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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! 機動力抜群の高性能エントリーモデルが登場!

写真・文:曽根原 昇/編集:合同会社PCT

バッテリー容量とAF性能が大幅にアップした小型軽量ミラーレスカメラ

APS-Cセンサー搭載機として数々の機種を揃える富士フイルムのXシリーズ。今回登場したのは、従来機のX-S10よりも撮影枚数を2倍以上に増やしたX-S20です。本機は撮影枚数のアップにとどまらず、AF性能や画像処理エンジンなども進化させていてエントリーモデルとは思えないほどの仕上がりになっています。今回はその実力と魅力を写真家の曽根原 昇さんに解説していただきます。

曽根原 昇(そねはら・のぼる)
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し、雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。写真展に「冬に紡ぎき -On the Baltic Small Island-」(ソニーイメージングギャラリー銀座)、「関東牛刀ここにあり」(富士フォトギャラリー銀座)など、ほか多数。

はじめに

今年6月に発売された富士フイルムのX-S20。APS-Cサイズセンサーを搭載するXシリーズのミラーレスカメラの最新機種にあたります。大きな特徴は高機能・高性能ながらも、ミラーレスカメラらしい小型・軽量のカメラとしてよく仕上がっているところにあります。

エントリーモデルとして人気の高いX-S10の後継機という位置づけですが、見た目はそれほど変わっていないものの、中身は驚くほど進化しています。その実力はエントリーモデルというカテゴリーに収まらないのでは? と言いたくなるほどです。

より使いやすくなった491gの軽量ボディ

X-S20は、前モデルとなるX-S10から外観上はほとんど変わっていないように見えますが、実は各所が改良されており、とても使いやすさが向上しています。

ボタン類はエッジが効いた形状に変更されて指がかりがよく押しやすく、モードダイヤルもサイズや形状が変更され回しやすくなっています。

質量は約491g(バッテリー、メモリーカード含む)と、持ち運ぶのにはありがたい軽さ。前モデルのX-S10より少し重くなっていますが、これはバッテリーが大容量タイプの「NP-W235」に変更されたためです。バッテリーとメモリーカードを含まない質量は、むしろX-S20の方が軽いくらいです。

バッテリーが大容量化したおかげで、静止画撮影可能枚数はX-S10の約325枚から、倍以上となる約750枚にまで増えています。X-S20は静止画・動画とも撮影機能が強化されており、楽しくてついたくさんの撮影をしてしまいがちですので、このバッテリーの大容量化はとてもありがたいです。

筆者の愛機、X-H2と並べてみました。同じXシリーズのカメラとは思えないほどサイズが異なることがわかります。X-H2の高い堅牢性を信頼してさまざまな撮影シーンで活用していますが、それほどハードでもない撮影の時には、やはり小型軽量のX-S20の軽快感がうらやましく思えてきます。

第5世代の画像処理エンジン「X-Processor 5」を搭載

X-S20が搭載するイメージセンサーは、第4世代の裏面照射型2610万画素「X-Trans CMOS 4」が搭載されており、前モデルのX-S10と同じです。ただ、画像処理エンジンには第5世代となる最新の「X-Processor 5」が採用されています。「X-Processor 5」は従来比で約2倍の高速処理を実現しているとのことで、これがX-S20の機能向上に大きく寄与しているものと思います。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ・絞りF5.6・1/80秒・-0.7EV補正・ISO12800・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

常用最高感度のISO12800で撮影してみました。多少の輝度ノイズは見られますが、最高感度で撮ったものとは思えないほど綺麗な夜景写真になりました。本モデルの高感度耐性は高く、実用的といえるでしょう。

イメージセンサーが同じでも画像処理エンジンが進化すれば画質は向上するもので、事実、高感度時に発生するノイズはより効果的に抑制されているそうです。ただ、そもそも前モデルのX-S10が充分に高画質だったため、両機で撮影した画像をよくよく確認してみないとわからない程度だと思います。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ・絞りF5.6・1/18秒・ISO6400・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

