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カメラの大林オンラインマガジン プロ写真家レビュー! フォトグラファー 阿部秀之 ✕ ニコンZ 8 実写レビュー

写真・文:阿部秀之/編集:合同会社PCT

ニコンZ 8は、Z 9の下を切ったやつに間違いなかった

ニコンZ 9の高画質と速写性をそのままに小型化を実現し、より幅広いシーンに対応した新作フルサイズミラーレス機「ニコン Z 8」。Z 9の下(縦位置グリップ)を切ったような外観に、優れた性能と機能を凝縮し、高い機動力を実現。人物の美肌効果や世界最小約3%の人物顔サイズなど被写体検出モードなども新たに搭載した。今回はフォトグラファー 阿部秀之がベトナムでの早速実写を交え、発売されたばかりのニコンZ 8の実力とその魅力に迫る。

阿部秀之(あべ・ひでゆき)
東京都出身。1986年よりフリー。ヨーロッパとアジアの風景、コマーシャルなど、幅広いジャンルを撮影。フリーになると同時にカメラ専門誌に執筆をはじめる。1987年より、カメラグランプリ選考委員。2020年からニコンイメージングジャパン公式チャンネル「Zの世界」を担当。
ニコンイメージングジャパン公式チャンネル

はじめに

発表前からさまざまな噂が飛び交っていたニコンZ 8が、ついに今日5月26日(金)に発売される。アベは3月には極秘に入手し、旅先のベトナムでテスト撮影をしていた。なのでZ 8がどんなカメラで、Z 9との相違点がどこなのかわかっているつもりだ。正直、よくぞ作れたものだと驚く気持ちが強い。なぜなら「Z 9の下を切ったやつ」、誰もがZ 8はそうなると、希望というか勝手に決めていた。それはアベも同じだ。開発チームはその期待に応え、Z 9の下を切ったやつをZ 8にしてくれた。

Z 9とZ 8 サイズ比較







Z 8のファーストインプレッションは、まず、軽いこと。想像していた以上に軽い! D850よりも15%小型化、95gも軽量。Z 9と比較すると30%小型で430g軽量になった。軽量化を嫌う人はいない。軽量化の最大のポイントはZ 9の下を切ったこと、つまりバッテリー部分がなくなったことだが、ほかにもいくつかもの工夫がある。
本体がマグネシウム合金のZ 9に対して、ボディー前面にはマグネシウム合金を採用するが、トップカバーや背面には炭素繊維複合材料を用いたことも寄与している。覚えているだろうか。D5300に採用され一体構造により高強度・小型軽量ボディを実現した素材だ。D5300のものとまったく同じではなく、ずっと研究は続けられていたのだ。強度はマグネシウム合金には譲るが、フラッグシップに次ぐカメラとして十分な性能があると聞いた。

外観は高級感があり、間違いなく使いやすい







ニコンがミラーレスへ舵を切った後も一眼レフを使い続けているユーザーは多い。特にD850ユーザーは健在だ。D850ユーザーから見たZ 7、Z 6は頼りなく見えたのだと思う。ニコンはミラーレスらしさを追求しようと小型軽量のボディを選択したが、それが軟弱に見えた可能性は高い。型番も850の8から7、6へ下がるわけだし。D850ユーザーはなぜ格下のモデルへ移行しなければならないのか?と思ったはずだ。

ニコンの開発チームは、この点を十分理解していた。Z 8は外観もしっかりしていて安っぽくない。D850と同等、それ以上の高級感がある。見た目だけでなく、グリップを握ると堅牢なのが伝わってくる。操作性は従来機を踏襲している。これまでもニコンのデジタルカメラを使っていたなら、迷わずにそのまま使える。間違いなく使いやすい。

Z 9の下を切ってくれというのは簡単だが、本当にバッテリーを交換しただけでは動くはずもなく、実現するのはものすごく大変だったはずだ。Z 8はZ 9のバッテリーEN-EL18dよりもはるかに容量の小さいEN-EL15で動いてる。電気基盤の回路規模を縮小、実装ロジックの見直しで省電力化を実現したと聞いたほかにもボディ素材、構成要素の小型・軽量化を図るため多くを見直し。VRユニットも小型のものを新規で開発したそうだ。Z 9と同様、ボディーVRだけでなくシンクロVRにより、6.0段の手ブレ補正効果を発揮する。Z 9で一番の売り物だったブラックアウトフリーのEVF、最高約20コマ/秒の連続撮影速度。どれもまっまったく見劣りしない。しいて上げればさすがに撮影可能枚数は少なくなる。

