとても優秀なので大げさなカバーなどはかけていない。カバーをかけてしまうとカメラの操作がやや難しくなるのと、濡れた手をカバー内に入れることで結局カメラは多少なりとも濡れてしまう。なので私は吸水性がよく簡単に絞れる水泳用のセイムタオルを掛けている。常にカメラについた水気を拭き取れるので案外十分な雨の日対策になっている。なおそのまま掛けるだけでもいいが、ばさばさと邪魔くさかったりうっかり落としてしまうのも嫌なので、タオルをストラップに掛けられるように紐を付け、レンズフードにタオルの先端を固定できるようにゴム紐を入れる加工をしてある。なお、常にタオルで水を拭けるとはいえ、カメラは濡れるので撮影後にはしっかり防湿庫などで乾燥させることはいうまでもない。

一般観光地の桜

各地の名木などは積極的に撮っていきたいものだが、私が意外と好きなのが一般観光地の桜。観光客が行くような桜並木や都会の桜も、桜を愛する日本人の心が感じられて画として美しい。そういった場所では桜以外の被写体を積極的に画面に取り込んで画にバリエーションをつけるようにしたい。ただそうした場所では間違いなく人が映り込むため肖像権的に難しさもあるので、ボケやスローシャッターで人物を曖昧にしてあげるのが対処方法としては無難だろう。

満開の頃に訪れた福島の日中線しだれ桜並木は平日でもものすごい観光客の多さだった。空に桜を抜いた写真だけを撮っていてもその場の雰囲気が伝わらないと考えスローシャッターで人の動きを写し込んでみた。

FUJIFILM X-T3・XF56mmF1.2 R APD・56mm(35mm判換算85mm)で撮影・絞りF8・2.1秒・ISO640・ND500使用

夕日に染まる茨城のつくばりんりんロードを颯爽と駆け抜けるロードバイク。疾走感を描くためにスローすぎないスローシャッターに仕上げた。

FUJIFILM X-T3・XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR・91mm(35mm判換算136mm)で撮影・絞りF11・1/9秒・ISO200・ND64使用


日常の中の桜・夜桜

観光地でなくともシーズンともなれば街の至る所で桜が咲く。日常の中の桜も画として魅力的だ。また夜桜は家からほど近い公園などがおすすめだ。公園には大げさなライトアップなどがなくとも街灯があるので光は十分に確保できる。それと夜桜を撮るのであれば可能な限り無風が好ましくなるが、近場であれば夜が無風だとわかったタイミングで気軽に出かけられるというメリットがある。無風であれば池が水鏡になるので画として整いやすい。池の周りに桜が植えられている近場の公園をあらかじめピックアップしておくといいだろう。

日没後が無風予報だったので、家から比較的行きやすく街灯と池の周りに桜があるポイントである埼玉の大宮公園に行った。狙いはバッチリで10秒のスローシャッターでも桜も水面もぶらさずに撮ることができた。

Nikon Z 7・NIKKOR Z 14-30mm f/4 S・16mmで撮影・絞りF8・10秒・ISO400

雨と夜桜を撮りたくなり地元の駅前公園へ。ちょうど仕事帰りの人たちが帰ってくる時間帯だったのでボケの中に入れ込んでみた。傘の人物を入れる時は目立つ色の傘や相合い傘だと良い感じ。

FUJIFILM X-T3・XF90mmF2 R LM WR・90mm(35mm判換算135mm)で撮影・絞りF2・1/75秒・ISO6400


桜以外の季節の花を組み合わせてみる

春になればもちろん桜以外の花もたくさん咲き始めるので、そうした何気ない草花をフレーミングに入れてあげるのも可愛らしくて素敵だ。桜並木や公園などには桜の近くに菜の花やスイセンが植えられていることも多いのでローアングルから狙うのがいい。

桜が咲き誇る山形県・烏帽子山公園。足元にはスイセンやツクシがかわいい姿を見せてくれていた。ここではチルトモニターを使ってローアングルで撮影。桜はボケの背景として描いてみた。

FUJIFILM X-T3・XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR・81mm(35mm判換算122mm)で撮影・絞りF4.5・1/800秒・ISO320

山形で桜めぐりしている道すがら見つけた畑に立つ名もなき桜。手前にはスイセンと菜の花が咲き誇り、黄色の温かみが気持ちいい景色が広がっていた。ピントを合わせた一本の桜を盛り上げるように黄色いボケを丁寧に配置している。

FUJIFILM X-T3・XF90mmF2 R LM WR・90mm(35mm判換算135mm)で撮影・絞りF2.8・1/1700秒・ISO320


まとめ

桜は日本人の春の心そのものと言っていいほど愛されている。また桜ほど魅力的で画になる被写体もそうないだろう。桜はどんな背景とも合わせやすく浮き立ちやすい白または薄いピンク色。木自体もそれなりに大きいので引いても寄っても画になる。それに加え、花期が短いという儚さも日本人の琴線に触れる美しさなのだろう。

さて、桜撮影のあれやこれやを書いたが、結局のところは自分にあったスタイルで落ち着いて撮影するのが一番だ。遠征に行って夜明け前からじっくり撮影するもよし、地元の桜を日数を掛けてのんびり撮るもよしだ。

今年は4年ぶりのなんの制限もない桜シーズンだ。私はいつも通り、計画的撮影と行き当たりばったり撮影の間の子のような桜旅をしたいと思っている。皆さんもくれぐれも無理せず安全に心がけながら、各地の素晴らしい桜風景を心行くまま楽しんで撮影してほしい。

今回のカメラ・レンズ

FUJIFILM X-T5
◉発売=2022年 11月25日 ◉価格=オープン価格(実売・268,290円税込)
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FUJIFILM X-T3
◉発売=2018年 9月20日 ◉価格=オープン価格


XF23mmF2 R WR
◉発売=2016年10月6日 ◉価格=62,000円(税別)(63,360円税込)
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XF56mmF1.2 R APD
◉発売=2014年12月 ◉価格=272,800円(税込)(実売・198,000円税込)
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XF90mmF2 R LM WR
◉発売=2015年 7月16日 ◉価格=172,700円(税込)(実売・134,640円税込)
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XF16-80mmF4 R OIS WR
◉発売=2019年 9月26日 ◉価格=128,700円(税込)(実売・112,860円税込)
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XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR
◉発売=2021年3月18日 ◉価格=128,700円(税込)(実売・113,850円税込)
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FUJIFILM GFX 50S
◉発売=2017年2月28日


GF32-64mmF4 R LM WR
◉発売=2017年2月28日 ◉価格=299,500円(税別)(実売・325,710円税込)
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Nikon Z 7
◉発売=2018年9月28日 ◉価格=オープン価格


NIKKOR Z 14-30mm f/4 S
◉発売=2014年4月19日 ◉価格=オープン価格(実売・166,320円税込)
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NIKON D850
◉発売=2017年9月8日 ◉価格=オープン価格(実売・359,370円税込)
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AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G
◉発売=2008年12月5日 ◉価格=オープン価格(実売・63,000円税込)
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