1段分低いISO6400でも夜景を撮影してみました。当たり前といえば当たり前ですが、ISO12800時よりもさらに高画質で、ノイズは明らかに少なく、細部のディテール再現性も格段に良くなっています。個人的にISO6400は高感撮影時に使う頻度が多いため、このくらい綺麗に撮れるなら安心感が高いです。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ・絞りF4・1秒・ISO400・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

また、X-S20は、最大7段の防振性能を発揮するボディ内手ブレ補正機能を搭載しています。なかなか強力な手ブレ補正効果といった印象で組み合わせるレンズにもよりますが、上の作例のようにシャッター速度が1秒程度でしたら、それほど苦労することもなく手ブレを抑えたシャープな写真が撮れます。前モデルX-S10の防振性能は最大6段でしたので、手ブレ補正機能に関しても性能が進化していることになります。

大きく進化したAF性能

X-S20の機能のなかでも、特にわかりやすく進化したのがAF性能ではないかと思います。上位モデルにあたるX-H2Sと同等のアルゴリズムを搭載することで、動態への追従性や低コントラスト下での精度など、AF性能は全般的に大幅に向上しています。実際に使っていても、意図するところに迷わずピントを合わせることができるため、気持ちよさすら感じたくらいでした。

さらにX-S10にも搭載されていた人物の顔・瞳の検出に加え、「動物」・「鳥」・「クルマ」・「バイク」・「自転車」・「飛行機」・「電車」をAIで検出してピントを合わせる被写体検出AFも搭載されました。「鳥」は「昆虫」、「飛行機」は「ドローン」の検出も可能です。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro・絞りF2.8・1/240秒・ISO6400・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

被写体検出AFの設定を「動物」にして猫を撮影してみました。通常のAFポイント自動選択では高確率で”鼻ピン”になりがちな状況でも、何の問題もなくスムーズに瞳にピントを合わせてくれます。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro・絞りF2.8・1/240秒・ISO6400・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

もちろん猫が横向きになってもまったく問題はありません。しかも、ただ瞳にピントを合わせるだけでなく、瞳のなかでも写真的にイイ感じと思える位置にピントを合わせてくれたことに感動しました。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR・絞りF6.4・1/280秒・-1EV補正・ISO400・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

被写体検出AFの設定を「鳥」にして、カモを撮影してみました。せわしなく泳ぎ回りながら首を振っていましたが、瞳が見えるときは瞳を検出し、瞳が見えない時でも鳥の姿全体を補足し続けていました。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro・絞りF2.8・1/240秒・+0.7EV補正・ISO640・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

同じく「鳥」ですが、「昆虫」の検出性能に期待して撮影したものです。期待したのは昆虫の頭部複眼をちゃんと捉えてくれるかどうかで、離れた位置からゆっくりと距離を詰めながら撮りましたが、今回の条件ではいずれの位置でも正確に複眼を捉え続けてくれました。昆虫を撮っていると羽根や胸部にピントが行きがちですので、これは嬉しい結果といえます。植物と昆虫を絡めたネイチャー撮影などで頼れる機能となってくれるはずです。

また、X-S20では撮影モード「AUTO」時限定ですが、カメラが自動的に検出対象となる被写体を認識する「Auto被写体検出機能」が搭載されています。富士フイルムのミラーレスカメラの場合、Q(クイックメニュー)ボタンからリアコマンドダイヤルの操作で、簡単に検出対象を選択できるのでまだマシではあるものの、やはりいちいち検出対象を設定するのは面倒な時も多くあります。とてもありがたい機能ですので、「AUTO」モード以外でも設定できるようになるとますます嬉しいところですね。
被写体検出AFは、昨今のミラーレスカメラでその検出性能と精度を競い合っている注目の機能でもあります。さすがに各メーカーのフラッグシップモデルに代表される上位機種の性能には及ばないところもありますが、下位・中位モデルの被写体検出AF性能としては、検出能力の高さといい、持続的な補足性能の高さといい、トップクラスといっても過言ではない優秀さがあるのは間違いないと思います。

さまざまな種類のフィルムシミュレーションを楽しもう!