Z 8 :330枚(CFexpress Type B(EN-EL15c))
Z 9 :700枚(CFexpress Type B(EN-EL18d)

になっている。これは仕方がないだろう。
心配なら予備バッテリーを追加で備えたい。

使ってみてわかった、ニコンZ 8の進化と実力

使ってみて驚かされたのは、AFがはっきり感じられるほど進化していることだ。特に人物に対する認識精度が上がっている。ベトナムではニャチャンという海辺のリゾートに滞在した。日本と同じように南北に長いベトナムで、もっとも東に位置するビーチ。もっとも早く日が昇るビーチでもある。ベトナム人の朝は早い。日の出の5時にビーチに人が押し寄せる。理由は簡単。夜が明けて1時間もするとみるみる気温が上昇してしまうので、それまでに活動したいからだ。

カメラバッグなどは持たずにレンズはNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sを装着して出遅れないようにビーチへ向かう。重さはまったく気にならない。Z 9との組み合わせでは、しばらく持ち歩くと肩に重さを感じてくる。Z 8は足取り軽く、人々を撮らせてもらう。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 50mm f/1.2 S・絞りF1.2・1/80秒・+0.3EV補正・ISO100・WBオート・JPEG

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 50mm f/1.2 S・絞りF1.2・1/100秒・+0.3EV補正・ISO100・WB自然光オート・JPEG

朝夕の色温度が低く赤味の強い光での撮影では、AWBは自然光オートが合っている。朝焼けの赤味が表現できて素晴らしい。逆に赤味を抑えたいときは通常のAWBで撮るといい。

瞳AFを使い、ドラマチックな逆光で撮影

太極拳、体操、ダンス、ベトナム人は健康志向が強く、思い思いに楽しんでいる。特に驚いたのは、鉄棒だ。ガッチリした男たちが鉄棒の周りに集まり、代わる代わるに演じて見せる。最初は日が当たるようにと海側から撮ったが、背景がゴチャゴチャして気に入らない。逆光でシルエット気味にはなるが、海へ向かって撮ってみた。鉄棒だから逆さになったり、身体を左右に振ったりする。でも、まったく平気。まさかここまで人物検出のAF精度が上がっているとは思わなかった。

体操していた女性。ふと目が合ったのでカメラを掲げて撮らせてほしいとジェスチャーをしたところ、それまでよりも大きなポーズをしてくれた。レンズは50mm f/1.2 、ピントは瞳AF。被写界深度はないに等しいがバッチリきている。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 50mm f/1.2 S・絞りF1.2・1/100秒・+0.3EV補正・ISO100・WB自然光オート・JPEG

鉄棒は人気だ。ビーチ沿いにいくつも設置してあるが順番待ちになっている。ただ写真的に普通っぽいのでもっとドラマチックになるように逆光で狙ってみた。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 50mm f/1.2 S・絞りF1.2・1/200秒・+0.3EV補正・ISO100・WB自然光オート・JPEG

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 50mm f/1.2 S・絞りF1.2・1/2000秒・+0.3EV補正・ISO100・WB自然光オート・JPEG

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 50mm f/1.2 S・絞りF1.2・1/2000秒・+0.3EV補正・ISO100・WB自然光オート・JPEG

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 50mm f/1.2 S・絞りF1.2・1/2000秒・+0.3EV補正・ISO100・WB自然光オート・JPEG

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 50mm f/1.2 S・絞りF1.2・1/640秒・+0.3EV補正・ISO100・WB自然光オート・JPEG

海へ向かって撮る完全な逆光。人物は逆さになっているが、AFは人物を検出しているのが撮っていてわかる。驚いたのは、撮っている間を人や自転車が横切ってもAFは喰いついていて離れないことだ。これはもう異次元の人物AF対策といえるだろう。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 50mm f/1.2 S・絞りF4・1/800秒・ISO100・WB自然光オート・JPEG

毎日のように鉄棒の人たちを撮りに行っていたのですっかり仲良くなってしまった。一緒にやろうと誘われたが遠慮しておいた。鉄棒で一番気に入ったのは、この写真だ。名前も知らないので送りようがない。今度ニャチャンに行くときにはプリントして持って行きたい。

ビーチでは午後からストリートバスケットの大会も行われていた。偶然見かけたのだが、面白そうだったので試しに撮ってみることにした。風景や街のスナップを撮るのが本業なので、スポーツ写真は撮ったことがない。もちろんバスケットも初めてだ。ところがこれが思いのほか上手くいった。選手の動きや試合の展開がよくわかっていれば3Dトラッキングが有効なのだろうが、今回は瞳AFのまま撮影した。自分ではこのくらい撮れていれば合格にしたい。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 24-120mm f/4 S・絞りF4・1/5000秒・ISO1600・WB自然光オート・JPEG

夕方ストリートバスケットの大会を撮ってみた。4番の選手の動きがいいので狙ってみる。レンズは24-120mmのみだ。なんとかカッコイイ表情が撮れた。初めて撮ったにしては合格でいいだろう。自分には甘い性格である。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 24-120mm f/4 S・絞りF4・1/3200秒・ISO1600・WB自然光オート・JPEG

バスケットボールは選手同士の距離が近い。ぶつかり合うことも多いようだ。偶然撮れたのだが、あとで拡大して驚いた。Z 8も24ー120mmもただものではない。

世界最小約3%の人物の顔サイズも検出できるAF精度

最近のAFのシーン認識で昆虫とか馬とか、ターゲットと増やして競い合っているが、Z 8では新たに飛行機が採用された。飛行機はアッと思わせるユニークさはないが、実用性はとても高い。画面上では小さな飛行機でを見つけ出してピントを合わせてくれる。機体が小さいうちは全体だが、アップになるとコックピットに合うようになる。旅客機だけでなく輸送機や軍用機も認識できるとのことだ。

人物に対しては、9種類の被写体を同時検出できるAFもZ 9同等だが、世界最小約3%の人物の顔サイズも検出できる。これは実験してみるととても面白い。本当に小さな顔を検出できるのだ。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 24-120mm f/4 S・絞りF4・1/100秒・ISO160・WBオート・JPEG

ニャチャンには大学が所有している水族館があり、低料金で公開している。それほど珍しい魚がいるわけではないが、日中でも涼しいし楽しい。トンネルのようになった水槽で子供たちが遊んでいる。こんな分かりにくい状況でも顔人認識は機能した。すごい!

肌の再現、肌の色(スキンカラー)の再現も追求した「美肌効果」

Z 9と同等というスペックが多いZ 8だが、新たに搭載された機能もある。Z 8はAFも人物の検出に重きをおいてあったが、肌の再現、肌の色(スキンカラー)の再現も追求した機能が加わった。美肌効果もそのひとつだ。人の顔を自動検出し目や髪のシャープさを保ったまま、肌だけを滑らかになるよう画像処理を行う。
・ 最大3人まで同時適用可能
・ 効果の度合いを(OFF、弱め、標準、強め)から選択可能
・ 静止画だけでなく、動画やライブストリーミングでも魅力的な映像表現を実現
ただし、撮影した後からでは適用することができない。美肌効果の優れている点は、ちゃんと肌のきめは残っていることだ。過剰なレタッチでプラスチックのようになっている肌を見かけることは多い。この辺りがニコンらしさだと感心する。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 26mm f/2.8・絞りF4・1/800秒・ISO200・WBオート・JPEG

美肌効果は普段使いの記念写真でも違和感はない。笑った顔は小じわが目立ちやすくなるが気にせずにゲラゲラ笑って撮れるのがいい。

人物印象調整は、色相(マゼンタ/イエロー)と明るさ(明るい/暗い)を2軸で調整可能。人の肌色は人種によって異なるが、写された人が理想(希望)とする肌色もあり、その色の再現に近づけるための機能。撮影メニューでの設定だけでなく、ダイレクト設定やi メニューで被写体を見ながらの調整も可能。

人物撮影に対するホワイトバランス:色温度設定のUIも改善された。人物を撮影する際、輝度が高く色温度が低い環境下でも、被写体の顔情報を活用し、人物も背景も、色かぶりを抑えて美しい色調を実現できる。色温度設定において「G-M軸」だけでなく、新たに「A-B軸」も同時に設定可能より直感的な操作でイメージ通りの調整が可能になった。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 24-120mm f/4 S・絞りF4・1/640秒・ISO3200・WB自然光オート・JPEG