富士フイルムのミラーレスカメラを使ううえで、非常に重要な機能が「フィルムシミュレーション」ではないでしょうか。フィルム時代からの80年以上にわたる研究と開発によって培われた色仕上げ設定機能ですので、「フィルムシミュレーションがあるから富士フイルムのカメラを使いたい!」という方も多いのではないかと思います。実は筆者もその一人だったりします。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XF27mmF2.8 R WR・絞りF2.8・1/1100秒・-1EV補正・ISO160・WBオート・JPEG・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

色仕上げ機能であるフィルムシミュレーションのスタンダードに設定されている「PROVIA」は、ポジフィルムでもスタンダードとして愛用者の多かったフィルムの「PROVIA」をイメージして設計されています。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro・絞りF5.6・1/250秒・+1EV補正・ISO160・WBオート・JPEG・フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド

この他にも、X-S10には往年のフィルムファンであれば馴染みの深い「Velvia/ビビッド」や、忠実な肌再現と鮮やかな青空や緑の両立を目指した柔らかな色調の「ASTIA/ソフト」をはじめ、写真表現の再現を目指した印象深い「クラシッククローム」や、映画の撮影用フィルムを再現した「ETERUNA/シネマ」など、18種類のフィルムシミュレーションを搭載していました。

今回、X-S20のフィルムシミュレーションに新しく加わったのが「ノスタルジックネガ」です。これは1970年代に新しいカラーフィルムを使った表現として登場した「ニューカラー」をイメージしたものになります。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XF27mmF2.8 R WR・絞りF2.8・1/1100秒・-1EV補正・ISO160・WB6000K・JPEG・フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ

低めのコントラストと落ち着いた彩度がスナップ写真にはよく合いますので、スナップ撮影派の人たちにはぜひ活用してもらいたいオススメのフィルムシミュレーションになります。個人的な意見になりますが、もともとはアメリカの乾いた大地で生まれた表現ですので、ホワイトバランスを高めに設定したアンバー調の色合いだと、雰囲気の良い写真が撮れると考えています。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR・絞りF4・1/640秒・-0.7EV補正・ISO160・WBオート・フィルムシミュレーション:ACROS+Rフィルター

他にも、富士フイルムが発売していた本格的なモノクロフィルムをイメージした「ACROS」などもあり、往年の富士フイルムのフィルムファンはもちろん、デジタルカメラから写真に触れて色仕上げ設定の奥深さに触れた人たちにとっても、有意義で満足できる機能であることは間違いありません。X-S20の充実したフィルムシミュレーションを、ぜひ堪能してほしいと思います。

豊富なレンズラインナップが魅力のXシリーズ

X-S20のキットレンズは前モデルのX-S10と同じく、「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」です。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ・絞りF8・1/420秒・-0.7EV補正・ISO160・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

全体的にプラスチックが多用されているこのレンズは高級感こそあまりありませんが、X-S20の高画質を活かすには充分に優れた光学性能を持っています。標準ズームとしては小柄で軽量ですので、X-S20との組み合わせでもバランスがよく軽快に楽しく撮ることが可能です。

X-S20は小型軽量ながらも、大型グリップを採用していることが特徴のひとつ。比較的大柄なレンズを装着してもホールディング性能が高いため、シッカリと安定してカメラを構えることができます。せっかくのレンズ交換式カメラですので、Xシステムの豊富なレンズラインナップを楽しみたいものです。

XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRと組み合わせてみました。焦点距離300mm(35mm判換算457mm相当)まで伸びる超望遠ズームのため、それなりにサイズも重さもありますが、X-S20で使っていてもバランスや取り回しの悪さを感じるようなことはまったくありません。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR・絞りF6.4・1/180秒・-0.3EV補正・ISO160・WBオート・フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド

テレ端300mmでの撮影です。手ブレ補正が良く効くので手持ち撮影でもブレずにサクサク撮れます。普段はX-H2と組み合わせて使っていますが、X-S20と組み合わせるとやはり格段に軽快です。超望遠の世界をここまで気軽に撮れるのですから、ちょっと大げさかもしれませんが「すごい時代になったなあ」と思いました。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR・絞りF7.1・1/210秒・-1EV補正・ISO400・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