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 24-120mm f/4 S・絞りF4・1/640秒・ISO3200・WB自然光オート・JPEG

日陰の撮影でAWBでは肌色の乗りが悪くて不健康な感じに見えた。わずかだがA(アンバー)とM(マゼンタ)に寄せたところ健康的な肌色に補正できた。

CF express Type Bカード1枚とSDカード1枚が使えるようになった

このほか、Z 9ではCFexpress Type Bカードのダブルスロットだったが、Z 8はCFexpress Type Bカード1枚とSDカード1枚が使えるようになった。Z 9ではUSBコネクターは1個だったが、Z 8では2個になり上がデータ通信用、下が給電用になった。間違えると給電できなくなるので注意したい。





さらに8ビットのJPGよりも豊かな階調表現ができるHLG階調モードHEIF(ヒーフ)形式で画像を保存できるようになった。10ビットの豊かな階調を活かした静止画表現を実現できる。Apple命の方にはおススメだが、最新のモニターがないと再現できないなどの制約がある。なるべく簡単に楽しみたいならiPadに画像を送って鑑賞するのがいいだろう。

NIKKOR Z 26mm f/2.8との組み合わせで、スナップ写真も軽快に

Z 9はフラッグシップなので精神的にもフラッグシップの重さがあって、カジュアルには使いにくい。夕飯に持って行きたくないし、まして自撮りをする気にはなれない。その点Z 8はカジュアルにも使える。特にNIKKOR Z 26mm f/2.8を装着すると身の回りのスナップに最適になる。レンズを向けられる相手も威圧感がないから緊張がほぐれる。

ニャチャンを発つ3日前になにを食べても美味しいローカルレストランHoang Quanを見つけた。あまりの美味しさに3日間とも通った。特にフォーが抜群だ。これまで食べたどの店よりもスープが素晴らしい。盛り付けも仕事が丁寧でセンスが良かった。Z 8とZ 26mmの組み合わせでフォーの写真を撮っていたら、店のご主人がスープの鍋を見せてくれるという。厨房に入れてもらえたので鍋の中。何種類ものハーブやきのこ類が入っている籠などを撮らせてもらった。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 26mm f/2.8・絞りF3.2・1/125秒・ISO800・+0.3EV補正・WBオート・JPEG

ローカルレストランHoang Quanのチキンフォー。スープが抜群に美味しい。盛り付けも丁寧で好感が持てる。AWBは白を優先するにしている。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 26mm f/2.8・絞りF3.2・1/30秒・ISO720・WBオート・JPEG

ご主人が見せてくれた鍋の中には大きな牛の骨が入っていた。これが出汁のベースだ。もう夜なのでスープは残り少ない。おそらく朝にはたくさん作ってあったのだろう。店の繁盛ぶりがうかがえる。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 26mm f/2.8・絞りF2.8・1/60秒・ISO800・WBオート・JPEG

ご主人は気さくで感じがいい。写真に撮られ慣れているのかポーズが決まる。26mmは人との距離を、物理的にも精神的にも近づけてくれると確信した。

【撮影データ】Nikon(ニコン)Z 8・Z 26mm f/2.8・絞りF3.2・1/400秒・ISO1000・+0.3EV補正・WBオート・JPEG

短焦点の26mmで、料理の写真を撮り、厨房でご主人のスナップを撮り、さらには鍋の中を撮り、最後に店の外観を撮る。なんと万能なレンズなのだろう。あまりにも便利なのでZユーザーには全員26mmを使ってもらいたい。

まとめ

ニコンZ 8はZ 9の下を切ったやつに間違いないのだけど、持っている気持ちはぜんぜん違う。間違いなくZ 9だからこそ撮れる写真があり、Z 8だからこそ撮れる写真がある。そう確信した。Z 9を下取りに出してZ 8を購入するか、それとも買い増しか。悩むところだ。まぁ、悩んでいるのも楽しみのうちなのだが。

ニコンZ 8レビューに登場するカメラ、レンズ

ニコン Z 8
◉発売=2023年5月26日 ◉価格=オープンプライス(実売539,550円・税込)
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NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
◉発売=2022年1月28日 ◉価格=154,000円(税込)
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NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
◉発売=2020年12月11日 ◉価格=277,200円(税込)
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NIKKOR Z 26mm f/2.8
◉発売=2023年3月3日 ◉価格=65,340円(税込)
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