一方で、ワイド端は70mm(35mm判換算107mm相当)と中望遠域からのスタートになるため、目についたものを端正に切り取るといったスナップ的な撮影でも便利に使えます。ワイド端の画角をメインに撮り歩いて、望遠向けの被写体に出会ったらズームして撮るという使い方も良さそうですね。もちろん、風景撮影やポートレート撮影でも活躍してくれます。

XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroを装着してみました。焦点距離80mm(35mm判換算122mm相当)の等倍マクロで、XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRよりさらに大きく重いのですが、X-S20のグリップがシッカリしているため違和感を覚えるようなことはありませんでした。

【撮影データ】富士フイルムX-S20・XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro・絞りF2.8・1/320秒・+0.3EV補正・ISO160・WBオート・フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド

APS-CサイズのXシリーズカメラで等倍ということは、35mm判換算にすると約1.5倍相当のマクロレンズということになります。マクロ撮影時のピント合わせはかなり慎重さが求められるものの、本レンズにはリニアモーターがダブルで搭載され、ボディ側と連携することで高速・高精度なAFを実現しているため、思いのほか容易に正確なピント合わせが可能でした。

XF27mmF2.8 R WRを装着。コンパクトなX-S20の特性を活かし、コンパクトな単焦点レンズをチョイスするというのも正しい方向性だと思います。いわゆるパンケーキレンズと呼ばれる薄型レンズで、外観の可愛らしさに反してX-H2やX-T5といった高画素機にも対応する、優れた光学性能を持つレンズです。

【撮影データ】富士フイルム X-S20・XF27mmF2.8 R WR・絞りF2.8・1/1000秒・-1EV補正・ISO160・WB6000K・フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ

焦点距離27mm(35mm判換算41mm相当)の画角は誇張がほとんどなく、見た目通りに写る自然さが特徴です。広角レンズでは広すぎる、標準レンズでは狭すぎる、という時にピッタリの画角で、1本だけ持っていく単焦点レンズとしてはうってつけではないかと思います。実際に、X-S20にこのレンズを組み合わせて試写した感想は、「すごく楽しくてどんどん写真を撮ってしまう」というものでした。

まとめ

前モデルのX-S10からさまざまな改良が施され進化したX-S20は、外観こそよく似ているものの、まったく別モノのミラーレスカメラとして生まれ変わっています。操作性の向上やバッテリーの大容量化など、ユーザーとして喜びたいいくつもの進化の中で、AF性能の向上は特に素晴らしいものがあり、上位機種に迫るほどの実用性を向上させています。

一方で、小型軽量を維持しながらもホールディング性の高い大型グリップを備えるといった、X-Sシリーズの基本コンセプトをキチンと継承しているのがまた良いところです。豊富に揃うXシリーズのレンズラインナップを、この小さなボディで堪能できます。

普段から、現行Xシリーズのミラーレスカメラとしては最も大きく重いX-H2を使っている筆者からすると、X-S20の進化はリアルに「羨ましい」の一言。シリーズの中では最もエントリー向けのカメラという位置づけになりますが、その実力は決して侮ることができないくらい優れたものがあるのです。

今回のカメラ・レンズ

富士フイルムX-S20
◉発売=2023年6月29日 ◉価格=オープン(実売 ボディ:184,140円・税込、レンズキット:198,990円・税込)
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フジノンレンズXC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ
◉発売=2018年3月15日 ◉メーカー希望小売価格=45,650円(税込)

フジノンレンズXF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR
◉発売=2021年3月18日 ◉メーカー希望小売価格=128,700円(税込)
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フジノンレンズXF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
◉発売=2017年11月30日 ◉メーカー希望小売価格=218,350円(税込)
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フジノンレンズXF27mmF2.8 R WR
◉発売=2021年3月11日 ◉メーカー希望小売価格=57,200円(税込)
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